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- 企業訪問インタビュー:JXTGエネルギー株式会社 川崎製油所
2018年3月13日、日本で初めてのスーパー認定事業者であるJXTGエネルギー株式会社川崎製油所を訪問し、藤井文人所長はじめ、日頃運営管理に携わっておられる皆様からお話を伺いました。川崎製油所は、東京都の羽田空港から多摩川河口を挟んだ向かい側、京浜臨海工業地帯の川崎浮島地区にあり、大消費地を背後に控え陸上および海上輸送の便に恵まれています。川崎製油所は我が国最大級の石油精製能力を持ち、日本最大の流動接触分解装置(FCC)や、日本唯一の重質油水素化脱硫分解装置(H-Oil)などを有した先進の石油精製プラントです。また東燃化学川崎製造所のエチレン製造装置とは、同一敷地内で有機的に結ばれ、製品の相互融通、設備の共用により石油化学プラントと一体運営されています。
――改めて川崎製油所の製品概要を教えてください。
原料となる原油は、中東などの国からタンカーで運ばれ、沖合3kmにある桟橋で陸揚げされて配管を通して敷地内にあるタンクに貯蔵されます。それを常圧蒸留装置に送って、沸点の差を利用してプロパンやブタンなどのガス、ナフサ、灯油分、軽油分、塔底油分に分溜します。ナフサからはベンゼンその他の石油化学原料とガソリンが、また灯油分からは灯油だけでなくジェット燃料油なども製造されます。塔底油分についてはさらに減圧蒸留装置にかけて軽質油と重油、アスファルトなどを分離します。プラント全体として見ると、石油精製と石油化学の一体運営で合理的な製品製造の仕組みを持っています。従来から省エネルギー活動において業界をリードする先進的な取り組みを実施し、業界平均を上回る実績を残しています。
――事業を進める中で、御社がスーパー認定取得を目指した経緯はどのようなものだったのでしょうか。
元々当社ではSOMS (Safe Operations Management System、操業管理システム)を重視し、長期的視野のもと、継続的に安全、保安、産業衛生、環境分野の改善活動に取り組んできました。SOMSではいわゆるPDCAサイクル(P:プラン、D:実行、C:チェック、A:アクション)を回すことによって改善を進めています。当社では12の要素(エレメント)に分けて細かく計画や評価を行っています。またそのために所長を委員長とするSOMS委員会を設け、評価指標の設定・検証・評価を行って来ました。このような中で、昨年4月に今までの認定事業所の上にスーパー認定事業所を新設するという話をお聞きし、当社としてはぜひ認定取得にチャレンジしたいと考えるに至りました。
――SOMSについてもう少し具体的にお話しいただけますか。
一つの工程・作業を行うにもいろいろな要素が絡み合っていて、そのどこかに不良・不備があると事故につながります。これを説明するのに、我々はよくスイスチーズモデルというものを用います(図1)。
スイスチーズはご覧のように穴がいっぱい空いています。チーズの1枚1枚がそれぞれ、作業を行う際に事故を防ぐために必要な設備、管理、人の側面におけるバリアーを表すとしますと、いろいろな側面で不備や不良など、事故へ通じる「穴」、つまり欠陥が存在します。そして、それらが重なりあった時に事故が発生するのです。実際の例として、設備の設計不適と更新の遅れ、管理におけるシフト申し送りの不徹底、ヒューマンファクターとして手順逸脱の常態化といった事象が重なって事故につながった例がありました。SOMSを実行することでこうしたすべての側面から操業管理の仕組みとその実効性について体系的、かつ継続的にチェックや改善に取り組むことが可能になります。
――保安管理システムの継続的改善の重要性がよく分かりました。スーパー認定事業者として認められるには、認定事業者に比べてさらに高度なリスクアセスメントの実施や、IoT、ビッグデータ等の新技術の導入が必要とされています。御社ではこうした点については、どのような取り組みがなされたのでしょうか。
まず高度なリスクアセスメントについては、リスクベースト・アプローチ(注)をベースに一層高度な自主保安体制を確立しています。また、IoT,ビックデータ等の活用については、施設・設備面と運用・管理面に分け、さらに3つのレベル、1.データ収集、2.分析・予測、3.『気づき』を与えミスを防ぐ、の観点から、それぞれの場面に対応して適切な技術の導入を行っています。
(注) 事故を防止するために、リスクの大きさを様々な手法を用いて見積り評価(リスクアセスメント)し、その結果に基づき優先順位を付けて安全対策等を計画的に実施していく考え方。
――IoT、ビッグデータ活用の中で、測定器などハードウェアの新技術をいくつかご紹介いただけませんか。
まず一つ目は「インテラトラック」と呼ばれるデータ端末です(図2)。これはスマートフォン型の携帯端末で、日常点検において、点検ルートの指示、点検結果の入力を行い、PCに集約、データベース化ができます。最近では搭載のカメラで写真や映像を撮影できるなど、改良が加えられています。また可視化ソフトを用いて長期トレンドを一望し、変化の検知や予測を行うことができるようにしています。
もう一つは「スマートエルダー」と呼ばれるガス検知用のカメラです(図3)。これはハイドロカーボンが写る赤外線カメラで、ガス漏れ検知に有効です。例えば火をつけていないライターからの小さなガス噴出でも黒い影として写ります。ガス漏えい個所の発見や特定に効果があります。
――なるほど、適切な新規デバイスの選定・導入が重要ですね。それではソフトウェア的な手法として新しく導入されたものはありますか?
「異常検知及びオペレーターガイダンスツール」があります(図4)。製油所内のデータベース上に蓄積されている膨大なデータや制御データ(ビッグデータ)を基に異常を検知または予測するもので、異常と判断した場合はアラートを出して運転員に知らせ、取るべきアクションのアドバイスを行います。運転員のミスを防ぎ、知識や機能を伝承する上で非常に有効ですが、まだまだ継続的な改善が必要な分野です。
――現状でもベテラン運転員の匠の技の伝承だけでなく、初級運転員の教育などにも役立ちそうですね。
そうです、実際に我々はコンソール運転員の教育訓練シミュレーターをテーラーメードし、仮想的なプラントに対して異常が起きた際の原因把握や対処法についての訓練を実施しています。
――御社の保安管理システムの継続的な改善への熱意と努力、そして成果がよく分かりました。本日は長時間にわたり丁寧なご説明をありがとうございました。
※インタビューの後、制御・監視室、インテラトラックの実機、スマートエルダーの実機、
教育訓練シミュレーターなどを見させていただきましたので、その写真を以下に掲載します。