第2節 欧州
欧州は、地理的距離の近さやロシア産天然ガスへの依存度の高さなどもあり、2022年2月のロシアによるウクライナ侵略の影響を最も大きく受けた地域の一つである。同侵略から一年が経過し、高インフレ、金融引締めなどが経済の下押し要因となりつつも、経済指標は市場予想以上に底堅く、懸念されていた景気後退を辛うじて回避している。
1.実質GDP成長率
2022年のユーロ圏191の実質GDP成長率は3.5%となり、前年の5.4%から減速した。ロシアによるウクライナ侵略により不確実性は増大したものの、新型コロナウイルス感染症関連の規制措置が段階的に廃止されたことに伴って、欧州では経済活動が再開し、サービス業を中心とした個人消費の回復が見られたが、足下その動きが鈍化している。第1四半期から第2四半期にかけて市場予測を上回り伸び率が上昇したものの、第3四半期はペースが減速した。天然ガス需要期で落ち込みが懸念されていた第4四半期は、暖冬、需要の抑制、供給源の多様化などによりガス需給が逼迫を免れ、ガス価格が下落したこと、また各国が家計や企業向けの支援策を実施したこと等もあり、ほぼ横ばいとなった。英国の2022年の実質GDP成長率は4.1%となり、前年の7.6%から減速した。第3四半期に6期ぶりのマイナス成長を記録したが、第4四半期は小幅ながらプラス成長に戻った。実質GDPの水準をコロナ禍前と比較すると、英国の回復がやや遅れている(第I-3-2-1図)。
第Ⅰ-3-2-1図 欧州の実質GDP水準の推移
ユーロ圏の需要項目別寄与度(前期比)の推移を見ると、2022年第1~3四半期の押上げに寄与していた個人消費、第2~3四半期の押上げに寄与していた総固定資本形成などの内需が、第4四半期マイナスに転じた。一方、第4四半期は、個人消費が落ち込む一方で、外需がプラスに寄与した。英国は、同年第4四半期、外需が落ち込む一方、内需項目である総固定資本形成、個人支出、政府支出がすべてプラスに寄与し、内需は底堅い動きとなった(第I-3-2-2図)。
第Ⅰ-3-2-2図 欧州の実質GDP成長率(需要項目別寄与度)
191 2023年1月からクロアチアがユーロを導入し、ユーロ圏は20か国。
2.消費者物価
消費者物価は、2021年に入り上昇を続けていたが、ユーロ圏では、2022年4月以降、統計で遡れる1997年以降の過去最大の伸び率を六か月連続で更新し、2022年10月には前年同月比で+10.6%を記録した。その後、エネルギー価格の下落を主な要因として伸び率は鈍化し、2023年3月には同+6.9%まで低下した。一方、食品・エネルギー・アルコール・たばこを除いたコア・インフレは、2023年3月時点で過去最高を更新するなど上昇が加速しており、食品等のインフレも依然として高進している。英国では、消費者物価が2022年10月に1982年以来の高水準となる前年同月比+11.1%を記録した後低下に転じているが、食品等の価格は引き続き上昇し、エネルギー価格も依然として高水準を保っており、家計を圧迫している(第I-3-2-3図)(第I-3-2-4図)。
第Ⅰ-3-2-3図 欧州の消費者物価の推移
第Ⅰ-3-2-4図 欧州の消費者物価(品目別)
3.個人消費
ユーロ圏の小売売上高は、2022年前半は小幅な上昇傾向が見られたが、エネルギーや食料価格の高騰などが重しとなり足踏みしている。特にドイツの個人消費は減少が続いている。英国においても、生活費高騰が家計を圧迫し個人消費は伸び悩んでいたが、2023年に入りわずかに持ち直している(第I-3-2-5図)(第I-3-2-6図)。
第Ⅰ-3-2-5図 欧州の小売売上高の推移
第Ⅰ-3-2-6図 欧州の小売売上高(品目別)
4.生産
2022年に入り、ユーロ圏の鉱工業生産は小幅な上下変動を伴っているが、全体としてはほぼ横ばいで推移した。ドイツは、エネルギー高や資本財の回復の遅れなどにより、生産活動が低迷し弱含み傾向が続いたが、2023年に入り回復の兆しが見え、同年2月にはコロナ禍前の水準まで戻っている。英国の鉱工業生産は、コロナ禍後の回復は早かったが、その後低下し、2022年8月以降は横ばいで推移している(第I-3-2-7図)(第I-3-2-8図)。
第Ⅰ-3-2-7図 欧州の鉱工業生産の推移
第Ⅰ-3-2-8図 欧州の鉱工業生産(財別)
5.雇用
労働市場は堅調に推移し、低い失業率を維持している。ユーロ圏の失業率は、2023年1月に6.6%と統計データ公表以来の最低値を記録したが、ほぼ横ばいに推移している。英国の失業率も、2022年1月以降、3.5%~3.8%と低水準でほぼ横ばいに推移している(第I-3-2-9図)。
第Ⅰ-3-2-9図 欧州の失業率の推移
6.貿易
ドイツは、エネルギー価格の高騰を受け、輸入額が膨らみ、2022年通年では黒字幅が大幅に縮小したが、同年後半は、エネルギー需給の逼迫懸念が後退しエネルギー価格が低下したことやサプライチェーン問題の緩和等もあり、貿易収支は改善した。フランスも、主にエネルギー価格高騰を受け、輸入額の増加し2022年通年の貿易赤字幅は拡大した。英国は、2022年9~10月などで輸出の伸びが輸入の伸びを上回り、赤字幅が縮小したが、通年では赤字幅が拡大した(第I-3-2-10図)。
第Ⅰ-3-2-10図 欧州の輸出入額の推移
7.今後の見通し
ユーロ圏経済において、インフレの圧力は根強く、金融引締めが続いているが、2022年後半のエネルギー価格の低下、堅調な雇用環境、購買力を下支えする手厚い財政支援などもあり、2023年に入って、各種機関による実質GDP成長率の見通しは上方修正されている。一方、英国経済は、財政及び金融政策の引締めや、依然としてエネルギー等の小売価格が家計を圧迫していることなどを反映し、見通しは低調となっている。
IMFの世界経済見通し(2023年4月)によると、2023年の実質GDP成長率は、ユーロ圏が0.8%、国別では、ドイツが-0.1%、フランスが0.7%、英国が-0.3%と見込まれている。また、欧州委員会の2023年冬の(中間)経済見通し、欧州中央銀行(ECB)のスタッフ経済見通し(2023年3月)による実質GDP成長率の見通しは、第I-3-2-11表に示すとおりとなっている。
第Ⅰ-3-2-11表 欧州の実質GDP 成長率の見通し