経済産業大臣表彰(規格開発・認定・認証部門) 三木 隆彦(みき たかひこ)氏
元 トヨタ自動車株式会社
電気自動車(EV)の充給電システムを標準化
三木隆彦氏は1983年にトヨタ自動車に入社し、EVの安全法規における国際審議などに携わった後、充給電システムの標準化を担う部署に異動となった。2009年当時、EVの充電システムはコンセントによる交流(AC)充電が主流だったが、直流(DC)による急速充電が導入され始め、国際規格を日本発で提案するプロジェクトが始動した。それらをきっかけに、三木氏は社外関係者と連携しながら国際標準化活動に携わるようになった。
2009年から2025年3月までは日本自動車研究所の電池充電標準化ワーキンググループ(WG)や傘下のサブワーキンググループ(SWG)の主査を務め、現在も同研究所の非接触給電のSWG等で主査を務めている。また、2015年から2024年までは日本自動車工業会の電動車部会充給電分科会の分科会長としても、標準化活動を牽引してきた。
これらの国内WGの意見を取りまとめ、電動車両・産業車両用の電力・エネルギー伝達システムや電池スワップシステムなど複数の国際委員会のプロジェクトリーダーとして日本発の規格を世界に提案し、国際会議の場で日本の意見の反映に尽力した。
ヨーロッパなど陸続きで国境のある国々では、国をまたいで自動車を運転することが一般的であり、1か国だけで標準化を進めたところで様々な面で問題が生じるのは明確だ。「誰でもどこでも安心してEVを使用するためには、世界共通の基準で充電できる環境が必要不可欠です。EVの普及と発展のために充給電システムの標準化が重要だと考えています。」
各国の背景を理解し、妥協点を見つける
従来の内燃機関(ガソリンエンジンやディーゼルエンジン)を動力源とする自動車の標準化は、自動車メーカーだけで完結する部分も多かった。しかし、EVの充給電システムの標準化においては、自動車メーカーだけでなく、充電器やインフラ関係のメーカーや団体など多種多様な業界との連携が必要となってくる。
「国際標準化活動においては、電機メーカーや電力会社など多様な業界の人が参加する国内分科会で、まずは日本国内の意見を取りまとめる難しさがありました。同じ自動車メーカーであっても、必ずしも意見が一致するとは限りません。そこで、分科会の議論に参加する際は、トヨタ自動車の社員としてではなく、主査としてニュートラルな立場で意見を聞き、判断するように心がけていました。」
さらに、国ごとに意見が異なる国際会議の場では、日本の意見を取り入れてもらうために、様々な調整が必要だった。「技術として何が正しいか、という議論であればシンプルですが、そこに各国の背景や事情が絡み合うと、なかなか意見が合いません。妥協点をどこに見出すか、参加国が納得できるポイントを探すことに腐心しました。」
過去には、日本発の提案がいいものであるという自信から、他の国の背景や事情の理解が足りず、規格統一に至らなかったケースもある。一方で、ワイヤレス電力装置の標準化においては、各国で違うシステムがあり難航したものの、どのシステムを使っても充電できるような新たな規格を作るという着地点を見つけることができた。
国際会議の場では、それぞれの国の参加者の発言内容を英語で聞き取りながら、自分の意見も英語で伝える必要がある。「私は決して最初から英語が流暢だったわけではありませんが、海外赴任経験があったため、下手な英語を話すことに羞恥心はありませんでした。日本人は英語に苦手意識がある人が多く、なかなか会議で発言できません。国際会議の場では自分の意見を明確に表明し、議論に参加することが大事です。」
国際標準化活動で視野と人脈が広がる
当初はコネクターを差し込んで充電するコンダクティブ充電方式だけだったが、非接触のワイヤレス充電方式が生まれるなど、三木氏が充給電システムの標準化に携わった15年超の間に、EVや充電方式を取り巻く環境は大きく進化を遂げてきた。EVは今や移動手段だけでなく、エネルギー貯蔵装置でもあり、非常時の分散型電源としての活用にも注目が集まっている。
「EVの進化とともに充給電システムのバリエーションが増えていく過程で標準化活動に携わることは、難しかったものの、大きなやりがいもありました。世界を相手にきちんと発言ができるように、勉強もしました。」
標準化への取組において、かつては自動車メーカーの中でも温度差があり、全社が優先度を上げて取り組んでいたわけではなかった。業界内での関心を高めていく難しさがあったものの、EVの普及に伴い、各メーカーの関心度は高まっていったという。
「業界全体で、今後さらに標準化に力を入れていくことが必要です。すでにEVの業界では世界をリードしている国がある中で、日本が置いていかれないためにも、多様化するEVの充給電システムにおいて、総合的に何が必要か、国としての指針を示していただくことも必要です。今後は官民の連携がさらに必要になっていくでしょう。」
そして、今後は若い世代にも標準化活動に積極的に参加してほしいと呼びかける。「日本の他業界や違う国の人たちと意見を交わすと、異なる立場にある人たちの事情が見えてきて、視野も人脈も広がります。日本の現状と改善すべき点について身を持って知ることができることは得難い経験です。ぜひ国際標準化活動に参加して、自身の視野を大きく広げてほしいと思います。」
| 1983年4月~2024年6月 | トヨタ自動車株式会社 |
| 1999年4月~2025年4月 | 同社 EV開発部 |
| 2009年9月~2025年3月 | 一般財団法人日本自動車研究所 電池充電標準化WG 主査 |
| 2009年9月~現在 | 同所 コンダクティブ充電SWG 主査 |
| 2011年9月~2015年10月 | ISO/TC 22(自動車)/SC 37(電気自動車)/WG 1(安全、電力伝送)/PT 17409(充電時車両側安全要件)プロジェクトリーダー |
| 2014年4月~2020年3月 | ISO/TC 22/SC 37/WG 1/PT 19363(非接触給電の安全・互換性要件)共同プロジェクトリーダー |
| 2015年4月~2024年3月 | 一般社団法人日本自動車工業会 電動車部会 充給電分科会 分科会長 |
| 2016年4月~現在 | 一般社団法人日本自動車研究所 非接触給電SWG 主査 |
| 2016年10月~現在 | IEC/TC 69(電動道路車両・産業車両用の電力/エネルギー伝達システム)/WG 7(非接触給電システム)国際コンビーナ |
| 2020年11月~現在 | ISO/TC 22/SC 37/WG 5(電力伝送)/PT 5474-1(充電時車両側安全要件)国際プロジェクトリーダー |
| 2023年4月~現在 | 一般社団法人日本自動車研究所 充給電分科会 分科会長 |
| 2024年1月~現在 | 同所 電池スワップシステム標準化タスクフォース 主査 |
| 2024年7月~現在 | チャデモ協議会より業務委託を受けEV充給電関連業務継続 |
| 2024年11月~現在 | ISO/TC 22/SC 37/WG 8(電池スワップシステム)/PT 25656(電池スワップシステムユースケース)共同国際プロジェクトリーダー |
最終更新日:2026年2月13日