第Ⅰ部 第2章 各国・地域経済の動向

第1節 米国経済

本章では、各国・地域の経済に焦点を当て、GDPを始めとする主要な経済指標の動向について見ていく。

2023年の米国経済は、堅調な個人消費と積極的な産業政策を背景とした設備投資に支えられ、インフレ高進抑制のために急速な金融引締めを講じてきたにも関わらず、底堅い成長を実現した。一方で、未だインフレの鎮静化には至っておらず、先行きについては注視が必要な状況が続いている。

1.GDP

(1)実質GDP成長率

2023年における米国の実質GDP成長率は、前年比+2.5%と前年(同+1.9%)から加速し、6四半期連続で潜在成長率3である1.8%を上回った。2023年初頭、連邦準備制度理事会(以下、FRBという)は、物価の高騰などを要因として実質GDP成長率が低迷するとの見通しを示していたが、実際のところ、米国経済は堅調な推移を維持している。需要項目別に見ると、2023年前半は主に個人消費と設備投資が高い伸びを示して成長を牽引し、後半は個人消費の強さが際立つ結果となった。住宅投資は、高金利と住宅価格の上昇に伴う買い控えから、通年で見ると低調であった。輸出は、第2四半期にマイナスに転じるも、第3~4四半期はプラスへ復調した。一方の輸入は、第3~4四半期に減速している(第I-2-1-1図)。

第Ⅰ-2-1-1図 米国の実質GDP成長率
米国の実質GDP成長率の図

3 連邦公開市場委員会(FOMC)参加者による長期実質GDP成長率の予測中央値。

(2)個人消費、個人所得

2023年以降の米国の個人消費と個人所得は堅調さを維持している。足下の動向を見ると、名目個人消費支出は2024年2月に前月比+0.8%(1月:同+0.2%)と11か月連続で増加し、インフレ調整後の実質個人消費支出も前月比+0.4%(1月:同-0.2%)とプラスに転じた。名目個人所得は、2024年2月に前月比+0.3%(1月:同+1.0%)と増加したが、実質個人所得は前月比-0.1%(1月:同+0.6%)と5か月振りに減少に転じた。

FRBがインフレ目標の指標として注目しているPCE価格指数について、総合指数は2月に前年同月比+2.5%(1月:同+2.4%)と加速した一方、食品とエネルギーを除いたコア指数は2月に前年同月比+2.8%(1月:同+2.9%)と減速した。PCE価格指数は減速傾向にあるものの、依然としてインフレ目標の+2%を上回っている(第I-2-1-2図)。

第Ⅰ-2-1-2図 米国の家計消費
米国の家計消費の図

(3)投資

① 民間設備投資

民間設備投資は、2021年第4四半期以降プラスで推移している。半導体生産支援策であるCHIPS及び科学法(2022年8月成立)や、気候変動対策へ資する設備投資への税額控除を盛り込んだインフレ削減法(2022年8月成立)などの大規模な産業政策を背景に、2023年は通年で構築物投資の高い伸びが継続した。また、知的財産投資もプラス推移が継続し、民間設備投資全体の成長に寄与した。一方、機器投資は、金融引締めなどが影響したと見られ、第1四半期と第3~4四半期で減少し、全体を押し下げた(第I-2-1-3図)。

第Ⅰ-2-1-3図 米国の民間設備投資
米国の民間設備投資の図

② 住宅投資

2023年以降の米国の住宅着工動向は、一進一退を繰り返している。住宅着工件数(年率換算、季節調整値)は、悪天候の影響などで2024年1月に前月比-12.2%の137.5万戸と大きな落ち込みが見られたものの、2月には同+12.7%の154.9万戸と復調した。しかし、3月は前月比-14.7%の132.1万戸と大幅に減少する結果となった。住宅建設許可件数も、2024年3月に前月比-4.3%の145.8万戸(2月:同+2.3%、152.3万戸)と減少した(第I-2-1-4図)。

