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令和7年度 産業標準化事業表彰 経済産業大臣表彰 受賞者インタビュー

経済産業大臣表彰(規格開発・認定・認証部門) 川﨑 邦弘(かわさき くにひろ)氏

公益財団法人鉄道総合技術研究所 研究開発推進部 主管研究員(リサーチチューター)

POINT
 
○鉄道の高速化やデジタル化を見据え、いち早く取り組んできた鉄道用EMC(電磁両立性)に関する国際規格の制定と維持に大きく貢献

○国際規格の策定において、日本の測定評価技術を提案。説得力のあるデータ提示により国際的な合意を形成

○標準化は新技術の社会実装のための重要な手段であり、研究開発の初期段階から意識することが求められる


長年にわたり鉄道用EMCに関する国際規格の制定に尽力

 

 鉄道の高速化やデジタル化等、無線通信技術の活用が進むにつれ、沿線周辺に対して放送や通信に影響を与えるような電波が出ていないか、また、逆に沿線周辺から鉄道用設備に影響を与えるような電波が来ていないかを把握することが不可欠になっている。そのため、鉄道システムの内外で様々な電気電子機器が電磁的に共存できるよう、電磁的な環境を定量的に把握する必要がある。その測定評価法に関するEMC(電磁両立性)規格の標準化に取り組んできたのが経済産業大臣表彰を受賞した鉄道総合技術研究所の川﨑邦弘氏だ。
 川﨑氏は長年、鉄道の電波環境に関する測定評価法の開発と標準化に取り組み、IEC/CISPR(国際無線障害特別委員会)とIEC/TC 9(鉄道用電気設備とシステム)の双方で、両者の規格原案を融合させた鉄道用EMCに関する国際規格の制定と維持に大きく貢献してきた。また、鉄道の安全・安定運行を支える無線通信システムに関しても、ITU-R(国際電気通信連合 無線通信部会)での周波数の協調に関する文書策定にも寄与した。さらに、総務省のワイヤレス電力伝送に関する法制度整備や、ISO/TC 269(鉄道分野)/SC 3(オペレーションとサービス)での標準化活動にも携わり、国内外の鉄道における電波環境保全に貢献するとともに、日本の鉄道通信技術の国際競争力向上に大きな力を発揮した。

 
 

 川﨑氏は「標準化は、エンドユーザーが安心して技術を安定的に使うための基盤で、EMC規格は様々な電気電子機器が共存するために必要なモノサシと言えます。」と述べる。標準化でコンパチビリティ(互換性)や一定の品質を確保することができ、独りよがりにならずに客観的な評価が可能になる。鉄道事業者が新しい車両や設備を導入する時には、同じ土俵で性能評価ができてトラブルが少なくなる。
 「特に電波は目に見えないため、障害が出ないと電気的な干渉がないと考えてしまいます。しかし、電気を使うと干渉は必ず起きており、干渉の大きさが耐性より大きいか否かで障害の有無が決まるため、電波をきちんと定量的に把握するためにも標準化が欠かせません。」  


