第8節 中東
1.今後の方針
中東地域は、我が国原油輸入の9割超、天然ガス輸入の約1割を依存するエネルギー安全保障上重要な地域である。一方で、域内人口は約3.8億人(平均年齢28.1歳)、名目GDPは約4.7兆ドル(ASEANの1.4倍)と大きく、また、歴史的に親日的な国が多く、市場としてのポテンシャルも大きい地域である。域内には、オイル・マネーをベースとした巨額の国富ファンド(SWF)を有し、巨大開発プロジェクトに取り組むサウジアラビア等の産油・産ガス国、進出日系企業数300以上、在留邦人4千人以上を誇り中東の地域統括拠点を多く有するUAE、欧州等への輸出の為の製造拠点の機能を果たすトルコ、イノベーション大国であるイスラエル、人口・経済規模・技術力等多くの可能性を有するものの米国の経済・金融制裁により貿易・投資等取引が困難なイラン等、特色の異なる多様な国々が存在する。我が国と各国との関係も様々であり、それぞれの実情を踏まえて産業多角化や貿易・投資環境改善への支援・働きかけ等を通じて互恵的な関係を築くことで、中東地域との経済関係の強化・市場の拡大と、同地域の安定確保を目指す。
2.進捗状況
(1)サウジアラビア王国
2017年3月に日サ両国首脳間で合意した「日・サウジ・ビジョン2030」のもと二国間協力を推進している。同ビジョンの下では、日サウジ間の伝統的な協力分野であるエネルギー協力にとどまらず、広範な分野での協力が進展している。
2022年11月に東京で実施した第6回「日・サウジ・ビジョン2030」閣僚会合では、インフラ、デジタル、文化・スポーツ等、幅広い分野での協力プロジェクトの進展を確認し、急速に進むサウジの社会経済改革を受けて成長が著しいエンターテインメント、観光、スタートアップ等の分野での新たな協力につき議論した。
2022年12月には、西村経済産業大臣がリヤドを訪問し、日・サウジ・ビジョン2030ビジネス・フォーラムを開催し、重工業、商社、銀行等及びスタートアップ60社・150名以上からなる日本企業ミッションが参加した。同フォーラムでは、金融、食料、バイオ等様々な分野において、15件の協力覚書が披露され、両国間の新たなビジネス協業の創出に向けてネットワーキングセッションが実施された。また、西村経済産業大臣とルマイヤン公共資金投資(PIF)総裁との会談では、eスポーツ/ゲーム、バイオ、AI、モビリティ等幅広い分野の有望なスタートアップ企業を紹介し、今後の協業について意見交換を行った。この機会を捉え、同行したスタートアップは、PIFやサウジアラビアのアクセラレーター等へのプレゼンテーションを行った。
あわせて、西村経済産業大臣はアブドルアジーズ・エネルギー大臣との間で第1回「日サウジ・エネルギー協議」を開催した。同協議において両大臣は、日本にとってサウジアラビアが引き続き最大の原油供給源であり、信頼できるパートナーであることを踏まえ、産油国と消費国の対話と連携を促進することにより、世界の原油市場の安定を支えることの重要性と、世界市場におけるすべてのエネルギーの安定供給を確保する必要性を強調した。また、循環型炭素経済(CCE)及びカーボンリサイクルの分野、並びにクリーン水素及び燃料アンモニアの分野における2件の協力覚書に署名した。さらに、両大臣は、経済産業省とサウジアラムコ社との間の戦略的備蓄協力の新たな3年間の延長や、日本企業によるサウジアラビアのエネルギー市場への投資と参入を歓迎するとともに、石油化学分野での潜在的な連携や、電力、再生可能エネルギー、省エネルギーおよびイノベーションの各分野において、両国間の協力を継続する意向を表明した。
新たな協力分野として、コンテンツ分野では、日本eスポーツ連合(JeSU)とサウジアラビアeスポーツ連盟の共催により、『日本・サウジアラビアeスポーツマッチ』が2022年7月にリヤドで開催された。また、2023年2月には、人的交流の深化、相互理解の促進のため、ビジネス・フォーラムに参加したスタートアップ6社・10名とサウジ人若手起業家8名との間で意見交換会を開催した。
