第1節 G7/G20/OECD
1.G7
(1)ドイツ議長年(2022年1月~2022年12月)
① 首脳会合
(エルマウ・サミット)
2022年6月26日から28日にかけて、ドイツ・エルマウでG7エルマウ・サミットが開催された。「公正な世界に向けた前進」という全体テーマの下、G7首脳間で率直な議論が行われ、ロシアによるウクライナ侵略に対し、G7が結束して国際社会の秩序を守り抜くことが確認された。
岸田総理は、ロシアによるウクライナ侵略への対応や、物価対策を含む世界経済、インド太平洋などの地域情勢、気候変動といった課題について、2023年のG7日本議長年を見据え、日本として積極的にG7の議論を主導した。「世界経済」に関するセッションでは、ロシアのウクライナ侵略によって、世界経済はエネルギー・食料を始めとする物価の高騰、サプライチェーンの混乱など、多くの難問に直面しており、G7は各国の国民生活を物価高騰から守るための結束も強化していくべきである旨述べた。経済安全保障の観点からも、G7が中核となって明確な立場を示すべきである旨述べ、2023年の広島サミットを念頭に、議論を深めていくことを提案した。また、ドイツのショルツ首相の提案する「気候クラブ」については、カーボンニュートラルの達成には各国の裁量を尊重しつつ具体的な行動を促すことが肝要であり、大排出国を始めとするG20やASEAN諸国等の新興国の参加も得ながら、開かれた包摂的な協力を促すフォーラムとすべく、議論に貢献していく旨を述べた。
G7として世界経済の安定と変革に貢献すると同時に、生活コストの上昇に対処すること、また経済安全保障について協力し、サプライチェーンの強靱性を強化し、公平な競争の場を確保すること等で一致した。また、開かれた協力的で国際的な「気候クラブ」の目標を承認し、2022年末までの設立に向けてパートナーと共に取り組むことを確認した。
議論の総括として、G7首脳コミュニケ及び五つの個別声明が発出され、「公正で予測可能かつ安定的な貿易環境を実現すべく、WTO改革へのコミットメントを新たにする」こと、「外的ショック及びより広範なリスクに直面した際の経済安全保障に関する我々の既存の協力を評価しつつ、この問題に関するG7としての進展中の戦略的協調にコミットする」こと、「「気候クラブ」を2022年末までに設立する」こと、「国境を越えた信頼性のある自由なデータ流通を促進するための我々の努力を強化」すること、「ロシアの侵略の国際的影響、特に最もぜい弱な人々に対するものに取り組むことを通じて、グローバルな責任及び連帯を示すことにコミットする」こと等が明記された。
[参考]参加国・国際機関
<G7メンバー>
ドイツ(議長国)、日本、イタリア、カナダ、フランス、米国、英国、EU
<招待国>
インド、南アフリカ、インドネシア(G20議長国)、セネガル(AU議長国)、アルゼンチン(CELAC議長国)、ウクライナ
<国際機関>
国連、国際エネルギー機関(IEA)、国際通貨基金(IMF)、経済協力開発機構(OECD)、世界銀行、世界保健機関(WHO)、世界貿易機関(WTO)、国際労働機関(ILO)
(その他G7首脳会議)
ロシアによるウクライナ周辺における軍備増強や二つのいわゆる「人民共和国」の「独立」承認など、ウクライナ情勢への懸念が高まる中、議長国ドイツの呼びかけにより、2022年2月24日にG7首脳テレビ会議が開催され、岸田総理が出席した。同日、ロシアによるウクライナ侵攻が開始されたことも踏まえ、会合後、「G7首脳声明」及び「ロシア連邦軍によるウクライナ侵攻に関するG7首脳声明」が発出された。その後も、ロシアによるウクライナ侵略の情勢に応じ、議長国ドイツの呼びかけにより、同年3月24日にG7首脳会合(ベルギー・ブリュッセル)、5月9日、10月11日、12月13日にもG7首脳テレビ会議が開催された。ロシアによる違法で、不当で、いわれのないウクライナに対する侵略戦争を非難し、国際的に認められた国境内におけるウクライナの独立、領土一体性及び主権に対する支持を確認するとともに、ロシア等に対する経済制裁の実施や、ウクライナへの財政的、人道的、外交的支援、世界の経済の安定、食料及びエネルギー安全保障への影響に対処にしていくこと等について、G7で協調して取り組んでいくことを確認した。
[参考]参加国・国際機関
<G7メンバー>
