第Ⅲ部 第2章 各国戦略

第2節 欧州

1.EU関係

欧州連合(EU)は、27か国が加盟、人口約5億人、GDPは世界全体の2割近くを占める政治・経済統合体である。EUは、域外に対する統一的な通商政策を実施する世界最大の単一市場であり、単一通貨のユーロには、20か国が参加している。また、国際秩序が液状化する中にあって、自由、民主主義、法の支配、人権といった基本的価値や原則を共有するという意味で我が国にとって重要なパートナーである。

また、欧州委員会は、フォン・デア・ライエン欧州委員会委員長(ドイツ出身)、ミシェル欧州理事会議長(ベルギー出身)の下、気候変動(グリーン)分野、デジタル分野を中心に意欲的な政策の打ち出しを図っており、新型コロナウイルス感染症からの復興においても、復興基金「次世代のEU」の活用等を通じた大規模な投資の促進に加え、グローバルなルールメイキングの主導を一層推進する姿勢を示している。

気候変動(グリーン)分野については、2021年7月、「欧州気候法」が成立し、2030年までに温室効果ガス55%削減(90年比)を法的拘束力のある目標とすることを正式決定した。また、同年7月と12月に「Fitfor55パッケージ」を発表し、既存法の改正、新法を含む17の法案を提案した。その中で、EU排出権取引制度指令(EU-ETS)においては、海上輸送、建築、陸上輸送など対象セクターが拡大されるとともに、既存対象セクターの更なる排出上限を大幅に削減する改正案が2022年12月に政治的合意。加えて、炭素国境調整措置(CBAM)では、カーボンリーゲージのリスクが高いセメント、鉄・鉄鋼、アルミニウム、肥料、電力に加えて、水素を新たに対象と加えるなど適用範囲を拡大する等の規則案が2022年12月に政治的合意。また、自動車CO2排出規則も改正案が提案され、その中で2035年内燃機関車の販売の禁止が打ち出された。

さらに、2022年5月、今般のウクライナ情勢を踏まえ、エネルギー価格高騰及び需給ひっ迫への対応策、ロシア産化石燃料依存からの脱却を2本柱とし、ガス供給源の多様化、再エネ、省エネ、水素促進等を方針とする「RePowerEU計画」を公表した。

EUの貿易政策においては、「開かれた戦略的自律」を柱として掲げ、2022年9月には、新型コロナウイルス感染症拡大を教訓として緊急時にEUの単一市場の機能を維持し、戦略的物資を確保するために「単一市場緊急措置規則案」を公表。また、ネット・ゼロ移行のために必要となるクリーン技術の欧州内で確保するために「グリーン・ディール産業計画」を2023年2月に発表。その後、同計画に沿って、クリーン産業への投資及び資金供給加速に向けた国家補助金規則の緩和などを規定した「Temporary Crisis and Transition Framework(TCTF)」や、ネット・ゼロ産業の製造容量に関する目標設定や導入拡大に向けた規制整備・許認可の迅速化などを規定した「ネット・ゼロ産業法案」、重要原材料の欧州内における供給確保に向けた特定の重要原材料に関するプロジェクト支援を規定した「重要原材料法案」を同年3月に発表。

また、人権デュー・ディリジェンス(DD)についてEUレベルでの議論も加速しており、欧州委員会は人権DDを義務化する「人権DD指令案」を2022年2月に公表し、同年9月には、強制労働関連産品のEU市場での上市・域外輸出を禁止する「強制労働禁止規則案」を発表。

2019年2月の発効後、着実に履行が進められている日EU・EPAを含む、これまでの協力を基礎に、日EU、あるいは米国を含む三極の枠組みで、グローバルな議論をリードしていくことが重要である。

デジタル分野では、2020年末に、プラットフォーマーへの規制措置等を盛り込んだ「デジタルサービス法案」、「デジタル市場法案」が公表され、両法案ともに2022年11月に発効。また、2021年9月に公表した「インド太平洋における協力のためのEU戦略」において同志国との締結を模索するとされていたデジタルパートナーシップについて、2022年5月に日本、同年11月に韓国、同年12月にシンガポールと合意。

2022年5月、岸田総理とミシェル議長、フォン・デア・ライエン委員長との間で第28回日EU定期首脳協議を東京で開催した。双方は、「日EUデジタルパートナーシップ」の立ち上げを発表し、閣僚級の会合の設立とともに、DFFT、強靱なサプライチェーン(半導体他)、サイバーセキュリティ、人工知能等の協力分野における日EU間の協力を推進していく。また、岸田総理は、2022年6月、2022年9月にミシェル議長と、2022年6月、2022年11月にフォン・デア・ライエン委員長と会談を行った。西村経済産業大臣は、2022年9月にG20の場でシムソン委員(エネルギー担当)およびティマーマンス上級副委員長と会談した。また、同じく2022年9月にはG7の場でドンブロフスキス上級副委員長会談を行い、2022年12月には東京でシムソン委員(エネルギー担当)と会談を行った。また、西村経済産業大臣、林外務大臣、ドンブロフスキス上級副委員長(貿易担当)を共同議長とする日EUハイレベル経済対話第2回会合を2022年10月にオンライン形式で実施し、ロシアによるウクライナ侵略を起因とするエネルギーや食料などの安定供給確保の重要性を認識し、国際秩序が挑戦を受ける中で、基本的価値を共有し、自由貿易を共に推進する戦略的パートナーである日・EUが、国際社会における自由で公正な経済秩序をリードしていくことの重要性を確認するなど、首脳・閣僚レベルでも密接な連携が持続している。

