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令和7年度 産業標準化事業表彰 経済産業大臣表彰 受賞者インタビュー

経済産業大臣表彰(規格開発・認定・認証部門) 近澤 武(ちかざわ たけし)氏

独立行政法人情報処理推進機構 セキュリティセンター 技術評価部 エキスパート

POINT
 
○情報セキュリティ分野のコンビーナとして、暗号アルゴリズムの国際標準化活動を牽引、日本の技術を含む安全な暗号技術の国際標準化に貢献

○国際標準化活動では、公平性を保ちつつ戦略的に日本の提案を支援、質の高い標準化推進に努める

○若い世代の参加促進と人材育成のため、企業や組織が標準化活動を評価し支援する体制作りが必要


ネット上の重要な情報を暗号技術で守る

 

 近澤 武氏は、1986年に三菱電機に入社し、暗号アルゴリズムを含む情報セキュリティ技術の研究開発に携わった。三菱電機が開発した暗号技術を国際標準化する業務担当になるのと前後し、1994年にISO/IEC JTC 1(情報技術)/SC 27(情報セキュリティ、サイバーセキュリティ及びプライバシー保護)/WG 2(暗号とセキュリティメカニズム)国内委員会の委員として標準化活動に初めて参加し、その後国際委員会に参加することとなった。2006年からは情報処理推進機構セキュリティセンターの研究員を兼務し、同年から2010年まではISO/IEC JTC 1/SC 27/WG 2のセクレタリに就任した。その後、2010年から2022年までは同WGのコンビーナを務め、これまでに計70件の国際規格の発行に成功している。
 2022年4月からの2年間はISO/IEC JTC 1/SC 27国内委員会の委員長を務め、さらに、2024年5月からはISO/IEC JTC 1/SC 27/WG 4(セキュリティコントロールとサービス)でエキスパートとして、IoTセキュリティラベリングの国際規格に日本の制度を記載するという提案に成功するなど日本提案の国際標準化に大きく貢献した。    

 
 

2007年5月、ロシアで開催されたISO/IEC JTC 1/SC 27/WG 2会議
本会議はモスクワ-サンクトペテルブルク間のリバークルーズ船上で開催された(写真手前左が近澤氏)
写真提供:近澤 武氏
 

 近澤氏が長年携わってきた暗号アルゴリズムとは、元のデータを暗号文に変更したり戻したりする数学的な手順や規則のことである。機密文書やインターネット通信、ECサイトで扱われるクレジットカード情報などを暗号化し、外部から傍受できないようにする仕組みに取り入れられている。
 「暗号アルゴリズムは、簡単に解読されてしまうと安全性が保てなくなってしまうため、国際的に標準化して、安全な暗号アルゴリズムを世界で採用していくことが非常に重要となっています。」


真正面から否定せず議論を円滑に進める

 コンビーナとして国際会議に出席する際は、「参加国全てに対して、平等に対応することを心掛けた。」と話す近澤氏だが、一方で国内委員会をサポートする立場として日本の技術が採用されるよう調整することにも尽力した。「世界でまだあまり知られていない技術は、突然規格提案しても、時期尚早だと棄却されてしまう可能性があります。そこで、国内委員会ですり合わせてタイミングを検討し、最初から規格提案するのではなく、まずは意見交換にとどめ、翌年に提案するなど戦略を考えました。」
 


2010年10月、ドイツ・ベルリンで開催された
ISO/IEC JTC 1/SC 27/WG 2会議にコンビーナ就任後、初の参加となった近澤氏(写真左)
写真右は、平成25年度工業標準化事業表彰(現 産業標準化事業表彰)経済産業大臣表彰を受賞された竜田敏男氏
写真提供:近澤 武氏
 
 どの国も、自分の国の提案を国際標準にしたいと考えている。「それぞれ事情が異なるため、調整することに苦労した。」と近澤氏は振り返る。参加国の意見がまとまらなければ、標準化のステップを進めることはできない。安全性が証明できているかなど、できるだけエビデンスに基づく議論を心掛けたが、提案の中には国際標準にはふさわしくない暗号技術も含まれていたという。通常、国際会議の結論はWG内のコンセンサスで決まる。国際標準にふさわしくない規格が提案されたときは、コンビーナとして中立の立場を保ちつつ、水面下でうまく棄却できるよう調整するなどの尽力をしたこともあるという。
 「どの参加者も国の威信をかけて国際会議に出席しているため、真正面から否定すると、その参加者・国との今後の関係性に影響が出てきます。棄却する際も、できるだけ相手の気持ちを傷つけないような発言の仕方を心掛けました。」


