経済産業大臣表彰(標準化・ルール形成戦略部門) 土肥 正男(どひ まさお)氏
製造現場の安全を確保し新市場を創造
土肥正男氏は、制御機器の製造・販売を手掛けるIDEC(旧 和泉電気)に新卒で入社し、研究開発に携わってきた。2010年に国際標準化戦略を立案・推進する部署に異動となり、主に協調安全の分野で規格作成をけん引した。協調安全とは、人と機械、環境が情報を共有し協調しながら安全を構築するという日本発の概念だ。
土肥氏はIEC(国際電気標準会議)/ACOS(安全諮問委員会)の日本代表委員としてIECガイドの作成を提案、ガイド開発タスクフォースのプロジェクトリーダーを務めた。また、IEC/MSB(市場戦略評議会)のプロジェクトマネージャーとしてIEC白書「Safety in the future」の作成も主導し、協調安全に関する国際標準化を加速化させた。
さらに、ロボットに設置される制御装置の「3ポジションイネーブルスイッチ」について規定する国際規格が、IEC 60947-5-8として、日本主導で世界に先駆けて開発された。3ポジションイネーブルスイッチは、ロボットの教示装置に設置される制御装置で、ロボットが万一誤動作や暴走した場合でも、作業者の安心・安全を確保するために非常に重要なものである。土肥氏は、この3ポジションイネーブルスイッチ(IEC 60947-5-8)を産業用ロボットのISO規格(ISO 10218-1)に引用することにより、産業用ロボットの教示装置に3ポジションイネーブルスイッチを必須化することに繋げ、新市場を創造することに貢献した。現在、世界でIDECの3ポジションイネーブルスイッチがシェア9割を占めている。

2024年5月、デンマーク・コペンハーゲンでACOS会議と併催された
ACOSワークショップ「Future Aspects of Safety」において
プレゼンテーションを行う土肥氏(写真奥)
画像提供:土肥 正男氏
その他、土肥氏はISO/TC 281(ファインバブル技術)においても、ワーキンググループ(WG)の日本代表委員として2017年に第1号規格を制定した。2025年12月末時点で37件の国際規格が作成されており、うち25件が日本発である。日本がリードしてファインバブルの産業を創成しているといえる。
「協調安全でもファインバブルでも、新しい市場を創造できたことが非常に意義のあることだと思っています。日本が世界に先駆けて規格を作成することで先行者利益が得られ、グローバル市場を主導していくことができます。」と標準化の意義を語る。
規格の重要性を丁寧に説明し理解を得る
協調安全の国際標準化を進めるにあたって、土肥氏は多くの関係者の視点を取り入れつつ、多面的な活動を心がけてきた。「令和6年度に産業標準化事業表彰 内閣総理大臣表彰を受賞された堤 和彦氏(元 三菱電機特任技術顧問)や元ソニーの江崎 正氏からも貴重なアドバイスをいただき、大変お世話になりました。新しい概念を標準化する際には多面的に取り組むことが重要です。」
苦労したことは、世の中にまだない概念の必要性を各国の関係者たちに理解してもらうことだった。安全諮問委員会では年に一度、参加国の関係者が集まり会議を開いている。土肥氏はこの場を活用して、まずは2018年に協調安全に関するガイドのコンセプトや重要性についてプレゼンを行った。しかし、その当時の参加者の反応は薄く、2019年にも同様の場でガイドの重要性を説明した。翌2020年にガイドの草案を提示することで、ようやくタスクフォースが立ち上がった。「関係者に理解してもらい気運を高めることは時間がかかります。粘り強く進めていくことが大事です。」と話す。
一方、ファインバブル技術を扱うISO/TC 281は、2013年に日本の提案により立ち上がったものだ。「日本発でTCが立ち上がることは珍しいケースです。幹事国になることで標準化をリードしていけます。」と強調する。しかし、ファインバブルの技術は、今ではシャワーヘッドや洗濯機、ジェットバスや医療機器など幅広い分野で使われているが、当時はまだ広く知られていなかった。「新しい市場のため、ここでもまずは前提を理解してもらうことが難しかったです。口頭でただ伝えるのではなく、わかりやすく資料にまとめて、会議の場などで説明する時間をもらいました。そうして繰り返し丁寧に説明することで、少しずつ理解を得られていきました。」
