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  7. 第Ⅱ部 第1章 第2節 主要国による輸出管理政策・投資管理政策の動向

第Ⅱ部 第1章 ルールベースの国際経済秩序の維持・強化と我が国の役割

第2節 主要国による輸出管理政策・投資管理政策の動向

世界の不確実性が高い状況が続く中、経済安全保障に関する意識が高まっており、各国は取組を強化している。本節では、各国の経済安全保障に関連する輸出管理、投資管理政策等の最近の動向について概観する。なお、各国における産業政策の最近の動向については主に次節で取り上げる。

(1) 米国の動向

2021年1月に発足したバイデン政権は、同盟国との協調を掲げている一方で、トランプ前政権下で発動された対中追加関税や輸出管理措置等は継続・強化している。2022年9月には、通商法301条に基づく中国原産品に対する追加関税の継続を発表し37、2024年3月時点でも関税賦課は継続されている38。また、2023年4月のサリバン大統領補佐官(国家安全保障担当)の講演39においても述べられたように、バイデン政権では、安全保障上重要な技術については、的を絞って厳格な管理 (「small yard, high fence」) を追求する方針をとっている。さらに、中国に対してはデカップリング(分断)ではなく、デリスキング(リスクの低減)を推進しており、2023年5月以降米中の閣僚間の対話が再開され、11月には約1年ぶりとなる米中首脳会談が実現した。

38 バイデン大統領は2024年5月14日、電気自動車(EV)、半導体、医療用製品等の戦略分野で、1974年通商法301条に基づく対中追加関税(301条関税)の関税率を引き上げるよう米国通商代表部(USTR)に指示した。EVについては25%から100%に、太陽電池、半導体については25%から50%に、鉄鋼・アルミニウム等については25%まで関税を引き上げるとしている。米国ホワイトハウスWebサイト参照 (https://www.whitehouse.gov/briefing-room/statements-releases/2024/05/14/fact-sheet-president-biden-takes-action-to-protect-american-workers-and-businesses-from-chinas-unfair-trade-practices/外部リンク)。

① 輸出管理政策

2018年8月に成立した輸出管理改革法(Export Control Reform Act、以下ECRA)によって、軍民両用のデュアルユース貨物等の輸出管理が実施されている。ECRA は、国防総省に予算権限を与える2019年度国防授権法(NDAA2019)の一部として成立しており、ECRA の中で「新興技術」(emerging technologies) や「基盤的技術」(foundational technologies)を追加することとしている40。さらに、ECRA の下位規則である輸出管理規則(Export Administration Regulations、以下EAR)には、米国政府が軍事転用リスクのあるデュアルユース品目と指定した製品を掲載するリスト(Commerce Control List、以下CCL) やエンティティリスト(Entity List)等が含まれており、米国原産品等の輸出・再輸出等が輸出管理の対象とされている。

エンティティリストは、国家安全保障や外交政策上の懸念があるとして指定した企業等を列挙しており、リスト掲載者に対して輸出する場合、事前に米国商務省に申請し許可を得ることが必要となる。2018年10月にはJHICC、2019年5月及び2020年8月にはHUAWEIとその関連会社、2020年12月にはSMIC、2022年12月にはYMTCなど中国の大手半導体メーカーが次々と追加されるなど、中国企業の掲載が急増した。また、2020年5月には、再輸出管理の一種である外国直接製品規則(FDPR)がHUAWEIとそのグループ企業向けに初めて適用され、米国外で生産された製品であっても、米国製の技術・ソフトウェアを用いている場合に米国の輸出管理の対象とした。

米国による中国への輸出管理は、バイデン政権下では中国企業全体向けの措置が導入されている。特に、基盤技術である半導体については、相対的優位性から絶対的優位性の確保に政策アプローチの変更が見られる41。2022年10月、米国商務省産業安全保障局(BIS)は中国向けに輸出される、人工知能(AI)処理やスーパーコンピュータに利用される半導体、先進的な半導体製造に利用される半導体製造装置等に対する新たな輸出管理措置の導入を発表した。これらの輸出管理措置においては、一定性能以上のスーパーコンピュータに使用される一定の半導体や一定性能以上の半導体製造ラインに使用される半導体製造装置等を輸出管理対象とするなど、措置の範囲は幅広いものとなっている。また、米国人(US Person)が中国国内でこれらの分野における開発又は生産の支援活動を行う場合に事前許可取得を義務付けた。さらに、2023年10月、BISは中国向け半導体関連の輸出管理規則を一部改定した。上記2022年10月の輸出管理措置導入後、措置を回避する製品の開発への対応や、第三国経由の中国向けの迂回輸出を防止し、輸出管理を強化することを目的としている。半導体製造装置及び先端コンピューティング半導体等の管理対象品目を拡大し、管理対象となる仕向地を中国・マカオ以外にも拡大する等、迂回リスクへ対処する内容となっている。

