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令和7年度 産業標準化事業表彰 経済産業大臣表彰 受賞者インタビュー

経済産業大臣表彰(規格開発・認定・認証部門) 山﨑 聡(やまさき さとし)氏

三井化学株式会社 新事業開発センター 細胞培養ソリューション室 室長

POINT
 
○水銀化合物を用いたウレタン原料のISO規格を水銀法からヨウ素法へ変更することで環境負荷を低減。通常4~5年かかるISO規格の制定を約1年短縮して実現

○技術的根拠の明確化と実用性の両立を重視し、対面でのコミュニケーションにより建設的な議論を展開

○諸外国の積極的な標準化提案に対して、日本も攻めの姿勢で若手の育成と組織的な取組を強化する必要がある


研究者の視点で国際標準化を牽引、環境負荷低減と日本技術の国際展開に貢献

 

 山﨑聡氏は、ISO/TC 61(プラスチック)/SC 12(熱硬化性樹脂材料)の国際議長として、2016年1月から2024年12月までの約9年間にわたり、熱硬化性樹脂材料に関するISO規格の制定・改訂を主導してきた。三井化学に入社してから一貫してポリウレタンの研究開発に従事し、その深い技術的知見を国際標準化の舞台で活かしてきた。
 山﨑氏の功績の中でも特筆すべきは、水銀化合物を用いたウレタン原料のISO規格の見直しである。ポリエーテルポリオール中の不飽和度を測定する従来の水銀法は、環境負荷の大きさから早急な対策が求められていた。しかし、既存の規格を利用する国や企業にとっては、変更に伴うコスト増や設備更新が負担となるため、合意形成は容易ではない。山﨑氏は各国のコンビーナに対して粘り強く説明を重ね、多くのエキスパートの合意を取り付けることで、通常は4~5年ほど要するISO規格の制定を約1年短縮して実現した。
 この水銀法からヨウ素法への転換は、環境負荷を低減しながら精度の高い測定を可能にし、自動車の軽量化と乗り心地を両立させるウレタンフォームの更なる品質向上へとつながった。また、水銀関連以外の規格においても各国と円滑に協議を進め、計11件のISO規格を制定・改訂した。これにより、日本企業を含む各社の自社材料が国際展開しやすい環境となり、国際市場の獲得に大きく貢献している。
 そして、これら標準化活動の功績により、2025年11月にはISO/TC 61で功績があった方に贈られるISO/TC 61マクファーレン賞を受賞した。    

 
 
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山﨑氏が受賞したISO/TC 61マクファーレン賞の表彰状
写真提供:山﨑 聡氏


環境意識の高まりを追い風に「膝詰め議論」で円滑な合意形成を実現

 化学分野において、企業出身者が国際議長を務めることは珍しいと山﨑氏は語る。従来、アカデミアや官庁出身者がその役割を担うことが多く、さらに山﨑氏はエキスパートとしての経験がないまま議長に就任するという異例のスタートだった。しかし、11件ものISO規格制定・改訂を進める中で、大きな困難を感じることはなかったという。
 「全員が積極的に意見を出し合い、同じ方向を向いて進むことができました。停滞することなく、非常にスムーズに議論が進んだという印象です。プラスチック業界全体で環境負荷低減への意識が高まっていたこともあり、製品の性能向上と製造プロセスの環境配慮という両輪を満たすことが、株主、顧客、官庁を含む全てのステークホルダーから求められる時代であったことも大きかったです。」 
 水銀法からヨウ素法への転換という「環境対応」の方向性が明確であったため、各国のエキスパートが共通の目標に向かって建設的な議論を展開することができた。成功の鍵は、対面でのコミュニケーションだ。「国際会議では、会議終了後のロビーなどでも議論を継続しました。「こうすれば代替案になるのではないか」といった方針を話し合い、提案者にフィードバックして再提案を仰ぐ。これを繰り返し、全員が納得できる落としどころを探りました。」
 そして、山﨑氏が特に重視したことは、技術的根拠の明確化と実用性の両立である。「大学には理想的な分析装置が揃っていますが、全ての企業がそれを導入できるわけではありません。グローバルスタンダードとして機能するためには、先進国だけでなく、発展途上国の現場でも適用できる規格でなければならないと考えています。」
 近年、ISO規格の開発には産業界からの参加者が増え、規格づくりも「理想論」から「実用重視」のフェーズへと移行しつつある。そのため、日本で長年研究開発に携わってきた山﨑氏の経験は、技術的根拠を明確に示しながら各国の専門家を説得する武器となったという。


