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令和7年度 産業標準化事業表彰 経済産業大臣表彰 受賞者インタビュー

経済産業大臣表彰(規格開発・認定・認証部門) 佐々木 純(ささき じゅん)氏

日本製鉄株式会社 知的財産部 知的財産企画管理室 知財企画課
 
POINT
 
○ASTM及びISOという特性の異なるグローバルな標準化機関において、日本の視点を組み込み、国際的なリーダーシップを発揮

○標準化活動は「品質保証」「ビジネス拡大」「経営基盤」の3つのレイヤーで企業活動を支える重要な取組

○国際標準化の場では技術的な提案内容だけでなく、継続的な人間関係構築と信頼関係の醸成が成功の鍵となる


ASTM及びISO双方で日本の立場を確立し、規格づくりを主導

 

 日本製鉄の佐々木純氏は、世界最大規模の材料、製品、システム、サービスに関する国際標準化機関 ASTM International(以下、「ASTM」という。)及びISOの双方における国際議論の場において、日本の立場を確立し、鉄鋼分野での標準化活動を牽引してきた。
 ASTMでは、2005年の米国駐在をきっかけとして約20年にわたり鉄鋼規格づくりに従事し、日本が強みを持つ鋼材の規格化等を推進した。鋼材機械試験法の委員会においてはASTM及びISOそれぞれの国際規格間の整合性向上を提案する等で、日本企業の利便性を高めてきた。また、高層建築の火災時安全性向上を目指す建材規格タスクグループでは、NIST(米国立標準技術研究所)、行政、専門家らと議論を重ね、幅広い関係者との信頼関係を構築した。
 こうした活動が評価され、2010年、佐々木氏はASTM鉄鋼エグゼクティブ委員会副議長に日本人として初めて選出された。2015年にはASTM本部理事に就任し、組織運営に日本の視点を反映させる役割を担うこととなる。そして、これらの貢献に対し、ASTMよりAward of Appreciation(2015年)、Service Award(2017年)をそれぞれ授与されている。    

 

 
 「ASTMでの活動を通じて、委員会メンバーが各々の立場を超えて『より良い規格をつくる』という共通目標に向かう姿勢を感じました。その現場で多様な価値観を理解し合うことが、国際標準化の取組の根幹にあると思います。」
 ISOでは、ISO/TC 17(鋼)/WG 28(鉄鋼スマート製造)エキスパートとして、一般社団法人日本鉄鋼連盟(以下、「鉄連」という。)と連携し国内の意見形成を主導した。他国による規格提案に対し、日本としての基本方針を整理した上で交渉に臨み、日本の主張と整合した委員会原案 CD 21763(鉄鋼スマート製造ガイドライン)の策定と発行につなげた。


国内調整から信頼構築まで、多面的に支えた実務と苦労

 標準を日本製鉄の社内で活用するに当たって、佐々木氏が取り組んだことは、標準の役割を「レイヤーQ(基盤教務、安全・環境・防災の維持向上)」「レイヤーB(事業競争力の強化)」「レイヤーC(経営基盤の確立)」の3つのカテゴリーに分類、整理することであった。カテゴリー分けを行って各標準の役割が明確になったことにより、同社では社内の各部門が目的を共有しながら標準化を推進できる体制が整った。佐々木氏の中心領域はレイヤーBに位置づけられる技術・製品の国際規格化であるが、ISOの鉄鋼スマート製造規格のような産業界共通課題はレイヤーCに属する取組として推進している。
 