2.英国

英国は、基本的価値を共有するグローバルな戦略的パートナーであり、日本とは経済的な結びつきが強いだけでなく、近年は安全保障・防衛協力を含め、関係を強化している。

EU離脱後、英国は欧州域外への関与を強化する姿勢を強めており、中でもインド太平洋地域は、英国政府が2021年3月に発表、2023年3月に刷新が行われた統合レビュー文書「競争時代におけるグローバル・ブリテン」において、英国の国際戦略における重要な地域と位置づけられている。CPTPP加入への強い意欲はその一端であり、2021年6月には加入手続開始が決定された。岸田総理はジョンソン元首相と2022年5月に英国で、6月のG7首脳会合の場で対面で会談を行うとともに7月には電話会談を行った。また、岸田総理は2022年9月の国連総会の場でトラス前首相と対面で会談を実施し、スナク首相との間では11月に電話会談及びG20サミットの場で立ち話を行った。2023年には、1月に岸田総理が訪英し、スナク首相と会談を行った。また、西村経済産業大臣は、2023年1月にベイデノック国際貿易大臣およびシャップス・ビジネス・エネルギー・産業戦略大臣とダボス会議の場で会談。2023年2月にトラス前首相と東京で会談を行った。このように、首脳・閣僚レベルでも日英関係を一層強固にするため、密接に連携している。

3.ドイツ

2021年12月の3党連立政権樹立後、2022年4月にショルツ首相が初のアジア訪問国として日本を訪問。ショルツ首相と岸田総理との会談において、日独が幅広い分野で協力を推進していくため、新たに首相及び複数の閣僚が参加する政府間協議を立ち上げにつき合意するなど、日独では緊密な関係が築かれている。

岸田総理は、ショルツ首相と2022年6月のG7エルマウ・サミット及び11月のG20の場において会談を行うとともに、2022年9月にはヴルフ元大統領と、そして11月にはシュタインマイヤー大統領と東京にて会談を行った。また、萩生田前経済産業大臣は2022年3月にハベック経済・気候保護大臣と電話会談を行い、G7気候・エネルギー・環境大臣会合に向け、ウクライナ情勢を踏まえたエネルギー安全保障等について議論を行った。また、西村経済産業大臣は、2022年9月にG7貿易大臣会合にて、ハベック経済・気候保護大臣と対面で会談を行い、G7貿易大臣会合に向けた協力や最近のエネルギー価格高騰を受けたエネルギー面や通商面での連携強化について議論した。

2023年3月に、第1回日独政府間協議を東京で開催し、両国首脳と西村経済産業大臣やハベック経済・気候保護大臣を含む関係閣僚が出席し、経済安全保障を中心に幅広く意見交換を行った。西村経済産業大臣とハベック経済・気候保護大臣との会談も行われ、日独関係の更なる緊密化に向けた連携が確認された。

また、日独間の産業協力の深化・発展について意見交換を行う経済産業省と独経済エネルギー省(現在の独経済・気候保護省)との間の対話である「日独次官級定期協議」も、2022年10月に実施された。

4.フランス

フランスとは、2019年6月にマクロン大統領が訪日した際に発出した「『特別なパートナーシップ』の下で両国間に新たな地平を開く日仏協力のロードマップ(2019~2023年)」に基づき、協力を進めている。岸田総理は2022年6月および7月に電話会談を行うとともに、2022年6月にはG7エルマウ・サミットの場で会談を行い、日仏関係の発展について確認を行った。2022年9月には、サルコジ元大統領と対面で会談を行った。2023年1月には、マクロン大統領とフランスで会談を行い、新しいロードマップの作成やG7に向けた連携につき確認を行った。

また、西村経済産業大臣は2022年9月にG7貿易大臣会合の場で、2023年1月には東京でベシュト対外貿易・誘致担当大臣と会談を行った。

日仏間の産業協力に関しては、経済産業省と仏経済財務省との間で「日仏産業協力委員会」を設け、日仏における産業政策の展望や産業活動などについて意見交換を行っており、2022年7月に開催した。引き続き、本委員会を通じて日仏間の産業協力の強化を図っていく。また、航空機、エネルギー、原子力といった分野では、分野ごとの日仏間の対話の場を設け二国間協力の進展を図っており、西村経済産業大臣は2023年5月にパニエ・リュナシェエネルギー移行相と会談を行い、原子力分野の連携強化について共同声明を発表した。

5.EU域外

2022年2月からのロシアによるウクライナ侵略は長期化の様相を呈しているも、国際社会ではウクライナの経済的復興に向けた動きが出始めている。具体的には、2022年7月スイスにおいて、スイス政府及びウクライナ政府が共催する「ウクライナ復興会議」が開催され、復興に向けた国際社会のコミットを確認するルガーノ宣言が取りまとめられるとともに、ウクライナ政府より復興に向けた絵図を示した「ウクライナ国家復興計画」が公表された。また2022年12月には、G7首脳テレビ会議では、ウクライナの復旧・復興を支援するための「ウクライナ復興ドナー調整プラットフォーム」の設置が合意される等、G7を始めとした国際社会が結束し支援に取組んでいる。

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