第Ⅲ部 第2章 各国戦略

第6節 中南米

1.今後の方針

中南米地域は、過去20年間(2000年から2019年)において高い経済成長(24.2%)を遂げ、アジアをも上回る。加えて、6億人越の人口を擁する巨大な消費市場や中間層も分厚く輸出先としても魅力的であるとともに、労働生産人口も若く、比較的安価な賃金であることから生産拠点としての役割も担う。他の海外市場とは異なる特色として、日本と中南米との経済関係の深化の根底を築いてきた日系社会の存在が挙げられる。

中南米は日本の産業基盤を支える鉄鉱石、銅、亜鉛、リチウム、アルミニウムをはじめとする鉱物資源の主要供給源であるとともに、大豆、とうもろこし、牛肉、鶏肉を始めとする食料資源の供給源として、食糧・資源エネルギー・経済安全保障の観点からも、日本企業の潜在的な参入余地・意義深い有望な地域である。

中南米諸国との貿易・投資を我が国経済発展の実現に着実につなげていくためには、多国間の貿易・投資ルールや経済連携の枠組み(EPA、投資協定等)及び経済関係の強化を目的とした二国間協議の枠組み等を活用しながら貿易・投資上の法的基盤を整備やビジネス環境整備を着実に推進していくことが重要である。

一方で、新型コロナウイルス感染症の拡大を受けた親常態下で、中南米地域におけるビジネス・市場は変容し始めており、これまでの太平洋同盟やメルコスール等の地域統合を目指す関税同盟の枠に囚われない市場経済が成立しつつあり、経済特区等を活用した越境経済や、持続可能な経済や社会課題解決に向けたデジタル経済の動きなどが散見され、これまで顕在化されてなかったビジネス機会が拡大している。例えば、 昨今の世界的な気候変動対策への高まりを受けて、中南米においても水素等の新たなエネルギーシステムの導入に関する政府の取り組みや、同地域における持続可能な開発目標の達成や社会的課題の解決に向けて、デジタル・エコシステムの共創に向けた取り組みなど、新たなビジネス機会を捉えていくことが重要である。

2.進捗状況

メキシコについては、2020年は日墨EPA発効から15周年目の節目を迎え、同年9月に日墨EPA15周年レセプションが在京メキシコ大使館にて開催された。長坂経済産業副大臣が経済産業省代表として挨拶を行い、EPA発効後、進出日系企業の増加等に触れ、両国の経済関係が今後より一層発展・強化されることの期待を述べた。また、同年10月、田中経済産業審議官とデ・ラ・モラ墨経済省貿易担当次官がオンライン会談を行い、中小企業連携やメキシコの電力政策変更に係る懸念点等について墨側と意見交換した。同年12月、宇都外務副大臣及びデ・ラ・モラ次官による共同議長の下、第10回日墨EPA合同委員会がオンライン会議にて開催された。同委員会では、日墨EPAの運用状況及び諸課題について意見交換を行った。特に、日本側からは、現地進出企業の抱える課題の改善に関するビジネス環境整備や、2020年7月に発効した米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)に係る情報提供について要請を行った。

ブラジルについては、2020年11月、マルシア・ドネル・アブレウ伯外務省アジア大洋州ロシア担当副次官、キース・クラック米国務省経済成長・エネルギー・環境分野担当国務次官、林外務省中南米局長との間で第1回日米伯協議が開催され、共通の価値を共有するパートナーとして、三か国は、ビジネス環境の強化、外国投資の拡大、開かれ、相互運用可能で信頼できる安全なインターネットに基づいた活力あるデジタル経済の促進に向けたサイバーセキュリティの強化等に取組ことを確認した。また、2021年2月、長坂経済産業副大臣が来日したメネゼス通信次官と、自由で、公正な競争、透明性、法の支配といった共通の価値を共有するパートナーとして、透明かつ安全な5Gネットワークの展開のための共通アプローチを発展させることで一致するとともに、活力あるデジタル経済の促進に向けて、これらに必要となるビジネス環境整備を行うなど、両国における経済関係の強化について意見交換を行った。

コロンビアについては、商工観光省との間で、オレンジ経済(コンテンツ産業やクリエイティブ産業等を幅広く含む)等の二国間協協力について意見交換を実施。2021年3月には、文化省のパディジャ次官と山中審議官、様々な関連機関とともに、文化・クリエイティブ産業について意見交換を実施するなど、新たなサービス産業に係る生産性向上・市場創出に係る支援を実施した。加えて、2021年2月には、現地の医療機器認証手続の簡素化・効率化に向けたワークショップを全3回開催し、ビジネス環境整備・市場獲得に向けた取り組みを実施した。

チリについては、2020年10月に、外務省輸出振興局(Prochile)と経済産業省が側面支援を行い、両国のゲーム業界団体が市場概況について意見交換を実施。同年11月、エネルギー省はグリーン水素の生産と輸出拡大を目的とした国家戦略を発表した。

太平洋同盟(メキシコ、コロンビア、ペルー、チリ)については、2020年12月の第15回太平洋同盟首脳会議議長国を機に、チリからコロンビアに移行。デジタル経済、ジェンダー、新型コロナウイルス対策についての首脳宣言を発表した。

南米南部共同市場(メルコスール:アルゼンチン、ブラジル、ウルグアイ、パラグアイから成る関税同盟。)については、2019年8月、日本経済団体連合会から菅内閣官房長官に対して日本・メルコスールEPA交渉の早期開始の要望がなされた。

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