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令和7年度 産業標準化事業表彰 経済産業大臣表彰 受賞者インタビュー

経済産業大臣表彰(規格開発・認定・認証部門) 平井 亜紀子(ひらい あきこ)氏

国立研究開発法人産業技術総合研究所 研究戦略本部 知財・標準化推進部 総括企画主幹

POINT
 
○計量標準の専門性を生かし、約10年間で150件超のJIS制定・改正・廃止を審議、認定産業標準作成機関制度下でも迅速な規格制定を推進

○日本産業界の高い専門性と協調体制により、製造者とユーザーの双方が納得する高品質な規格を実現

○研究者としての知見・経験・思考で標準化活動に貢献、研究者の標準化活動を論文執筆と同等に評価する取組を推進


計量標準の専門性を活かし150件超のJIS審議を担当

 

 平井亜紀子氏は、旧 通商産業省工業技術院計量研究所(現 産業技術総合研究所)入所以来、一貫して長さ・幾何学量等の計量標準研究に従事してきた。計量標準は、産業や科学技術の基盤となる測定の正確性を保証する知的基盤だ。計量標準の維持・供給・開発を所掌する計量標準センターにおいて、ナノスケール標準研究グループ長として超精密長さ測定技術の開発、長さ標準研究グループ長として国家計量標準の整備・高度化を主導した。この専門性が認められ、前任者から日本工業標準調査会(現 日本産業標準調査会(JISC))機械要素技術専門委員会の委員を引き継ぎ、約10年間で150件を超えるJISの制定・改正・廃止の審議を担当した。
 2019年の産業標準化法改正により、JIS制定プロセスの迅速化を図るため、認定産業標準作成機関制度が創設された。この制度では、経済産業大臣の認定を受けた民間機関が作成したJIS案について、JISCの審議を経ずに制定することが可能となった。2023年に平井氏は日本規格協会内に設置された機械要素分野産業標準作成委員会の初代委員長に就任し、新制度を活用した効率的な規格制定プロセスの確立に尽力した。さらに、ISO/TC 172(光学及びフォトニクス)/SC 4(望遠鏡)のエキスパート及び国内審議団体分科会長として、日本の技術や産業界の意見を国際規格に反映させる活動にも従事している。2025年からは研究所の研究戦略本部知財・標準化推進部において、組織の標準化方針の企画立案と研究者の標準化活動の推進・支援を行っている。    

 


専門家の協調が生んだ円滑な標準化推進

 平井氏は約10年間の標準化活動を通じて大きな困難を感じたことはないと語る。その背景には、日本の産業界における高い専門性と成熟した協調体制があった。JISC 機械要素技術専門委員会では、各分野のエキスパートがそれぞれの専門知識を活かして意見を出し合い、互いの専門性を尊重しながら審議を進める文化が確立されていた。また、工業会からの依頼を受けて参画した光学ガラス分野のJIS作成委員会では、製造者とユーザー企業の間で理想的な協力関係が構築されていた。
 「ガラス製造者及びカメラメーカー等のユーザー企業など、多様な関係者が参画していましたが、対立することなく協調的な雰囲気の中で審議を進めることができました。」
 日本の光学産業は世界的に高い技術力を有しており、関係者全員が日本製品の優位性を国際的に示すという共通目標を持っていたことが、円滑な合意形成を可能にしたという。平井氏自身は研究者の立場から、現場の実態と学術的知見の橋渡し役を担い、関係者間の調整や取りまとめ作業等において重要な役割を果たした。こうした連携の下、世界に先駆けて日本が光学ガラスの屈折率測定方法等のJISを策定した。後にこれらのJISを基に、日本提案による国際規格が発行された。
 「製造現場における詳細な実態については、メーカー各社から情報提供いただく必要がありました。規定の重要度や数値の妥当性については、実務者の知見が不可欠です。他方で、学術文献の調査、理論計算、シミュレーション等により技術的根拠を明確化することが、私ができる貢献と考えました。」
 国際規格をJIS化する過程で技術的な問題を発見した際も、委員会メンバーの協力により速やかに解決策を見出すことができた。「対応国際規格の記述に不明確な箇所や技術的疑義が存在する場合がありましたが、各委員が知見を持ち寄ることで、国際規格の単純な翻訳にとどまらず、技術的妥当性を十分に検証した上で規格を制定できました。」
 発見した誤りについてはJISにおいて適切に修正するとともに、次回ISO規格改訂時への提案事項として記録し、国際標準の改善に貢献する予定である。


