第Ⅲ部 第2章 各国戦略

第1節 北米

1.日米経済関係 最近の動き

2023年に三年目を迎えた米国バイデン政権は、前年の2022年に成立した「インフレ削減法」や「CHIPS及び科学法」に基づくクリーンエネルギーや半導体製造等の国内投資を継続的に推進した。2023年6月にはバイデン大統領はスピーチで政権の経済政策を「ミドルーアウト、ボトムーアップによる成長」とし「バイデノミクス」とした。

対外経済政策では、米国は中国と競争関係にあると自認し、中国への依存低減を図りながら、閣僚が訪中するなど中国との対話も推進した。2023年11月には、米国が議長を務めたAPECの機会を捉え、米中首脳会談も開催された。また、米国は2022年に立ち上げたインド太平洋経済枠組み(IPEF)の議論をリードした。

2023年度も日米首脳は累次にわたり会談を行い、緊密な日米関係が確認された。また、2023年8月には日米韓首脳会合が米国キャンプ・デービッドで開催されるなど、第三国を加えた日米連携も深化した。

こうした緊密な日米関係を背景に、経済産業面での日米の連携・協力も進展し、連邦政府、連邦議会や州政府の関係者も多く来日した。

西村経済産業大臣(当時)は2023年5月と11月に米国を訪問し、米国関係閣僚との面談やAPEC、IPEFといったマルチ会合の閣僚会議や、日米経済政策協議委員会(経済版「2+2」)等の会議に出席した。それぞれの米国訪問の概要は以下のとおりである。

2023年5月 第2回JUCIP閣僚会合の開催・APEC貿易担当大臣会合・IPEF閣僚級会合に出席

西村経済産業大臣(当時)は米国デトロイトに出張し、5月25日及び26日にはAPEC貿易担当大臣会合に、翌27日にはIPEF閣僚級会合に出席した。

米国レモンド商務長官とは、前年に第1回が開催された日米商務・産業パートナーシップ(JUCIP)の第2回閣僚会合を行い、共同声明を発出した。

2023年11月 APEC閣僚会議、IPEF閣僚級会合に出席・第2回日米経済版「2+2」閣僚会合の開催

西村経済産業大臣(当時)は11月12日から17日にかけて米国サンフランシスコに出張し、APEC閣僚会議、及びIPEF閣僚級会合に出席した。また、第2回日米経済版「2+2」閣僚会合を開催し、上川外務大臣、レモンド米国商務長官及びブリンケン米国国務長官と経済安全保障に関する議論を行い、会合終了後には共同声明を発出した。

米国レモンド商務長官との会談では、会談直前に行われた第2回経済版「2+2」閣僚会合の成果を確認し、透明、強靱かつ持続可能なサプライチェーンの構築に向け、日米で議論を具体化させていく方針で一致した。また、本会談では両閣僚で北海道産のホタテを食し、その安全性と魅力を確認した。

さらに、AI・次世代半導体ラウンドテーブルの開催、米国・シリコンバレーに設置したスタートアップ支援拠点「Japan Innovation Campus」のオープニングセレモニーへの出席、またカリフォルニア大学バークレー校での講演等を行った。

上記に加え、2023年8月には里見経済産業大臣政務官(当時)が米国シアトルを訪れ、APEC中小企業大臣会合へ出席したほか、同会合で議長を務めたラーゴ米国商務次官と会談した。

2.地域・国際社会の繁栄に資する日米経済協力

国際経済秩序が様々なリスクや脅威にさらされる中、経済安全保障の確保に向けて、バイデン政権は同志国との経済分野での協力を強化してきた。基本的価値観を共有する同盟国である日本との間では、2021年11月に経済産業省と米国商務省との間で設立され、両省間の具体的な協力を推進する「日米商務・産業パートナーシップ(JUCIP)」と、2022年1月に岸田総理とバイデン大統領との間で設立され、経済産業省・米国商務省に加え外務省・米国国務省も含めて、経済課題への対応について戦略的・地政学的観点も踏まえ大局的に議論する「日米経済政策協議委員会(経済版「2+2」)」の二つの枠組みを中心に、経済分野での協力が進められた。

