第Ⅲ部 第2章 各国戦略

第4節 ASEAN・大洋州

世界的な新型コロナウイルスの感染拡大の影響を受け、特に2020年3月以降、ASEAN諸国の多くの主要都市で経済社会活動の制限が行われたほか、必要な物資の供給途絶リスクが顕在化した。こうした難局に直面し、日本とASEANは早期に対話を開始した。2020年4月には、「日ASEAN経済強靱化イニシアティブ」を発出し、①これまで築き上げた緊密な経済関係を維持した上で、②足下の経済への悪影響を緩和し、③ポストコロナを見据えて経済強靱化を推進することについて、日ASEAN双方が連携する基本方針を世界に発信した。さらに、この方針を具体的な取組につなげるべく、7月に日ASEAN経済大臣特別会合をテレビ会議形式にて開催し、「日ASEAN経済強靱化アクションプラン」(以下、アクションプラン)を発出した。アクションプランには、日ASEAN双方がアイデアを持ち寄り、サプライチェーンの高度化やデジタル技術を活用した新たな産業協力に関する取組など、50を超える具体的なプロジェクトが盛り込まれており、世界的にも先駆的な取組と言える。

その後、2020年8月、日ASEAN経済大臣会合がテレビ会議形式で開催された。同会合では、アクションプラン発出以降のプロジェクトの進捗を日ASEAN双方で確認しつつ、AMEICC(日ASEAN経済産業協力委員会)からは、同アクションプランにも盛り込まれた日ASEAN産業協力事業(サプライチェーン多元化補助金、アジアDX促進事業、貿易手続デジタル化調査等)に関する活動が報告されたほか、産業界セッションでは、ASEAN日本人商工会議所連合会(FJCCIA)より、コロナの感染拡大を踏まえた政策提言(サプライチェーン強靭化、オープンイノベーション連携、人材育成等)がASEAN側に報告された。加えて、日本側からは、こうした日ASEAN連携プロジェクトを更に前進させるため、日ASEAN協力を継続して議論する新たな対話枠組みとして「イノベーティブ&サステナブル成長対話(Dialogue for Innovative and Sustainable Growth(DISG))」の創設を提案し、ASEAN側はこれを歓迎した。2020年10月以降、日ASEAN双方の産業界、アカデミアなど幅広い関係者の参画を得ながら、DISGウェビナーを計5回開催し、オープンイノベーション、ヘルスケア、農業、貿易手続の円滑化等の様々な分野で新たな日ASEAN協力に関する議論が行われてきている。

また、2020年8月、日メコン経済大臣会合がテレビ会議形式で開催された。本会合では、新型コロナウイルス感染症の世界的流行の中にあっても、2019年の日メコン経済大臣会合で採択した、「コネクティビティ」、「デジタルイノベーション」、「SDGs」を三つの柱とする「メコン産業開発ビジョン2.0」を実現する重要性を再確認し、その確実な実行のため、メコン各国、日本及び開発パートナーから提出された具体的なプロジェクトを盛り込んだ「ワークプログラム」(2020年~2023年)の策定に合意した。同年11月にオンライン形式で開催された日メコン首脳会議では、メコン産業開発ビジョン2.0ワークプログラムの策定を歓迎することも含めた共同声明が採択されるなど、日本の具体的な貢献として評価された。

経済産業省は、東アジア・アセアン経済研究センター(ERIA)を通じて、ASEAN及び東アジアの経済統合を支援している。2020年には、ERIAは2020年ASEAN議長国のベトナム政府からの要請を受け、「Subregional Development Strategy in ASEAN after COVID-19:Inclusiveness and Sustainability in the Mekong Subregion(Mekong 2030)」を公表した。これは、多様な構造を持つASEANの格差を是正しつつASEAN経済統合とASEAN中心性を進める地域連携強化に関する政策提言を行ったものである。また、2020年8月の東アジア経済大臣会合において、ERIAは、新型コロナウイルスからの復興と経済成長のため、「新たな経済成長モデル」として、マクロ経済政策、貿易投資政策、新技術活用の観点に基づく政策提言を報告した。これに対して、多くの参加国からERIAの活動に対する歓迎の意が示されるとともに、今後に向けて、グローバルバリューチェーンの強靱化等に関する政策研究を行うことが奨励された。

上述した取組と合わせ、経済産業省は、ポストコロナを見据えた経済強靱化に向けた協力について二国間でも議論を行い、経済関係を深化させた。

ベトナムとは、2020年8月、梶山経済産業大臣及びベトナムのアイン商工大臣を共同議長とする、第4回「日ベトナム産業・貿易・エネルギー協力委員会」をテレビ会議形式で開催した。委員会では、両閣僚が、新型コロナウイルス感染症の拡大がもたらす様々な課題等に対して共に対応していくことを確認し、共同閣僚声明を発出した。2020年10月には、菅内閣総理大臣が、就任後初の外国訪問として、ベトナム及びインドネシアに訪問した。ベトナムでは、グエン・スアン・フック首相と首脳会談を実施し、自由貿易の推進やサプライチェーンの多元化等を通じた経済協力の強化についても議論した。

インドネシアとは、2020年10月に菅内閣総理大臣就任後初の外国訪問の際に、ジャカルタにて首脳会談が行われ、「自由で開かれたインド太平洋構想(FOIP)」の実現に向けた連携強化について意見交換するとともに、ポストコロナを見据えた協力として、サプライチェーンの強靱化に向けた連携や投資促進に向けた協力の推進等を確認した。また、梶山経済産業大臣は、2020年7月にはルフット海洋投資調整担当大臣及びアグス工業大臣とテレビ会談、2020年12月にはルフット海洋投資調整担当大臣及びエリック国営企業大臣の訪日を受け会談、さらに2021年3月にはアグス工業大臣の訪日を受け会談を行い、投資環境整備の促進やサプライチェーン強靱化、デジタル協力等、コロナ禍における経済強靱化に向けた産業協力について議論するなど、両国の経済関係を一層深化させていくことを確認した。

シンガポールとは、2020年4月、梶山経済産業大臣が、チャン・チュンシン貿易産業大臣とテレビ会談を実施した。同会談では、新型コロナウイルスがもたらす世界経済への悪影響を緩和するため、二国間協力を深化させ、有志国との緊密な連携を促進していくことを確認し、「日シンガポール強靭な経済活動の推進に関する共同声明」の発出に合意した。

豪州とは、2020年5月、梶山経済産業大臣とバーミンガム貿易・観光・投資大臣(当時)との間でテレビ会談を行い、新型コロナウイルス感染拡大に伴って顕在化する様々な課題について意見交換を実施し、二国間経済関係に留まらず、幅広い分野についても戦略的に連携を進めることを確認した。また、ルールに基づいた国際秩序形成と持続可能な経済成長の実現に向け、有志国との緊密な連携を促進していくべく、「新型コロナウイルス感染拡大を受けた日豪共同閣僚声明」の発出に合意した。2021年3月、梶山大臣とティーハン貿易・観光・投資大臣との間でテレビ会談を実施した。インド太平洋地域における諸課題について意見交換し、幅広い分野において戦略的な連携をより一層強化していくことを確認した。

第Ⅲ-2-4-1図 日ASEAN経済大臣会合(8月)
日ASEAN経済大臣会合(8月)の写真

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