
2025/08/08
2025年7月15日(火)、国内の生成AI開発を推進する「GENIAC」プロジェクトに採択された生成AI開発企業や研究機関を招いた第3期キックオフイベントを東京・大崎で開催しました。本記事では、計算資源の提供支援事業に採択された事業者のコメントと、データ・生成AIの利活用にかかる実証調査事業に採択された事業者のコメントをご紹介します。
日本発・生成AIエコシステムの確立へ
GENIAC第3期が始動

イベント冒頭では、経済産業省の渡辺 琢也が、2024年2月に始動したGENIACのこれまでの歩みと、計算資源・データ・ナレッジの提供支援の概要について説明しました。さらに、第3期となる計算資源の調達支援に加え、第2期となるデータ利活用の実証事業や、総額8億円の懸賞金を提供するAIアプリコンテスト「GENIAC PRIZE」についても紹介し、今後の社会実装への期待を述べました。
「生成AIがもたらす変革は、ソフトウェアの在り方を根本から変え、データそのものが価値を生む時代を切り開いています。こうした中で、日本がAIを活用するだけでなく、開発力そのものを高めていくことが不可欠です。GENIACプログラムでは、多様な基盤モデルの開発支援を軸に、計算資源の提供、信頼性のあるデータ流通の仕組みづくり、国内外のネットワーク形成を進めています。第3期では社会実装に重点を置き、製造、行政、医療など幅広い分野での具体的なAI活用が期待されています。今後は、技術革新と経済効果の両立を目指した政策を継続し、AGI時代に向けたフロンティアAIの開発や、アジア太平洋地域を含む国際展開も視野に入れながら、日本発の生成AIエコシステムの確立を目指していきます」(渡辺)
社会実装を加速させる
GENIAC第3期採択事業者によるプレゼンテーション
株式会社ABEJA


「GENIAC第3期の目標は、企業のミッションクリティカル業務に対応する自律型AIエージェントの実装です。第1・2期で培った日本語LLM(大規模言語モデル)の独自開発をベースに、プランニング、Tool Use、ロングコンテキスト性能という三つの軸を強化し、企業の重要業務領域での実証につなげる計画です」(服部氏)
株式会社野村総合研究所


「さまざまな業界やタスクに特化した中規模(10B~40B)LLMを構築できる仕組みを開発します。複数のオープンLLMを学習元のモデルとして採用し、特定のモデルに依存しない仕組みを目指します。題材としては証券・保険などの金融分野を対象として検証し、営業会話のコンプライアンス判定や文書校正など複数のタスクで汎用の商用モデルを超える性能を目指します」(岡田氏)
ONESTRUCTION株式会社


「国際標準であるBIM情報要件(IDS)の生成を支援する基盤モデルを開発中です。建築物の属性情報を機械可読な形式で定義し、設計や維持管理の効率化を図ります。これまで専門知識が必要だったIDS作成を対話型AIで支援し、国際規格を中小企業でも扱える技術へと民主化していきます。実証では既存プロジェクトを活用し、標準準拠・実用性・非専門家対応の観点から有効性を検証します」(日高氏)
Zen Intelligence株式会社


「建築現場の施工管理を自動化する基盤モデルの開発を進めています。現場の三次元空間データや意味情報を時系列で統合したマルチモーダルデータセットを構築し、現場監督と同等の判断力を持つ最大7BのVision-Language Modelの構築を目指しています。本事業で得られた成果は、新人現場監督の“Copilot”として自社事業で展開するほか、モデル構築のノウハウも公開予定です」(野﨑氏)
Degas株式会社


「衛星観測データとLLMを統合した視覚言語モデル(VLM)を開発しています。洪水被害の把握、建物検出、衛星画像の説明文生成などに対応し、国連UN-SPIDERと連携した災害レポート支援の実証も予定しています。すでに独自開発した地理空間基盤モデル(LGM)は農業・防災・不動産分野に展開され、本事業の成果の一部も公開予定です。リモートセンシング技術の民主化と実用性向上を目指します」(中山氏)
AI inside株式会社