研究初期からの戦略的標準化が日本の産業競争力を強化

 平井氏は、標準化活動が研究成果の社会実装における有力なツールであると語る。「研究成果が社会で活用され、人々の生活向上に寄与することを実感できる機会の一つが標準化です。特に日本の優れた技術を国際標準として確立することは、産業競争力の源泉となります。」
 この認識の基に産業技術総合研究所では、研究者の標準化活動の評価を推進している。従来は、研究者の評価は論文数が中心だったが、規格開発への貢献も同等に評価する環境を構築中だという。これは、研究開発の初期段階から、標準化が研究成果の社会実装に有効かを検討することが必要だという認識からだ。実際に、国際標準提案時には適切なデータを示すことが各国を説得する上で極めて重要であり、研究初期からの準備が国際交渉の成否を左右する。
 「標準化が有効と判断した場合、研究計画立案時から、将来の標準化を見据えて必要なデータを体系的に収集することが肝要です。論文発表には最高のデータのみで十分な場合もありますが、標準化には例えば、環境条件による影響、長期安定性、再現性など、様々な条件下でのデータが必要となります。」
 先端技術分野においては、技術開発と同時に標準化を進めることで市場優位性を確保できる。新興分野では、先にルールを決めた側が市場を主導する傾向が顕著であり、技術やその分野の普及とともに日本企業が優位になれるようなルール作りが重要と平井氏は考えている。
 「国際標準化の場で、日本の高い技術力を正しく示すことのできるルール形成を支援することが、我が国の産業競争力強化に直結します。また、研究者にとって、標準化活動を通じたメーカーやユーザー企業との対話から現場のニーズや技術課題を把握でき、それが次の研究テーマの創出につながる好循環を生み出すことも期待できます。」


【略歴】
1997年4月~現在 通商産業省 計量研究所(現 国立研究開発法人産業技術総合研究所)
2003年6月~現在 校正事業者認定制度(JCSS)等技術委員会 長さ分科会 委員
2014年11月~2025年12月 日本工業標準調査会(現 日本産業標準調査会)機械要素技術専門委員会 臨時委員
2016年12月~2017年11月 JIS B 7071-2(光学ガラスの屈折率測定方法-第2部:Vブロック法)原案作成委員会 委員長
2018年4月~2019年3月 JIS B 7072-1(光学ガラスにおける屈折率の温度係数の測定方法―第1部:最小偏角法)及びJIS B 7072-2(光学ガラスにおける屈折率の温度係数の測定方法―第2部:干渉法)原案作成委員会 委員長
2020年4月~2025年3月 校正事業者認定制度(JCSS)等技術委員会 長さ分科会 主査
2020年7月~2025年3月 国際法定計量調査研究委員会 計量器作業委員会 委員
2021年1月~2021年8月 JIS B 7071-1(光学及びフォトニクス―光学ガラスの屈折率測定方法―第1部:最小偏角法)原案作成委員会 委員長
2023年4月~2023年12月 JIS B 7071-2(光学及びフォトニクス-光学ガラスの屈折率測定方法-第2部:Vブロック法)原案作成委員会 委員長
2023年10月~現在 一般社団法人日本規格協会 機械要素分野産業標準作成委員会 委員長
2024年1月~2024年8月 JIS R 3252(光学及びフォトニクス-光学材料及び部品-レーザ干渉法による光学ガラスの均質度の測定方法)原案作成委員会 委員長
2024年4月~現在 ISO/TC 172(光学及びフォトニクス)対応国内委員会 委員
2024年4月~現在 ISO/TC 172/SC 4(望遠鏡)エキスパート及び日本代表委員(Head of Delegation)
2025年4月~現在 産業技術総合研究所 研究戦略本部 知財・標準化推進部 総括企画主幹
2025年7月~現在 JIS B 7156(光学及びフォトニクス-ライフルスコープ-仕様)及びJIS B 7263-3(光学及びフォトニクス-望遠鏡試験方法-第3部:ライフルスコープ)原案作成委員会 委員長
2025年10月~現在 JIS B 7072-1(光学及びフォトニクス-光学ガラスにおける屈折率の温度係数の測定方法―第1部:最小偏角法)及びJIS B 7072-2(光学及びフォトニクス-光学ガラスにおける屈折率の温度係数の測定方法―第2部:干渉法)原案作成委員会 委員長

最終更新日:2026年1月20日