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  7. 第Ⅲ部 第1章 第6節 新たな多国間連携(IPEF、日米豪印、デジタル等)

第Ⅲ部 第1章 ルールベースの国際通商システム

第6節 新たな多国間連携(IPEF、日米豪印、デジタル等)

1.インド太平洋経済枠組み(Indo-Pacific Economic Framework for Prosperity:IPEF)

米国のバイデン大統領は、2021年10月の東アジアサミットにおいて「インド太平洋経済枠組み構想」(Indo-Pacific Economic Framework)を発表した282。米国とこの地域の国々に共通する課題である①貿易円滑化、②デジタル経済と技術の標準、③サプライチェーンの強靱性、④脱炭素化とクリーンエネルギー、⑤インフラストラクチャー、⑥労働基準、⑦その他の共通課題について、具体化をパートナー諸国と進めていくと表明した。

2022年5月、米国の主催により、インド太平洋経済枠組み(Indo-Pacific Economic Framework for Prosperity,以下「IPEF」)の立上げに関する首脳級会合が東京で開催され、共同声明が公表された。同年9月に14か国(米国、日本、豪州、ニュージーランド、韓国、インド、フィジー、ASEAN7か国(ブルネイ、インドネシア、マレーシア、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナム))が参加する形で、①貿易、②サプライチェーン、③クリーン経済及び④公正な経済の四つの柱について、正式に交渉開始が宣言された。以降、世界人口の半数を擁し、世界の活力の中核であるインド太平洋地域において、革新的で、包摂的、持続可能な経済成長の実現に向け、集中的に交渉が重ねられてきた。

2023年11月に米国にて開催された閣僚級会合及び首脳会合では、クリーン経済協定及び公正な経済協定等の交渉が実質妥結に至ったほか、貿易分野についても交渉の進展があった。同年5月に実質妥結したサプライチェーン協定は、同閣僚級会合にて署名された後、2024年2月24日に発効した。

また、同首脳会合では、IPEFメンバーの重要鉱物サプライチェーンの強化に向けた緊密な協力関係を醸成することを目的とした「IPEF重要鉱物対話」の立上げに加え、エネルギー安全保障と技術に関する協力と対話を含む更なる取組の模索について合意した。

2.日米豪印会合

2023年5月、日本、米国、豪州、インドの4か国は、第5回日米豪印首脳会合を広島で対面で開催した。冒頭、岸田総理から、日米豪印の連携を通じて、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を守り抜く決意を示していくことが一層重要であり、4か国の連帯と「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」という共通のビジョンへの強固なコミットメントを改めて国際社会に示す意義は極めて大きい旨強調し、4か国首脳間でその旨一致した。次いで、岸田総理から、東シナ海・南シナ海を含め、インド太平洋における力又は威圧による一方的な現状変更の試みへの深刻な懸念を表明し、4か国首脳間でこれらに強く反対することで一致した。

経済産業省関連では、「インド太平洋におけるクリーンエネルギー・サプライチェーンに関する原則声明」、「オープンRANセキュリティ報告書」、「重要新興技術標準に関する日米豪印原則」、「ソフトウェア・セキュリティに関する日米豪印共同原則」等が公表された。

3.デジタル通商ルール

近年、越境データ流通量は増加傾向にある。急速に発展するデジタル経済の機会をいかすためには、データの利活用が不可欠であり、これが社会課題の解決や企業価値向上に貢献すると期待されている。

2019年1月のダボス会議において、安倍総理(当時)がDFFTを提唱し、同年6月のG20大阪サミットで、プライバシーやセキュリティ等の課題に対処することでデータの自由な流通を更に促進し、消費者及びビジネスの信頼を強化することができるとするDFFTの考え方が示された。

DFFTの推進に向けて、デジタル庁を含む関係省庁が連携しており、特に通商ルール分野の関連では、以下の取組がある。

(1)WTO電子商取引共同声明イニシアティブ交渉

WTO電子商取引共同声明イニシアティブに参加する90か国・地域と共に、電子商取引に関する規律について、高い水準かつ商業的に意義ある成果を目指して2019年から交渉が行われており、日本は、豪州、シンガポールと共に共同議長国を務めている。

2023年12月には、13条文のデジタル貿易ルールに関する交渉が実質的に妥結したこと、残された条文の収斂及び2024年の適時の交渉妥結のために努力する旨を宣言する共同議長声明を発出した。

【詳細は、第III部第1章第3節5.(1)を参照。】

(2)経済連携協定における電子商取引章

CPTPP(2018年12月発効)の電子商取引章において、データ流通を促進する国際約束の先駆けとして、情報の電子的手段による国境を越える移転(いわゆる、データの自由流通の原則)やコンピュータ関連設備の設置等について規定された。

以降、日米デジタル貿易協定(2020年1月発効)、日英EPA(2021年1月発効)、RCEP(2022年1月発効)においても同様の規定が盛り込まれた。(なお、協定ごとに例外範囲などに違いがある)

また、日EU・EPA(2019年2月発効)においては、同協定内の規定(第8.81条)に従い、「データの自由な流通に関する規定」を同協定に含めることの必要性の再評価についての協議が行われ、2022年10月に正式交渉を開始した。2023年10月に大筋合意し、2024年1月に「データの自由な流通に関する規定」等を含めるEPA改正議定書が署名された。

【個別の経済連携協定の状況については、第III部第1章第4節を参照。】

(3)その他国際フォーラムでの議論(G7/OECD)

① G7

G7貿易大臣会合(2023年10月)では、デジタル貿易においてDFFTの促進及びWTO電子商取引共同声明イニシアティブ交渉が重要であること、信頼性あるデータ流通を確保するために、正当化できないデータ・ローカライゼーション措置等に対抗すべきこと、「OECDの民間部門が保有する個人データへのガバメントアクセスに関する宣言」を歓迎し、加えて、非個人データに対しても、正当化できないアクセスが、越境データ流通の信頼性を損ない、実質的な障壁となること等が確認された。

【G7貿易大臣会合については、第III部第1章第1節を参照。】

② OECD(経済協力開発機構)

OECDにおいては、デジタル経済に関する国際的な共通理解の醸成に向け、デジタル貿易に係る既存ルールや原則等を整理するOECDインベントリプロジェクトを日本からの拠出で、2020年から2022年にかけて実施した。越境データ流通を促進する各国措置について一定の共通項を明らかにするとともに、異なる措置の相互運用性を達成するには補完的なアプローチが有効であることを示し、G7・G20の関連大臣会合やWTO電子商取引共同声明イニシアティブ交渉会合においても紹介された。2023年には産業界からも懸念の強いデータ・ローカライゼーション措置についてさらなる調査を実施した。当該調査結果は、2023年G7貿易大臣声明において、正当化できないデータ・ローカライゼーション措置に対抗すべきというG7共通のメッセージを発出するうえで重要な議論の土台となった。

また、政府による民間保有の個人データへのアクセス(ガバメントアクセス)に関し、許容されるアクセスと許容されるべきでないアクセスを差別化するため、日本の提案に基づき「信頼あるガバメントアクセス原則」についての議論を開始した。2022年12月のOECD/CDEP(デジタル経済政策委員会)閣僚会合において、「民間部門が保有する個人データに対するガバメントアクセスに関する宣言」が採択され、本宣言には、法的根拠、正当な目的、承認、データの取扱い、透明性、監督及び救済の7項目からなるガバメントアクセスに関する共通原則が盛り込まれた。

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