現場のデータと経験を基に議論することで理解を得る

 川﨑氏は実態を踏まえた実効性のある手法や規格の作成を重視して活動してきたという。実際に現場で測定したデータを持参して規格審議の場に行き、それらを基に議論を進めていくと説得力が大きく増すという。「最初に鉄道用のEMC規格を作り始めたのはIEC/CISPRですが、当時は干渉を受ける側の考え方で机上計算された基準値が提案されていました。しかし、その値は、実際に現場で得られる環境レベル(鉄道がなくても存在する電波の強さ)よりもはるかに低く、現場での測定評価に使うことができませんでした。それを実データで示すことで、IEC/CISPRの理解を得ることができ、最終的にはIEC/CISPRとIEC/TC 9の双方が合意できる形で規格を策定することができました。」
 また、日本だけでなく、他国にもメリットが感じられるように提案を行うことも意識した。特に欧州諸国に対しては、日本独自の技術や考え方だけを提案しても否決される可能性が高い。「そこで、「規格をこういう内容に変えれば、欧州以外の様々な国でも適用できる範囲が広がります。」など、他国へのメリットをセットにして説明することで、多くの国の賛同が得られるようにしていきました。」
 鉄道におけるEMC測定は実際の沿線で、測定条件をきちんと設定した試験列車が走っている状態で行う。高架上を列車が高速走行する区間があまりない欧州では地上での走行を基準にした方法を提案していた。それに対して、日本は高架の区間が多いため、それに適した測定方法を提案したが、欧州にしてみれば、イレギュラーであるため必要ないという意見が多かった。当時、欧州はアジア地域など海外に鉄道システムを展開しようとしている時期だったため、高架鉄道を建設する可能性が高いアジア地域など欧州以外にも対応できるようにした方が良いとアプローチし、国際規格に反映させることができた。


重要なことは諦めずに取り組み続けること

 1990年に鉄道沿線における電波環境の測定評価法の研究と標準化活動に取り組み始めた当初、その意義や目的を理解できる人は限られていた。そのため、川﨑氏は限られた関係者だけで測定試験や規格審議に対応していたという。「当時は「どうしてそんなことをやるのか分からない。」と言われることもありましたが、このままだと間違いなく日本の鉄道が困ることになるという確信があり、取組を続けていました。」

 
 その後、10年ほど研究と標準化の意義を説明し続けたところ、その必要性に気付く鉄道事業者が増えたこと、さらに海外展開を進めようとした鉄道事業者が「EMC規格への適合性」を問われるようになったことで、EMC規格の重要性が広く認識されるようになったという。さらに2013年には、IEC/CISPRとIEC/TC 9の調整や情報共有に関する活動が認められ、電気技術の標準化及びその関連活動に大きく貢献した専門家に授与される「IEC 1906賞」を受賞したことも川﨑氏には大きな力となった。
 IECでは、多数決で賛成が多ければ、規格として成立する。一方、ITUは国連の機関であるため、国家間で合意できる文書を作成する。2015年にITUで中国が鉄道用無線通信システムの周波数を統一して標準化したいと提案したことがあった。日本は全く異なる周波数のシステムを使っているため、それを合意文書にするわけにはいかない。「そこで私がエディターとして入り、中国を始め各国にも受け入れられる形で、日本の主張を織り込んだ文書を作成しました。3年間かかったとても大変な交渉でしたが、何とか合意にこぎつけることができました。」
 研究開発の初期段階から標準化活動を意識することはとても重要と川﨑氏は考えている。「標準化は新技術を社会実装するための大事な手段の一つと認識しています。しかし、鉄道分野、特に電気電子分野については日本からの規格提案がまだ少ないと感じています。私は現在、リサーチチューターとして、研究部門でのテーマの提案や進め方についてアドバイスなどを行う立場にいます。標準化につながる成果を研究者が創出できるように導くことで、日本発の標準化提案が増え、日本の鉄道技術が世界に広がっていくようにしていきたいと考えています。」
 川﨑氏は自分自身の経験から標準化活動は諦めずに続けることが重要だという。最初は逆風の中からスタートすることが多いが、大切だと思うことは丁寧に説明し続けて理解を得るようにしていくことだ。「自分ひとりでできることは限られるので、人の話を聞いて、気付いていなかったことを教えてもらい、視野を広げながら、しなやかに活動していくことが大切です。」

【略歴】
1989年4月~現在 財団法人鉄道総合技術研究所
1990年4月~2022年3月

鉄道システムによる電波障害に対する測定評価法の研究開発、技術基準・規格等に基づく電波障害の測定評価業務に従事

1991年9月~1998年6月 IEC/CISPR(国際無線障害特別委員会)/C(架空送電線、高電圧機器並びに電気鉄道に関する妨害)/WG2(電気鉄道に関する妨害)オブザーバー
1998年7月~2001年5月 IEC/CISPR/C/WG 2 エキスパート
2001年6月~2013年8月