「日本語による自然な音声対話を実現するため、マルチモーダルLLMの開発を進めています。音声・画像・テキストを統合的に扱い、当社が掲げる “Work with Buddy” の思想に基づいた、現実業務に寄り添うAIエージェントの実現を目指しています。高速な推論処理に加え、自然な間合いや相づち、文脈の継続理解にも対応。人間らしい対話を評価する指標『Full-Duplex-Bench』のクリアを目標としています。また、自社サービスでの実証も進め、業務支援やカスタマーサポートの質的向上に貢献していく考えです」(井上氏)
カラクリ株式会社


「GENIAC第2期で開発したGUI操作や文書読解に強いComputer Using Agentの成果を生かし、第3期では音声対応を加えたオムニモーダルエージェントの構築を目指します。電話中心の現場でストレスの多いカスタマーサポート業務を支えるAIを開発し、日本特有の高い品質にも対応できるモデルによって、現場の人々をエンパワーする世界最高水準のサポートAIに挑みます」(中山氏)
Direava株式会社


「手術中の状況判断を支援する、外科手術特化型マルチモーダルLLMを開発中です。画像と日本語による外科専門データを統合し、術式や解剖構造の認識に加え、臨床的意義のある説明文の自動生成にも対応します。若手医師の教育や手術支援を目的として、実臨床での検証も予定しています。高度な外科知見をAIに学習させることで、日本の医療技術をグローバルに展開する礎を築いていきます」(竹内氏)
株式会社プレシジョン


「医師でありAI研究者でもある立場から、医療分野に特化したLLMを開発しています。過酷な勤務環境や医療ミスのリスクといった課題解決を目指し、音声認識による診察記録支援やエビデンス付きの知識提示が可能なモデルを構築します。日本最大級の医療系コーパスによる追加学習やオンプレミス対応を進め、医療の『記録・調査・整理・経営』を支援することで人手依存型医療の構造的課題に挑戦します」(佐藤氏)
株式会社AIdeaLab


「アニメ制作現場の課題を解決する動画生成AIモデルを開発中です。第3期では、時空間分離型のMoEアーキテクチャを採用し、激しい動きや複雑な表現にも対応できる高品質な生成を実現するため小規模モデルと大規模モデルの両方を構築します。開発モデルは自社プラットフォーム『AnimeGen』に実装し、SoraやNiji Videoを上回る性能とユーザー満足度の検証を行います」(冨平氏)
NABLAS株式会社


「ファクトチェックに特化した報酬モデル『Factcheck Reward Modeling(FRM)』と、それを活用するAIエージェントの開発に取り組んでいます。ディープフェイクやハルシネーションを自動検出し、信頼性の高い情報源に基づいた調査レポートを生成します。報道現場での活用を想定した実証も予定しており、将来的にはAPI連携によるモジュール提供も視野に入れています」(鈴木氏)
SDio株式会社


「長時間かつ多ストリームの映像を文脈的に理解するAI基盤モデルを開発中です。映像・音声・テキストを統合し、圧縮メモリと階層推論を用いることで、これまで困難だった『ストーリー全体』の把握と因果関係の深層理解を低コストで実現します。メディア、製造、小売など幅広い産業への展開を視野に、映像AIの限界を超える統合アーキテクチャの構築に挑戦しています」(カイ氏)
楽天グループ株式会社


「日本語と日本文化に最適化された独自LLMの研究開発を進めています。従来のTransformer型LLMが抱える高コストや長文処理の限界を克服するため、『Factorization Memory』を採用した次世代モデルを構築しています。長期記憶と対話型学習の融合により、楽天エコシステム全体におけるAIエージェントの展開を視野に入れています」(平手氏)
株式会社Kotoba Technologies Japan


「日本語音声の生成・書き起こし・同時通訳に特化した基盤モデルを開発中です。GENIAC第3期では、7カ国語対応のリアルタイム音声モデルの構築を継続し、合成データを活用した大規模学習に挑戦しています。iOSアプリによる実証も進めており、オフライン動作やエッジ展開も視野に入れています。探索的研究から実用フェーズへ移行し、音声AIで世界を驚かせることを目指します」(小島氏)
イベントレポートの後半はこちらをご覧ください。
GENIAC第3期のキックオフイベントが開催されました!【後編】
最終更新日:2025年8月29日