第2節 欧州経済
欧州では、インフレの高進が収まりつつあるが、購買力の低下、金融引締めなどが下押し要因となり、経済は弱い状況が続いた。とりわけ、ユーロ圏最大の経済規模を持ち、エネルギー供給をロシアに依存していたドイツ経済が不振だった。
1.実質GDP成長率
ユーロ圏の2023年の実質GDP成長率は、四半期ベースではほぼ横ばいで推移し、通年では前年比+0.4%とプラス成長を維持したものの、前年(同+3.4%)から低下した。需要項目別では、内需が弱含み、輸出も低迷した。国別では、ドイツが、新型コロナウイルス感染症拡大の影響を受けた2020年以来となるマイナス成長(前年比-0.3%)だった。英国は、2023年通年では、前期比+0.1%(前年同+4.3%)とプラス成長を辛うじて維持したが、同年第3四半期と第4四半期は、2四半期連続でマイナス成長だった。需要項目別では、個人消費の弱さが目立った(第I-2-2-1図)、(第I-2-2-2図)。
第Ⅰ-2-2-1図 実質GDPの推移
第Ⅰ-2-2-2図 実質GDP成長率(需要項目別寄与度別)
2.消費者物価
ユーロ圏の消費者物価指数は、2022年10月に前年同月比+10.6%とピークを記録した後、エネルギー価格の下落や金融引締め4などを受けて、2023年10月には2%台まで低下した。食品・エネルギー・アルコール・たばこを除いたコア指数も、2023年3月の前年同月比+5.7%のピーク時から、2023年11月には3%台まで低下した。総じて、インフレ基調は鈍化しているが、欧州中央銀行(ECB)が目標とする2%には届いていない。
英国の消費者物価指数は、2022年10月に前年同月比+11.1%と41年ぶりの高水準を記録した後、エネルギー価格の下落や金融引締め5などを背景に、2024年3月には、同+3.2%まで低下した。一方、サービス業のインフレ率が同6%台で高止まっており、インフレ圧力は依然として根強い(第I-2-2-3図)(第I-2-2-4図)。
第Ⅰ-2-2-3図 消費者物価の推移
第Ⅰ-2-2-4図 消費者物価(品目別)
4 欧州中央銀行(ECB)は、2023年に入り、六会合連続(2月、3月、5月、6月、7月、9月)で利上げ。2023年10月会合以降、据え置き(2024年3月末時点)。
5 英国の中央銀行(BOE)は、2023年に入り、五会合連続(2月、3月、5月、6月、8月)で利上げ。2023年9月会合以降、据え置き(2024年3月末時点)。
3.個人消費
2023年の小売売上高は、生活費の高騰で支出控えが続いたことなどが下押し要因となり、ユーロ圏、英国ともに弱い状態が続いた。小売売上高の伸び悩みは、年末商戦でも相殺されなかった(第I-2-2-5図)(第I-2-2-6図)。
第Ⅰ-2-2-5図 小売売上高の推移
第Ⅰ-2-2-6図 小売売上高(品目別)
4.生産
ユーロ圏の2023年の鉱工業生産指数は、同年3月や12月に、アイルランドの鉱工業生産の急激な減少や増加の影響を受けたが、総じて停滞が続いた。国別では、フランスが、ほぼ横ばいで推移する一方、ドイツが減少基調となった。英国の2023年の鉱工業生産指数は、新型コロナウイルス感染症拡大前の水準を大きく下回って推移し、年間を通して低調だった(第I-2-2-7図)(第I-2-2-8図)。
第Ⅰ-2-2-7図 鉱工業生産の推移
第Ⅰ-2-2-8図 鉱工業生産(財別)
5.雇用
ユーロ圏の失業率は、2023年を通して低い水準で推移し、統計データ公表以来の最低値(6.5%)を記録するなど、労働市場は堅調に推移した。英国の失業率は、2023年に入ってから半ばに向けてやや上昇したが、総じて4%前後で推移した(第I-2-2-9図)。
第Ⅰ-2-2-9図 失業率の推移
6.貿易収支
ドイツの2023年の貿易収支は、エネルギー価格の高騰が一段落し、輸出の減少を上回って輸入が大きく減少したことから、貿易黒字が拡大した。フランスは、2022年に過去最大の貿易赤字を記録したが、2023年は資源価格の下落を受けて輸入が減少し、輸出が増加したことから、貿易赤字は改善した。英国の2023年の貿易収支は輸入の減少が輸出の減少を上回り、貿易赤字幅が縮小した(第I-2-2-10図)。
第Ⅰ-2-2-10図 輸出入額の推移
7.今後の見通し