IEC/CISPR/B(工業、科学及び医療用無線周波機器、その他の(重)工業機器、架空送電線、高電圧機器並びに電気鉄道に関する妨害)/WG 2(架空送電線、高電圧機器並びに電気鉄道に関する妨害)エキスパート

2001年11月~2003年3月 IEC/TC 9(鉄道用電気設備とシステム)/WG 41(鉄道EMC)エキスパート
2005年10月~2008年11月 IEC/TC 9/MT 62236(鉄道EMC 改訂第2版)エキスパート
2005年12月~2020年1月 財団法人鉄道総合技術研究所 技術講座「鉄道におけるEMCと国際規格」講師
2009年4月~2017年3月 財団法人鉄道総合技術研究所 信号技術研究部 通信研究室 室長
2012年1月~2014年3月 IEC/TC 9/PT 62773(列車制御用無線)国内作業部会 委員
2012年7月~2014年11月 IEC/TC 9/MT 62280(安全関連伝送)国内作業部会 委員長
2013年7月~2016年3月 ミリ波帯を用いた高速移動体向け大容量無線通信技術の国際標準化のための対処方針検討会 委員
2013年9月~2018年9月 IEC/CISPR/B/WG 2 国際幹事
2014年8月~2015年2月 JIS TS 62773(列車制御用無線)JIS原案作成委員会 委員
2015年2月~2017年2月 総務省 情報通信審議会 情報通信分科会 電波利用環境委員会 CISPR/B作業班 主任代理
2015年9月~2017年12月 IEC/TC 9/MT 62236(鉄道EMC 改訂第3版)国内作業部会 委員長
2015年10月~2017年12月 IEC/TC 9/MT 62236 エキスパート
2016年4月~2017年3月 一般社団法人日本鉄道電気技術協会 鉄道無線国際標準化検討会 委員長
2016年4月~2018年3月 総務省 情報通信審議会 情報通信分科会 ITU部会 陸上業務委員会 陸上移動ワークンググループ 委員
2016年5月~2016年5月 ITU-R(国際電気通信連合-無線通信セクタ) WP 5A(IMTを除く陸上移動業務)日本代表(鉄道分野担当)
2016年11月~2016年11月 ITU-R WP 5A 日本代表(鉄道分野担当)
2017年4月~2019年3月 総務省 総合通信基盤局 電波部 電波政策課 国際周波数政策室 AWG対策連絡会 委員
2017年4月~2022年3月 IEC/TC 9 国内委員会 委員
2017年4月~2022年3月 公益財団法人鉄道総合技術研究所 信号・情報技術研究部 部長
2018年4月~2022年3月 IEC/TC 9/AHG 20(情報セキュリティ)国内作業部会 委員
2018年11月~現在 IEC/CISPR/B/WG 2 エキスパート
2019年8月~現在 ISO/TC 269(鉄道分野)国内委員会 委員
2019年8月~現在 ISO/TC 269/SC 3(オペレーションとサービス)国内委員会 委員長
2020年10月~2025年3月 総務省 情報通信審議会 電波利用環境委員会 ワイヤレス電力伝送作業班 委員
2022年4月~現在 公益財団法人鉄道総合技術研究所 研究開発推進部 主管研究員(リサーチチューター)
2022年6月~現在 IEC/TC 9/PT 63495(動的無線電力伝送)国内作業部会 委員
2022年12月~2023年3月 一般社団法人日本鉄道電気技術協会 ワイヤレス電力伝送システムと鉄道設備共存検討会 委員長
2023年9月~2024年3月 一般社団法人日本鉄道電気技術協会 ミリ波帯鉄道関係無線システムの技術的条件に関する調査検討会 副委員長

最終更新日:2026年2月13日