(2)イラン・イスラム共和国
米国の制裁下という困難な状況にあるが、2022年度においても、耐震・免震技術に関するワークショップや水・電力分野における各種セミナーなどの協力を、(一財)中東協力センター(JCCME)が実施してきた。2022年9月には、政府機関等を対象に水素・アンモニア政策のワークショップも実施している。また、2022年10月にイラン・テヘランで開催された第22回テヘラン国際産業見本市にJETROが3年ぶりに日本の広報ブースを出展した。
2022年9月には、西村経済産業大臣が故安倍晋三国葬儀に参列するために訪日したオウジ石油大臣と会談し、エネルギー分野を始めとして、日イランの伝統的友好関係の一層の強化について議論した。
(3)アラブ首長国連邦(UAE)
2022年にかけて、日・UAE外交関係樹立50周年を迎え、両国間では活発なハイレベルの往来が行われた。2022年6月、萩生田経済産業大臣は、訪日中のジャーベル・アブダビ国営石油会社(ADNOC)CEO兼産業・先端技術大臣(以下、ジャーベル大臣)との間で会談を行い、クリーンエネルギーや先端技術分野での関係強化について議論するとともに、国際原油市場の安定化に向けた働きかけを行った。両大臣は会談後、三井物産、ENEOS及びADNOC間のクリーン水素製造事業に関する共同事業化検討契約署名式に立ち会い、クリーンエネルギー分野における二国間の具体的な協力の進展を歓迎した。
同月、萩生田大臣は、マズルーイ・エネルギー・インフラ大臣(以下マズルーイ大臣)との間でテレビ会談を行い、国際原油市場の安定化に向けた働きかけを行うとともに、水素・燃料アンモニア・CCUS/カーボンリサイクル等のクリーンエネルギー分野での二国間協力強化について議論した。
8月、岸田総理大臣はムハンマド・ビン・ザーイド大統領との間で電話会談を行い、日・UAE外交関係樹立50周年であることを踏まえ、引き続き様々な分野で両国間の戦略的パートナーシップを強化していくことで一致した。9月、故安倍晋三国葬儀に参列するために訪日したハーリド執行評議会委員兼執行事務局長は岸田総理大臣への表敬訪問を行い、林外務大臣とジャーベル大臣の間で署名された「包括的・戦略的パートナーシップ・イニシアティブ(CSPI)の実施に関する共同宣言」を歓迎するとともに、日・UAE外交関係樹立50周年の機会を踏まえ、次の50年に向けて、クリーンエネルギー、先端技術から人材育成に至るまで、幅広い分野で更なる関係強化に取り組むことで一致した。西村経済産業大臣は、ハーリド執行評議会委員兼執行事務局長とともに訪日したジャーベル大臣と会談し、石油・LNG、クリーンエネルギー、先端技術等、様々な分野における協力の進展を確認した。
10月、中谷経済産業副大臣は、石油・天然ガス業界における世界最大級の展示会議の一つと位置づけられるアブダビ国際石油展示会議(ADIPEC)の開会式に出席し、日本パビリオン、展示ブース等を視察し、関係者とアブダビにおける事業や今後の事業展開の方向性につき意見交換を行った。またジャーベル大臣、マズルーイ大臣、ハルドゥーン・アブダビ執行関係庁長官を始め、サウジアラビアのアブドルアジーズ・エネルギー大臣、クウェートのムッラー副首相兼石油大臣、アル・ガイスOPEC事務局長と会談を行った。
11月、西村経済産業大臣は、訪日中のマイサ・ビント・サーレム・アルシャムシ国務大臣と会談し、両国のビジネス分野において女性交流や女性活躍の機会拡大へ取り組むことの重要性を確認し、今後の両国間の協力に向けた意見交換を行った。
2023年1月、西村経済産業大臣はUAEを訪問し、世界最大規模の再生可能エネルギー・環境技術等に関する国際会議・展示会である、ワールド・フューチャー・エナジー・サミット(WFES)を含むアブダビ・サステナビリティ・ウィーク2023(ADSW2023)の開会式に出席した。訪問中に、ジャーベル大臣と会談し、日本の先端技術スタートアップとUAE投資家の協業を促し、UAEの脱炭素化と産業発展・人材育成に貢献するスキームである「日・UAE先端技術調整スキーム(JU-CAT)」を新たに設立した。アブダッラー外務・国際協力大臣との会談では、「包括的・戦略的パートナーシップ・イニシアティブ(CSPI)」の下、両国間の戦略的パートナーシップを新たなステージに引き上げるべく、より一層連携していくことを確認した。その他、マズルーイ大臣、ハルドゥーン・アブダビ執行関係庁長官といったUAE政府要人と会談を行った。