ドイツ(議長国)、日本、イタリア、カナダ、フランス、米国、英国、EU
<招待国>
ウクライナ(2月24日G7首脳テレビ会議を除く)
<国際機関>
北大西洋条約機構(NATO)(2月24日G7首脳テレビ会議、3月24日G7首脳会合のみ)
② 貿易大臣会合
2021年のG7議長国であった英国が立ち上げたG7貿易大臣会合を翌2022年の議長国であるドイツが引き継ぎ、2022年も開催することを決定した。
(第1回)
2022年3月23日に開催され、萩生田前経済産業大臣、林外務大臣がテレビ会議形式で参加した。本会合では、ロシアのウクライナ侵略への対応や、第12回WTO閣僚会議(MC12)を見据えた多角的貿易体制の維持・強化等に関して、活発な議論が行われた。
萩生田前経済産業大臣からは、ロシアの侵略を食い止め、国際社会に秩序を取り戻すため、引き続きG7メンバーと連携したいこと、また分断された世界経済を繋ぎとめる最も重要な基盤は、WTOであり、途上国の広範な支持を得てWTOの諸機能を取り戻すためにWTO改革のための議論を動かしていくことなどを述べた。
(第2回)
2022年9月14日及び15日にドイツ・ノイハルデンベルクで開催され、西村経済産業大臣、山田外務副大臣が参加した。ウクライナ復興支援、強靱で持続可能なサプライチェーン、WTO改革、公平な競争条件等について議論がなされ、貿易大臣声明が採択された。また14日夜には、ウクライナのスヴィリデンコ第一副首相兼経済発展・貿易大臣を招待し、G7貿易閣僚との夕食会が開催され、ロシアの侵略を受けたウクライナに対する貿易面での復興支援措置についても議論がなされた。
西村経済産業大臣からは、サプライチェーン強靱性について、G7として、輸出規制の抑制など、市場を開き、貿易投資を促進するための取組をリードすると同時に、重要物資の供給源の多様化や産業基盤強化を通じた備えを行う必要があること、WTOについてはMC12の合意を歓迎し、そのコミットメントをもとに、WTO改革に引き続き取り組むこと、また不透明かつ市場歪曲的な措置に対しては有志国で結束して対応すると共に、G7として、「経済的威圧を許容しない」との立場を世界に示し、幅広い有志国と連携して行う具体的な対応策についても模索する必要があることなどを述べた。
<貿易大臣声明の概要>
- ロシアのウクライナに対する不当で、不法な侵略戦争を引き続き非難。ロシアが不法な侵略から利益を得ることを阻止し、戦争を遂行する能力を削減するため連携した取組を維持・強化。
- 第12回世界貿易機関(WTO)閣僚会議(MC12)で採択された、食料不安への緊急対応に関する閣僚宣言を支持。
- ウクライナの復興努力を支援するため、将来の貿易・投資措置の調整を継続。
- WTOを中核とするルールに基づく多角的貿易体制を再活性化させ、改革するとのコミットメントを再確認。
- 1)完全かつよく機能する紛争解決制度の実現、2)透明性及び効果的な対話のためのモニタリング機能の改善、3)途上国・後発開発途上国を世界経済により良く統合する交渉機能の改善を含むWTO改革について、MC13までに具体的な進展を達成することを目指す。
- MC13までにWTO電子商取引交渉を大きく進展させるよう期待。
- 電子的送信に対する関税不賦課のモラトリアムについて、恒久的な解決策を見出すことを確認。
- 貿易を多角化し、互恵的な貿易関係を拡大することが、サプライチェーンを確保し、経済の強靭性と持続可能性を向上させるための鍵であることを強調。
- サプライチェーンが我々の気候変動に関する目標及び資源の持続可能な利用を促進すべきであるとの見解を共有。
- 環境に関する物品・サービス貿易の促進、循環型経済の促進、貿易関連の気候対策・政策が、WTOと整合的で、気候及び環境目標やパリ協定及びグラスゴー気候合意のコミットメントの達成に向けた議論に積極的に関与。
- グローバル・サプライチェーンにおけるあらゆる形態の強制労働及び児童労働の使用への懸念を強調。
- あらゆる形態の強制技術移転、国有企業による市場歪曲的行動、有害な産業補助金等の非市場的な政策及び慣行等に対し、公平な競争条件の実現に向けた取組を維持、推進。
- 経済的威圧への取組の協力を強化し、かかる行動への評価、準備、抑止及び対応を改善。
[参考]参加した国際機関等
世界貿易機関(WTO)、経済協力開発機構(OECD)(いずれもリモート参加)
