経済産業大臣表彰(規格開発・認定・認証部門) 岡本 誉士夫(おかもと よしお)氏
空気清浄機の試験方法を規定するIEC 63086シリーズの制定を牽引
家庭用空気清浄機は、PM2.5などによる大気汚染や花粉症の対策、新型コロナウイルスの流行に対するウイルス抑制効果で大きな注目を集めている。その試験方法の国際標準化に2016年以来取り組んできたのが経済産業大臣表彰を受賞したダイキン工業の岡本誉士夫氏だ。
岡本氏は2016年9月にIEC/TC 59(家庭用及びこれに類する電気機器の性能)にプロジェクトチームが発足すると同時に参加した。2017年3月に日本電機工業会(JEMA)がそのための議論の場として空気清浄機国際標準化WGを設けると、主査に就任して業界を主導した。そして日本代表エキスパートとして、IEC/TC 59/SC 59N(空気清浄機の性能)の設立を推進するとともに、空気清浄機の試験方法を規定するIEC 63086シリーズ4件の規格を制定、乱立していた試験方法を統一し、同一の基準で比較する道筋をつけた。これにより、公正な性能の比較の下で、技術力が高い日本メーカーの製品の国際的な競争力が評価され、グローバル市場での普及を可能とした。

2024年4月に東京で開催されたIEC/TC 59/SC 59N 第8回全体会議での集合写真(前列一番右が岡本氏)
出典:「空気清浄」第63巻第2号(2025年)、公益社団法人日本空気清浄協会
2021年1月に策定したIEC 63086-2-1(家庭用及び類似の電気式空気清浄機器―パフォーマンスの測定方法―第2-1部:粒子の減少を測定するための特定要求事項)は、IEC 63086シリーズで初めてとなる試験法であり、IECとISOのダブルロゴが入った国際規格を策定できたことは「試験方法の統一」として大きな成果である。さらに、日本が先行している大腸菌に寄生する安全なウイルスであるファージを用いた浮遊ウイルス除去性能評価方法を採用したIEC/PAS 63086-3-1(家庭用及び類似の電気式空気清浄機器―パフォーマンスの測定方法―第3-1部:空気生物学試験チャンバーを使用したポータブル空気清浄機による主要バイオエアロゾルの減少率を評価する方法)を前倒しで策定(2027年発行予定の国際規格を公開仕様書として2023年5月に発行)したことは、日本が主導権をとるという点で大きな意味がある。
標準化活動に取り組む人材育成が急務
室内空気の質及びその健康への影響に対する意識の高まりに伴い、空気清浄機への世界的な関心が高まった結果、世界各国で独自の性能評価試験方法が乱立することとなった。そのため、世界中で同じように評価できる「共通のものさし」の策定が急務となっていた。
2017年3月に発足したIEC/TC 59/PT 63086(空気清浄機)は9ヶ国17名でスタートしたが、2021年11月にIEC/TC 59/SC 59Nに昇格し、現在では22ヵ国145名のエキスパートが登録され、活動している。「この間、ISO/TC 142(空気及びその他のガスの清浄装置)/WG11(室内空気清浄装置)のメンバーが新たに参加したため、これまでの議論の内容を何度も根気強く説明することで、理解してもらえるように務めてきました。日本代表委員エキスパートとして国内意見を取りまとめるとともに、米国・ドイツ・中国と連携し、AG(Advisory Group)メンバーとして、組織や活動内容、各国の役割を議論・検討することで、IEC/TC 59/SC 59Nの設立につなげることができました。組織をゼロから立ち上げ、SC設立までできたことは貴重な体験でした。」
岡本氏は標準化活動に携わる中で、次の3つの課題があると考えている。1つ目が国際標準策定には時間がかかる点である。「新規提案から策定まで、少なくとも5年以上かかるため、外部の有識者と連携しつつ、継続的に活動し続けることができる体制の構築が必要です。現在、JEMA国際標準化WGを中心に議論していますが、各メーカーから参加するメンバーは提案から策定までの期間をカバーするために、最低3~5年は続けてほしいと思います。」
2つ目が国際標準化に取り組むことができる人材が不足していることである。取り組む際には、会議への参加や回覧されるドラフトへのコメントだけでなく、自ら規格を策定していくことが求められる。「技術がわかることは当然として、標準化の進め方やプロセスを理解して、日本主導で各国の意見を取りまとめ、WGを牽引しながら、国際規格を策定する人材が必要です。今すぐやろうといってできることではないため、サポートしながら、人材を育てていくことが求められています。」