40 なお、2022年5月23日に、今後は「新興技術」と「基盤的技術」を区別せず、全て「1758条の技術」("Section 1758 technologies")として表すとの方針が公表されている。

41 2022年9月に米国サリバン大統領補佐官が行った講演において、重要技術の輸出管理に関し、競争相手に対する「相対的な」優位性を維持するという考え方を見直す必要があると述べている。米国ホワイトハウスWebサイト参照(https://www.whitehouse.gov/briefing-room/speeches-remarks/2022/09/16/remarks-by-national-security-advisor-jake-sullivan-at-the-special-competitive-studies-project-global-emerging-technologies-summit/外部リンク)。

② 投資管理政策

対内投資規制については、外国人による対内直接投資等を審査する権限を有した省庁横断的組織として、対米外国投資委員会(CFIUS)が、米国の国家安全保障に及ぼす影響を判断している。NDAA2019 の一部として盛り込まれた外国投資リスク審査現代化法(Foreign Investment Risk Review Modernization Act of 2018)により、CFIUSの審査権限が強化された。具体的には、新興技術や重要インフラに関する対内直接投資について、外国政府の影響下にある投資家による投資のうち、企業経営に影響を与えるものは、新たに事前審査が義務化された。2022 年9 月にはCFIUSが重点的にフォローすべき分野・要因を定めた大統領令が発出され、10月には財務省が新たに執行と罰則に関するガイドラインを公表するなど、執行面の強化を図っている42

さらに、既存の輸出管理及び対内投資規制を補完する手段として、対外投資規制に向けた議論も進んでいる。対外投資規制に関しては、以前より超党派による法案が議会に提出されるなど法律制定の議論が行われていたが43、2023年8月に対外直接投資規制に係る大統領令が発出された44。同大統領令は、①半導体及びマイクロエレクトロニクス、②量子情報技術、③人工知能(AI)の三つの技術分野における、特定の懸念国への投資を規制する内容となっており、懸念国として中国(香港とマカオを含む)が指定された。米財務省は規制案の事前通知を公表し、今後、パブリックコメントを経て最終的な規制が公表される予定となっている45。そのほか、2022年8月に成立したCHIPS及び科学法では、いわゆるガードレール条項と呼ばれる規定が存在し、助成を受けた者による中国等の特定懸念国での先端半導体製造基盤関連の直接投資が制限されている。

45 2023年9月28日のパブリックコメント提出期限までに61件のコメントが提出された。

(2) 欧州の動向

欧州では、2023年6月に欧州委員会がEU初の「経済安全保障戦略」を発表した46。同戦略はEUにおける経済安全保障に対する包括的な戦略的アプローチの導入を提案するものであり、EUの経済安全保障を実現するための共通の枠組みを示している。四つのリスク分野(①エネルギーを含むサプライチェーンに関するリスク、②重要インフラに関するリスク、③技術流出に関するリスク、④経済的依存・威圧に関するリスク)について、加盟国と共同で経済安全保障リスクの特定と評価を実施し、その上で、Promote(EUの競争力強化)、Protect(経済安全保障リスクからの防衛)、Partner(経済安全保障に関する懸念と関心を共有する国との協力)の3本柱のアプローチを通じて、これらのリスクの低減を目指すとしている。具体的な措置として、対内直接投資審査規則の改正案、デュアルユース品目の輸出管理のEUレベルでの改善策、対外投資管理に関連する安全保障上のリスクに対処するための措置を検討すること等が盛り込まれた。

同戦略を受け、10月には、欧州委員会はEU域外国への重要技術の漏えいなどに対するリスク評価の加盟国との共同実施に関する勧告を発表した。軍民融合や人権侵害に用いられ得る10の重要新興技術47を選定し、そのうち特に差し迫ったリスクが懸念される先端半導体、人工知能(AI)、量子技術、バイオテクノロジーの4分野に関しては、2023年末までにリスク評価を完了させることを勧告した48