JUCIPについては、2022年5月の第1回閣僚会合に続き、第2回閣僚会合が2023年5月に米国デトロイトにおいて西村経済産業大臣(当時)とレモンド米国商務長官との間で開催された。両閣僚は、両国及び世界経済が幅広い挑戦や不確実性に直面している中で、両国の経済的繁栄と経済安全保障の強化及び地域の経済秩序の維持・強化には、JUCIPの下で日米両国の協力を深化させることが不可欠であると再確認したほか、インド太平洋地域を始めとした新興国及び発展途上国へのアウトリーチの重要性について確認し、インド太平洋経済枠組み(IPEF)等を通じた日米とこれら諸国の連携強化によるグローバル・サプライチェーンの強化を進めていくことを確認した。

その上で、両閣僚は両省の協力が半導体、輸出管理、デジタルなどのこれまでの協力分野に加え、バイオ・量子分野、太平洋島嶼国の経済的かつ社会的な発展への貢献など、多様な分野に拡大していることを歓迎するとともに、こうした幅広い分野での協力の成果及び今後の方向性を、共同声明として発出した。

日米経済版「2+2」は、2022年7月の第一回閣僚会合に続き、第二回閣僚会合が2023年11月に米国サンフランシスコにおいて西村経済産業大臣(当時)、上川外務大臣、レモンド米国商務長官、ブリンケン米国国務長官出席のもと開催された。4閣僚は、国際情勢が厳しさを増す中で、普遍的価値を共有する日米が、経済秩序への脅威に対峙し、経済安全保障の強化に向けて協力することの重要性について指摘した上で、次の二つの議題を議論した。

第一に、「インド太平洋地域におけるルールに基づく経済秩序の強化」と題して、経済的威圧や非市場的政策・慣行への対応に関して議論するとともに、東京電力福島第一原子力発電所からのALPS処理水の海洋放出に係る科学的根拠に基づかない輸入制限措置を直ちに撤廃すべきと確認等した。加えて、不当な形で競争力を高め、市場を支配しようとする試みに対抗する必要性について議論し、信頼性があり、かつ環境保護にも資する戦略物資の供給源の確保を促進する、「透明、強靱かつ持続可能なサプライチェーン」の構築に向け、日米経済版「2+2」の枠組みのもと、検討を開始することで合意した。

第二に、4閣僚は「経済的強靱性の強化及び重要・新興技術の育成・保護」と題して、次世代半導体やAI、量子等の重要・新興技術に係る今後の協力の方向性について議論した。量子では、日本の産業技術総合研究所と米国の国立標準技術研究所(NIST)の量子協力に係る包括研究協力覚書の署名を歓迎し、日米協力の加速で一致した。また、生成AI向け先端半導体の利用可能性の拡大、リサイクルを含む重要鉱物の安定供給、ロシアによるウクライナ侵略が長期化する中で厳しさを増すエネルギー安全保障の強化等について、日米での協力と具体的な連携を進めていく方針を確認した。

このほかにも、2024年1月には就任直後の齋藤経済産業大臣がレモンド米国商務長官と電話会談を行い、JUCIPや経済版「2+2」を通じた二国間経済協力の強化、IPEFにおける協力、第一回の日米韓商務・産業大臣会合の開催に向けた連携を確認した。

また、これらの枠組みに留まらず、商務省や国務省、エネルギー省、国土安全保障省、国防総省等との間でも、日米連携や経済分野での協力について様々な議論や意思疎通が図られている。

3.日米貿易投資関係の更なる発展に向けた取組

日米両国でのサプライチェーン強靱化に向けた関心が高まる中、日本からの対米直接投資残高は年々増加し、2022年末時点で日本の対外直接投資残高全体の33.5%に相当する92兆円に達した283。2022年末時点で米国にとって、日本は国別で最大の投資元(7,752億ドル、前年比63億ドル増)であり、2019年以降、4年連続で首位となった284。また、在米日本企業による米国内の雇用者数は96.3万人(世界第2位)であり、このうち製造業の雇用者数は53.3万人(世界第1位)である(2021年)285

日本企業は、全米各地で研究開発分野への投資を活発に行い、イノベーションの源泉としてきた。日本企業による米国内での研究開発費は年126.3億ドルであり、これは、世界第2位である(2021年)286

