経済産業大臣表彰(規格開発・認定・認証部門) 玉田 基(たまだ もとい)氏
一般社団法人日本鉄鋼連盟 標準化センター 事務局 主査
鉄鋼分野を横断する標準化の基盤を築く
玉田基氏は、日本鉄鋼連盟標準化センターにおいて、JIS制定・改正から国際標準化まで、鉄鋼分野の広範な標準化業務の中で、特殊鋼及び線材・棒鋼分野を統括してきた。2019年以降にJIS素案作成委員会WGであるF01.04分科会主査として約30件のJIS制定・改正を主導するとともに、日本代表委員として約25件のISO規格の制定・改訂に携わってきた。
鉄鋼分野では、多くの製品が、JISやISO規格、ASTM規格などの公的規格に基づいて取引される。すなわち鉄鋼業は、規格が取引の大前提となる産業であり、標準化は鉄鋼業の基盤そのものを支える。「鉄鋼製品はほぼ全てが規格に基づいて取引されており、規格抜きでは取引が成立しません。お客様は規格番号と必要性能を指定し、製造側はそれを満たす責任があります。」
国際標準化の分野では、特殊鋼及び線材・棒鋼分野のISO規格開発に携わるとともに、ISO/TC 17(鋼)の委員会マネジャーとして、各分野の鉄鋼製品、試験などを担当する分科会(SC)を統括し、近年重要性が増す気候変動やスマート製造分野をTC 17の活動範囲に追加した。その中で、日本提案によって、2023年にはISO/TC 17/SC 21(鉄鋼産業における気候変動に関連する環境)を新設し、委員会マネジャーとして議論を牽引している。

ISO/TC 17 委員会組織一覧(2025年12月現在)
ISO/TC 17/SC 21での活動は、全ての産業を網羅する環境マネジメントシステム規格との整合性を確保しつつ、日本主導で鉄鋼業の規格化を組み立てるという戦略を採っている。具体的には、日本意見を反映させて検討した世界鉄鋼協会(World Steel Association)の方法論に基づき、ISO/TC 17/SC 21の規格化を構築し、国際的な議論全体の組み合わせを見ながら日本の意見を反映させる努力を続けてきた。
国際議論を支える長年の経験に基づく実務力と粘り強い交渉力・調整力
玉田氏が標準化活動を推進する上で重視したことは、規格を利用する各方面のステークホルダーのニーズ・意見を的確に吸収することである。鉄鋼製品はほぼ全てが規格に基づいて取引され、規格がなくては取引が成立しない。そのため、標準化の要諦は、製造業者、流通業者、製品利用者(利用者団体を含めて)といった多様な関係者からの意見を、いかにうまく集約し、全体のメリットとなる「落としどころを見つけるか」という点にある。
玉田氏が所属する日本鉄鋼連盟標準化センターでは、JISの5年見直しサイクルに合わせて、JISの改正を推進するためには、関係者間の調整と継続的な作業が求められる。「規格は5年ごとに見直す建付けですが、実際に改正作業を回していくことはかなり大変です。技術進歩に応じて内容を見直し、関係者の意見を調整しながら進める必要があります。」また、国際会議では、議論を主導する各国の委員との関係性が議論の行方を左右する。「標準化活動は、その分野の内容を深く理解した上で議論に臨むことが必要です。鉄鋼連盟の標準化担当者は鉄鋼業の実務を経験し、その内容を理解していることが大きな強みです。また、国内の議論もそうですが、特に国際会議では、粘り強い交渉力・調整力は、非常に重要です。」
次世代の標準化人材への継承と日本の立場強化に向けた展望
例えば環境分野においては、世界で脱炭素化が進む中で、排出量評価の方法や環境負荷の基準は国際市場での競争条件そのものを左右する。そのため、玉田氏は今後の国際標準化活動において、日本が主体的に議論をリードしていく必要性を強く感じている。
「国際標準化活動では、日本が議論を主導する側に回る機会を増やすことが重要だと思います。主体的に関わる姿勢が不可欠です。」そのためには、国際議論に参加できる次世代の標準化人材への継承が欠かせないが、国内ではなかなか進めにくい状況にある。そのため、今後はそうした仕組み作りに取り組んでいく考えだ。「次世代の標準化人材への継承は本当に大切であり、急務だと思います。専門領域の内容を深く理解した上で、実際の委員会に参加し、他国の議論や人間関係を体感することが最も効果的です。」と語り、座学だけでは習得しきれない「現場の空気」に触れることの重要性を指摘する。
標準化活動の業務は、単に語学力があるだけでは務まらない。議論の本質に迫るためには「専門性」「標準化の知識」「粘り強い交渉力・調整力」の3つの能力が必要であり、どのように次世代の標準化人材を育成し、継承していくのかが課題になると玉田氏は指摘する。「他国では、ベテランと若手との組み合わせで標準化人材を重点的に増やす施策を取っているところもあり、日本も遅れを取っている場合ではないと考えます。」
標準化は産業の基盤を支える極めて重要な分野でやりがいがある。これからの次世代を担う方々には、焦らずじっくりと取り組んでもらい、この分野の重要性と面白さを見出してほしいとエールを送った。
| 1983年4月~1998年2月 | 株式会社神戸製鋼所 |
| 1998年3月~2002年8月 | Kobe Steel, USA, Inc. Detroit office |
| 2002年9月~2016年3月 | 株式会社神戸製鋼所 |
| 2016年4月~2018年3月 | ダイカン株式会社、ドラム缶工業会技術委員会(JIS素案作成委員会WG)委員 |
| 2018年4月~2019年1月 | 株式会社神戸製鋼所 |
| 2019年2月~現在 | 一般社団法人日本鉄鋼連盟標準化センター 事務局 |
| 2019年5月~現在 | 日本鉄鋼連盟標準化センター F01.04分科会(特殊鋼棒線・JIS素案作成委員会WG)委員長 |
| 2019年5月~現在 | ISO/TC 17(鋼)/SC 4(熱処理鋼、合金鋼)日本代表委員 |
| 2019年5月~現在 | ISO/TC 17/SC 16(鉄筋及びプレストレストコンクリート用鋼)日本代表委員 |
| 2019年5月~現在 | ISO/TC 17/SC 17(線材及び線製品)日本代表委員 |
| 2019年9月~現在 | 線材製品協会 原案作成委員会(産業標準作成委員会)委員 |
| 2021年4月~2023年12月 | 日本鉄鋼連盟標準化センター鋼材規格三者委員会(産業標準作成委員会)幹事 |
| 2021年4月~現在 | ISO/TC 17委員会マネジャー |
| 2023年4月~現在 | ISO/TC 17/SC 21(鉄鋼産業における気候変動に関する環境)委員会マネジャー |
| 2023年11月~現在 | ISO/TC 17/SC 21/AHG 1(ISO 14404検討)コンビーナ |
| 2025年3月~現在 | 日本磨棒鋼工業組合 JIS原案作成委員会(産業標準作成委員会)委員 |
最終更新日:2026年1月20日