そして3つ目が国際標準の普及を促すことである。国際規格を策定しても使われなければ意味がない。また標準化だけではビジネスインパクトは小さく、その出口戦略として、標準や規制への対応、第三者機関でのチェック体制、認証制度の確立が必要になる。日本では2024年1月のIEC 63086-2-1発行を受けて、国際規格と整合させるために JEMA空気清浄機技術専門委員会でJEM 1467(家庭用空気清浄機)の集じん試験法を改正するとともに、国際規格を普及させるために、JEMA空気清浄機認証準備WGを立ち上げ、空気清浄機の集じん認証制度の構築に取り組んでいる。
「新適用床面積の訴求の徹底とJEM 1467改正による国際標準の普及を図るために集じん認証制度を立ち上げることは、啓発・認知活動の一つとして絶好の機会でもあります。JEM 1467改正原案の作成を完了させ、現在、集じん認証制度の運用開始に向けて準備を進めているところです。」
継続的に活動しエキスパートとの信頼関係を築く
コロナ禍でWeb会議が普及したことで、海外とのメンバーを集めて国際会議を開催する頻度が上がっているという。「現在、国内WGや各JWGは月1回程度ですが、日本代表エキスパートとして、1から6までの全てのJWGに参加しているため、ほぼ毎週夜中に行われるWeb会議に参加しています。」
また、組織が大きくなるにつれ、新たなメンバーが参加し、これまでの議論の内容を何度も根気強く説明する必要も出てくる。「とにかく会議が多くあり、当初はあまり英語を話すことができず、苦労しました。しかし、気持ちを切り替えて、『無料で英会話レッスンができる』と考えるようにしてからは、とても楽しくなりました。」
現在、IEC/TC 59/SC 59Nの中の、空気清浄機の基本性能を検討する3つのJWG(粒子・ガス・微生物除去)で、JWG 1はドイツ、JWG 2は日本、JWG 3は中国がそれぞれプロジェクトリーダーになっている。この中で、各国と連携して日本がリーダーシップを発揮していくことが求められる。プロジェクトメンバー国として、アジアから参加しているのは日本・中国・韓国の3か国だが、他の国にも参加してもらい、アジア地域への展開・普及が必要になっている。今後、集じん認証制度の運用が開始されると、日本で認証された製品がグローバルで認証されるようにしていくために各国との連携による相互認証の取組が重要になっていく。
標準化活動は非常に時間がかかるため、あきらめずに継続的な取組を通して各国のエキスパートと信頼関係を築くことが大切になってくる。「特に若い方は国際会議に参加するだけでなく、会議では積極的に発言し、会議終了後も各国のエキスパートと対面で話し合うことで人脈を築いてほしいです。個人や企業・業界代表ではなく、日本代表としての意気込みが大切です。国際会議に参加すると様々な気付きがあり、個人の成長にも確実につながるため、積極的な参加をお願いしたいです。」
| 1981年4月~現在 | ダイキン工業株式会社 |
| 2002年3月~2003年6月 | 同社 重要商品開発プロジェクトリーダー |
| 2003年7月~2010年4月 | 同社 IAQグループリーダー 主任技師 |
| 2006年4月~2020年12月 | 光触媒工業会 理事(国際委員会委員長) |
| 2010年5月~2019年9月 | 同社 商品開発グループ 主任技師 |
| 2017年3月~2019年3月 | IEC/TC 59(家庭用及びこれに類する電気機器の性能)/PT 63086(空気清浄機)日本代表委員 |
| 2017年3月~現在 | 一般社団法人日本電機工業会(JEMA)空気清浄機国際標準化WG 主査(委員長) |
| 2017年5月~2019年3月 | 株式会社三菱総合研究所(MRI)戦略的国際標準化加速事業 光触媒材料試験用新型光原に関する国際標準化委員会 委員 |
| 2019年4月~2020年3月 | IEC/TC 59/WG 17(空気清浄機)日本代表委員 |
| 2019年5月~2021年3月 | NRI 省エネルギー等国際標準開発 光触媒評価試験用紫外光形LED光源に関する国際標準化委員会 委員 |
| 2019年10月~現在 | 同社 プロフェッショナルアソシエイト |
| 2019年10月~現在 | 東北文化学園大学 客員教授 |
| 2020年4月~2021年10月 | IEC/TC 59/JWG 17(空気清浄機)日本代表委員 |
| 2021年6月~2024年3月 | MRI戦略的国際標準化加速事業 家庭用及びこれに類する空気清浄機の性能評価方法の国際標準化 ガス状物質WG主査(委員長) |
| 2021年6月~2024年3月 | MRI 戦略的国際標準化加速事業 家庭用及びこれに類する空気清浄機の性能評価方法の国際標準化 微生物WG主査(委員長) |
| 2021年11月~現在 | IEC/TC 59/SC 59N(空気清浄機)日本代表委員 |
| 2022年4月~2024年3月 | JEMA 空気清浄機技術委員会 主査(委員長) |
| 2024年4月~現在 | JEMA 認証準備WG 副主査(副委員長) |
最終更新日:2026年1月8日