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令和7年度 産業標準化事業表彰 経済産業大臣表彰 受賞者インタビュー

経済産業大臣表彰(規格開発・認定・認証部門) 佐藤 洋(さとう ひろし)氏

国立研究開発法人産業技術総合研究所 情報・人間工学領域 副領域長

POINT
 
○「ウェルビーイング」という名称がついた初のISO規格の制定に貢献。高齢社会における生活の質向上のための枠組みを提示

○単なるチェックリスト型の標準化ではなく、組織が自ら決めたことを持続的に改善していくプロセスを評価する仕組み

○国際的な合意形成の難しさに対し、日本提案のフレームワークを基に多様な意見をまとめ上げた


日本から国際的に適用し得るガイドラインを提案

 

 世界的に高齢化が進む中、年齢に関わらず、ウェルビーイングの維持・向上が国際的に重視されるようになっている。それに伴って、GDPなどの経済統計に代わり、人々の生活の質や豊かさをとらえ、評価するための指標開発の動きも活発化している。日本でも地域包括ケアシステムなど地域共生社会や従業員などへの健康投資を行う健康経営など様々な施策が実施されてきている。しかし、こうした多様な取組に対して、どのように計画し、評価・改善していくのかという実践方法は手探りの状況だった。
 それに対して、組織におけるウェルビーイング推進のための枠組みづくりに取り組んできたのが経済産業大臣表彰を受賞した産業技術総合研究所の佐藤洋氏だ。佐藤氏は、2021年8月から現在に至るまで、ISO/TC 314(高齢社会)/WG 4(ウェルビーイング)のプロジェクトリーダー及びWGコンビーナとして、高齢社会先進国の日本からの提案となる、ウェルビーイングという名称がついた初の国際規格ISO 25554:2024(高齢社会―地域や企業等におけるウェルビーイングを推進するためのガイドライン)の策定を主導した。  2024年11月に発行されたISO 25554:2024は、日本の健康経営の理念を基に、デジタル技術の活用を視野に入れた持続可能なウェルビーイング向上の枠組みを提示することで、企業や自治体の施策を可視化・評価できる。この規格は、個人だけでなく、組織全体のウェルビーイング向上に貢献し、企業活動において、従業員の健康や働きがいを重視する姿勢を示す一つの基準となり、社会的信頼や持続可能な価値の創出を可能にする。

 

国内委員会策定のフレームワークに沿った議論で合意

 佐藤氏は「2021年にISO/TC 314でウェルビーイングの国際規格の策定を提案した時に、海外の委員から「すでに規格があるから、改めて作る必要はない」と言われました。その規格がISO 45003(労働安全衛生マネジメント―職場における心理的な健康及び安全―心理社会的リスクの管理のための指針)でしたが、労働安全衛生とは違う考え方で策定するということを強く訴えました。」と述べた。ISO 45003はメンタルヘルスのガイドラインで、規格で決めている項目をチェックし、条件を満たしていれば認証される。それに対して、策定しようとしたウェルビーイングの規格はチェックリストに基づいて認証される形ではなく、よりポジティブに多様な組織で活用できるウェルビーイングの推進方法を体系化することを目指した。
 国際規格策定に向けて、日本ではISO/TC 314高齢社会対応標準化国内委員会のもとに対応委員会が設置され、学識経験者や医療関係者など幅広いメンバーが議論を重ね、国内の意見を取りまとめた。「そこでの議論を通して、委員全員が納得する形で考え方をフレームワークの形でチャート化することができました。そして、それが後に策定された国際規格のベースになりました。」
 日本の提案に基づいて設けられたISO/TC 314/WG 4には、日本をはじめ、カナダ、スウェーデン、フィンランド、中国、オーストラリアなど約20カ国の専門家が参加し、議論が進められた。2021年8月の第1回会議では、3時間の会議時間全てを使って、参加者が自分の国で取り組んでいるウェルビーイングについて発表したが、それぞれ内容が異なり、共通性を見出しにくかった。「その議論を通して、ウェルビーイングは多義的で文化や背景によっても異なるという認識に至りました。そして取り組むべきウェルビーイングの領域は各国の実情等に応じて定めるという方向性を打ち出すことができました。」
 そこで、第2回会議では国内委員会で作成したフレームワークを提案した。フレームワークは抽象化されているため、参加者はそれぞれ様々な解釈をしていく。それらを全てテキストで表現し、ネイティブな英語話者のアドバイスを受けて文書化する等の作業を経て、最終的にWGで合意を得ることができた。「WGでは最初、議論が百出する形になりましたが、国内委員会で作ったフレームワークを基に議論を進めたことがよかったです。いろいろな意見が出て議論が混乱しても、チャートの部分に戻って考えれば良いため、整理が可能になり、合意にこぎつけることができました。」
 