新興領域で「ルールメイキング」を実践、若手とともに日本発技術の国際標準化へ

 現在、山﨑氏はバイオメディカル領域の細胞培養ソリューション室長として、研究開発段階からの標準化活動に参画している。この新興領域ではまだISO規格が少なく、まさに標準化を念頭にルールメイキングする絶好の機会だからだ。素材特性・加工技術・細胞機能評価を統合した標準案を提案し、日本発の技術を世界標準にすることで市場形成を先導する役割を果たすことが狙いだという。
 「研究職時代は『規格は従うべきもの』という意識でした。しかし、標準化に携わった上で事業開発の立場になったことで、ルールメイキングの重要性が身に染みて分かりました。特に、自社製品をルールに組み込んでいかなければ、グローバルでの製品展開は難しいと実感しています。」
 さらに、山﨑氏は現在、事業開発部署の若手社員を国内委員として標準化活動に参画させている。「事業開発をメインに、グローバル展開の戦略として標準化活動を位置づけています。そこでは、研究者としてではなく、事業化を目指す製品の企画段階からルールメイキングに取り組んでもらいます。標準化活動を『専門家だけの活動』から『企業戦略の一部』へと浸透させたいからです。」
 今では、経営層の理解も進んでいるという。標準化を「ビジネスにつなげるルールメイキング」として後押しを受けており、会社としてもイノベーションにつなげるという目的の下、戦略として標準化がマッチするのであれば支援するというスタンスだ。三井化学では、山﨑氏以外にも他のTCにおいて新興領域で日本提案の技術を国際規格にすべく活動しているメンバーがいるという。
 「標準化は『守りの品質保証』から『攻めの市場創出』へと進化しています。ルールメイキングの進め方が上手い国や、積極的に国際会議で提案を行う国もあります。ルールメイキングに関心をお持ちの方には、研究者・技術者に限らずぜひチャレンジしていただきたいと思います。」


【略歴】
1990年4月~現在 三井東圧化学株式会社(現 三井化学株式会社)
1990年4月~1992年8月 同社 名古屋研究所ウレタングループ 研究員
1992年9月~1994年3月 京都大学 生体医療工学センター 研究員
1994年4月~1997年3月 同社 名古屋研究所ウレタングループ 研究員
1997年4月~2001年3月 三井化学株式会社 化成品研究所ウレタングループ チームリーダー
2001年4月~2006年3月 三井武田ケミカル株式会社研究所 チームリーダー
2006年4月~2009年3月 三井化学ポリウレタン株式会社研究所 チームリーダー
2009年4月~2013年3月

三井化学株式会社 機能材料事業本部開発センター素材開発部 研究主幹

2013年4月~2014年3月 同社 合成化学品研究所 リサーチフェロー
2014年4月~2018年3月 同研究所 特殊ポリウレタン材料開発グループ グループリーダー、リサーチフェロー
2016年1月~2024年12月 ISO/TC 61(プラスチック)/SC 12(熱硬化性樹脂材料)国際議長
2018年4月~2019年3月 九州大学 先導物質化学研究所 客員教授
2018年4月~2019年8月 同社 コーティング・機能材事業部ウレタン開発グループ グループリーダー
2019年5月~現在 般社団法人日本ゴム協会 理事
2025年1月~現在 ISO/TC 61/SC 12/WG 6(ポリウレタン原料)エキスパート

最終更新日:2026年1月27日