③ デジタル大臣会合
ドイツが議長国を務め、2022年5月10日及び11日の2日間にわたり、G7デジタル大臣会合がデュッセルドルフで開催された。本会合には、日本から吉川前経済産業大臣政務官及び牧島前デジタル大臣、佐々木総務審議官が参加し、“Strong together”をテーマに、①デジタル化及び環境、②標準化、③信頼性のある自由なデータ流通(以下、「DFFT」)、④デジタル競争市場、⑤オンラインの安全性(eSafety)、⑥電子的移転可能記録(ETRs)の6分野に加え、ロシアのウクライナ侵攻に関連して、サイバー・レジリエンスについての議論が行われた。
会合中、吉川政務官からは、大臣宣言の議論において、2019年のG20大阪サミットで日本が提唱したコンセプトであるDFFT具体化について、経済産業省ではG7の連帯の下、evidence-basedなアプローチに基づき、データの越境移転の現実を踏まえたプラグマティックな課題解決型の提案の検討を進めていることを発信した。また、データセンター等のデジタルインフラについて、様々な分野で急速にデジタル化が進んでいることにより、データ処理量の大幅な増加に伴い、デジタルインフラの電力消費量の増大が見込まれることから、今からデジタル部門のグリーン化に取り組んでおくことの重要性を主張した。
加えて、B7とのラウンドテーブルにおいて、デジタル化の恩恵を最大化していく政策を遂行していくためには、官民の円滑な連携の重要性が増しており、特に、DFFTの具体化をさらに進めるためには、政府だけでなく、産業界を始め、データの利活用に関わる全ての関係者の協力が重要である旨、発言し、意見交換を行った。
こうした議論を踏まえ、マルチステークホルダーが、新型コロナウイルス感染症の大流行、気候変動、環境、その他のグローバルな課題に取り組み、より豊かで強靭な経済社会を構築することを目指し、イノベーションの支援、民主的価値及び普遍的な人権の尊重を強化、オープンで相互運用可能で信頼性が高い安全なインターネット維持のための協調的努力を継続し、これらの価値や権利を損なう可能性のある措置に反対する旨のメッセージを大臣宣言として採択した。
こうした議論を踏まえ、新型コロナウイルス感染症からの包摂的な復興において、デジタル技術を活用しながら生産性の高い強靭な社会を構築することを目指し、民主主義的な価値を共有するG7各国が共に協力するというメッセージを大臣宣言として採択した。
<デジタル大臣宣言の内容>
- ロシアによるウクライナへの軍事進攻を強く非難。通信インフラを含むデジタルインフラについて、サイバー上の脅威に対する認識の向上と共有、サイバー対策に関する協力の拡大を含め、サイバー・レジリエンスを向上させることに合意。
- デジタルソリューションが環境保護の強化と温室効果ガス排出のネットゼロ達成に貢献できることを再確認。その一方で、データセンターや通信ネットワークなどのデジタル技術やサービスの利用の増加に伴うエネルギーや資源の需要を高めており、専門家やステークホルダーとの対話を通じ、デジタル技術をより良く活用するための方法を模索。
- オープンで民間企業主導の自発的かつコンセンサスベースによるデジタル技術標準化に対するG7協調の更なる強化に合意。2022年9月開催予定のハイレベルマルチステークホルダーイベントを歓迎。
- Data Free Flow with Trust(DFFT:信頼性ある自由なデータ流通)はイノベーション、繁栄、その他の民主主義的価値を支えるものであることを確認。また、共有する民主主義的価値観と、DFFTの利益を制限する措置に対処する決意を再確認し、デジタル保護主義に反対。DFFTを推進すべく、将来の相互運用性を促進するため、共通理解を深め、既存の規制アプローチと手段の間の共通性、補完性及び収斂の要素の特定に向けた取り組むための努力を強化することに合意。
- プラットフォーム規制を含むデジタル競争問題に関する国際的な協力の深化。2022年秋にG7意思決定者間の議論を行うことを支持。G7競争当局間の継続的な情報・経験の交換を歓迎。
- オンラインの安全性を向上させ、インターネット上の違法・有害なコンテンツや活動を削減するというコミットメントを再確認。2022年秋のマルチステークホルダーダイアログを歓迎。