第Ⅰ-2-1-4図 米国の住宅建設許可、着工、完成件数
米国の住宅建設許可、着工、完成件数の図

ケースシラー住宅価格指数の動向を見ると、2023年3月以降は前月比プラスで推移しており、住宅価格が上昇基調にあることがうかがえる。住宅ローン金利は頭打ちとなったものの、依然として高水準にあることから、住宅保有者が住み替えを控えたため、中古住宅が供給不足となり、住宅価格を押し上げたと見られる(第I-2-1-5図)。一方、新築住宅は、需要を取り込んで底堅く推移した可能性が指摘されている。今後、住宅ローン金利が更に下がり、新築住宅の建設や中古住宅の在庫不足解消が進めば、住宅市場の需給逼迫は緩和に向かうと見られる。

第Ⅰ-2-1-5図 米国の住宅価格指数と住宅ローン金利
米国の住宅価格指数と住宅ローン金利の図

(4)政府支出

政府支出は、2022年第3四半期以降プラスの推移が継続している。2023年は通年で地方政府支出が高い伸びを示し、全体を押し上げた。連邦政府支出(非国防)は、第2四半期を除きプラスとなった(第I-2-1-6図)。

第Ⅰ-2-1-6図 米国の政府支出
米国の政府支出の図

(5)貿易収支

貿易収支について国際収支(BOP)ベースで見ると、名目貿易赤字は、2022年3月に1,025億ドルと過去最大を記録した後、縮小傾向を辿っていたが、足下では赤字幅が拡大している。2024年2月の貿易赤字は689億ドル(1月:676億ドル、2023年12月:642億ドル)となり、3か月連続での拡大となった。また、2月の輸出は2,630億ドル(1月:2,572億ドル)、輸入は3,319億ドル(1月:3,248億ドル)となり、ともに増加した(第I-2-1-7図)。

第Ⅰ-2-1-7図 米国の名目貿易収支、名目輸出入
米国の名目貿易収支、名目輸出入の図

(6)鉱工業生産

2023年の米国の鉱工業生産は、総合で見るとほぼ横ばいで推移したが、金融引締めに伴う金利上昇などを背景に、製造業生産は低調であった。特に10月は、全米自動車労働組合(UAW)のストライキから自動車及び部品が大きく落ち込んだ。一方、足下では、2024年2月の鉱工業生産が前月比+0.8%(1月:同-0.8%)、製造業生産が同+1.4%(1月:同-1.2%)とともにマイナスからプラスに転じ、3月には鉱工業生産が前月比+0.1%、製造業生産が同+0.2%とプラスの伸びを維持した(第I-2-1-8図)。

第Ⅰ-2-1-8図 米国の鉱工業生産
米国の鉱工業生産の図

2.物価

(1)消費者物価

米国の消費者物価指数は、2022年6月をピークに鈍化傾向を辿るも、2023年半ば以降の伸び率の低下は緩やかであり、依然として高水準にある。総合指数は、2024年3月に前年同月比+3.5%(2月:同+3.2%)と加速し、高止まりしている。食品とエネルギーを除くコア指数は、3月に前年同月比+3.8%(2月:同+3.8%)と横ばいであった。前月比で見ると、総合指数、コア指数ともに2023年以降はプラスで推移しており、総合指数は3月に前月比+0.4%(2月:同+0.4%)、コア指数も同+0.4%(2月:同+0.4%)と高い伸びが続いている(第I-2-1-9図)。

第Ⅰ-2-1-9図 米国の消費者物価指数
米国の消費者物価指数の図

(2)生産者物価

次に、生産者物価指数の動向について見ていく。生産者物価指数の前年同月比は、2023年に鈍化傾向を辿っていたものの、2024年に入り伸び率が再び上昇している。2024年3月の最終需要の総合指数は前年同月比+2.1%(2月:同+1.6%)、食品とエネルギーを除くコア指数は同+2.4%(2月:同+2.1%)とともに加速した。一方、前月比で見ると、総合指数は3月に前月比+0.2%(2月:同+0.6%)、コア指数も同+0.2%(2月:同+0.3%)と減速している(第I-2-1-10図)。

