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令和7年度 産業標準化事業表彰 経済産業大臣表彰 受賞者インタビュー

経済産業大臣表彰(規格開発・認定・認証部門) 荒牧 隆子(あらまき たかこ)氏

パナソニック オペレーショナルエクセレンス株式会社 品質・環境本部 環境経営推進部 シニアエキスパート

POINT
○蓄電システムの環境規格と家電のスマートグリッド接続基準、二つの国際標準化活動で貢献

○各国の異なる背景を「複雑なまま理解する」姿勢で丁寧な合意形成を実現

○IEC DAC(多様性諮問委員会)日本代表として多様性・安全性確保の指針策定を推進


蓄電システムの環境規格と家電のスマートグリッド接続基準で国際標準化を牽引

 

 パナソニック オペレーショナルエクセレンスの品質・環境本部環境経営推進部でシニアエキスパートを務める荒牧隆子氏の功績は大きく二つの柱からなる。
 第一に、IEC/TC 120(電気エネルギー貯蔵システム)/WG 4(環境側面)の設立時から参画し、セクレタリとして環境側面規格IEC/TS 62933-4-1(電気エネルギー貯蔵(EES)システム-Part 4-1: 環境問題に関するガイダンス-一般仕様)の策定を主導したことである。原材料調達・製造・使用・再利用・廃棄という蓄電システムのライフサイクル全体での環境影響評価を体系化し、複数国からの提案を統括して再利用バッテリーシステムの環境影響評価に関する新しい規格群を策定した。これにより、環境リスクを低減しながら循環経済を推進する国際的な枠組みが整備された。
 第二に、IEC/TC 59(家庭用及びこれに類する電気機器の性能)/WG 15(スマートグリッド接続及び機器間相互作用)のコンビーナとして、家電が電力系統と安全かつ効率よく接続するための規格を策定したことである。現在はIEC 63510シリーズ(家庭用機器のネットワーク及びグリッド接続)の複数パートでプロジェクトリーダーを務め、スマート家電とエネルギーマネジメントシステム間の情報交換プロトコルを規定する規格群の策定をリードしている。「各国の事情を丁寧に把握しながら、実装できる形にまとめることを重視してきました。」と荒牧氏は語る。    

 


各国の異なる事情を複雑なまま受け止める姿勢が大切

 標準化活動において荒牧氏が最も重視することは「複雑なものを単純化しない」という姿勢だ。「単純化すると、各国のそれぞれ異なる背景がこぼれ落ちてしまいます。まず複雑さを複雑なまま理解して、どこを共通化し、どこを柔軟に残すべきかを丁寧に切り分ける姿勢を大切にしてきました。」
 国によって優先順位も異なれば、規格策定のスピードに対する要求も異なる。ある国はじっくり練って作りたいと考える一方、別の国は早急に規格を必要としている。また、特に白物家電の分野では、各国の生活習慣の違いが規格に直結する。例えば、夜間の騒音基準や「早朝」の感覚は国によって全く異なり、洗濯機のタイマー機能一つ取っても、何時から何時までが早朝なのか、その国の文化によって判断が分かれてくる。マンションの床や壁の騒音基準も国ごとに異なる。こうした違いを踏まえ、共通部分から段階的に進めることが求められるが、その共通部分を見つけること自体が容易ではない。
 合意形成の鍵は、「技術的な正論を進め過ぎないこと」だという。自分の立場をベースにした「正論」は、相手の立場からすれば必ずしも正しいとは限らない。相手国の背景や価値観を否定せずに受け止め、論点を分解し、合意できる部分を積み上げていく。
 「相手の立場がどこにあるのかを見極めた上で、『共通の正論』とは何かを探さなければなりません。そのためには、お互いが何に苦労しているかを知り合うことが重要です。」
 苦労している点は表に出したくない話であるからこそ、丁寧に聞き出す姿勢が求められる。家電分野では日本をはじめ、中国、韓国、ヨーロッパ各国がそれぞれ強い意見を持ち、環境分野ではヨーロッパから厳しい要求条件が出されることが多い。
 荒牧氏は「日頃から懇親会やオフィシャルでない場で信頼関係を築くことも非常に大事です。」と語る。対面で膝を突き合わせなければ解決しない問題も多かったという。