- 電子的移転可能記録の促進のための法的枠組みの設計や電子貨物輸送情報及び文書の交換に関する官民専門家の対話を継続。2021年G7で合意した電子的移転可能記録に関する協力をさらに進め、国際貿易における情報のデジタル化の促進の取組を支援。
[参考]参加した招待国・国際機関
<招待国>
ウクライナ
<国際機関>
経済協力開発機構(OECD)、B7
④ 気候・エネルギー・環境大臣会合
2022年5月26日から27日にかけて、ドイツが主催するG7気候・エネルギー・環境大臣会合が開催され、経済産業省から細田前経済産業副大臣が、環境省から大岡前環境副大臣が参加した。
G7気候・エネルギー・環境大臣会合では、気候変動、生物多様性の損失及び汚染という3つの危機に統合的に対応する必要性を確認するとともに、地政学的情勢を踏まえたエネルギー安全保障の確保に加え、カーボンニュートラルの実現に向け、気候変動対策の強化や、エネルギー・トランジションの重要性、産業のグリーン・トランスフォーメーション等について議論がなされた。細田前経済産業副大臣は、四つのセッションに参加し、ウクライナ情勢も踏まえ、エネルギー安全保障の確保の観点が重要であること、世界全体のカーボンニュートラルの実現に向け、①各国の事情に応じた多様な道筋、②イノベーションの創出、③先進国による途上国へのエンゲージメントが重要であること、について発言した。また、目標達成に向けた削減の取組を経済の成長の機会と捉え、排出削減と産業競争力の向上の実現に向けて、経済社会システム全体を変革すること、すなわちグリーン・トランスフォーメーション(GX)を進めていくことについて発言した。
こうした議論に加え、会合での議論の内容を踏まえ、閣僚声明が取りまとめられた。
[参考]参加した招待国・国際機関
<招待国>
インドネシア
<国際機関>
国際エネルギー機関(IEA)、国連気候変動枠組条約(UNFCCC)、国際再生可能エネルギー機関(IRENA)等
(2)日本議長年(2023年1月~2023年5月まで)
①首脳会合
(G7首脳テレビ会議)
ロシアによるウクライナ侵略の開始から1年となる2023年2月24日、G7議長国である我が国の呼びかけにより、G7首脳テレビ会議が行われ、岸田総理が議長を務めた。ロシアによるウクライナ侵略が続く中、G7として結束して取り組んでいくこと、力による一方的な現状変更の試みは、世界のどこにおいても決して許してはならないこと、ウクライナに寄り添い、支援を必要とする国や人々を支援し、法の支配に基づく国際秩序を堅持することについて、G7の連帯は決して揺らぐことはないことで一致した。
岸田総理は、厳しい対露制裁と強力なウクライナ支援といった具体的な取組を通じ、ロシアによる侵略をやめさせ、法の支配に基づく国際秩序を堅持するというG7の確固たる決意を示していく旨強調した。また、日本の強みを活かし、人道支援、財政支援、エネルギー部門での支援等、ウクライナの人々に寄り添った支援をきめ細かく実施してきている旨説明した。ロシアによる核の威嚇は国際社会の平和と安全に対する深刻な脅威であり、断じて受け入れられず、2023年5月の広島サミットにおいても、強く発信していきたいとの考えを説明した。また、いわゆるグローバル・サウスへの関与や支援の重要性を強調し、ぜい弱国に寄り添った支援を行い、G7としての貢献をグローバル・サウスに示していくことが重要である旨述べた。
会合後、G7首脳声明が発出され、「ウクライナに対する外交的、財政的及び軍事的支援を強化し、ロシア及びロシアによる戦争遂行を支援する者に対するコストを増加させ、世界の、とりわけ最もぜい弱な人々に対する戦争の負の影響に対抗し続けることにコミットする」こと、G7財務大臣により「2023年の財政及び経済支援を390億米ドルに増額する」ことがコミットされたこと、「インフラの復興を含む、ウクライナの再建の努力を支援する」こと、「ロシアに対する新たな協調された経済的行動を講じる」こと等について明記された。
[参考]参加国
<G7メンバー>
日本(議長国)、イタリア、カナダ、フランス、米国、英国、ドイツ、EU
<招待国>
ウクライナ
(G7広島サミット)
2023年5月19日から21日にかけて、G7広島サミットが開催された。日本が議長国としてサミットを開催するのは7回目である。
