第Ⅲ部 第2章 各国戦略

第2節 欧州

1.EU関係

欧州連合(EU)は、27か国が加盟、人口約5億人、GDPは世界全体の2割近くを占める政治・経済統合体である。EUは、域外に対する統一的な通商政策を実施する世界最大の単一市場であり、単一通貨のユーロには、19か国が参加している。また、国際秩序が液状化する中にあって、自由、民主主義、法の支配、人権といった基本的価値や原則を共有するという意味で我が国にとって重要なパートナーである。

2019年12月に就任したフォン・デア・ライエン欧州委員会委員長(ドイツ出身)、ミシェル欧州理事会議長(ベルギー出身)の下、気候変動(グリーン)分野、デジタル分野を中心に意欲的な政策の打ち出しを図ってきた欧州委員会であるが、新型コロナウイルス感染症からの復興においても、復興基金「次世代のEU」の活用等を通じた大規模な投資の促進に加え、グローバルなルールメイキングの主導を一層推進する姿勢を示している。

気候変動(グリーン)分野については、2020年3月に発表した「欧州気候法」において2050年までの温室効果ガス排出ネットゼロ(カーボンニュートラル)達成に法的拘束力を持たせたほか、その前提となる2030年排出削減目標についても40%から55%への引上げを打ち出している。また、今後、排出量取引制度指令、エネルギー効率化指令、再生エネルギー指令等の改正案のほか、特定セクターに対する炭素国境調整措置についても提案される予定であり、帰趨が注目される。また、気候変動分野を含むサステイナブルファイナンスの基準となる「EUタクソノミー」についても2022年中の施行に向けて基準案の策定作業が続けられている。

デジタル分野についても、欧州の価値を守りつつ、デジタル時代への対応を図るという方針の下、2020年2月に、データ活用やAI発展に関する欧州としてのアプローチをまとめた一連のデジタル戦略を発表している。その上で、2020年末にはプラットフォーマーへの規制措置等を盛り込んだ「デジタルサービス法」、「デジタル市場法」を発表したほか、2021年3月にはインフラや人材面における今後10年間のデジタル政策の方向性を示した「デジタルコンパス2030」も発表するなど、引き続き活発な動きが見られる。

EUの貿易政策においても、これら分野は比重を増している。2021年2月に発表されたEUの「貿易政策レビュー」においては、「開かれた戦略的自律」を確保することを目標とした上で、WTO改革等と並び、経済社会のグリーン転換、デジタル転換を重点分野として掲げている。2019年2月の発効後、着実に実行が進められている日EU経済連携協定(EPA:Economic Partnership Agreement)を含む、これまでの協力を基礎に、日EU、あるいは米国を含む三極の枠組みで、グローバルな議論をリードしていくことが重要である。

2020年9月、10月には菅総理はミシェル議長、フォン・デア・ライエン委員長それぞれと電話会談を行ったほか、梶山経済産業大臣も2020年7月にはブルトン委員(産業・デジタル担当)、2020年12月にはティマ―マンス上級副委員長(気候変動・エネルギー担当)、2021年3月にはドムブロウスキス上級副委員長(貿易担当)とそれぞれテレビ会談を行うなど、コロナ禍においても首脳・閣僚レベルでも密接な連携が持続している。

2.英国

離脱協定では、2020年末までの「移行期間」中は、英国には引き続きEU法が適用される他、EUが第三国と締結した国際条約に拘束される一方、EU以外の第三国と、移行期間終了後に発効させる自由貿易協定の交渉・署名・批准が可能であった。このため、英国とEUは移行期間終了直前の12月に自由貿易協定を含む将来関係交渉に合意・署名したほか、日本とは日英包括的経済連携協定(日英EPA)に9月に大筋合意、10月に署名し、いずれも移行期間終了と同時に発効している。英国には引き続き、EU離脱による日系企業の経済活動の影響が最小限となるよう、様々なルートを通じ要請を行っている。

