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令和7年度 産業標準化事業表彰 経済産業大臣表彰 受賞者インタビュー

経済産業大臣表彰(規格開発・認定・認証部門) 長谷川 幸生(はせがわ こうせい)氏

一般財団法人日本船舶技術研究協会 基準・規格グループ長代理
 
POINT
○長年にわたり、船舶及び海洋技術の国際標準化活動に貢献

○標準化活動では性能・安全性と製品価格のバランスをいかに取るかがポイントとなる

○標準化活動を円滑に進める秘訣は、人と人との繋がりを大切にすること


ISO/TC 8(船舶及び海洋技術)/SC 6(航海及び操船)で規格制定に貢献

 

 船舶は、国をまたがる形で航行するため、国際条約による一律の基準に基づいて海上での安全と海洋環境の保護が行われている。その技術基準は国連の専門機関である国際海事機関(IMO)で定められており、基準を満たすための試験手法はISOで決められる。その試験手法の標準化に30年近く取り組んできたのが経済産業大臣表彰を受賞した日本船舶技術研究協会の長谷川幸生氏だ。
 長谷川氏は1996年からISO/TC 8/SC 6(航海及び操船)の国際幹事サポートチーム、2005年から2025年までの20年間にわたり、ISO/TC 8/SC 6の国際幹事を務めた。SC 6は船舶に搭載が義務付けられている航海機器の性能試験のための規格と船の性能を測る試験規格の策定を行っている。その中で、長谷川氏は日本提案の航海機器関連国際規格49件の制定に貢献した。
 そのSC 6において、長谷川氏は国際規格の管理、議長、WGコンビーナ及びプロジェクトリーダーの補佐・助言、会議の開催・運営などを行ってきた。会議外での個別対応、短期間での集中審議などを通して、SCメンバーの信頼を得るとともに、ねばり強い対応を重ねて各国との困難な意見調整を行いつつ、規格の制定に尽力してきた。さらに1996年から現在まで、船舶部門日本産業規格(JIS F)作成委員会事務局として、51件のJIS作成を担当し、国内海事産業の発展に寄与した。    

 


安全性や性能の向上と価格高騰を防ぐバランスを重視

 JISは生産者、使用者、中立者の三者で構成される委員会で作成される。この中で、生産者(製造業者)のメリットはユーザーニーズを早い時期から把握でき、自社製品を国際的に展開する際に、スムーズに供給できることにある。一方、使用者のメリットは、規格を満たした高品質の製品を安心して購入できるとともに、安定供給が継続されることで、製品単価が下がり、より安価な製品の購入が期待できることにある。
 「船舶の場合、基準はIMOが作り、その試験手法をISO/IECで策定します。例えば、座礁等の防止を目的とした船底から海底までの距離を測る音響測深装置は日本企業が優れた製品を提供していますが、IMO基準に基づいて製品化する際は、基準を満たす性能要件が求められます。ISO/IEC作成の試験方法で合格した製品であれば、関係するIMO基準を満たしているとみなされ、信頼できる製品として欧州など海外への輸出ができます。」
 


船の下の水深を測深し、船舶の航行を支援するために搭載される船用音響測深装置。本機器の動作及び性能要件等は、
ISO 9875 : 2023(船舶及び海洋技術―船用音響測深装置)に規定されている。
写真提供:古野電気株式会社
 
 規格を制定することで、技術的な性能や安全性を高めることが期待できる。しかし、性能や安全性を厳しくし過ぎると、製品価格が高くなり、普及しない可能性がある。その一方で、性能や安全性を緩くし過ぎると、安全性が保てず、粗悪な製品が出回る恐れがある。標準化における性能と安全性のバランスをどう定めるか、この点を検討するため国内外の関係者を集めた委員会を設置し、意見を集約する。委員会の審議だけでは集約が難しい場合には利害関係のある団体や関係者と個別の打合せを行った後、折り合える妥協点を見出すことも必要になる。
 「バランスをとることはとても難しく、妥協点を見出すためには長年の経験が生きてきます。航海機器関連メーカーの担当の方たちは長年標準化に携わってきているため、規格化への理解が高く、自社のノウハウをギリギリのところまで情報提供いただき、規格作成に力を貸していただきました。」
 そうした中で、長谷川氏が携わった規格作成の中には制定までに苦労したケースもあったという。「海外の研究所の方がプロジェクトリーダーを務めた案件で、現状で問題なく利用されている試験手法について精度向上を理由に、一部の手法の使用制限や廃止を提案されたのです。その結果、今までその手法を使っていた国と対立が生じてしまいました。」それを解決するために、長谷川氏が中心になって非公式の打合せを多数行い、短期間の間に10数回に及ぶ国際会議を開催した。そして、プロジェクトリーダーから妥協点を引き出すために、国内だけでなく、海外の関係者の協力も得て、交渉を進めた。
 「本当に胃が痛くなる思いの毎日でしたが、4年近い交渉の末、双方が合意できる妥協点を見出すことができました。何とか規格の制定にこぎつけることができた時は肩の荷が下りた思いがして、本当にほっとしました。」


重要なことは人と人とのつながりを大切にすること

 今後の標準化活動について、長谷川氏は、標準化に携わる人材不足の問題を取り上げ、各企業の経営層に標準化活動の重要性を理解してもらうことが重要と説く。日本船舶技術研究協会は2007年度から最新の標準化動向を共有するためのセミナーを毎年開催しており、2013年度からは標準化人材の育成のための研修も行っている。加えて、長年にわたって標準化に取り組んできた企業や個人に対して感謝状も贈呈している。「こうした活動を進めていったことで、研修やセミナーの受講者の中から、自社の事業戦略に国際規格を取り込んで、販路を広げようとする動きや、国際的なワーキンググループのコンビーナやプロジェクトリーダーに就任する人が増えてきています。」

 標準化活動で一番大事なことは人と人とのつながりだ。「国際幹事のサポートチームを務めている頃から、東京海洋大学の先生に議長を務めていただきました。私は東京海洋大学の前身である東京商船大学の出身で、その繋がりもあり、多くの先生方からサポートいただき、とても感謝しています。」航海計器メーカーとの長年の付合いの中で協力を得られたことや、作成した規格に適合した自社の製品を輸出することは自分たちにとっても利益になるという理解が広がったことも良かったという。
 「標準化に取り組むとき、一人でできることは限られているため、海外も含めて多くの人を味方に付けて推進することが一番の近道です。」

【略歴】
1996年4月~2005年3月 財団法人日本船舶標準協会
1996年4月~現在 船舶部門日本産業規格(JIS F)作成委員会の事務局
1996年4月~現在 ISO/TC 8(船舶及び海洋技術)等船舶関係ISO/IEC国際委員会の国内対策委員会の事務局
1996年4月~現在 ISO/TC 8 等船舶関係ISO/IEC国際委員会の日本エキスパート
1996年12月~2005年8月 ISO/TC 8/SC 6(航海及び操船)国際幹事サポートチーム
2005年4月~現在 一般財団法人日本船舶技術研究協会
2005年9月~2025年3月 ISO/TC 8/SC 6 国際幹事
2016年4月~現在 同会基準・規格グループ規格ユニット規格チームリーダー
2019年10月~現在 ISO/TC 8/WG 14(海事教育及び訓練)コンビーナサポートチーム
2021年6月~現在 ISO/TMB/TAG対応国内委員会委員(一般財団法人日本規格協会主催)
2022年4月~現在 同会基準・規格グループ規格ユニット長
2025年4月~現在 同会基準・規格グループ長代理

最終更新日:2026年1月8日