岸田総理は、今回のサミット全体を通じての大きなテーマは、分断と対立ではなく協調の国際社会の実現に向けたG7の結束の確認と役割の強化であり、そのための積極的かつ具体的な貢献を打ち出すことである旨述べ、G7首脳は、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を守り抜くこと、G7を超えた国際的なパートナーとの関与を強化することの重要性について一致した。
セッション1「分断と対立ではなく協調の国際社会へ/世界経済」では、貿易、デジタルを含む世界経済について議論が行われた。貿易について、岸田総理は、WTOを中心とするルールに基づく自由で公正な貿易体制は、世界の成長及び安定の基盤である旨述べた。G7首脳は、自由で公正な貿易体制の維持・強化に取り組んでいく必要性について一致した。デジタルについて、岸田総理は、「人間中心の信頼できるAI」を構築するためにも、「信頼性のある自由なデータ流通(DFFT)」を具体化させるべく、閣僚レベルの合意に基づき、国際枠組の早期設立に向けて協力を得たい旨、また、議長国として相応の拠出も含め、貢献していく旨を述べた。G7首脳は、G7の価値に沿った生成系AIや没入型技術のガバナンスの必要性を確認するとともに、特に生成系AIについては、「広島AIプロセス」として担当閣僚のもとで速やかに議論させ、本年中に結果を報告させることとなった。
セッション5「経済的強靱性・経済安全保障」では、経済安全保障上の課題に対処する重要性の急速な高まりを受け、今回初めてサミットの議題として取り上げ、G7として、率直な議論を行った。多角的貿易体制の重要性は変わらないが、同時に、「グローバル・サウス」を含む国際社会全体の経済的強靭性と経済安全保障を強化していくことも必要であるという認識の下、G7として、(1)サプライチェーンや基幹インフラの強靱化、(2)非市場的政策及び慣行や経済的威圧への対応の強化、(3)重要・新興技術の適切な管理を含め、結束して対応していくことを確認した。また、経済安全保障はG7が緊密な連携の下で取り組んでいくべき戦略的な課題であるとの認識の下、経済安全保障に関する取組について、G7枠組を通じて包括的な形で協働し、連携していく意思を確認した。本セッションでの議論を踏まえ、G7として初めて、経済的強靭性及び経済安全保障に関する包括的かつ具体的なメッセージを「経済的強靭性及び経済安全保障に関するG7首脳声明」として発出し、4月の貿易大臣会合の成果を踏まえ、「強靭で信頼性のあるサプライチェーンに関する原則」を表明した。また、経済的威圧への対応の一環として、「経済的威圧に対する調整プラットフォーム」という事務レベルでの枠組みを立ち上げた。同様に、本セッションでの議論を踏まえ、G7として、クリーンエネルギー移行に必要不可欠な重要鉱物及び再生エネルギー機器製造のサプライチェーンの強じん化に関する「クリーンエネルギー経済行動計画」を発表し、世界全体のクリーンエネルギー経済への移行を加速することで一致した。
セッション7「持続可能な世界に向けた共通の努力」では、8か国の招待国と7つの招待機関を交え、気候・エネルギー、環境等について議論した。岸田総理から、エネルギー安全保障、気候危機、地政学リスクを一体的に捉え、この「トリレンマ」の克服のために、再エネや省エネの活用を最大限進めつつ、経済成長を阻害しないよう、各国の事情に応じ、あらゆる技術やエネルギー源を活用する多様な道筋の下で、ネット・ゼロという共通のゴールを目指すことの重要性や、クリーンエネルギー移行に不可欠なクリーンエネルギー機器及び重要鉱物のサプライチェーンの強靱化の必要性を共有した。G7、招待国及び招待機関は、気候変動、生物多様性、汚染といった課題に一体的に取り組む必要があることを確認した。
ゲストとしてゼレンスキー・ウクライナ大統領を招待したセッション8「ウクライナ」では、G7首脳及びゼレンスキー大統領の間でウクライナ情勢について議論し、G7として、ウクライナに対して外交、財政、人道、軍事支援を必要な限り提供するという揺るぎないコミットメントを着実に実施していくことで一致するとともに、ウクライナに平和を取り戻し、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を守り抜いていくことの決意を確認した。また、セッション9「平和で安定し、繁栄した世界に向けて」では、G7首脳、8か国の招待国首脳及びゼレンスキー大統領の間で、ウクライナ情勢を始め、国際社会が直面する平和と安定への挑戦にどのように対応すべきか議論が行われた。