第7節 ロシア
1.今後の方針
日露関係は、2013年4月の安倍前総理大臣の10年ぶりとなるロシア公式訪問を皮切りに、第一次政権を含めて27回に及ぶ安倍前総理大臣とプーチン大統領との間での首脳会談を中心に大きく進展。経済分野では、2016年5月にソチで行われた日露首脳会談において、安倍前総理大臣からプーチン大統領に提案した8項目の「協力プラン」15の下、これまでに200件以上の民間プロジェクトが創出されており、日本の技術と経験を活かしながら、日本企業のロシア市場におけるビジネスチャンスを拡大するとともに、ロシアの国家的課題の解決に貢献し得る互恵的な取組が進められている。8項目の「協力プラン」の具体化に当たっては、首脳外交とともに閣僚間の連携が鍵となっており、日本側の経済産業大臣兼ロシア経済分野協力担当大臣とロシア側の経済発展大臣兼対日貿易経済協力担当大統領特別代表との間の議論を通じ、新規案件の創出・既存案件の進展が図られている。2020年9月に発足した菅内閣においても政治、経済、人的交流等幅広い分野で日露関係全体を発展させていくとの方針の下、8項目の「協力プラン」を中心とする経済分野での協力を進めることとしている。
15 (1)健康寿命の伸長、(2)快適・清潔ですみやすく、活動しやすい都市作り、(3)中小企業交流・協力の抜本的拡大、(4)エネルギー、(5)ロシアの産業多様化・生産性向上、(6)極東の産業振興・輸出基地化、(7)先端技術、(8)人的交流の抜本的拡大
2.首脳間・閣僚間の動き
2020年は新型コロナウイルス感染症の世界的拡大により、日露間においても相互の往来が難しい年であったが、首脳間・閣僚間を含め、TV会談や電話会談による政府間協議は引続き活発に行われた。
2020年4月、梶山経済産業大臣兼ロシア経済分野協力担当大臣は、レシェトニコフ経済発展大臣兼対日貿易経済協力担当大統領特別代表とのTV会談を実施。迅速検査キットを含む新型コロナウイルス感染症対策に関する日露協力の可能性について議論し、更なる協力を拡大していくことで一致した。
同年5月、安倍前総理大臣とプーチン大統領が首脳電話会談を実施し、新型コロナウイルス感染症が世界的に拡大する中、引き続き必要な協力を行うことを確認した。加えて、4月の梶山大臣とレシェトニコフ大臣との間の会談でも触れた新型コロナウイルス感染症の迅速検査キットの製造・販売事業への日露共同投資枠組みによる支援を始め、8項目の「協力プラン」の下で具体的な協力が進んでいることを歓迎するとともに、引き続き緊密に連携・協力していくことで一致した。
同年8月に安倍前総理大臣の辞任表明を受けて行われた首脳電話会談では、両首脳は、8項目の「協力プラン」を含め、幅広い分野で日露関係が発展してきており、今後とも二国間関係を強化していくことの重要性を確認した。
同年9月、菅内閣発足後初となる菅総理とプーチン大統領との首脳電話会談が行われた。両首脳は、政治、経済、文化等幅広い分野で日露関係全体を発展させていくことで一致した。
同月、梶山経済産業大臣兼ロシア経済分野協力担当大臣は、ノヴァク・エネルギー大臣(当時)とのTV会談を実施。8項目の「協力プラン」の下で行われている日露間の各種のエネルギープロジェクトの進展状況を確認するとともに、エネルギー分野における協力関係を一層強化するため、引き続き両国間で緊密に連携していくことで一致した。
また、同年10月、梶山経済産業大臣兼ロシア経済分野協力担当大臣は、レシェトニコフ経済発展大臣兼対日貿易経済協力担当大統領特別代表との電話会談を実施した。会談では、8項目の「協力プラン」の下での各分野における民間プロジェクトの進捗について議論を行い、引き続き両大臣間の緊密な連携の下、経済分野での協力を進めていくことで一致した。
3.分野別の進展
8項目の「協力プラン」の下、各分野における民間プロジェクトが進展している。2020年を中心とした主な動きについて触れる。
(1)健康寿命の伸長
新型コロナウイルス感染症の拡大により、医療分野における日露協力のニーズは一層高まっている。首脳間・閣僚間の会談でも累次取り上げられた新型コロナウイルス感染症の迅速検査キット製造・販売事業では、日露の合弁企業であるEMG社が、日本発の迅速検査手法であるSmartAmp法(等温核酸増幅法)を用いた新型コロナウイルス感染症の迅速検査キットをロシアで製造し、販売を行っている。本プロジェクトについて、2020年5月、国際協力銀行(JBIC)の関係会社であるJBIC IG Partnersが、新型コロナウイルス感染症の検査拡充に貢献するため、EMG社への投資の決定を発表した。その他の医療分野における協力としては、内視鏡分野や予防医療分野等において、日露の大学や研究機関の間で交流や研修が行われている。また、2020年6月には、ロシアを含むCIS地域における画像診断装置の販売・サービス保守事業の強化のため、キヤノンメディカルシステムズがロシアのヘルスケア企業であるR-Pharm社と機械販売・サービス保守事業の合弁会社設立に合意している。