3月、里見経済産業大臣政務官は、日本・アブダビ経済協議会(ADJEC)に出席し、エネルギーを含む幅広い分野での協力を促進していく重要性について発言した。同協議会では、カーボンニュートラル実現や気候変動対応にかかる両国の取組について紹介された。
(4)イスラエル国
2022年に日イスラエル外交関係樹立70周年を迎え、同国への日系企業の進出は直近10年で3倍以上に増加するなど、近年特に経済関係が大きく発展している。こうした状況を踏まえ、2022年11月にあり得べき日・イスラエル経済連携協定(EPA)に関する共同研究を立ち上げることで一致した。2023年3月に共同研究第1回会合を開催し、共同研究の検討範囲や日本とイスラエルとの二国間経済関係の分析等について有意義な意見交換を行った。
2017年に日本とイスラエル双方の官民が連携し、両国間の経済関係をより強化するため設立したプラットフォーム「日・イスラエル・イノベーションネットワーク(JIIN)」を通じ、ビジネスマッチング等の支援が実施されている。2022年度は、駐日イスラエル大使館経済部のスマートモビリティや再生可能エネルギーにかかるバーチャルイベント等への後援等を行った。
(5)トルコ共和国
2022年10月、(一財)中東協力センター(JCCME)がイスタンブールで免震・耐震構造の普及セミナーを開催した。地震国である日本で培われた免震・耐震技術を有する企業等が登壇し、トルコにおける建築物の整備などの地震対策への貢献をするための講演や技術紹介を行った。
(6)カタール国
2022年9月、経済産業省及びアジア太平洋エネルギー研究センター(APERC)がオンラインにて開催した第11回LNG産消会議において、アル・カアビー・エネルギー担当国務大臣が会議冒頭に基調講演を行った。
12月、西村経済産業大臣は、アルエマーディ駐日カタール大使の表敬を受け、日本企業も運輸分野において貢献しているFIFAワールドカップカタール大会の世界的盛り上がりに祝意を表し、長年のLNG分野での関係を歓迎した上で、今後は脱炭素や省エネ分野にも協力を拡げていくことを確認した。
(7)オマーン国
2022年9月、西村経済産業大臣は訪日中のウーフィー・エネルギー鉱物資源大臣と会談を行い、日本へのLNGの安定供給に加え、水素製造・メタネーション事業、燃料アンモニアなどクリーンエネルギー分野での協力を確認した。
12月、西村経済産業大臣はオマーンを訪問し、ウーフィー・エネルギー鉱物資源大臣と会談及び脱炭素分野における協力に関する協力覚書の署名式を行った。また、JOGMECとエネルギー鉱物資源省の間での水素・アンモニアを含むエネルギー分野に関する協力覚書と、日本企業複数社とオマーンLNG社とのLNGの長期引取契約に関する基本合意書への調印式に立ち会ったほか、ハイサム国王、リーム・アル・ザワウィ女史、バドル外務大臣と会談を行い、今後の日オマーン協力について議論を深めた。
(8)イラク共和国
2023年2月にJCCMEが第18回イラク・ビジネスセミナーをオンラインで開催し、駐イラク大使やイラク進出日本企業が講演を行った。
(9)ヨルダン・ハシェミット王国
2023年1月に西村経済産業大臣がアンマンを訪問し、アブドッラー二世国王陛下と会談した。会談では、ICTや水分野など日本の優れた技術による協力可能性について議論し、日本とヨルダンの経済関係を発展させる為、引き続き連携していくことを確認した。
第Ⅲ-2-8-1図 2022年11月西村経済産業大臣とファーレフ投資大臣間で開催された第6回「日・サウジ・ビジョン2030」閣僚会合の様子