ウクライナ情勢に関し、各国首脳からは、ロシアによるウクライナ侵略がもたらしている人的被害やエネルギー、食料不安の増大を含む世界経済への悪影響につき、深い懸念が表明された。また、インド太平洋やアフリカを始め、国際社会が抱える様々な平和と安定に関する諸課題については、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を守り抜くこと、力による一方的な現状変更の試みを許してはならないこと等が重要であるとの認識を共有した。
議論の結果、G7首脳は、「G7広島首脳コミュニケ」の他、以下の個別声明を発出した。
- ウクライナに関するG7首脳声明
- 核軍縮に関するG7首脳広島ビジョン
- 経済的強靭性及び経済安全保障に関するG7首脳声明
- G7クリーン・エネルギー経済行動計画
また、G7及び招待国首脳による個別声明として、「強靱なグローバル食料安全保障に関する広島行動声明」を発出した。
[参考]参加国
<G7メンバー>
日本(議長国)、イタリア、カナダ、フランス、米国、英国、ドイツ、EU
<招待国>
オーストラリア、ブラジル、コモロ(アフリカ連合(AU)議長国)、クック諸島(太平洋諸島フォーラム(PIF)議長国)、インド(G20議長国)、インドネシア(ASEAN議長国)、韓国、ベトナム (※別途ゲストとして、ウクライナも参加。)
<国際機関>
国連、国連エネルギー機関(IEA)、国際通貨基金(IMF)、経済協力開発機構(OECD)、世界銀行、世界保健機関(WHO)、世界貿易機関(WTO)
2.G20
インドネシア議長年(2021年12月~2022年11月)
①首脳会合
2022年11月15日及び16日、インドネシア・バリにてG20バリ・サミットが開催され、「共に回復し、より強く回復する(Recover Together, Recover Stronger)」のテーマの下、食料・エネルギー安全保障、国際保健、デジタル・トランスフォーメーションといった課題について議論が行われた。岸田総理は、ロシアによるウクライナ侵略を強く非難し、ロシアによる核の脅しも使用もあってはならない旨を訴えるとともに、2023年のG7日本議長年を見据えつつ、これらの重要課題に関する日本の立場と取組を積極的に発信し、議論に貢献した。また、食料・エネルギー市場の安定化のため、市場の透明性を確保し、恣意的措置や政治的利用を防止することが必要である旨述べ、エネルギーに関しては、脱炭素化を進める過程でぜい弱な層が取り残されてはならず、上流投資や供給源の多角化を含めエネルギー安全保障を確保した上で、現実的なエネルギー移行を着実に進めていくことが重要であり、「アジア・ゼロエミッション共同体構想」の実現に向けて取り組んでいく考えを表明した。
議論の総括として、G20バリ首脳宣言が発出され、「G20が安全保障問題を解決するためのフォーラムではないことを認識しつつ、我々は、安全保障問題が世界経済に重大な影響を与え得ることを認識する」こと、「紛争の平和的解決、危機に対処する取組、外交・対話が極めて重要である。今日の時代は戦争の時代であってはならない」こと、「WTOを中核とする、ルールに基づく、差別的でない、自由、公正で、開かれた、包摂的、公平、持続可能でかつ透明性のある多角的貿易体制」の重要性、「サプライチェーンの問題に対処し、貿易の混乱を回避するために、国際貿易・投資に係る協力を強化する」こと、「気候とエネルギーの危機が地政学的な課題によりさらに悪化している」ことから、「クリーンで、持続可能で、公正かつ負担可能で、包摂的なエネルギーへの移行と持続可能な投資の流れを加速し確実なものとすることにより、エネルギーシステムを迅速に変革・多様化させ、エネルギー安全保障、強靱性及び市場の安定性を強化する」こと、「信頼性のある自由なデータ流通をさらに可能にし、国境を越えたデータ流通を促進」すること等が明記された。
[参考]G20メンバー・招待国・国際機関
<G20メンバー>
インドネシア(議長国)、日本、アルゼンチン、豪州、ブラジル、カナダ、中国、フランス、ドイツ、インド、イタリア、メキシコ、韓国、ロシア、サウジアラビア、南アフリカ、トルコ、英国、米国、EU
<招待国>