(2)快適・清潔ですみやすく、活動しやすい都市作り
都市環境分野については、2013年に設立され、国土交通審議官と露建設・住宅公営事業省次官が共同議長を務める「日露都市環境問題作業部会」で、ロシアにおける都市・環境・インフラ等に関する諸問題について日露の官民が協議し、解決策の検討を行っている。2021年2月には、第13回総括会合をオンラインで開催し、上下水道・エネルギー分野、スマートシティ分野、都市開発分野、廃棄物分野に関する取組状況について確認するとともに、意見交換が行われた。
個別プロジェクトとしては、日立造船の100%子会社であるHitachi Zosen Inova AG社(スイス)とPJSC ZiO-Podolsk社(ロシア)が、モスクワ市近郊に4件のごみ焼却発電プラントを建設するプロジェクトを進めている。全4プラントが稼働すれば、年間約280万トンのごみ焼却処理と、約150万人分の年間消費電力を発電することが可能となり、ごみの衛生的処理及び埋め立て処分の軽減、温室効果ガス削減への貢献が期待される。
(3)中小企業交流・協力の抜本的拡大
中小企業分野では、2016年9月、ウラジオストクで行われた東方経済フォーラムの際、経済産業省とロシア連邦経済発展省が署名した、中堅・中小企業分野における協力のためのプラットフォーム創設に関する覚書に基づき、海外展開支援機関や、自治体、金融機関などからなる日本側プラットフォームを設立。プラットフォームメンバーであるJETROにロシアビジネスの専門家を配置し、戦略策定から販路開拓、パートナー探し、商談同行、契約締結まで一貫して個別企業支援を行う仕組みを整備し、また、一体的に支援を行うことにより、ロシア企業との取引が成立するなど成果を得ている。更に、プラットフォームにおける議論を踏まえ、規格認証や通関手続といった日露ビジネスに影響を与えている制度的課題の改善に向けた政府間の対話や企業への周知広報等の取組についても進めている。また、2020年12月には、第8回中小企業協力に関する日露会合をオンラインにより実施し、官民合同対話、中小企業等の交流及び商談会を行った。2020年11月にオンライン開催された「TIFFCOM 2020」(東京国際映画祭に併設されたアジアを代表するコンテンツマーケット)に初となるロシアパビリオンが出展し、アニメーションスタジオを含むロシア企業5社が参加するなど、日露の中小企業交流は、すそ野を一層拡大させている。
(4)エネルギー
エネルギー分野については、2016年11月に世耕経済産業大臣(当時)とノヴァク・エネルギー大臣(当時)が議長となる「日露エネルギー・イニシアティブ協議会」を設立し、炭化水素・原子力・省エネ再エネの各分野についてワーキング・グループを設置した。本枠組の下、各分野におけるエネルギー協力について議論を行っている。
個別プロジェクトでは、北極LNG2やカムチャツカ及びムルマンスクでのLNG積替え事業等において日露協力が進展している他、2020年10月に、一般財団法人省エネルギーセンターがサンクトペテルブルクにおいて、建物の省エネのための熱制御装置の普及を図る事業を開始した。また同年11月、同センターは、全ロシア地区省エネルギーセンター会議において、省エネに係るオンラインワークショップを開催した。同年12月、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は、日本企業等とともに、極寒冷地であるサハ共和国チクシにおいて実施する風力発電を含むエネルギー管理システム実証について、システム全体の運転を開始した。
これらの事業により、我が国のエネルギー供給源多角化・安定供給確保、日本のエネルギー技術の導入及び両国間の経済関係強化につながることが期待される。
(5)ロシアの産業多様化・生産性向上