こうした日本企業の活動を後押しするため、経済産業省やJETROは、①州知事等への個別アプローチ、②対米投資促進のためのセミナー開催、③両国企業の現地でのマッチングイベント開催などに取り組んでいる。例えば、2023年5月にメリーランド州で米国商務省が主催する対米投資促進イベントであるセレクトUSA投資サミットが開催され、この機会を捉えて活発な日米間の貿易投資の現状がハイライトされた。さらに、JETROが主催し、EV、半導体、AIなど日米間で関心が高い分野をテーマに複数のビジネス環境視察ミッションを実施し、日本企業が投資環境やインセンティブの現状を視察する機会を創出した。

これらの取組は、2023年8月に実施された「グラスルーツからの日米関係強化に関する政府タスクフォース(「各地各様のアプローチ」)」第6回フォローアップ会合(議長:木原官房副長官(当時))において新たな指針として策定された「行動計画3.0」で、日米サプライチェーン協力強化等の視点を加えて実施していくこととされた。

2023年度は、米国の地方政府との協力関係が更に進展した。バージニア州、ミシガン州、カンザス州、インディアナ州、ニュージャージー州、ハワイ州、アーカンソー州の知事と西村経済産業大臣(当時)や経済産業省の幹部が会談を行い、日本企業の各州における社会・経済への貢献や、日米協力の重要性等について意見交換を行った。

更に、複数の米国連邦議会関係者が経済産業省を訪問し、西村経済産業大臣(当時)や齋藤経済産業大臣、幹部が面談を実施した。

また、日米両国のビジネス関係者での連携強化を図る日米財界人会議、日本・米国中西部会、日本・米国南東部会等の会合が日本で開催された。経済産業省からは西村経済産業大臣(当時)、里見経済産業大臣政務官(当時)及び吉田経済産業大臣政務官がこれらの会合等に出席し、日本企業と米国社会の歴史的関係や、投資・雇用等の地域経済への貢献の深度を説明し、継続的なグラスルーツ連携の重要性を訴えた。

日米財界人会議にあわせ、西村経済産業大臣(当時)は、スザンヌ・クラーク全米商工会議所会頭との面談や米日経済協議会(USJBC)関係者と意見交換を行った。また、日米財界人会議の日本側担当の日米経済協議会(JUBC)からは、同会議の提言書に関する報告が経済産業大臣になされた。

283 財務省「直接投資・証券投資等残高(地域別)」

284 米国商務省「Direct Investment by Country and Industry, 2022」

285 米国商務省「Foreign Direct Investment in the United States (FDIUS), Employment by Industry and Country 2007-2021」

286 米国商務省「Activities of U.S. Affiliates of Foreign Multinational Enterprises, 2021」

4.日米通商分野

日米間の通商分野は、2021年11月に立ち上がった経済産業省、外務省、米国通商代表部(USTR)が通商分野における日米共通のグローバルアジェンダやインド太平洋地域における協力等を議論する「日米通商協力枠組み(Japan-U.S. Partnership on Trade)」を中心に局長級で議論されている。2023年12月には第4回会合が行われ、デジタル、重要鉱物サプライチェーン、第三国の貿易慣行、労働、マルチ協力等について議論を行った。

また、日米通商協力枠組みにおける議論を通じて、様々な取組が展開されている。労働分野においては、2023年1月に西村経済産業大臣(当時)とタイ米国通商代表が協力覚書に署名をし、立ち上げた「サプライチェーンにおける人権及び国際労働基準の促進に関する日米タスクフォース」の第一回会合(政府間対話及びステークホルダー対話)が2024年2月に行われた。政府間対話では、サプライチェーン上の人権尊重及び国際的に認められた労働者の権利の保護等に関する日米の取組についての情報共有が行われた。ステークホルダー対話では、日米政府関係者がビジネスと人権政策に関する報告を行い、また、産業界、労働組合、市民社会、国際機関から、人権デュー・ディリジェンスに関する取組等について紹介があった。

