第4節 ASEAN・インド
1.GDP
(1)ASEAN
ASEAN主要6か国の2022年の実質GDP成長率は、インドネシア(+5.3%)、タイ(+2.6%)、マレーシア(+8.7%)、シンガポール(+3.6%)、フィリピン(+7.6%)、ベトナム(+8.0%)と、シンガポールを除く各国で前年から加速し、総じて高い成長率となった(第I-3-4-1図)。コロナ禍からの経済活動の再開や、外国人観光客の増加による観光関連産業の回復により、内需が堅調に拡大し、成長をけん引した。
第Ⅰ-3-4-1図 ASEAN各国の実質GDP成長率
四半期ベースでは、2022年10-12月期は前期から減速したものの、おおむね堅調な成長が続いている。タイ、シンガポールでは輸出の減少により成長率が低下しており、世界経済の成長鈍化による輸出鈍化の影響が出ていると見られる199。
インドネシアの2022年通年の実質GDP成長率は、+5.3%と前年(+3.7%)から加速し、2013年以来の高成長となった。需要側では、前年に続き輸出が成長をけん引した。民間消費の寄与は前年から拡大した一方、政府消費はマイナス寄与となった。総固定資本形成はプラス寄与を維持した。産業別では、サービス業の寄与が拡大し成長をけん引したほか、製造業、農林漁業、鉱業の寄与も拡大した(第I-3-4-2図)。
第Ⅰ-3-4-2図 インドネシアの実質GDP成長率と項目別寄与度
タイの2022年通年の実質GDP成長率は、+2.6%と前年(+1.6%)から加速した。需要側では、民間消費の寄与が前年から拡大し、経済成長を下支えした。輸出の寄与は縮小した。総固定資本形成はプラス寄与を維持した一方、政府消費はマイナス寄与となった。産業別では、サービス業の寄与が大きく拡大した一方、製造業の寄与は縮小した。鉱業は前年に続きマイナス寄与となった(第I-3-4-3図)。
第Ⅰ-3-4-3図 タイの実質GDP成長率と項目別寄与度
マレーシアの2022年通年の実質GDP成長率は、+8.7%と前年(+3.1%)から加速し、2000年以来の高成長となった。需要側では、民間消費の寄与が大きく拡大するとともに、輸出も堅調を維持した。政府消費、総固定資本形成はプラス寄与を維持した。産業別では、サービス業の寄与が大きく拡大したほか、全ての産業でプラス寄与となった(第I-3-4-4図)。
第Ⅰ-3-4-4図 マレーシアの実質GDP成長率と項目別寄与度
シンガポールの2022年通年の実質GDP成長率は、+3.6%と前年(+8.9%)から減速した。需要側では、民間消費の寄与は前年から拡大した一方、輸出がマイナス寄与に転じた。政府消費はマイナス寄与となった一方、総固定資本形成はプラス寄与を維持した。産業別では、サービス業は前年から寄与が縮小したが堅調を維持した。製造業、建設業の寄与は縮小した(第I-3-4-5図)。
第Ⅰ-3-4-5図 シンガポールの実質GDP成長率と項目別寄与度
フィリピンの2022年通年の実質GDP成長率は、+7.6%と前年(+5.7%)から加速し、1976年以来となる高成長となった。需要側では、民間消費の寄与が前年から拡大し、成長をけん引した。輸出の寄与も拡大した。政府消費、総固定資本形成はプラス寄与を維持した。産業別では、サービス業の寄与が拡大し成長をけん引したほか、全ての産業でプラス寄与となった(第I-3-4-6図)。
第Ⅰ-3-4-6図 フィリピンの実質GDP成長率と項目別寄与度
ベトナムの2022年通年の実質GDP成長率は、+8.0%と前年(+2.6%)から加速し、1997年以来の高成長となった。需要側では、民間消費の寄与が前年から大きく拡大するとともに、総固定資本形成の寄与も拡大した。純輸出はプラス寄与に転じ、成長を後押しした。政府消費はプラス寄与を維持した。産業別では、サービス業の寄与が大きく拡大し成長をけん引したほか、全ての産業で寄与が拡大した(第I-3-4-7図)。
第Ⅰ-3-4-7図 ベトナムの実質GDP成長率と項目別寄与度
199 本節は2023年3月末時点で記述。
(2)インド
インドの2022年度(2022年4月~2023年3月)の実質GDP成長率(2023年2月時点のインド統計・計画実施省の推計値)は、+7.0%と前年度(+9.1%)から減速も、高い成長率となった。民間消費や総固定資本形成といった内需が成長をけん引した。
四半期ベースでは、2022年度第3四半期(10-12月期)の実質GDP成長率は、+4.4%と前期から減速した。民間消費の伸びが大きく鈍化した一方、総固定資本形成は堅調な伸びを維持した。政府消費は前期に続きマイナスとなった。インフレ対策としての利上げの影響や、世界経済の成長鈍化により、回復の勢いが鈍化していると見られる。供給側の実質GVA成長率は、+4.6%となった。製造業が2四半期連続でマイナス寄与となったほか、サービス業のプラス寄与も縮小した(第I-3-4-8図)。
第Ⅰ-3-4-8図 インドの実質GDP成長率、実質GVA成長率と項目別寄与度
2.消費動向
(1)ASEAN
ASEAN各国の小売売上高の動向(前年同月比)を見ると(第I-3-4-9図)、2022年前半はおおむね回復基調であったが、その後徐々に伸びが鈍化している。タイは10月、12月に前年同月比マイナスとなった。インドネシア、シンガポールも2023年1月はマイナスに転じた。