産業多様化・生産性向上分野では、2016年8月、貿易経済に関する日露政府間委員会のもとに産業分野における協力に関する分科会(産業協力分科会)を設立した。同分科会での議論を踏まえ、①高い技術力や生産性管理技術を備えた日本の専門家によるロシア企業のIT化を含めた生産性診断及び改善指導、②ロシアの裾野産業に従事する役員・ラインマネージャークラスを日本に招聘し、生産工場の現場視察や日本の管理技術・設備、IT化に関する研修等を行うこととなった。2020年は新型コロナウイルス感染症の影響により、①の対面での生産性診断や改善指導、及び②の日本での研修を実施することはできなかったが、双方についてオンラインで実施した。①については、2017年から2021年3月末までにロシア企業累計38社を対象に診断を実施。②については、日露政府間で合意した、2017年から2019年3月末までに計200名のロシア人研修生を受入るという目標を達成した上で、2021年3月末までに累計516名の研修生への研修を実施した。これら事業はロシア企業の生産性向上に資することはもとより、日本企業にとっても、現地ロシア企業とのビジネス創出、調達条件の改善を含む効果をもたらすものであり、今後も改善を図りながら継続していく。2020年12月には、第7回産業協力分科会をオンラインで実施し、上記生産性診断や研修、個別産業における協力について協議を行った。
(6)極東の産業振興・輸出基地化
豊富な土地や資源を有する極東では、アジア太平洋地域に向けた輸出基地化を図るべく、インフラや農林水産業を始め様々なプロジェクトが進展している。プロスペクトバイオマス社とロシアのRFP WP社の日露合弁企業による木質ペレット生産事業では、2020年10月、ハバロフスク地方のアムールスクの木質ペレット工場が完成した。今後、同工場で製造された木質ペレットが日本に供給される予定である。また、北海道総合商事が一部出資する現地法人SAYURI社が、日本の温室技術と農業栽培技術を活用し、ヤクーツクで生鮮野菜の温室栽培事業を行っている。厳寒の同地において、新鮮でおいしい野菜の周年生産を目的とするものであり、温室栽培施設を拡張する第3期工事が現在行われている。ここで作られたトマトやキュウリなどの野菜は、年間を通じて地元の人々の食事に供されている。
(7)先端技術
2019年9月、世耕経済産業大臣兼ロシア経済分野協力担当大臣(当時)とオレシュキン経済発展大臣(当時)との間で「第四次産業革命関連ハイテク分野における協力に関する覚書」に署名。これに基づき、ハイテク分野における協力に関する議論を進めている。また、2020年10月には、オンラインで開催された「CEATEC 2020 ONLINE」にロシアからスタートアップ5社が出展し、ピッチイベント及び商談会が実施された。さらに、2020年11月、国土交通省がロシア鉄道と協力し、シベリア鉄道のブロックトレイン(1編成借上げ列車)での日本と欧州間のパイロット輸送を実施。2018年、2019年に続く3回目のパイロット輸送を通し、海上輸送、航空輸送に続く第3の輸送手段の選択肢としてのシベリア鉄道の利用促進を進めていく。2020年12月には、オンラインで「日露デジタル教育フォーラム」が開催。日露間で初めてとなる「デジタル教育」にフォーカスした本フォーラムでは、ロシアのデジタル・STEM関連のスタートアップ事業者から日本の教育、ビジネス関係者向けにプレゼンテーションを行った。
(8)人的交流の抜本的拡大
2019年6月にプーチン大統領が訪日した際、日露両国は2020年から2021年にかけて「日露地域・姉妹都市交流年」(日露地域交流年)を実施することで一致し、当局間覚書に署名。日露地域交流年は、様々な分野における日露の地域交流の一層の深化及び発展、並びに姉妹都市間関係の拡大や両国間の友好及び相互理解の促進を目指すものである。オンライン形式などを活用しつつ事業を進めており、2020年には、日本側によって認定された行事数は140件を超えた。観光交流に関しては、2019年6月に日露観光当局間で、2023年までに交流人口をそれぞれ少なくとも20万人、合計40万人とする目標の達成に向けた共同活動プログラムに署名。2020年、日露地域・姉妹都市交流年事業として、ロシアにおいて日本に関するフォトコンテスト、日本においてロシアに関するフォトコンテストがそれぞれ実施され、2020年9月にはモスクワ市内にて、日本に関するフォトコンテストの受賞式及び優秀作品の写真展が開催された。また、2020年12月、観光庁と日本旅行業協会(JATA)の共催で、日露双方向交流の拡大に向けた商品造成の強化と人材育成を目的とし、日露観光交流オンラインセミナー・商談会が開催された。