2024年1月には、経済安全保障戦略を踏まえたさらなる具体的取組の提案のため、五つのイニシアティブからなる経済安全保障政策パッケージを発表した49。同イニシアティブは、①対内直接投資スクリーニング規則の改正、②デュアルユース品目の輸出管理に関するEUレベルの議論の強化、③対外投資に関する潜在的リスクのコンサルテーション、④デュアルユースの可能性を有する技術の研究開発支援、⑤研究セキュリティの向上で構成される。

46 欧州委員会Webサイト参照(https://ec.europa.eu/commission/presscorner/detail/en/IP_23_3358外部リンク)。

47 10の重要新興技術とは、先端半導体技術、人工知能(AI)、量子技術、バイオテクノロジー、先端通信・ナビゲーション・デジタル技術、先端センシング技術、宇宙・推進技術、エネルギー技術、ロボット工学・自律システム、先端材料・製造・リサイクル技術。

48 欧州委員会Webサイト参照(https://ec.europa.eu/commission/presscorner/detail/en/ip_23_4735外部リンク)。

49 欧州委員会Webサイト参照(https://ec.europa.eu/commission/presscorner/detail/en/ip_24_363外部リンク)。

① 輸出管理政策

EUでは、2021年9月にデュアルユース品目の輸出管理規則の見直しが行われ、サイバー監視技術など軍事・安全保障に使用される可能性のある民生品や技術に対する管理を強化し、人権侵害に利用され得るサイバー監視品目の輸出に対する管理措置を導入した50。同規則は加盟国による独自措置の実施を許容しており、経済安全保障戦略では、輸出管理の分野で EU レベルでのより迅速かつ協調的な行動の必要性が急務とされた。なお、オランダは2023年9月、先端的な半導体製造装置(露光装置、成膜装置)の輸出管理強化に係る国内法令を施行したほか、スペインでは2023年6月、フランスでは2024年3月、英国では同年4月にそれぞれ国際輸出管理レジームでは未合意である重要・新興技術の輸出管理措置を講じた。

2024年1月に発表された輸出管理に関するホワイトペーパー51では、EUレベルでの輸出管理政策・執行の連携を改善するために四つの提案を示した。短期的な提案として、①多国間レジームにおいて特定国によるブロックがなければ採択されたであろう管理品をEUレベルで統一的に管理すること、②輸出管理に関するEUの共通ポジションを加速するための加盟国と欧州委員会の政治的協調のためのフォーラムの設置、③加盟国が独自措置を講じる際に事前にほかの加盟国や欧州委員会と連携するためのメカニズムを2024年夏までに設立すること、中期的には、④2025年第1四半期に現行のデュアルユース規則の見直し評価を行い、必要に応じて現行制度の効率性・有効性を改善するための提案を行うことを示した。この見直し評価は、2024年中に実施される調査及び現在進行中の重要技術に関するリスク評価の結果に基づき実施される。

50 欧州委員会Web サイト参照(https://ec.europa.eu/commission/presscorner/detail/en/IP_21_4601外部リンク)。

51 欧州委員会, (2024), “WHITE PAPER on Export Controls”,(https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/PDF/?uri=COM:2024:25:FIN外部リンク).

② 投資管理政策

EUでは2020年10月に「対内直接投資審査規則」が全面適用された52。安全保障や公の秩序の保護を目的に、域外からの直接投資に対し、その是非を審査するものであり、投資規制の導入、内容、判断は加盟国に委ねられている。2023年10月に公表された年次報告書によると、21の加盟国が投資スクリーニング制度を導入している53。また、英国は2022年1月に施行された国家安全保障・投資法により、企業法に基づく審査から国家安全保障に係る投資スクリーニングを分離させ、強化を図った。

2024年1月に発表されたEUの対内直接投資審査規則の改正案54では、加盟国が任意で導入している対内直接投資スクリーニングの制度を全ての加盟国に導入を義務付けること、各加盟国の制度の収斂を促し、EUレベルの協力メカニズムを効率化すること、また外国企業の域内子会社によるEU域内の取引もスクリーニングの対象に追加すること等が盛り込まれた。本改正提案は、EUの通常立法手続を通じ、今後、EU理事会と欧州議会による審議を経ることになる。

さらに、対外投資管理に関し、欧州委員会は経済安全保障戦略において、対外投資によってどのようなリスクが生じ得るかを検討し、対外投資に関連する安全保障上のリスクに対処するための可能な措置を検討するとした。2024年1月に発表された対外投資に関するホワイトペーパー55では、潜在的な対外投資に関するリスク(とりわけ技術やノウハウの流出リスク)に関するデータ・証拠収集のプロセス開始を発表した。加盟国による12か月間の対外投資モニタリングを2024年夏から実施し、これを踏まえ、対外投資がEUの安全保障に与えるリスクについて評価を行う。その上で、対応措置の必要性について検討を行うとされている。

52 EU, (2019), “Official Journal of the European Union”(https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/PDF/?uri=CELEX:32019R0452外部リンク).