多様な参加者による議論を。英語力より熱意が重要

 荒牧氏は、今後は研究開発の企画段階から標準化を意識し、社会実装まで見通すことが理想だという。ただし変化のスピードが速い昨今、一つの技術や社会システムが短時間で変化することも多く、実現は容易ではないという。
 「研究開発段階から標準化を意識してロードマップを描くことは非常に大切な心構えですが、その中にフレキシビリティを持たせていくことが重要だと考えています。」1年区切りで物事を考える商習慣の中で、変化に柔軟に対応できる運用の仕組みが望まれるという。
 また、荒牧氏はIEC DAC(多様性諮問委員会)において、日本代表として多様性・安全性確保の指針策定を推進し、IECの基盤変革及び日本の国際影響力の強化に貢献してきた。IEC DACでは、オンライン会議の字幕機能を公式に認める取組を進めている。言語や会議形式といった障壁を理解した上で、誰もが参加しやすい環境を整えることが、長期的に標準化の厚みにつながるという考えからだ。

 
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2025年12月、スイス・ジュネーブで開催されたIEC DAC会議に参加中の荒牧氏
写真提供:荒牧隆子氏

 

 国際標準化は英語力だけで決まるものではなく、現場の実態をどう整理し、合意できる形に落とし込めるかが大切だという。正しさよりも、コミュニケーションを取ろうとする姿勢、相手の話を聞こうとする熱意の方がはるかに重要だ。
 「英語が得意でなくても中心的に活動を進めるパワフルな参加者は多くいます。熱意のほうが大事で、英語力は後からついてきます。足りなければ誰かが補いに来てくれるくらいのつもりで十分です。」
 熱意がぶつかり合い、様々な意見を交わすことこそが真に使える国際規格を生み出す鍵だと荒牧氏は語る。「多様な背景を持つ人々が参加して議論を重ねた規格は、社会へ実装する際に非常に強力なものになります。多様性は飾りではなく、標準を社会実装可能にするための前提条件の一つです。」


【略歴】
1988年4月~現在 パナソニックグループ(現 パナソニック オペレーショナルエクセレンス株式会社)
2009年4月~2014年12月 IEC/SG 4(低電圧直流)委員
2014年3月~現在 IEC/TC 59(家庭用及びこれに類する電気機器の性能)/WG 15(スマートグリッド接続及び機器間相互作用)コンビーナ
2014年3月~現在 IEC/TC 59/AG 14(議長諮問グループ)委員
2014年10月~2025年3月 IEC/TC 120(電気エネルギー貯蔵システム)/WG 4(環境側面)セクレタリ
2017年4月~2025年3月 IEC/SyC LVDC(低電圧直流システム)CAG 1(議長諮問グループ)委員
2019年7月~2022年2月 IEC/SEG 11(将来の持続的輸送)/WG 1(ユースケース収集)コンビーナ
2019年10月~現在 IEC/TC 59 日本代表委員
2019年10月~現在 IEC DAC(多様性諮問委員会)委員
2023年6月~現在 IEC 63510-1(家庭用機器のネットワーク及びグリッド接続Part 1:一般的な要件、汎用データモデリング及び中立メッセージ)プロジェクトリーダー
2023年6月~現在 IEC 63510-2(家庭用機器のネットワーク及びグリッド接続Part 2:製品特有のマッピング、詳細、要件及び逸脱)プロジェクトリーダー
2023年6月~現在 IEC 63510-3-1(家庭用機器のネットワーク及びグリッド接続Part 3-1:特定データモデルマッピング: SPINE及びSPINE-IoT)プロジェクトリーダー
2023年6月~現在 IEC 63510-4-1(家庭用機器のネットワーク及びグリッド接続Part 4-1:通信プロトコルの特定の側面: SPINE、SPINE-IoT及びSHIP)プロジェクトリーダー
2024年10月~現在 IEC/TC 111(電気・電子機器、システムの環境規格)/WG 17(GHG)エキスパート
2024年10月~現在 ISO/TC 207(環境管理)/SC 7(GHGマネジメント及び関連活動)/WG 4(組織レベルにおける温室効果ガスの排出量及び吸収量の定量化及び報告)エキスパート
2024年10月~現在 ISO/TC 207/SC 7/JWG 8(製品のカーボンフットプリント定量化のための要求事項及び指針に関するISO・GHGプロトコル共同ワーキンググループ)エキスパート

最終更新日:2026年2月9日