EU離脱後の英国については、日英EPAを締結したほか、英国のCPTPP加盟を促進するなど、経済、安全保障・防衛、気候変動、文化等、あらゆる分野における日英関係の強化に引き続き努めていく。

2020年9月に菅総理はジョンソン首相と電話会談を行い、梶山経済産業大臣は2020年10月にトラス国際貿易大臣、2021年1月にはシャーマCOP26議長と会談を行うなど、首脳・閣僚レベルでも日英関係を一層強固にするため、密接に連携している。

3.ドイツ

ドイツとは、2017年3月に世耕経済産業大臣(当時)と高市総務大臣(当時)が独経済エネルギー大臣と署名した「ハノーバー宣言」に基づき、IoT/インダストリー4.0等の分野で二国間協力を進めている。また、日独間の産業協力の深化・発展について意見交換を行う経済産業省と独経済エネルギー省との間の対話である「日独次官級定期協議」を2021年2月に実施した。

2020年9月、ドイツは「インド太平洋ガイドライン」を発表し、インド太平洋地域における外交政策、我が国を含めたインド太平洋地域のパートナーとの産業協力を始めとした通商政策を打ち出している。また、2020年10月にアジア太平洋会議(APK:独経済界が主催するアジア太平洋地域の政府・企業との対話を行う場)がオンライン形式にて開催されており、ビジネス面においても独はインド太平洋地域へ高い関心を示しており、インド太平洋地域における日独間の連携強化の動きが活発化している。

2020年9月に菅総理はメルケル首相と電話会談を行い、梶山経済産業大臣は2020年10月にアルトマイヤー経済エネルギー大臣と会談を行うなど、日独関係の更なる緊密化に向けて連携している。

4.フランス

フランスとは、2019年6月にマクロン大統領が訪日した際に発出した「『特別なパートナーシップ』の下で両国間に新たな地平を開く日仏協力のロードマップ(2019~2023年)」に基づき、協力を進めている。日仏両首脳はその後も、2019年8月にG7ビアリッツ・サミットに際し、会談を行ったほか、2020年3月にも電話会談を行い、新型コロナウイルス感染症対策への取組に関し情報共有していくことで一致した。2020年10月には菅総理が初めてマクロン大統領と電話会談を行い、日仏関係の更なる進展に向けて取り組んでいくことで一致。また、ともに「インド太平洋国家」として、自由で開かれたインド太平洋の実現に向け、協力を強化していくことを確認した。日仏間の産業協力に関しては、経済産業省と仏経済財務省との間で「日仏産業協力委員会」を設け、日仏における産業政策の展望や産業活動などについて意見交換を行っている。引き続き、本委員会を通じて日仏間の産業協力の強化を図っていく。また、航空機、エネルギー、原子力といった分野では、分野ごとの日仏間の対話の場を設け二国間協力の進展を図っている。

5.EU域外

EU加盟国のみならず、EUに加盟していない欧州各国とも連携を強めていく必要がある。西バルカン地域(セルビア、コソボ、北マケドニア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、モンテネグロ、アルバニア)については、2018年1月、南東欧を歴訪した安倍総理(当時)より、EU加盟を目指す西バルカン地域各国の経済社会改革を支援し、同地域の各国間の協力を促進させることを目的に「西バルカン協力イニシアティブ」が表明され、西バルカン地域全体への協力を更に推進していく旨言及があった。同イニシアティブの下、具体的施策が進められており、例えば、日本企業の進出サポートを目的に、2019年6月、JETROによるビジネスミッションが北マケドニアに派遣された。こうしたビジネスミッションなどを活用し、引き続き我が国企業との協力案件組成に努めていく。

旧ソ連国の東欧地域であるウクライナ、ベラルーシは、ソ連時代から宇宙・航空機、鉄鋼、化学といった製造業が盛んだったこともあり、伝統的に高度な技術を有する企業が所在。近年は、IT産業が伸長し、高度なIT技術者の育成、また、スタートアップ企業を多く生み出しており、こうした分野での我が国企業との連携強化に努めていく。

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