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令和7年度 産業標準化事業表彰 経済産業大臣表彰 受賞者インタビュー

経済産業大臣表彰(規格開発・認定・認証部門) 橋新 裕一(はししん ゆういち)氏

オフィス橋新 代表
 
POINT
○レーザプロジェクタの世界市場展開のため、日本提案の安全規格の発行に貢献

○標準化活動では安全性を重視、リスクに対する安全対策をいかに講じるかを課題としてきた

○国際的なロビー活動と各国エキスパートとの良好なコミュニケーションが標準化活動の成功の鍵


IEC/TC 76レーザ安全性標準化委員会を主導

 

 レーザ技術は、医療や通信、建築、工業など非常に幅広い分野で応用されている。ただレーザの中には、皮膚への損傷や目に深刻なダメージを与えるほど強力なものもあるため、レーザ装置を危険の発生能力に応じてクラス分けする国際基準が設けられている。2012年からIEC/TC 76(レーザ製品の安全性)レーザ安全性標準化委員会(後に部会に変更)委員長(部会議長)を務め、レーザ関連の国際規格・JISの開発に力を尽くしてきたのがオフィス橋新代表の橋新裕一氏だ。
 2007年、IEC 60825-1(レーザ製品の安全性-第1部)が改訂・発行され、これに相当するJIS C 6802(レーザ製品の安全基準)は4年後の2011年に改正・発行された。その後、レーザ応用技術の急速な進展を反映させるため、抜本的に改訂されたIEC 60825-1が2014年5月に発行された。JIS C 6802はIEC 60825-1に合わせて早急に改正する必要があったため、橋新氏はIEC 60825-1の改訂と並行してJIS C 6802 :2011の改正作業に着手し、IEC規格の改訂からわずか4か月後の2014年9月に発行することに貢献した。
 これらの改訂作業において、橋新氏はIEC/TC 76/WG 4(医用レーザ製品)のエキスパートとして、目及び皮膚に与える生物物理学的検討を担当した。医用レーザ製品は当初IEC 60825-1に規定される危険性に基づくクラス分けの適用範囲外であったが、2007年度版から適用されるようになった。それにより、レーザ製品の目及び皮膚に与える危険性を考慮して、最も安全なクラス1から最も危険なクラス4まで、レーザ製品の放射パワーに基づき7段階にクラス分けされることとなった。  

 

 その後、2011年頃に、IEC/TC 76/WG 4の欧州エキスパートから新たな医用レーザ製品のクラスを追加することが提案された。しかし、元々レーザ装置の放射パワーに基づいてクラス分けがなされていた主旨にそぐわないといった視点から、既存の7段階に新しいクラスを加えることに国内外で反対意見が多かった。
 これに対して、橋新氏は議論を主導し、皮膚に近接させない限りレーザ光を放射せず、またレーザ光は皮膚に接触させることで外部にはほとんど漏らさない構造であることから、接触使用の場合における医用レーザ製品について、クラス1相当の危険性に分類される「クラス1C」として新設することに貢献した。
 同じ頃、日本が先導していたレーザプロジェクタの世界への展開のために、日本提案によるレーザプロジェクタに関する国際規格であるIEC 60065(オーディオ、ビデオ及び類似の電子機器--安全性要求事項)も発行された。
 こうした努力によって、照度が高く、安価で、寿命も長いレーザプロジェクタの世界的な市場拡大に寄与することが可能になった。

 

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2025年10月、フランス・ボルドーで開催されたIEC/TC 76国際標準化会議の全体会議に参加した橋新氏(写真右)
写真左は、IEC/TC 76/WG 4のコンビーナ。中央は、IEC/TC 76 AAG(Administrative Advisory Group)のコンビーナ

 

 さらにJEITA(電子情報技術産業協会)のIEC/TC 62(医用電気機器、ソフトウェア及びシステム)/SC 62D(個別医用電気機器、ソフトウェア及びシステム)国内委員会と連携して、日本提案のIEC 60601-2-75:2017(医用電気機器 – 第2-75部:光線力学治療及び光線力学診断機器の基礎安全及び基本性能の特定要求事項)制定にあたり、各国に対するロビー活動を行い、その結果レーザ製品の安全性に関する意見が反映された。光線力学治療及び診断機器は既存の外科的治療及び抗がん剤治療と併用可能な、悪性腫瘍の治療法として認知され、その波及効果は大きい。


安全性を特に重視し、リスクに対する対策を規格化

 橋新氏にとって、標準化とはグローバル戦略のためであり、知財戦略の一つの方法であると考えている。特許と発明はその技術を公開することになるため、模倣されるおそれが多く、裁判に発展する火種となりやすい。一つの製造会社のみの技術ならば、標準化の対象とはならないが、2社以上の会社が競合している場合、共通項目を標準化することで、市場獲得に邁進できる。特にレーザ製品の安全は業界の存続、発展にとって非常に重要なテーマだ。「使用者と消費者がレーザ製品のリスクと、その安全対策を理解し、安全が確保されると思えば、安心してレーザ製品を使うことができます。」
 標準化活動で特に重視したことも安全性だという。「あらゆるリスクを洗い出し、それを評価して、リスクに対する安全対策をいかにして講じていくか、常に製品開発者、製造従事者、使用者、消費者の立場に立って、知恵を絞ってきました。」医用レーザ製品のエキスパートとして、目及び皮膚に与える生物物理学的検討を担当しているが、現在の部会でこの分野の専門家は橋新氏一人だ。そのため、目と皮膚への影響が部会メンバー全員に理解できるよう、絶えずアンテナを立てて情報を収集し、新たな知見を部会で紹介、説明している。