53 欧州委員会Webサイト参照(https://ec.europa.eu/commission/presscorner/detail/en/ip_23_5125外部リンク)。

54 欧州委員会, (2024), “Proposal for a REGULATION OF THE EUROPEAN PARLIAMENT AND OF THE COUNCIL”(https://eur-lex.europa.eu/resource.html?uri=cellar:272e2bb6-bb7c-11ee-b164-01aa75ed71a1.0001.02/DOC_1&format=PDF外部リンク).

55 欧州委員会, (2024), “WHITE PAPER on Outbound Investments”(https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/PDF/?uri=CELEX:52024DC0024外部リンク).

(3) 中国の動向

中国では近年、輸出管理や投資管理等の関連制度の整備が進んでいる。

① 輸出管理政策

中国は足下で輸出管理を強化しており、2020年12月には輸出管理法が施行された。安全保障管理の観点からデュアルユース貨物や軍用品、核等やその関連技術に関する輸出管理について包括的に規定しており、管理対象リストの整備や、特定品目の輸出を禁止する主体を定めるリストの導入、みなし輸出、再輸出管理導入、域外適用の原則、報復措置について記載されている。関連法規の整備、実務の確立は現在進行中であり、2022年4月に「両用品目輸出管理条例(意見募集稿)」が公表されている。

一般的な技術の輸出禁止及び輸出制限に関しては、「対外貿易法」の下位法である「技術輸出入管理条例」に規定されており、その品目は「輸出禁止・輸出制限技術目録」に基づき管理されている。2020年8月には12年ぶりに「輸出禁止・輸出制限技術目録」の大幅改正を行い、中国の昨今のテクノロジーの発展や安全保障的な観点等を背景に、人工知能(AI)、暗号・IT セキュリティ、バイオテクノロジー、工作機械・プラント、航空宇宙等の関連技術が追加された。さらに、2022年12月には、太陽光パネルシリコン製造技術、遺伝子解析・遺伝子編集などの遺伝子技術を新規追加する案が公表され、パブリックコメントを踏まえ、2023年12月に「輸出禁止・輸出制限技術目録」の改定版が公表された。

昨今では、重要鉱物に関連する輸出管理の強化も見られる。2023年8月には、主に半導体材料として用いられるガリウム及びゲルマニウム関連品目(単体・化合物)を輸出管理の対象に追加した。同措置は、国家の安全と利益を守るための措置とされている。12月には、電気自動車用のバッテリーの材料として用いられる黒鉛(グラファイト)関連品目の新たな輸出管理措置を施行し、特定の特性を満たす品目を輸出管理の対象とした。また、同年11月にはレアアースの輸出を報告義務の対象に追加した。加えて、上記の2023年12月に公表された改定版の「輸出禁止・輸出制限技術目録」において、希土類金属と希土類磁石の製造技術等の一部のレアアース関連技術を追加し、同技術の輸出を禁止又は制限した。これらの鉱物は中国の生産シェアが大きく、WTOなどの国際ルールに整合的な運用がなされているかを含め、状況を注視していく必要がある56(第II-1-2-1図)。

第Ⅱ-1-2-1図 重要鉱物の生産シェア
重要鉱物の生産シェアの図

56 商務部はガリウム及びゲルマニウム関連品目に関し、2023 年9月21日の定例記者会見において「関連規定に適合すると判断したいくつかの輸出申請については既に認可を下しており、関連企業に対する『両用品目及び技術輸出許可証』の交付も行っている」としている。また、黒鉛関連品目に関し、2023年12月14日の定例記者会見において「関連規定に適合するものと判断したいくつかの輸出申請については、すでに認可している」としている。JETRO北京事務所調査部「中国の輸出管理制度の運用動向(2023年12月時点)」参照(https://www.jetro.go.jp/ext_images/_Reports/01/9e1980f0250a4eb1/20230034.pdf外部リンク)。