スペイン、オランダ、シンガポール、カンボジア(ASEAN議長国)、セネガル(AU議長国)、スリナム(CARICOM議長国)、ルワンダ(NEPAD議長国)、フィジー(PIF議長国)、アラブ首長国連邦、ウクライナ
<国際機関>
アジア開発銀行(ADB)、金融安定化理事会(FSB)、国際労働機関(ILO)、国際通貨基金(IMF)、イスラム開発銀行、経済協力開発機構(OECD)、国際連合(UN)、世界銀行、世界保健機関(WHO)、世界貿易機関(WTO)
②貿易・投資・産業大臣会合
2022年9月21日、22日及び23日に、G20貿易・投資・産業大臣会合がインドネシアで開催され、太田経済産業副大臣、髙木外務大臣政務官が出席した。本会合では、WTO改革、SDGs達成強化のための多角的貿易システムの役割、持続可能な投資、インダストリー4.0等について議論がなされた。太田副大臣からは、WTOの活動はSDGs実現のために不可欠であり、WTOルールによる世界経済のガバナンスが失われないよう、G20でWTO改革の議論を前進させたいこと、経済成長と持続可能性を両立するための政策を、G20で協力して実行していきたいこと、デジタル貿易は、途上国の人々や企業がグローバル経済に参加する機会を拡大するものであり、その発展に必要な基本的な考え方であるデータ・フリー・フロー・ウィズ・トラスト(DFFT)を推進するWTOでの電子商取引交渉の早期合意を目指したいことなどを述べた。
会合では、閣僚宣言に係る議論が合意に至らなかったため、閣僚宣言の採択は行われず、会合終了後に議長国のインドネシアから議長声明が発出された。
[参考]参加した招待国・国際機関
<招待国>
ブルネイ、コンゴ民主共和国、ヨルダン、オランダ、ニュージーランド、ルワンダ、シンガポール、スペイン、スイス
<国際機関>
世界貿易機関(WTO)、世界銀行(WB)、国連貿易開発会議(UNCTAD)、経済協力開発機構(OECD)、国際通貨基金(IMF)、国際貿易センター(ITC)
③3デジタル経済大臣会合
インドネシアが議長国を務め、2022年9月1日に、G20デジタル経済大臣会合がバリ島で開催された。本会合には、日本から長峯経済産業大臣政務官、河野デジタル大臣、柘植総務副大臣が参加し、G20全体のテーマでもある"Recover Together, Recover Stronger"をテーマに、①接続性・COVID19からの回復、②デジタルスキル・リテラシー、③信頼性ある自由なデータ流通(DFFT)及び越境データ流通の三つのイシューを含む、デジタル・トランスフォーメーションに係る議論が行われた。
大臣会合に先立ち行われたデジタル経済ワーキンググループ(DEWG)において、閣僚宣言に係る議論が合意に至らなかったために、閣僚宣言の採択は行われなかったが、同年9月21日付で議長国のインドネシアから議長声明が発出された。
会合の中で、長峯経済産業大臣政務官からは、2019年のG20で日本が提唱した信頼性ある自由なデータ流通(DFFT)の具体化に向けて、越境データ流通に係る課題に取り組むべく、異なるデータガバナンスの間の相互運用性や規制の透明性を高める方法を検討するとともに、PETsなどの先進的な技術を活用しながら、新たなガナバンス手法を推進するために必要な国際的な仕組みを立ち上げることなどを発信した。
[参考]参加した招待国・国際機関
<招待国>
カンボジア(ASEAN議長国)、フィジー、ルワンダ(NEPAD議長国)、セネガル(AU議長国)、シンガポール、スリナム、オランダ、UAE、スペイン
<国際機関>
国際電気通信連合(ITU)、経済協力開発機構(OECD)、国連貿易開発会議(UNCTAD)、国連アジア太平洋経済社会委員会(UNESCAP)
④環境・気候大臣会合
2022年8月31日、G20環境・気候大臣会合がインドネシア・バリにて開催され、環境省から西村環境大臣、及び経済産業省から長峯経済産業大臣政務官が参加した。
本会合では、議長国が掲げた優先課題である、①より持続可能な復興の支援、②環境保護及び気候目標を支援するための陸上及び海上での行動の強化、③環境保護及び気候目標の取組を支援するための資源動員の強化について議論が行われた。長峯経済産業大臣政務官は、クリーンエネルギー中心となるよう社会システムを変革し、排出削減と経済成長を両立すること、すなわちグリーン・トランスフォーメーション(GX)を実現することの重要性に言及の上、実現に向けた道筋の具体的政策について発言した。また、会合での議論の内容を踏まえ、議長国から議長サマリーが発出された。