先行きについては弱さが見込まれるものの、インフレ率の低下や堅調な労働市場が後押しとなり、消費が徐々に回復することで、経済活動は緩やかに加速することが予測されている。一方、地政学的な緊張の長期化、異常気象などによる不確実性は引き続き大きく、経済の低迷が持続するとの見方から、各種機関によるユーロ圏の経済成長率の見通しは、下方修正された。IMFの世界経済見通し(2024年4月)、欧州委員会の同年冬の経済見通し、欧州中央銀行(ECB)のスタッフによる経済見通し(同年3月)による実質GDP成長率の見通しは、以下のとおりとなっている(第I-2-2-11表)。
第Ⅰ-2-2-11表 実質GDP成長率の見通し
8.ロシア経済・ウクライナ経済
2022年2月24日にロシアがウクライナに対する侵略を開始してから2年以上が経過した。2024年3月現在においても未だ停戦の兆しは見られておらず、法の支配に基づく国際秩序を脅かすロシアの暴挙が依然として継続されている。我が国はロシアが一刻も早く侵略を止めるよう国際社会との結束を強化していくとともに、2024年2月20日には日・ウクライナ経済復興推進会議を開催し民間企業等による両国の新たな連携や投資を促すなど、様々な支援を実施している。また、侵略開始からちょうど2年間が経過した2024年2月24日には、我が国を含むG7各国の外務大臣によるビデオメッセージが発出され、引き続きウクライナに寄り添い国際法に基づく秩序の回復を求めていく立場が改めて表明されるとともに、翌25日にはG7首脳によるテレビ会議が行われ、ウクライナへの支援を継続していく旨のG7首脳声明が発出された。以降、ロシア経済及びウクライナ経済の推移をみていく。
(1)ロシア経済
ロシアの実質GDP成長率は、2020年は新型コロナウイルス感染症拡大に伴いマイナスとなったが、翌2021年には回復した。その後、2022年第2四半期から2023年第1四半期にかけて、主に在庫変動、民間消費の落ち込みにより成長率がマイナスとなった。産業別では、サービス業が大きなマイナス寄与となった。しかし、2023年第2四半期以降は主に民間消費の拡大によりプラス成長となっている。産業別では、サービス業の回復と、製造業が大きなプラス寄与となっている(第I-2-2-12図)。今後の見通しについても堅調に推移していくことが見込まれている(第I-2-2-13表)。
第Ⅰ-2-2-12図 ロシアの実質GDP成長率、実質GVA成長率と項目別寄与度
第Ⅰ-2-2-13表 ロシアの実質GDP成長率見通し
次に、ロシアへ進出している我が国企業の動向について見ていく。JETROが2023年度に実施した調査によると、翌年の営業利益の見通しは悪化(40.0%)と横ばい(54.3%)が大宗を占め、改善(5.7%)は過去最低となった。また、今後1~2年の事業展開の方向性は、第三国(地域)へ移転、撤退が14.1%と過去最高となった(第I-2-2-14図)。このほか、投資環境面でのリスクとして「不安定な政治・社会体制」、「日本を含む西側諸国から新たな経済制裁を課されるリスク」、「ロシアが西側諸国の制裁を受けて新たに対抗措置を導入するリスク」などが多く挙げられ、ほぼ全ての企業が西側諸国による対ロシア経済制裁及びそれに対するロシアの対抗措置の影響を受けたと回答した。
第Ⅰ-2-2-14図 ロシアにおける我が国企業の事業動向
(2)ウクライナ経済
ウクライナの実質GDP成長率は、2020年は新型コロナウイルス感染症拡大に伴いマイナスとなったが、翌2021年には回復した。その後、ロシアによる侵略の影響により、2022年第1四半期から2023年第1四半期にかけて成長率がマイナスとなっており、その幅は非常に大きい。また、2023年第2四半期以降はプラス成長に転じているが、従前の落ち込みを回復するほどには達していない(第I-2-2-15図)。国連難民高等弁務官事務所によると、ウクライナの総人口約4,200万人のうち約648万人(2024年2月15日時点)が国外退避、約369万人(2023年12月31日時点)が国内で避難しており、ロシアによる侵略を受ける中で、経済的にも非常に厳しい状況に置かれている。今後の見通しについても、2022年の落ち込みに鑑みると厳しいものとなっている(第I-2-2-16表)。
第Ⅰ-2-2-15図 ウクライナの実質GDP成長率と項目別寄与度
第Ⅰ-2-2-16表 ウクライナの実質GDP成長率見通し