② 投資管理政策

中国では、2020年1月に施行された外商投資法において外国投資の安全審査制度の大枠が定められ、2021年1月には安全審査制度の詳細を規定した「外商投資安全審査弁法」が施行された。審査対象分野は軍事関連分野のほか、国家の安全に関わる重要農産物、重要インフラ、重要技術等とされている。実質的支配権を取得する投資については国家発展改革委員会への事前の申請が義務となっており、審査が実施された上で、国家の安全に影響を及ぼすおそれがない場合に中国への対内直接投資が許可される。

③ 外国の制裁措置に対する対抗措置等

米国を始めとする外国による制裁措置に対し、中国では外国の制裁措置に対する対抗措置の立法が相次いだ。2020年9月には「信頼できないエンティティリスト」制度、2021年1月には「外国の法律と措置の不当な域外適用を阻止する弁法」が施行された。「信頼できないエンティティリスト」は当該リストに登録された組織又は個人に対し貿易・投資や入国・滞在等の禁止・制限を課すものであり、初の適用事例として、2023年2月に米国企業2社をリストに掲載し、輸出入・投資等の禁止や罰金を科す等の措置が執られた57。2021年6月には、これまでの規則より上位に位置付けられ、国家が制定する法律である「反外国制裁法」が施行された。同法に基づき、中国当局者等に対する米国の制裁措置に対応して、米国の個人、政府機関、企業に対する制裁措置が累次発表されてきており、最近では、2024年1月に台湾への武器売却などを理由に米企業5社への制裁が発表された58

58  JETRO Webサイト参照(https://www.jetro.go.jp/biznews/2024/01/425f35faf3aa2803.html外部リンク)。

(4) 我が国の動向

我が国では、輸出管理及び投資管理については外国為替及び外国貿易法(外為法)において枠組みが定められており、安全保障環境を踏まえ、適時、見直しが行われている。2022年12月に閣議決定された新たな国家安全保障戦略では、経済安全保障政策の促進を主な方策の一つとして位置付け、投資審査、輸出管理等の更なる強化の検討を行うとした。以下では最近の改正等の概要について記載する。

① 輸出管理政策

2022年5月には、居住者であっても非居住者から強い影響を受けている場合には、当該居住者に管理対象技術の提供をする際には当該技術提供が管理対象となる、「みなし輸出」管理の運用明確化を行った。2023年7月には、国際的な平和及び安全の維持のため、先端的な半導体製造装置の輸出管理の強化を行い、全地域向けの輸出を対象に、新たに23の半導体製造装置を外為法に基づく省令上の管理対象に追加した。

また、経済産業省では、国際的な安全保障環境の変化やデュアルユース技術の軍事転用リスクの高まりを踏まえ、産業構造審議会・安全保障貿易管理小委員会において輸出管理制度の見直しに向けた議論を行っており、2024年4月に中間報告を公表した59。軍事転用の可能性が特に高い機微な品目(いわゆる「リスト規制」の対象となる品目)以外の品目についても、新たなアプローチを検討して、実効的な安全保障貿易管理の実現に向けた取組を進めるべきと提言されており、具体的には、①汎用品・汎用技術の軍事転用可能性の高まりに対応した補完的輸出規制の見直し、②外為法の仕組みを活用した技術管理強化のための官民対話スキームの構築、③機動的・実効的な輸出管理のための重層的な国際連携、④安全保障上の懸念度等に応じた制度・運用の合理化・重点化といった論点について、制度・運用見直しに関する提言がなされている。中間報告に基づき、今後、必要な政省令改正等を進める。

59 経済産業省「2024年4月24日報道発表資料」(https://www.meti.go.jp/press/2024/04/20240424004/20240424004.html外部リンク)。

② 投資管理政策

投資管理については、国の安全を損なうおそれ等の観点より外為法に基づく厳格な審査等の対応を行っている。2019年の改正では、事前届出の対象となる上場会社の株式取得の閾値を引き下げる(10%→1%)とともに、行為時事前届出制度と事前届出免除制度を新たに導入し、特定の業種については、外国投資家が一定の基準を遵守することを前提に、株式取得時の事前届出を免除し、事後報告のみによる投資を可能とした。また、日本企業を取り巻く事業環境の変化等を踏まえ、事前届出が求められる指定業種の見直しも随時行われており、2019年8月にサイバーセキュリティに関連する業種の追加、2020年6月に医薬品・高度管理医療機器に関連する業種の追加、2021年10月に重要鉱物資源等(レアアース等)に関連する業種の追加が行われた。2023年5月には、経済安全保障推進法に基づく「特定重要物資」の指定等を踏まえ、サプライチェーンの保全、技術流出・軍事転用リスクへの対処等の観点から、関連する業種の追加等が行われた。

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