焦らずじっくり標準化に取り組んでほしい
協調安全は、製造業だけでなく土木、建築、医療、介護、物流、交通インフラ、農業、住宅など幅広い分野で使える考え方だ。「IECは主として電気工学や電子工学関連の技術を扱うため、もっと広い産業で標準化できるよう、将来的にはISOの規格作成にも広げていきたい。」と今後の展望を語る。さらに、国内の人口減少により、工場の自動化のニーズは今後ますます高まっていくと考えられる。「とにかく働く人の安全が一番大事です。新しい技術を取り入れる際には協調安全の概念が必ず必要になります。もっとこの考え方が広がっていけばいいなと思っています。」
初めて協調安全のコンセプトについてプレゼンを行った2018年から、これまでに7年以上かけて土肥氏は地道に活動を続けてきた。2020年11月に協調安全に関するIEC白書が完成し、2026年初旬には「IEC Guide127」の発行が予定されている。「自分が提案したガイドや規格が発行され世界中で使われることは非常に達成感があり、大きなやりがいを感じています。」
今回の経済産業大臣表彰の表彰式の模様は、IDECの社内のイントラネットでも流された。「表彰式を見た同僚数人からメールをもらいました。IDECの社内での認知度アップにも貢献できたのではないかと思っています。」そして、これから標準化に取り組む人たちに向けて、「標準化の活動は時間がかかるものです。焦らず、途中で諦めることなく、コツコツ取り組んでほしいと思います。」とメッセージを送る。
| 1988年4月~現在 | IDEC株式会社(旧 和泉電気株式会社) |
| 2003年4月~2006年3月 | ISO/TC 299(ロボティクス)/WG 3(産業用ロボットの安全)(旧 ISO/TC 184(オートメーションシステム及びインテグレーション)/SC 2(ロボットとロボティクスデバイス)/WG 3(産業ロボットの安全性))日本代表委員 |
| 2010年4月~現在 | 同社 技術戦略本部国際標準化部門部門長 |
| 2010年4月~現在 | ISO/TC 199(機械類の安全性)国内部会委員 |
| 2010年4月~現在 | IEC/TC 44(機械類の安全性―電気的側面)国内部会委員 |
| 2010年4月~2017年3月 | 一般社団法人日本電気制御技術工業会 技術委員会委員 |
| 2010年11月~現在 | IEC/SC 121A(低圧開閉装置及び制御装置)/WG 3(制御スイッチ)(旧 SC 17B/WG 3)日本代表委員 |
| 2012年4月~2016年4月 | IEC/SC 121A&SC 121B(低圧開閉装置及び制御装置組立品)(旧 SC 17B&D)合同国内委員会委員長 |
| 2013年12月~2016年6月 | ISO/TC 281(ファインバブル技術)/WG 1(用語を含む一般原則)日本代表委員 |
| 2017年12月~現在 | IEC/ACOS(安全諮問委員会)国内分科会分科会長 |
| 2017年12月~現在 | IEC/ACOS日本代表委員 |
| 2019年4月~現在 | 一般社団法人日本電気制御技術工業会 制御安全委員会副委員長 |
| 2019年4月~現在 | 一般社団法人セーフティグローバル推進機構 協調安全に関する国際標準化委員会委員 |
| 2019年10月~2020年10月 | IEC/MSB(市場戦略評議会)IEC白書「Safety in the future」プロジェクトマネージャー |
| 2020年3月~現在 | IEC/ACOS 協調安全に関するガイド開発タスクフォース プロジェクトリーダー |
最終更新日:2026年2月9日