第Ⅰ-2-1-10図 米国の生産者物価指数
米国の生産者物価指数の図

3.労働市場

(1)雇用統計

2023年以降の米国の労働市場は力強く、失業率が低水準のまま雇用者数を増加させている。2024年3月の非農業部門雇用者数は、前月差+30.3万人(2月:同+27.0万人)と加速し、雇用者数が堅調なペースで増加していることを示した。また、労働参加率は、3月に62.7%(2月:62.5%)と上昇し、高水準を維持している。労働参加率の内訳を見ると、プライムエイジ(25~54歳)が3月に83.4%(2月:83.5%)とほぼ横ばいであった一方、若年層(16~24歳)は56.8%(2月:55.9%)と大幅に上昇した。労働供給の改善が見られる中、失業率(一般的な失業率であるU-3)は3月に3.8%(2月:3.9%)と小幅に低下した。他方、より広義の失業率(U-6)は7.3%(2月:7.3%)と横ばいであった。民間部門全労働者の平均時給は、3月に前年同月比+4.1%(2月:同+4.3%、1月:同+4.4%)と2か月連続で減速した。消費者物価指数の鈍化を背景に、実質賃金の前年同月比は2023年5月にマイナスからプラスへ転じ、2024年3月には+0.7%となった(第I-2-1-11図)。

第Ⅰ-2-1-11図 米国の雇用統計
米国の雇用統計の図

4.金融政策

FRBは、米国経済におけるインフレの高進を受けて、2022年3月から継続的に政策金利であるフェデラル・ファンド(FF)金利誘導目標を引き上げてきたが、2023年7月に5.25~5.50%への引上げを行って以降、2024年3月末現在まで政策金利を据え置いている(第I-2-1-12図)。

第Ⅰ-2-1-12図 米国の政策金利の推移
米国の政策金利の推移の図

2024年3月に開催された連邦公開市場委員会(FOMC)は、声明文の中で、「最近の指標は、経済活動が堅調なペースで拡大していることを示唆しており、雇用の増加は力強く、失業率は低水準にとどまっている」と米国経済を評価した。一方、インフレ率については、「この1年で緩和したが、依然として高い水準にある」とし、「インフレ率が持続的に2%に向かっているとの確信が深まるまで、目標レンジを引き下げることは適切ではない」として利下げを見送った。

5.今後の見通し

2024年3月に発表されたFRBによる経済見通しによると、実質GDP成長率の見通しは、2024年から2026年にかけて前回値から上方修正され、2024年は+2.1%、2025年と2026年は+2.0%となった。失業率は、2024年(前回:4.1%、今回:4.0%)と2026年(前回:4.1%、今回:4.0%)について、それぞれ改善方向に修正された。PCE価格指数は、総合が2025年(前回:+2.1%、今回:+2.2%)、コアが2024年(前回:+2.4%、今回:+2.6%)にそれぞれ上方修正された。2024年以降の米国経済は、幾分減速するものの堅調さを維持し、インフレ率2%に向けた道を辿ると予測されている。

また、同時に発表された政策金利見通しでは、2024年末の政策金利誘導目標の中央値が4.6%、2025年末が3.9%、2026年末が3.1%となっており、段階的な政策金利の引下げが見込まれている。

2024年4月に発表されたIMFによる経済見通しによると、実質GDP成長率の見通しは、2024年が+2.7%、2025年が+1.9%、2026年が+2.0%であり、インフレ率の見通しは、2024年が+2.9%、2025年が+2.0%、2026年が+2.1%であった(第I-2-1-13表)。

第Ⅰ-2-1-13表 米国の経済・政策金利見通し
米国の経済・政策金利見通しの表

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