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  7. 第Ⅰ部 第1章 第1節 米国に牽引された2024年世界経済

第Ⅰ部 第1章 脆弱な世界経済と関税ショック

2024年までの世界経済は、コロナ禍による混乱とその後の高インフレにもかかわらず、安定的な成長を維持してきた。しかし、それは米国の成長に大きく依存する脆弱な構造になりつつあった。これまで世界経済を牽引してきた中国は、不動産不況を契機とする景気低迷とデフレ傾向の中で、マクロの過少消費という構造問題を顕在化させ、漸減傾向の成長率に占める輸出の寄与度を高めている。

2025年に入ってからは、米国第二次トランプ政権による関税政策と他国の対応、それによる不確実性の急増といった波及効果が、世界経済を大きく揺るがしている。

本章では、米国が牽引した2024年までの世界経済と、中国経済の景気低迷の状況を概観した上で、2025年の「関税ショック」がもたらした世界経済見通しの変化に焦点を当て、最近の世界経済の動向と見通しを概観する1

1 2025年3月末時点で把握可能な情報に加えて、2025年4月22日に公表されたIMF「WEO」及び関連事実・データも考慮した。

第1節 米国に牽引された2024年世界経済

2024年の世界経済の実質GDP成長率は前年比+3.3%と、2023年の同+3.5%から小幅に低下した。2022年以降に世界的に金融政策が急速に引き締められたことを勘案すれば、世界経済は全体として底堅さを維持したといえる。しかし同時に、米国経済が力強い回復を見せる一方、その他の地域の回復が鈍いものにとどまるといった不均一が生じていることも、足下の回復局面の大きな特徴である。

主要国・地域の2024年の成長率を見ると、2023年から鈍化、若しくはコロナ禍前(ここでは、2015年から2019年)と比べて下振れしている国・地域が大半となる中、米国経済は前年2023年に続き、コロナ禍前の平均を上回る伸びを維持した(第I-1-1-1図)。米国以外の国・地域では、長引くインフレや高金利、製造業の不振、不動産市場の低迷長期化、政治的な不透明感といった個々の要因が景気への下押し圧力となったが、米国経済は堅調な労働市場やコロナ禍の時期に積み上がった家計貯蓄の残存を背景に、個人消費を中心とする内需が想定以上の力強さを見せた。

第Ⅰ-1-1-1図 実質GDP成長率
実質GDP成長率の図

IMFによる予測値と実績値を比較すると、米国の回復力が想定以上だったことがより鮮明になる。2024年1月時点では、IMFは米国の2024年の成長率を前年比+2.1%と、急速な利上げの影響で2023年から大きく減速することを見込んでいた(第I-1-1-2図)。しかし、最終的に成長率は+2.8%と大きく上振れし、成長率が大幅に下振れした日本やEUとは対照的な数値となった。中国の成長率も、財政支出等の一定の政策効果もあって年初の予測からは上方修正されたが、米国の0.7%ポイントの上振れは、主要国の中で最も大きい。2024年は、専ら米国が世界経済を牽引する構図が強まった1年であった。

第Ⅰ-1-1-2図 2024年成長率の予測と実績値
2024年成長率の予測と実績値の図

各国・地域を悩ませてきたインフレについては、国際商品市況が比較的落ち着いていたことや、金融引き締めの長期化により米国以外の各国では内需が力強さを欠いたこと等により、全体として見れば低下トレンドが継続した。インフレ率は、コロナ禍以前の水準よりはまだ高いものの、2022年のピークから大きく低下した(第I-1-1-3図)。これを受けて、主要国・地域の金融政策は利下げに転換した(第I-1-1-4図)。

第Ⅰ-1-1-3図 主要国・地域のインフレ率の推移
主要国・地域のインフレ率の推移の図

第Ⅰ-1-1-4図 主要国・地域の政策金利
主要国・地域の政策金利の図

もっとも、サービス価格を中心に一定の粘着性(価格の下がり難さ)が示されたこともあって、多くの国・地域の中央銀行は利下げを慎重なペースで進めており、金利は景気を押し上げるほど十分には低下していない。少数ながら、ブラジルのように、2024年後半から利上げを再開した国もある。インフレ圧力の残存に加え、米国経済の一強状態も各国で利下げが進み難いことの大きな背景となっている。すなわち、米国経済が想定以上の堅調さを示す中、米金利が高止まりし、為替のドル高傾向が続いていることで(第I-1-1-5図)、米国以外の国は金利低下に伴う自国通貨の下落リスクを意識せざるを得なくなったのである。2024年11月の米国大統領選挙でトランプ氏が勝利し、新政権の政策が米国のインフレを一段と押し上げるとの見方が強まったことも、ドル高と米国へのマネー流入に拍車をかけた。

第Ⅰ-1-1-5図 米ドル指数
米ドル指数の図

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