経済産業大臣表彰(規格開発・認定・認証部門) 木原 隆宏(きはら たかひろ)氏
株式会社日立製作所 研究開発グループ 技術戦略室 チーフアーキテクト室 チーフアーキテクト
スマートインフラ領域の標準化を主導
1990年代後半頃から2000年代初頭にかけて、通信技術の発展に伴い急速に都市のICT活用が進んでいった。デジタル技術を駆使して暮らしや産業をより便利で効率的にするスマートシティ化が進む中、日本発のスマートインフラを他国に輸出する動きが活発化したことにより、日本主導で国際標準化を進めることが急務となった。
このような背景の中、日本の良さを正しく伝えられるスマートインフラの評価指標など輸出取引に必要となる仕組みを国際標準化すべく、産官学が一体となってオールジャパン体制でISO/TC 268(持続可能な都市・コミュニティ)/SC 1(スマート都市インフラ)を設立した。このSC 1において初代議長(市川芳明氏、現 ISO/TC 268国内委員会委員長)の補佐として、評価指標・統合フレームワークの原案作成・国際標準化を進めるとともに、二代目の議長として活動を引き継ぎ日本製スマートインフラの海外普及に大きく寄与したのが、木原隆宏氏だ。さらに木原氏は、ISO/TC 268/SC 1/WG 6(防災)において災害リスクに対して事前に備える「防災・減災」という日本発の重要なコンセプトを国際標準に反映させたことなども高く評価された。「長期にわたってスマートシティ領域を牽引してくださった諸先輩方の努力が結実しました。」と強調する。
企業の関心を引き続け、重要性を訴え続ける
都市のICT活用は、交通システム、物流管理、エネルギー管理、通信プラットフォーム、災害時の警報システムなど多岐にわたる。既に20以上の実証都市を持ち、技術力と安全・防災・インフラ効率に強みを持つ日本が、インフラシステム輸出による経済成長の実現のため、経協インフラ戦略会議にて「インフラシステム輸出戦略」(現 インフラシステム海外展開戦略)を策定し、注力してきた。
インドや中国といった新興国が新しく街を整備していく中で、中・長期的に環境保全機能を保持しつつ、快適にエネルギーをコントロールできる高機能な日本製の都市インフラを「丸ごと輸出する」ということがその狙いである。そして、単純な価格競争に陥ることがないよう、中・長期的な品質や性能を適切に評価し、投資家に対しても投資に足るプロジェクトであることを示す根拠が必要となっていた。こうしたことから、インフラシステムに対する世界共通の評価基準策定が急がれていた。
木原氏がISO参画当初にまず着手したことは、規格の原案作成だった。作成にあたって徹底したことは、最初から手を抜かず国際的に通じる正しい英語で執筆するということだった。日本語で書いたものを翻訳すると時として不自然な表現になってしまい、中身を読んでもらう前に「読む価値無し」と判断されてしまう。母語である日本語は、脳内で様々な情報を何となく補填しながら読み進められてしまうため、「信頼化」「深化」といった一見便利だが明確に何を意味しているか図りかねる言葉を使いがちである。そのため木原氏は、主語・述語・目的語を明確にしながら、正しく伝わる言葉で書くことを徹底していった。標準化のコミュニケーションは大半が書面であり言葉は非常に重要である。これは議長となった以降も常に意識している。
また、スマートシティはビジネスとして花開くまで10年単位の期間を要する。国際標準化もプロジェクト発足当初は人員も集まりやすいが、3年ほど経つとブームも下火となり、国内委員会からも人材が去り、リソースが足りなくなる。
「所属している日立製作所を含めて、民間企業の関心を引き続け、当該分野の国際標準化への参画を維持することも重要な仕事の一つでした。苦しい時期でも、仲間とともに命脈を絶やさず活動を続けて耐えることが必要だったのです。」と当時を振り返る。ビジネスチャンスが来るまでワークショップの継続的開催など「あの手この手」で標準化活動の重要性を訴え続けるということである。今でこそスマートシティを掲げる自治体も増え、民間各社も事業機会としてアピールするようになっているが、そこに至るまでには長い道のりを要するものだった。
2020年10月に日本提案で設立されたISO/TC 268/SC 1/WG 6における合意形成も波乱含みだった。WG6がインフラの観点から防災を考える一方で、リスクマネジメントの観点から都市インフラを考える委員会もあり、これらは「都市防災」のジャンルで競合する事態となった。競合する委員会とは相互に会議に出席をして意見を述べ合うなど、細かな調整が必要となった。また、スピード競争の一面もあり、各国エキスパートが受け入れられる範囲で、少し会合の開催頻度を上げ、短期決戦で規格を先んじて世に出すことも画策した。
さらに、「事前防災」という日本式の防災コンセプトは自然災害の少ないヨーロッパではなかなか受け入れられなかった。そこで、スマート都市インフラにおける地震計設置・防災標準の国際規格化を進めるにあたり、東北大学災害科学国際研究所所長の今村文彦氏(当時)をはじめとするアカデミアの国際ネットワークを通じて、事前防災のコンセプトに理解のある防災エキスパートを標準化の世界に呼び込むなど、非公式協議を活用しながら合意形成を効率化していった。
若手を中心とする後進の育成が急務
木原氏は2025年現在47歳であるが、これでも関連国内委員会の参加者の中では若い方である。スマートシティにとどまらず、日本の標準化活動に携わる人材の高齢化が進んでおり、若手の育成が急務となっている。そもそもスマートシティにかかるプロジェクトは10年単位で進んでいくため、後進育成には時間がかかる。人口減という視点に立てば日本市場はこの先の成長余地が厳しいことは明らかであり、積極的に海外戦略を打っていくためにも国際標準化を主導していくことは重要である。そのためにも若手が標準化活動に意義とやりがいを感じ、踏み込みたくなる業界にしていく必要がある。
韓国や中国では30代のメンバーも目立つといい、「今回の受賞がスマートシティの標準化に取り組む若手の増員に一役を買えれば幸いです。」と語る。
| 2002年4月~現在 | 株式会社日立製作所 |
| 2012年10月~2016年3月 | ISO/TC 268(持続可能な都市とコミュニティ)/SC 1(スマート都市インフラ)/WG 1(スマート都市評価指標)エキスパート |
| 2013年6月~2015年10月 | IEC/SMB(標準管理評議会)/SEG(標準化評価グループ)1 Smart Cities(スマート都市)エキスパート |
| 2020年10月~現在 | ISO/TC 268/SC 1/WG 6(防災)コンビーナ |
| 2021年1月~現在 | ISO/TC 268/SC 1 国際議長 |
最終更新日:2026年2月9日