大学のカリキュラムに標準化活動を導入し標準化人材を育成

 IEC及びISOで新たな規格を提案するには、委員会で投票したPメンバー(参加メンバー)の3分の2以上が賛成、かつ、賛成したPメンバーのうち5か国がエキスパートを指名し参加する必要がある。「投票は1か国1票ですから、国の数が多い欧州諸国の結束が固いと反対されかねません。米国及び英国の意見も強力です。それらの国々の同意を得るためには、提案前のロビー活動は非常に重要になります。」ロビー活動の開始前に国内の意見を取りまとめて業界の賛同を得た上で、日本のメンバー全員でロビー活動を展開する。そのために、日頃から各国の主だったエキスパートとの密度の高いコミュニケーションを継続し、毎年開催される国際会議に出席して、顔と名前を覚えてもらうことも重要だ。
 今後の標準化活動では標準化人材の育成・確保が喫緊の課題だ。すでに日本規格協会が活動を始めているが、大学のカリキュラムへの「標準化活動」の科目の導入が求められる。「近畿大学大学院の総合理工学研究科東大阪モノづくり専攻では特別研究で、「JIS、IECやISO規格、EU規格」の講義を行っています。規格の話ができる大学院生は就職にあたって採用される確率が極めて高くなることもあり、学会や協会などを通して、メーカーや業界の有力者とコミュニケーションを図り、エキスパート人材の参画を呼びかけています。」
 また、橋新氏が所属する光産業技術振興協会では、毎年、経済産業省を招いてシンポジウムを開催しており、橋新氏もレーザー学会や日本レーザー医学会などで、「国際標準化の最新情報」などのテーマで講演を行っている。さらに学会誌に論文を投稿するとともに、「光及びレーザーの安全」をキーワードに、消費者も対象としたセミナーなどの啓発活動も行っている。「これから標準化活動に携わろうという人は、まずどの規格でも良いので、熟読することです。理解できない箇所や表現があった場合は遠慮なく、エキスパートに質問してみましょう。日頃の活動の中では英語力が問われますが、つたない英語であっても構いません。思い切って国際会議に参加してみることです。そこから全てが始まります。」


【略歴】
1982年4月~1998年3月 学校法人近畿大学理工学部 助手
1989年9月~1990年8月 ニューヨーク州立大学バッファロー校 客員研究員
1998年4月~2003年3月 近畿大学理工学部 専任講師
2003年4月~2007年3月 同大学理工学部 助教授
2006年4月~2012年3月 IEC/TC 76(レーザ機器の安全性)レーザ安全性標準化委員会 委員
2006年4月~現在 IEC/TC 76国際レーザ安全性標準化会議 エキスパート
2007年4月~2012年3月 同大学理工学部 准教授
2008年4月~2013年3月 ISO/TC 172(光学及びフォトニクス)/SC 9(レーザ及び電気光学システム)国内対策委員会 委員
2008年4月~現在 ISO/TC 172/SC 9国際標準化会議 エキスパート
2012年4月~2021年3月 同大学理工学部 教授
2012年4月~2015年3月 IEC/TC 76レーザ安全性標準化委員会 委員長
2012年4月~2013年3月 一般財団法人光産業技術振興協会所属_レーザ機器の安全・安心に関する調査研究委員会 委員
2013年4月~2015年3月 一般財団法人光産業技術振興協会所属_レーザ機器の安全・安心に関する調査研究委員会 委員長
2013年4月~2015年3月 IEC/TC 76レーザ安全性標準化委員会 ビームデリバリ専門委員会(日本提案規格)委員
2013年4月~2019年3月 IEC/JTC-5特別技術委員会(IEC TC 76とTC 34(照明)とのジョイント委員会)及び特別技術小委員会 委員
2014年4月~現在 ISO/TC 172/SC 9国内対策部会 メンバー
2016年4月~現在 IEC/TC 76レーザ安全性標準化部会 議長
2016年4月~現在 IEC/TC 76レーザ安全性標準化部会 光通信専門部会 メンバー
2016年4月~2017年3月 一般財団法人光産業技術振興協会所属_高耐性レーザガード国際標準化提案委員会(日本提案規格) オブザーバー
2018年4月~2021年3月 一般財団法人光産業技術振興協会所属_レーザポインタの安全・安心推進に関する標準化調査研究委員会 委員長
2021年4月~2023年3月 同大学理工学部 非常勤講師
2021年4月~現在 IEC/PBS(光生物学的安全性)分科会 委員
2023年4月~現在 オフィス橋新 代表
2023年4月~2025年3月 IEC/TC 76レーザ安全性標準化委員会 JIS C 6802(レーザ製品の安全基準)改正専門部会 メンバー
2024年4月~現在 IEC/TC 76レーザ安全性標準化委員会 JIS C 6804(レーザ製品の安全―情報伝送のための光無線通信システムの安全)改正専門部会 メンバー
2024年4月~現在 一般財団法人光産業技術振興協会所属 レーザ安全スクール・試験実行委員会 委員

最終更新日:2026年1月27日