ISO 25554の骨子となるウェルビーイングマネジメントフレームワーク(ISO 25554:2024の図を翻訳し一部改変)
資料提供:佐藤 洋氏


標準化は自分が学んだ知識や技術を社会に届ける手段

 発行されたISO 25554:2024の特徴としては3つあり、①ウェルビーイングとは何かという定義は一切しないこと、②個人と集団のウェルビーイングをリーダーが自分で決めること、③持続的にウェルビーイングを向上させる仕組みをコミュニティが自ら提示し宣言すること、である。この規格が発行されたことで、世界中の組織が自らの状況に応じて、ウェルビーイング向上に取り組む基盤が整い、企業や自治体など様々な組織や分野で活用する動きが始まっている。
 「ISO 25554:2024は多様な組織が活用できるように、抽象度が高い内容になっています。そこで、規格の理解と普及を目指して、規格に沿った世界の良い取組事例をテクニカルレポートとして、まとめる作業をWGで進めているところです。」この規格の活用を通じて、ウェルビーイング分野への投資を促し、ヘルスケアやオーラルケアなど関連サービス市場の拡大を図っていくことも可能になる。その上で、最終的には認証規格として発展させて、社会実装できるような環境の実現も構想されている。
 標準化は社会をより良い方向に導くための1つのツールだ。グローバルな視点で知見のある専門家と議論しながら合意に基づいて国際的に通用する文書を作っていくことは、研究成果をまとめる論文の執筆とは異なり、簡単には得られない貴重な体験である。「若い方たちは、標準化は自分が持っている技術や学んだ知識、あるいは自分が思い描く社会の姿を社会に届ける手段だと考えることが良いと思います。そのために標準化活動に関心を持ち、自分の関わりのある分野で参画してほしいです。」


【略歴】
2004年8月~現在 国立研究開発法人産業技術総合研究所
2005年5月~現在 ISO/TC 43(音響)/SC 2(建築音響)エキスパート
2005年5月~2017年3月 ISO/TC 159(人間工学)/WG 2(特別なニーズを持つ人々のための人間工学)エキスパート
2006年5月~現在 一般社団法人電子情報技術産業協会 AV&IT標準化委員会(IEC/TC 100(マルチメディア)国内対策委員会)音響変換機器標準化グループ 客員
2006年5月~現在 IEC/TC 100/TA 20(アナログおよびデジタルオーディオ)/MT 60268-16(音声伝送)エキスパート
2006年11月~現在 ISO/TC 159/SC 5(物理環境)/WG 4(複合環境)国際幹事
2006年11月~現在 ISO/TC 159/SC 5/WG 5(アクセシブルデザイン)国際幹事
2010年8月~2014年8月 ISO/TC 159/SC 5/WG 5 ISO 24504 プロジェクトリーダー
2013年3月~2016年4月 ISO/TC173(福祉用具)/SC7(アクセシブルデザイン)/WG6(音案内)コンビーナ
2018年5月~現在 ISO/TC 43/SC 2 国内対策委員長
2018年5月~現在 ISO/TC 159 国内対策委員長
2018年6月~現在 ISO/TC 314(高齢社会)におけるISO/TC 159からのリエゾン
2018年6月~2020年12月 ISO/TC 43/SC 2/WG 18(建物の遮音測定) ISO 717-2(界壁の遮音性)共同プロジェクトリーダー
2018年7月~2021年7月 ISO/TC 43/SC 2/WG 18 ISO 10052(遮音性能の現場計測)共同プロジェクトリーダー
2021年6月~現在 一般財団法人日本規格協会 高齢社会対応標準化国内委員会(ISO/TC 314 国内対策委員会)委員
2021年8月~現在 ISO/TC 314/WG 4(ウェルビーイング)コンビーナ
2021年8月~現在 ISO/TC 314/WG 4 ISO 25554 プロジェクトリーダー
2022年4月~2024年12月 ISO/TC 159/AHG 2(サービス人間工学)コンビーナ
2024年8月~現在 ISO/TC 159/WG 3(サービス人間工学)エキスパート

最終更新日:2026年1月8日