日本製鉄における規格標準化の活動分類
出典:「日本製鉄 統合報告書 2025」p54
 
 国際標準化の検討の現場では、委員会メンバーに蓄積された「人間関係」が議論の方向性を左右することが多くある。佐々木氏は米国駐在時代から多くの委員会に継続的に参加することで様々な人脈を構築し、帰任後も年2回の委員会に出席することで信頼関係を維持してきた。「対面で話すことで、言葉の裏にある意図や文化的背景まで理解できます。オンラインでは伝わらない“空気感”を共有することが、議論を円滑に進める鍵であると考えています。」
 また、標準化の検討の場では、自らの利益だけを前面に出しすぎない姿勢を一貫して心がけてきた。まずは「その標準化が国際標準として、より使いやすいものなのか」という上位概念を掲げ、各国の意図を理解しながら丁寧に議論を進めることを重視してきた。ISOの鉄鋼スマート製造規格では、鉄連が提供する議論の場を活用し、国内で「日本が得るべきもの」を明確化した。その原則に立ち返りつつ、各国の意図を汲み取って議論をまとめるファシリテーションを担ったことで、日本の主張を反映した規格案を制定してきた。
 一方で、日本の主張が国際的に受け入れられにくい場面も多く、国内の要求を国際議論の場において主張し、調整することで苦労することもあった。「苦労はありましたが、標準化活動を共に進めてきた国内の関係者の存在がとても大きかったです。」と振り返る。


日本が「主導する側」になるために──国際標準化戦略と次世代の人材育成への展望

 世界経済の地域ブロック化が進む中でも、日本企業がグローバル市場から受ける影響は今後さらに大きくなると予測される。佐々木氏は、国際標準化において日本が「受け身」から脱却し、「主導する側」に回る機会を増やすことが競争優位確保の鍵になると考えている。「今後は、産官学の幅広いステークホルダーと議論を進めるとともに、まずは私自身の所属企業から国際標準化における成功例を発信していきたいです。」
 その上で、国際標準化活動に関心を持つ方々に対しては、標準化機関の特性を理解した使い分けの重要性を強調する。「ISO及びIECが『1国1票制度』による外交交渉的性格を持つデジュール標準であるのに対し、ASTMのような米国系のフォーラム標準は反対票が1票でもあれば成立しないコンセンサスを要します。目的に応じて両者を使い分けることが重要だと思います。」
 そして、将来を担う人材育成については、積極性と語学力、この2つの重要性を説いている。「各標準化機関の議事運営ルール、とりわけ米国系機関に共通するロバート議事法の理解は不可欠です。さらに、標準化の実態を理解するためには、本や資料を読むだけでなく、若手・中堅人材が専門領域のエキスパートやオブザーバーとして『現地の委員会』に参加し、他国との人間関係や議論の実際を体感することが最も効果的だと感じています」。特に語学力については「英語は議論の手段にとどまらず、信頼関係構築の基盤です。」と強調する。日頃から国際的な話題を共有し、自身の考えを英語で語れる広義の語学力とネットメディア等を通じてグローバルな情報に触れることを勧めている。


【略歴】
1986年4月~現在 新日本製鐵株式会社(現 日本製鉄株式会社)
1986年7月~1989年6月 同社 中央研究本部 第一技術研究所
1986年8月~1987年12月 理化学研究所派遣
1988年1月~1989年3月 ISM Technologies社派遣(米カリフォルニア州)
1997年8月~2005年2月 新日本製鐵株式会社 技術開発企画部 マネジャー
2005年3月~2009年3月 Nippon Steel U.S.A. Inc., Vice President(在New York)
2005年5月~2009年3月 ASTM International(ASTM インターナショナル)A01鉄鋼委員会 Voting Member(所属企業代表投票権メンバー)
2009年4月~現在 ASTM International A01鉄鋼委員会Non-Voting Member(一般投票権メンバー)
2009年4月~2016年9月 同社 技術開発本部 計測・制御研究開発部長
2010年1月~2015年12月 ASTM International A01エグゼクティブ委員会Vice Chairman
2015年1月~2017年12月 ASTM International 米国本部 Board of Director(理事)
2017年4月~2020年3月 新日鐵住金株式会社 技術開発本部 技術開発企画部 技術企画室長
2020年4月~2025年3月 日本製鉄株式会社 技術開発企画部 部付(国際規格標準化特命)
2022年10月~現在 ISO/TC 17(鋼)/SG 3(鉄鋼スマート製造スタディグループ)エキスパート 日本代表
2024年1月~現在 ISO/TC 17/WG 28(鉄鋼スマート製造ワーキンググループ)エキスパート 日本代表
2021年11月~現在 IEC/TC 59/SC 59N(空気清浄機)日本代表委員
2025年4月~現在 同社 知的財産部(国際規格標準化担当)

最終更新日:2026年1月8日