第Ⅰ-3-4-9図 ASEAN各国の小売売上高の推移
(2)インド
インドについては、購買意欲を反映する代表的な指標である自動車の国内販売台数の推移を見る(第I-3-4-10図)。コロナウイルス感染症拡大の影響により、2020年春に激減したが、その後は回復に転じた。2021年5月は感染再拡大により、同年9月は半導体不足と原材料価格高騰による生産体制縮小の影響により減少したものの、その後回復に転じ、2022年5月以降は前年同月比プラスの伸びを維持している。
第Ⅰ-3-4-10図 インドの国内乗用車販売台数
3. 外需動向
(1)ASEAN
ASEAN各国の財輸出を見ると(第I-3-4-11図)、2022年通年では、各国ともに前年比プラスとなった。特に、インドネシア、マレーシアは2割以上の大幅な増加となった。インドネシアでは全体の約2割を占める鉱物性燃料が約67%増と高い伸びとなった(第I-3-4-12表)。マレーシアでは全体の約4割を占める電気・電子製品が約30%増となった(第I-3-4-13表)。
第Ⅰ-3-4-11図 ASEAN各国の財輸出
第Ⅰ-3-4-12表 インドネシアの主要輸出品目
第Ⅰ-3-4-13表 マレーシアの主要輸出品目
月ベースでは、中国や米国の経済回復等を背景に、2022年前半はおおむね堅調に前年比プラスで推移したが、年後半から減速が見られる。タイ、シンガポールは2022年10月から5か月連続で前年同月比マイナスとなるなど、落ち込みが顕著となっているほか、ベトナム、フィリピンでも落ち込みが見られる。世界経済の成長鈍化が影響したと見られる。
(2)インド
インドの貿易収支は慢性的に赤字であるが、2022年は資源高による石油関連の輸入額増加により、輸入の伸びが輸出の伸びを上回り、赤字幅が拡大した(第I-3-4-14図)。
第Ⅰ-3-4-14図 インドの貿易収支
月ベースでは、2022年後半から輸出が鈍化傾向となっている。最大の輸出先である米国向けや、中国向けで前年同月比マイナスとなっており、世界経済の成長鈍化が影響していると見られる。
4. 生産活動
(1)ASEAN
ASEAN各国の鉱工業生産指数の前年同月比を見ると(第I-3-4-15図)、2022年後半から落ち込みが見られ、タイ、シンガポールでは2022年10月から5か月連続でマイナスとなっている。タイではコンピュータ、電子・光学製品及び化学製品が2022年を通じてマイナスだった(第I-3-4-16図)。輸出の減少が生産活動への下押し圧力となっていると見られる。
第Ⅰ-3-4-15図 ASEAN各国の鉱工業生産指数の推移
第Ⅰ-3-4-16図 タイの鉱工業生産指数の推移(業種別)
(2)インド
インドの鉱工業生産指数を見ると、コロナウイルス感染症拡大に伴う都市封鎖の影響で、2020年春に大幅に落ち込んだが、その後回復に転じ、2022年はおおむね前年同月比プラスで推移した。10月には医薬品をはじめとした幅広い製造業で生産が落ち込み、マイナスとなったが、その後はプラスに転じ、堅調に推移している(第I-3-4-17図)。
第Ⅰ-3-4-17図 インドの鉱工業生産指数の推移
5. 雇用動向
ASEAN各国の失業率(第I-3-4-18図)は、近年比較的低水準で推移していたが、新型コロナウイルス感染症拡大に伴う経済活動制限の影響を受け、2020年に大幅に上昇した。特にフィリピンでは10.4%と大きく悪化した。その後、規制緩和・経済活動の再開に伴い低下に転じ、2022年にはほぼコロナ禍前の水準まで改善した。
第Ⅰ-3-4-18図 ASEAN各国の失業率
6. 物価動向
(1)ASEAN
ASEAN各国の物価上昇(第I-3-4-19図)は比較的緩やかであったが、2022年に入ってそのペースが加速した。足下では、エネルギー及び食品価格の鈍化により、物価上昇が鈍化しピークアウトの動きが見られるが、フィリピンでは加速が継続し、2023年1月には+8.7%に達し、3月には鈍化も+7.6%と高い水準にある。
第Ⅰ-3-4-19図 ASEAN各国の消費者物価上昇率
インフレの進行を受け、2022年に入り各国中央銀行は利上げを継続していたが、インフレ鈍化を受け、インドネシアやベトナムで利上げ停止の動きも見られる。
(2)インド
インドでは、消費者物価指数の約4割のウェイトを占める食品価格や燃料価格の上昇により、2021年後半から物価上昇ペースが加速し、2022年1月からインド準備銀行(中銀)が定めるインフレ目標の上限(+6%)を10か月連続で上回った(第I-3-4-20図)。同年11月、12月は、食品価格の低下により鈍化し、その後再び上昇に転じたが、2023年3月には+5.7%に鈍化した。インフレ率の高止まりに対し、インド準備銀行(中銀)は6会合連続で政策金利を引き上げた。
第Ⅰ-3-4-20図 インドの消費者物価上昇率と項目別寄与度
7. 今後の見通し
直近の国際機関(IMF)の実質GDP成長率の見通しについては第I-3-4-21表のとおりである。世界経済が減速感を強めていく中においても、2023年、2024年のASEAN諸国・インドのGDP成長率は2022年に引き続き高い水準を維持することが見込まれている。
第Ⅰ-3-4-21表 実質GDP成長率の見通し(IMF)