[参考]参加した招待国・国際機関
<招待国>
カンボジア、エジプト、オランダ、スペイン、シンガポール、スペイン、UAE、フィジー
⑤エネルギー移行大臣会合
2022年9月2日、G20エネルギー移行大臣会合がインドネシア・バリにて開催され、経済産業省から西村経済産業大臣が参加した。G20エネルギー移行大臣会合では、世界経済とエネルギー展望に関するセッション、エネルギー移行の加速化に関するセッション等が開催され、エネルギーアクセスの確保、スマートかつクリーンな技術の拡大、エネルギーファイナンスの展開などの論点について議論された。西村経済産業大臣は、カーボンニュートラルの実現に向けて重要な観点として、脱炭素化技術に関する研究開発等によりイノベーションを創出すること、カーボンニュートラルに向けたトランジションについては各国の事情に応じた多様な道筋を追求すべきということ、新興国や途上国に対して、ファイナンス支援や人材育成等で積極的に関与していくことの3点を指摘し、また、エネルギー危機の状況から脱却するために世界の主要国が集まったG20各国に対して実効的な措置を迅速に講じることの重要性等につき発言した。
会合での議論の内容を踏まえ、議長総括および、その付属文章として、クリーンエネルギー・トランジションに向けた九つの原則で構成されるバリ・コンパクトが発出された。
[参考]参加した招待国・国際機関
<招待国>
スペイン、シンガポール、UAE、ポーランド、オランダ、カンボジア、フィジー、セネガル、ルワンダ
<国際機関>
経済協力開発機構(OECD)、国際エネルギー機関(IEA)、国際再生可能エネルギー機関(IRENA)、国際エネルギーフォーラム(IEF)、万人のための持続可能なエネルギー(SEforALL)等
3.経済協力開発機構(OECD)閣僚理事会
2022年OECD閣僚理事会
2022年6月9日及び6月10日、OECD閣僚理事会(Meeting of the Council at Ministerial Level:MCM)が、「我々が望む未来:次世代及び持続可能な移行に向けたより良い政策(The Future We Want:Better Policies for the Next Generation and a Sustainable Transition)」というテーマで開催され、日本からは、山際前経済財政政策担当大臣、三宅前外務大臣政務官、広瀬前経済産業審議官が参加した。
議長国のイタリア、副議長国のメキシコ及びノルウェーの下、開会セレモニーでは、コーマンOECD事務総長から、ロシアの違法な侵略やパンデミックからの回復、気候変動等多くの課題がある中で、国際的な協力とOECDの専門性を発揮すべき時である旨、ゼレンスキー・ウクライナ大統領(オンライン参加)から、ロシアの侵略はEU全てのルールに違反しており、歴史的に困難な状況に陥りやすいエネルギー問題で欧州が分断されるのではなく、民主主義等のこれら共通の価値を守るべく、ウクライナを守るために行動が必要である旨発言があった。
会合では、ロシアによるウクライナ侵略の影響、貿易と環境の持続可能性、OECDとアフリカとの連携、若者たちの未来、グリーントランジション等について議論された。
会合の最後には、ロシアによるウクライナ侵略、気候変動等の課題について各国の立場や見解を踏まえた閣僚声明が採択された。その中で、ロシアによるウクライナ侵略への非難、経済的威圧への対抗、非加盟国によるOECDのスタンダードの遵守の促進、炭素削減アプローチに関する包摂的フォーラム(IFCMA)の立ち上げ、サプライチェーンに関する国際協力の強化、コーポレート・ガバナンス及び責任ある企業行動(RBC)の強化、ガバメント・アクセスに関する原則策定やDFFTに関する協力の継続等も盛り込まれた。
[参考]キーパートナー国・招待国・国際機関
<キーパートナー国>
ブラジル、中国、インドネシア、南アフリカ
<招待国>
ブルガリア、クロアチア、ペルー、ルーマニア、香港、モロッコ、エジプト、タイ、ベトナム、アフリカ諸国
<その他>
EU、BIAC、TUAC、IEA他。開会式にゼレンスキー・ウクライナ大統領がオンライン参加。