日米の通商関係は様々な分野での協力が進む一方、残る課題も存在する。特に、2018年3月に米国政府が1962年通商拡大法232条に基づき、安全保障上の懸念を理由に措置した鉄鋼製品に対する25%、アルミ製品に対する10%の追加輸入関税の賦課は、同盟国である我が国からの鉄鋼・アルミの輸入が米国の安全保障上の脅威にはならないとして、日本政府から米国政府に対し様々なレベルで継続的な働きかけを行っている。

2022年2月に米国政府が日本から輸入する鉄鋼製品に一定数量の無税率の関税割当を導入し、また派生製品に対する追加関税を撤廃したが、アルミ製品への追加関税10%は維持され、鉄鋼製品の関税割当の25%の二次税率が存在するなど、未だ一連の措置の完全撤廃はなされていない。引き続き米国政府に完全撤廃を求めていく。

5.日加経済関係

日本とカナダは、普遍的価値を共有するインド太平洋における重要なパートナー国である。カナダはエネルギー・重要鉱物に恵まれた資源国であるとともに、先端産業技術の研究分野等でも強みを有しており、日本にとってサプライチェーン強靱化や国際社会におけるルールメイキングの観点からも重要なパートナーである。

これらの観点から、経済産業省としては、カナダ政府との連携を積極的に図っており、2023年9月には西村経済産業大臣(当時)が経済産業大臣として10年ぶりにカナダを訪問した。その際、イン輸出促進・国際貿易・経済開発大臣、シャンパーニュ革新・科学・産業大臣、ウィルキンソン・エネルギー・天然資源大臣とそれぞれ会談を行い、イン輸出促進・国際貿易・経済開発大臣とはCPTPPやWTO等の経済枠組における日加連携の促進、シャンパーニュ革新・科学・産業大臣とは産業・デジタル分野での日加協力の深化、ウィルキンソン・エネルギー・天然資源大臣とはLNGや原子力等を含む日加エネルギー協力の強化等について意見交換を実施した。

また、西村経済産業大臣(当時)、山野内駐カナダ特命全権大使と、上記3閣僚の間で、蓄電池サプライチェーンに関する政府間の日加協力覚書に署名した。当該協力覚書は、日本にとってカナダが世界で最初の署名国であり、日本企業によるカナダ進出の円滑化と、日加間の持続可能で信頼性のある蓄電池サプライチェーンの構築が図られた。

また、西村経済産業大臣(当時)、山野内駐カナダ特命全権大使、イン輸出促進・国際貿易・経済開発大臣、シャンパーニュ革新・科学・産業大臣の4者は量子・AI等の産業技術分野に関する政府間の日加協力覚書に署名した。当該協力覚書は、日加間における①先進製造、②人工知能(AI)、③クリーン技術、クリーンエネルギー及び炭素削減技術、④ライフサイエンス、⑤量子、⑥半導体などの科学技術分野における当事者間の協力の発展を図るものである。

また、両国関係閣僚が列席する中、日加民間企業による蓄電池材料に関する合意文書への署名が実施された。あわせて、蓄電池サプライチェーンに関する官民ラウンドテーブルが開催され、西村経済産業大臣(当時)のほか、日加両国の政府関係者及び蓄電池関連企業・団体が出席した。

両国の経済ミッションの往来も活発化している。日本から、2023年3月に電池サプライチェーン協議会(BASC)会員企業と日本政府関係者によるバッテリーミッションがカナダを訪問し、カナダ政府や関連業界との対話や工業団地の視察等を実施した。また、2024年2月には日本の原子力サプライヤー企業と日本政府関係者によるミッションがカナダを訪問し、カナダの電力企業や原子力関連メーカー等との面談を実施した。

カナダからは、2023年10月下旬から11月上旬にかけて、イン輸出促進・国際貿易・経済開発大臣が160以上の企業・団体等の参加者を得た「Team Canada」ミッションを率いて来日し、日本企業との個別商談会等を実施した。また2024年1月には、半導体関連のミッションが来日し、在京カナダ大使館主催のセミナー等が実施された。

経済産業省は、JETROを通じて日加企業の相互進出・連携を後押ししている。2023年度は、対日投資促進の枠組みを活用したカナダ企業の日本進出支援や、各種広報活動支援、また2023年6月にトロントで開催されたテック系スタートアップ展示会「Collision 2023」においては、日系スタートアップの北米でのビジネス展開やマッチングの支援等を実施した。

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