標準化活動が評価される社会になってほしい

 近澤氏は30年超にわたる自らの標準化活動を振り返り、「自分が関わった規格が国際会議の場で議論され、国際標準に採用されることは大きなやりがいです。業界に貢献できていることに喜びを感じています。」と語る。
 近い将来、量子計算機が普及すれば、現在使われている暗号アルゴリズムは簡単に解読されてしまう可能性が高い。そこで、国際会議では今、「耐量子計算機暗号」の国際標準化が議論の大きな焦点となっている。日本発の提案で間もなく発行される国際標準もあるという。
 インターネット上の安心・安全が今後ますます求められていく中で、「この領域の標準化活動に携わる人の高齢化と属人化が課題で、人材育成が急務です。」と近澤氏は指摘する。近澤氏自身も、2022年にコンビーナを退任し、現在は副コンビーナの立場から新たなコンビーナを支えている。そもそも、標準化に携わる人が少ない上に、組織の中で標準化活動に携わる人をきちんと評価する体制が十分ではないため、携わる人が増えていかないことが課題だという。
 「企業から参加する場合は、経営層の理解が必要です。徐々に状況は改善しつつあるというものの、依然多くの経営者は標準化活動に予算を投じることを判断できていないのではと感じています。キャリア形成にプラスになる場面が増えれば、標準化に携わる人も増えていくのではないでしょうか。標準化活動がもっと評価される社会になってほしいと思います。」
 近年では大学のカリキュラムに標準化の講義を取り入れるケースも出てきている。日本規格協会では、標準化活動に携わる人材育成として初級・中級・上級者向けのセミナーも実施している。若い人たちに積極的に標準化活動に参加してもらい、視野を広げながら自分の組織にもプラスになるような活動につなげてほしいと近澤氏は呼びかける。
 「英語がネックになって国際標準化活動への参加をためらう人もいるかもしれませんが、その場合はまず国内の活動から参加してみてください。私も留学経験はなく、最初はほとんど英語を話せませんでした。現場で学び、実践で徐々に身に付いていきます。ぜひ、国際標準化の活動に挑戦し、日本から国際標準を作れるよう支援していただきたいと思います。」


【略歴】
1986年4月~2024年3月 三菱電機株式会社
1994年2月~現在 ISO/IEC JTC 1(情報技術)/ SC 27(情報セキュリティ、サイバーセキュリティ及びプライバシー保護)/WG 2(暗号とセキュリティメカニズム)国内委員会 委員
1994年2月~現在 ISO/IEC JTC 1/SC 27/WG 2 エキスパート
1994年3月~2000年9月 同社 情報技術総合研究所情報セキュリティ技術部 主任研究員
1997年4月~1999年12月 JIS管理及び要約JIS化調査研究委員会WG 4(セキュリティJIS原案作成)委員
1997年6月~2022年5月 ISO/IEC JTC 1/ SC 27国内委員会 委員
2000年9月~2007年9月 同社 情報技術総合研究所情報セキュリティ技術部 主席研究員
2001年10月~2006年8月 ISO/IEC 18033-3:2005(暗号アルゴリズム 第3部:ブロック暗号)及びCor.1 プロジェクトリーダー
2005年5月~2010年5月 ISO/IEC JTC1/SC 27/WG 2 国内委員会 副委員長
2006年4月~2024年3月 独立行政法人情報処理推進機構 セキュリティセンター(兼務)
2006年4月~2010年7月 ISO/IEC JTC 1/SC 27/WG 2 セクレタリ
2007年5月~2010年10月

ISO/IEC 10118-2:2010(ハッシュ関数 第2部:nビットブロック暗号を用いたハッシュ関数)副プロジェクトリーダー

2007年10月~2024年3月 同社 情報技術総合研究所計画部/開発戦略部 担当部長
2009年4月~2024年3月 同機構 セキュリティセンター 主任研究員(兼務)
2010年4月~2016年3月 同機構 セキュリティセンター グループリーダー(兼務)
2010年10月~2022年5月 ISO/IEC JTC 1/SC 27/WG 2 コンビーナ
2011年4月~2022年3月 (総務省・経済産業省)CRYPTREC暗号技術検討会 構成員
2022年4月~2024年3月 ISO/IEC JTC 1/SC 27 国内委員会 委員長
2022年5月~現在 ISO/IEC JTC 1/SC 27/WG 2 副コンビーナ
2024年4月~現在 同機構 セキュリティセンター 技術評価部 エキスパート
2024年5月~現在 ISO/IEC JTC 1/SC 27/WG 4(セキュリティコントロールとサービス)エキスパート

最終更新日:2026年1月27日