第8節 中東
我が国は原油輸入の約9割、天然ガス輸入の約2割を中東地域に依存しており、同地域はエネルギーの安定供給確保のために欠かせない地域である。中東諸国では、原油そのものだけでなく、より付加価値の高い石油製品を今後需要の急増が見込まれるアジアに販売することで収益を確保しようとする動きや、エネルギー産業に依存しない経済体制の構築に取り組む動きが顕著に見られる。産業多角化や貿易・投資環境改善への支援を通じ、同地域との経済関係の強化・市場の拡大と、同地域の安定確保を目指す。
サウジアラビア王国については、2017年3月に日サ両国首脳間で合意した「日・サウジ・ビジョン2030」のもと、二国間協力を推進している。2020年12月には、第5回「日・サウジ・ビジョン2030」閣僚会合が開催され、日本からは梶山経済産業大臣及び鷲尾外務副大臣、サウジアラビアからはアル=ファーレフ投資大臣がそれぞれオンラインで出席した。会合を通じて、両国は「日・サウジ・ビジョン2030~バージョン2020~」を取りまとめ、コロナ禍における新しい協力を追求し、サウジアラビアの経済改革へ継続して支援するとともに、脱炭素化社会の実現を始めとする課題解決型の協力を充実させ、加速化することに合意した。2017年の取組開始時には31から始まった協力プロジェクトの数は81まで増加し、参画する省庁・機関の数も41から73に増加している。同年11月には、菅総理大臣とムハンマド・サウジアラビア皇太子と電話会談を行った。菅総理大臣は、サウジアラビアからの原油の安定供給と国際原油市場の安定化努力に対する謝意を表明し、サウジアラビアが進める脱石油と産業多角化を中心とした改革努力を日本が後押しする方針は揺るがない旨述べた。同皇太子からは、「日・サウジ・ビジョン2030」の枠組みを通じて協力を更に強化したいとの発言があった。
イラン・イスラム共和国については、米国の制裁下にあるが、2020年度においても、耐震・免震技術に関するワークショップや水・電力・医療分野における各種セミナーなどの経済協力を実施してきた。2020年11月には、JETROがイランEコマースウェブセミナーを実施するなど、両国経済関係の更なる発展に向けた協力も進めている。
アラブ首長国連邦(以下、UAE)については、2020年10月、江島経済産業副大臣出席の下、第7回日本アブダビ経済協議会(ADJEC)がオンラインで開催された。同協議会には、両国から様々な分野を代表する機関や企業から多くの関係者が参加し、経済関係の強化に向けた意見交換が行われた。また、同年11月には梶山経済産業大臣が、オンラインで開催されたアブダビ国際石油展示会・会議(ADIPEC)において基調講演を行った。また、2020年8月と2021年1月には、梶山経済産業大臣がジャーベル産業・先端技術大臣兼アブダビ国営石油会社(ADNOC)CEOとTV会談を行い、日・UAE「包括的・戦略的パートナーシップ・イニシアティブ(CSPI)」の下、エネルギーや経済を始め、広範な分野における両国の戦略的パートナーシップを一層強化することを確認するとともに、UAEにおけるエネルギープロジェクト等への日本企業の参画について働きかけを行った。2021年1月に実施された会談では、両大臣の立会いのもと、燃料アンモニア及びカーボンリサイクルに関する経済産業省とADNOCの間のMOCへの署名式が行われた。こうした閣僚級会談の成果もあり、同年2月、コスモエネルギー開発株式会社は、アブダビの新規海上探鉱鉱区をADNOCから獲得するに至った。さらに、2021年4月には、江島経済産業副大臣とマズルーイ・エネルギー・インフラ大臣がTV会談を行い、水素分野におけるMOCに署名をした。会談では、UAEにおける水素分野における協力プロジェクトの進展を歓迎し、更なる協力の具体化に向けて連携していくことで一致した。
イスラエル国については、2017年に日本とイスラエル双方の官民が連携し、両国間の経済関係をより強化するため設立したプラットフォーム「日・イスラエル・イノベーションネットワーク(JIIN)」を通じて、ビジネスマッチング等の支援が実施されており、2021年3月には第3回JIIN総会がオンラインで開催された。ペレツ経済産業大臣と長坂経済産業副大臣のほか、両国から13の経済団体が参加し、活動成果の共有及び今後の方向性についての確認が行われた(第Ⅲ-2-8-2図)。翌日にオンラインで開催された、JIIN日本・イスラエルビジネスフォーラムでは、日本から梶山経済産業大臣が基調講演を行い、日本政府として両国の経済協力に力を尽くしていくことに加え、本会合が両国企業の更なる関係強化への第一歩となることへの期待を表明した。政府間でも、2021年3月に、第3回日・イスラエル経済イノベーション政策対話をオンラインで開催し、ペレツ経済産業大臣と長坂経済産業副大臣の出席の下、デジタルヘルス、グリーンテック、R&D等におけるイノベーション協力、サイバーセキュリティ、輸出管理等の分野における協力の成果を確認し、更なる関係深化に向けた双方の関心分野について議論を行った。
トルコ共和国については、日本企業とトルコ企業が官民連携方式により共同建設した「バシャクシェヒル松と桜都市病院」の開院式典が2020年5月、トルコのイスタンブールにおいて開催され、日本からは安倍前総理大臣がテレビ会議形式で出席した。トルコ側からは、エルドアン大統領が出席し、建設事業に携わったトルコと日本の関係者に感謝の意を表明したほか、病院の開院によりトルコと日本の友好関係が一層の発展を祈念する旨を述べた。
カタール国については、2020年10月に、オンライン開催されたLNG産消会議へ参加した梶山経済産業大臣とアル・カアビー・エネルギー担当国務大臣がTV会談を行った。我が国へのLNGの安定供給を始めとする経済関係強化に向けた意見交換を実施した。
クウェート国については、2020年12月に、資源エネルギー庁が、クウェート石油公社(KPC)との間でクウェート国の原油50万KLを日本国内に貯蔵する共同石油備蓄事業を開始する合意文書に署名した。今回の合意は、我が国への原油の主要供給国であるクウェート国との関係を強化するとともに、我が国の危機対応能力を向上させる重要な意義を有する。
イラク共和国については、2021年2月、江島副大臣とアブドルジャッバール石油大臣は、テレビ会談を実施し、江島副大臣がエネルギー分野でイラクに進出する日本企業への支援に対する謝意を表明した一方、アブドルジャッバール石油大臣からは、石油開発やインフラ整備における日本企業の活動に対する高い評価と期待及び脱炭素分野の日本企業の活動にも高い期待が示され、引き続き両国間で緊密に連携していくことで一致した。
第Ⅲ-2-8-1図 2020年12月第5回日・サウジ・ビジョン2030閣僚会合の様子
第Ⅲ-2-8-2図 2021年3月第3回日・イスラエル経済イノベーション政策対話