経済産業大臣表彰(規格開発・認定・認証部門) 西田 直人(にしだ なおと)氏
株式会社東芝 特別嘱託
IEC Boardの日本代表として、国際議論に日本の視点を届ける
西田直人氏は電気電子分野の国際標準化機関であるIECにおいて、主要執行機関であるIEC Board(旧IEC Council Board、以下「IB」とする。)に日本代表委員として参画し、前任者からの引継ぎ期間を含めて約7年にわたり活動を行ってきた。IBはIEC全体の戦略方針や財務監督を担う会議体であり、国際標準化の方向づけを左右する重責を担うものだ。そのため、西田氏は国際標準化における日本の存在感向上に極めて大きな役割を果たしてきた。
特にIBの運営では、規格販売収入や分担金など日本の標準化団体に直接影響する議題が多く扱われる。西田氏は国内の関係者から意見を収集し、日本がどの点に懸念を持ち、どの点で賛同できるかを事前に整理した。IBの会議では、建設的意見の提示、他国への貢献に対する適切な評価など、議論を前に進めるための姿勢を大切にしてきたという。

2025年9月、インド・ニューデリーで開催された IB会議の会議風景
写真提供:IEC
「IBは各国から企業の役員クラスや国の標準化団体のトップ層の方々が参加しており、この中でプレゼンスを維持向上するためには、いかに議論に貢献できるかが重要となります。これを果たすため、事前の会議準備を十分に行った上で会議に臨みました。特に私の任期の前半で、意思決定の透明性向上や運営効率化を目的とした大規模なガバナンス構造改革が実施され、IECの規約及び組織体制が大幅に見直されました。数十年に一度とも言われるこの改革に携われたことは、私にとっても非常に貴重な経験となりました。」
多様な立場における意見調整と地道な実務が支えた活動
IBに参画するにあたり、西田氏が直面した大きな課題の一つが、国内関係者の意見集約である。IBの議題は財務、戦略、人材育成など幅広く、関係する組織も多岐にわたる。会議資料は実施のわずか2週間前に展開されるため、限られた時間の中で国内意見をまとめなければならない。「対策としては、できるだけ早く経済産業省や日本規格協会などの関係者に問い合わせて情報を集めるしかありませんでした。そのため、日頃から良好な関係を築いておくことが重要となります。幸い、標準化に関係する皆様には、いつも迅速かつ丁寧な対応をしていただきました。」
そして、もう一つ課題となったことは、IECが進めている規格の機械可読化などといったDX関連の議論である。「何ができるのか、どのようなニーズがあり、どのようなサービスを提供することができるかなどの具体論が後回しになってしまったため、判断が困難でした。情報が不足する中、多くの国内関係者へ問い合わせて意見を集め、会議に向けた整理を進めました。さらに、同じ懸念を持っている海外のIB委員との事前の意見交換も行い、IBの会議ではできる限り意見が反映されるように努めました。」
西田氏は民間企業出身者としての視点を活かし、「費用対効果や具体的なコストの説明が必要」と指摘し、議論を整理する役割を果たした。
国際会議では、二国間会談への参加やIB委員同士の交流など、日本代表として多様な業務を並行して進めた。また、2011年から1年間はIEC活動推進会議(IEC-APC)議長として2014年に開催されたIEC東京大会の準備に携わり、企業への支援要請など、裏方の調整面でも大きな役割を担った。「東京大会の準備は大変でしたが、多くの関係者の協力で成功に導くことができました。」と振り返る。
さらに、西田氏は内閣府SIPプログラムディレクターとして、光量子を活用したSociety 5.0技術の国際標準化を推進し、特に量子暗号通信(QKD)分野で日本の技術をベースとした多数の標準開発を実現した。「安全性に懸念のある製品が標準になる可能性があったため、標準化、特許化とノウハウ秘匿を組み合わせた『オープン&クローズ戦略』を徹底しました。」と語り、この取組が市場創出と日本の立場強化につながったと述べる。
標準化活動の未来と人材育成への思い
IBでの任期終了を迎えた西田氏は、今後の日本の標準化戦略に大きな期待を寄せる。既に、我が国では国際標準戦略を強化しつつあり、企業側でも標準化を経営課題として位置づける機運が高まりつつあるが、西田氏はまだ途上だと考えている。
標準化に携わる人材には、目先の事業だけでなく他分野にも視野を広げ、政策・国際動向を含めた「ルールづくり」を理解する力が求められる。また、IEC内部でも規格開発期間の短縮、いわゆるアジリティ向上が大きな課題として議論されており、先端技術のスピードに対応したルール形成が不可欠となっている。「規格開発期間が現状の30か月以上では技術の変化に対応できません。今後の議論に期待したい。」
さらに標準化活動における最大の価値は、異分野・異文化・異世代との協働を通じた「人材の成長」にあると捉えている。「標準化を進めるためには、多くの異なった背景を持つ人たちと協議をして結論を出す必要があり、これに真剣に取り組むことは、必ずや他の場では得られない経験になります。そして、この経験が効果的に働くのは、吸収力が高い若い世代の方たちではないでしょうか。」
人材不足から標準化活動への参加が難しい企業もあるが、2029年IEC大会を招致することを公式表明している日本にとって、今は若手育成の拡大を進める絶好の機会である。西田氏は、より多くの若手が国際標準化に参加し、日本の存在感向上につながることを期待している。
| 1978年4月~2025年12月 | 株式会社東芝 |
| 1983年4月~1985年3月 | 人材育成プログラムにてライス大学に留学、エキシマレーザーの研究に従事 |
| 2007年4月~2011年3月 | 同社 生産技術センター所長 |
| 2011年4月~2013年3月 | 同社 技術企画室室長 |
| 2011年4月~2013年3月 | IEC/TC 120(電気エネルギー貯蔵システム)設立にあたっての企業側責任者 |
| 2011年4月~2014年3月 | 日本電子情報技術産業協会(JEITA)標準化政策部会委員 |
| 2011年6月~2012年5月 | IEC活動推進会議(IEC-APC)議長 |
| 2012年4月~2017年10月 | 同社 執行役常務(後に専務)(研究開発統括部など担当) |
| 2013年4月~2016年3月 | 国際標準イノベーション技術研究会(IS-INOTEK)理事 |
| 2014年4月~2015年3月 | 日本電気学会(IEEJ)副会長 |
| 2018年4月~2023年3月 | 内閣府 戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)プログラムディレクター |
| 2019年2月~2019年12月 | IEC Council Board(略称CB、(評議会)、2022年1月以降はIEC Boardに名称変更)日本代表委員(前任者の任期途中の就任) |
| 2020年1月~2022年12月 | IEC Council Board 日本代表委員(第1期) |
| 2023年1月~2025年12月 | IEC Board(略称IB、(評議会))日本代表委員(第2期) |
最終更新日:2026年1月20日