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- 企業訪問インタビュー:JXTGエネルギー株式会社 堺製油所
2018年3月15日、前月の2月23日付けで日本で二番目のスーパー認定事業者を取得したJXTGエネルギー株式会社堺製油所を訪問し、内野一人所長始め日頃管理運営に携わっておられる皆様からお話を伺いました。堺製油所は西日本の大消費地である大阪府に展開する堺・泉北臨海工業地帯に位置し、石油精製に加えて、パラキシレンやプロピレンなど石油化学製品の生産も行う一体工場で、生産におけるエネルギー効率は日本トップクラスを誇るとのことです。また水路を挟んだ向い側には古くからの住宅が立ち並ぶ浜寺地区があり、石油精製プラントとして地域環境との調和にも配慮した生産活動を行っています。
――事業の概要をご説明ください。
一番目のスーパー認定事業者であるJXTGエネルギー川崎製油所と、当所も製品製造の過程は基本的に類似しております。タンカーで運び込まれた原油を常圧蒸留装置でナフサ、灯油、軽油等を分留し、さらに残油から減圧蒸留装置を用いて重油を取り出しています。ナフサからはガソリンのほか、ベンゼン、トルエン、パラキシレン等の石油化学製品を製造しています。
――堺製油所の特徴としてはどのようなことが挙げられますか。
堺製油所は、1965年(昭和40年)に、当時としては画期的な完全熱集約型の製油所として完成しました。これにより、すべての装置がパイプラインで直接つながれ原料を冷やすことなく次の工程に送る仕組みになっています。また、現在ではコ・ジェネレーション設備を導入して、エネルギーの有効利用を図っています。これは製油所で発生する副生ガスを利用して発電用のガスタービンを駆動し、堺製油所で必要な電力をすべて賄うものです。
また、もう一つの特徴と言えるのは、近い将来発生すると言われている南海トラフ地震とそれに伴う津波に対応するために、津波からの避難および津波後の早期出荷再開に向けて、避難場所兼予備品保管用の「高床式倉庫」や、「防災センター」を建設していることです。敷地自体に対しても、タンク敷地の外側に止水壁を設け、地下水位を下げるなど大規模地震時の液状化対策を実施しています。
――非常に重要な取り組みですね。それではスーパー認定事業者の認定を受けられることになった経緯や、認定において特に評価された点についてお聞かせください。
当所は地域環境との調和とともに防災や安全にも配慮した生産活動を行ってきました。しかしながら、2011年の所内で発生した溶融硫黄の漏えい事故を契機に再発防止のための全所を挙げての「安全文化醸成活動」をスタートすることにしました。スーパー認定事業者へのアプローチはこうした活動の総仕上げの意味もあると思います。当局による認定審査では川崎製油所と同様の操業管理システム(SOMS)や新技術(インテラトラック、スマートエルダー、異常検知及びオペレーターガイダンスツール等)はもちろんですが、堺製油所独自の安全文化醸成活動、高度な教育訓練、地震・津波対策などが評価されたのだと思います。
――安全文化醸成活動では、具体的にはどのようなことをされたのですか?
まず全従業員に安全に関する基本理念を共有し組織に対する誇りを持ってもらうため、従業員フォーラムでの対話を始め、種々の行事を行いました。消防コンテスト、安全大会、省エネルギー大会、自治会との交流などです。これらは個人的な価値基準から積極的な情報共有化へ、いわば独立型から相互啓発型への転換を狙ったものです。このほかにも「言われなくても自分から進んでできる」オペミス防止活動とか、1回4-5名ずつ合計100回に上る所長とのランチミーティングを行い、さらに若手社員の計画・運営によるレクリエーション活動としてソフトボール大会、ボランティア清掃、バーベキューなども行いました。こうした活動を通して、マネージメント⇔従業員のコミュニケーションが増え、従業員のモチベーションがアップして“安全を作る”意識が芽生えたと思っています。
――なるほど、人を育てる様々な取り組みが功を奏したのですね。では、安全文化のための技術力向上についてはどのような取り組みをされておられますか。
まず、「保安力向上センター」による保安力評価を行いました。その結果としては職階の上下を超えてコミュニケーションは良好であり、厳しい業務規程に対しての負担感はあるものの自由闊達な風土や若手の伸びやかさが安全向上に生かされているとの結果でした。また安全基盤の管理レベルは平均して非常に高く、業界トップレベルであることが確認されました。
しかし、運転部門では約半数の運転員は20代であり、若手の意識は高いが技能不足で中堅やベテランに業務上の負担感があることも事実であり、近い将来のベテランの退職後を考慮すると、若手層の育成の重要性を認識しています。
――何か対策を考えておられますか。
一番大きな問題となるのは、実際の現場で異常があった時に素早く状況を見極め、優先度を付けて対応してゆくことです。ベテランは非常に多くの問題が同時発生しても瞬時に振り分けられますが、それには経験が必要です。そこで当所では新技術としてアラームマネジメントシステムを構築しています。これは重要度に応じてアラート(警報)を常時発信するもので、コンソール画面上に重要度の高いもののみ表示することもでき、素早い対応を支援することができます。また運転操作履歴をデータベース化することにより、傾向の分析や中長期的な予測もでき、導入による効果が期待できます。実際にこのシステムを稼働させてから、「時間当たりのアラーム発生個数」といった健全性指標に対して、維持または改善といった良い傾向が見られています。
――技術訓練の面では。
特に現場の施工品質改善を目的とした高度な教育訓練として、フランジボルトシミュレーターを導入しております。これは、フランジボルトの不均一な締め付けによるフランジからの内容物の漏えいなどのトラブルを防止するための対応を具体的な数値をもって意識してもらうためのトレーニング機材です。フランジ(パイプ等の端についている接合用の鍔)は8個程度の穴をボルトで締め付けるわけですが、締め付け強さ、順番、バランス等によって不具合が起きやすいものです。フランジ締結作業は溶接と違い公的な資格は不要です。しかし団塊世代のベテラン作業員の引退や、ベテランであっても過信によるミスもあるなど、数が多い作業だけに施工品質の維持は非常に重要な問題です。当所では解決に向け、シミュレーターを用いた独自の技量認証制度をスタートさせました。シミュレーターでは、ボルトの締め付け強さや均等性がグラフとして示されるので、作業者は誰でも自身の問題点を理解できます。このような「見える化」による定量的な評価は今後ほかの作業でも重要になって行くと考えています。
――そうですね。操業の大前提である安全、コンプライアンスに対する御社の熱意と取り組みがよくわかりました。本日は長時間にわたる丁寧なご説明をありがとうございました。
このあと、高床式倉庫と防災センター、オペレーションルームを見学し、
フランジボルトシミュレーターの実機を見させていただきましたので、その写真を以下に掲載します。