第2節 欧州
1.EU関係
欧州連合(EU)は、27か国が加盟、人口約4.5億人287、名目GDPは世界全体の2割近く288を占める政治・経済統合体である。EUは、域外に対する統一的な通商政策を実施する世界最大の単一市場であり、単一通貨のユーロには、20か国が参加している。また、国際秩序の不確実性が増す中にあって、自由、民主主義、法の支配、人権といった基本的価値や原則を共有するという意味で我が国にとって重要なパートナーである。
また、欧州委員会は、フォン・デア・ライエン欧州委員会委員長(ドイツ出身)、ミシェル欧州理事会議長(ベルギー出身)の下、気候変動(グリーン)分野、デジタル分野を中心に意欲的な政策の打ち出しを図っており、新型コロナウイルス感染症からの復興においても、復興基金「次世代のEU」の活用等を通じた大規模な投資の促進に加え、グローバルなルールメイキングの主導を一層推進する姿勢を示している。
そのほか、従来の国家安全保障のアプローチに加え、経済安全保障を守るための新たな手段として、欧州委員会は、2023年6月にEU初の経済安全保障戦略を発表した。経済安全保障、リスク低減、重要セクターにおける技術的優位性を伸ばすためのEU独自の戦略的アプローチを構築していくとしている。また、パートナー国との協力の重要性も強調するとともに、日本との協力として日EUハイレベル経済対話を挙げている。
気候変動(グリーン)分野については、2021年7月、「欧州気候法」が成立し、2030年までに温室効果ガス55%削減(1990年比)を法的拘束力のある目標とすることを正式決定した。その上で、2024年2月、欧州委員会はEUの2040年時点の温室効果ガス削減目標として90%削減(1990年比)を提案した。今後の議論を経て法制化を予定している。また、2021年に発表された「Fitfor55パッケージ」の合意に向けた議論も進んでいる。その中で、炭素国境調整措置(CBAM)では、カーボンリーゲージのリスクが高いセメント、鉄・鉄鋼、アルミニウム、肥料、電力に加えて、水素を新たに対象と加えるなど適用範囲を拡大する等の規則案が2022年12月に政治的合意し、2023年10月より移行期間における報告義務が発生した。また、自動車CO2排出規則も改正案が提案され、その中で2035年内燃機関車の販売の禁止が打ち出された。
さらに、2022年5月、ウクライナ情勢を踏まえ、エネルギー価格高騰及び需給逼迫への対応策、ロシア産化石燃料依存からの脱却を2本柱とし、ガス供給源の多様化、再エネ、省エネ、水素促進等を方針とする「RePowerEU計画」を公表した。加盟国は同計画の内容に沿って、「RePowerEU章」を含めた復興計画を提出する。
EUの貿易政策においては、「開かれた戦略的自律」を柱として掲げ、2022年9月には、新型コロナウイルス感染症拡大を教訓として緊急時にEUの単一市場の機能を維持し、戦略的物資を確保するために「単一市場緊急措置規則案」を公表した。また、ネット・ゼロ移行のために必要となるクリーン技術を欧州内で確保するために「グリーン・ディール産業計画」を2023年2月に発表した。その後、同計画に沿って、クリーン産業への投資及び資金供給加速に向けた国家補助金規則の緩和などを規定した「Temporary Crisis and Transition Framework(TCTF)」や、ネット・ゼロ産業の製造容量に関する目標設定や導入拡大に向けた規制整備・許認可の迅速化などを規定した「ネット・ゼロ産業法案」、重要原材料の欧州内における供給確保に向けた特定の重要原材料に関するプロジェクト支援を規定した「重要原材料法案」を同年3月に発表し、法制化に向けた議論を進めている。そのほか、2023年9月には、中国製EVの価格は巨大な国家補助金により人為的に下げられているとの見方から、中国製EVに対する反補助金調査を開始した。
また、人権・環境等のデュー・ディリジェンス(DD)についてEUレベルでの議論も加速しており、欧州委員会は人権・環境等のDDを義務化する「企業持続可能性デュー・ディリジェンス指令案」を2022年2月に公表し、同年9月には、強制労働関連産品のEU市場での上市・域外輸出を禁止する「強制労働禁止規則案」を発表し、両案の正式な採択に向けた手続が進んでいる。
デジタル分野では、2021年4月に発表されたAI法案について、2023年12月に政治的な合意に至った。適用範囲に関わるAIシステムの定義に関して、OECDが提案するアプローチと一致させ、その上で、軍事・防衛専用のシステムを適用から除外した。AIのリスクに応じてAIを規制しており、リスクが高いほど規制が厳しくなり、容認できないリスクを伴う用途については、AI利用そのものを禁止する。そのほか、2022年11月に発行したプラットフォーマーへの規制措置等を盛り込んだ「デジタルサービス法」、「デジタル市場法」についても、具体的に対象となる企業を特定し公表の上調査を開始している。また、2021年9月に公表した「インド太平洋における協力のためのEU戦略」において同志国との締結を模索するとされていたデジタルパートナーシップについて、2022年5月に日本、同年11月に韓国、同年12月にシンガポールと合意した。2023年7月に日EUデジタルパートナーシップ第1回閣僚会合を開催し、デジタル分野における幅広い日EU間の協力関係及び促進を確認した。
2023年7月、岸田総理とミシェル欧州理事会議長、フォン・デア・ライエン欧州委員会委員長との間で第29回日EU定期首脳協議がブリュッセルで開催された。長年の日EU懸念事項であった日本食品の輸入規制撤廃をEUが発表するとともに、双方は、日EUハイレベル経済対話での議論を踏まえ、非市場的政策・慣行や経済的威圧などへの対応や、サプライチェーン強靱化に向けた連携を一層強化することで合意した。また、岸田総理は、2023年12月にミシェル欧州理事会議長と懇談を行った。2023年6月、10月にフォン・デア・ライエン欧州委員会委員長と電話会談を行い、12月に対面で会談を行った。西村経済産業大臣(当時)は、2023年4月、12月にシムソン委員(エネルギー担当)と、2023年4月にベステア上級副委員長(競争担当)と、2023年4月、9月にブルトン委員(域内市場担当)と、2023年10月にドンブロフスキス上級副委員長(貿易担当)と会談を行った。また、西村経済産業大臣(当時)、林外務大臣(当時)、ドンブロフスキス上級副委員長(貿易担当)を共同議長とする日EUハイレベル経済対話第3回会合を2023年6月にオンライン形式で実施した。西村経済産業大臣(当時)、上川外務大臣、ドンブロフスキス上級副委員長(貿易担当)を共同議長とする日EUハイレベル経済対話第4回会合を2023年10月に大阪で開催し、日EU EPA「データの自由な流通」に関する規定について、交渉の大筋合意を確認し、今後、早期の署名に向けて作業を加速化することで一致、持続可能な市場の在り方の重要性を述べ、日EU間で事務レベルの「透明、強靱で持続可能なサプライチェーンを構築するための政策に関する国際協力作業部会」を設置することで一致した。また、ロシアによるウクライナ侵略を起因とするエネルギーや食料などの安定供給確保の重要性を認識し、国際秩序が挑戦を受ける中で、基本的価値を共有し、自由貿易を共に推進する戦略的パートナーである日EUが、国際社会における自由で公正な経済秩序をリードしていくことの重要性を確認するなど、首脳・閣僚レベルでも密接な連携が持続している。
287 外務省Webサイト(https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/eu/data.html)、2023年。
288 IMF「WEO」(2023年10月)
2.英国
英国は、基本的価値を共有するグローバルな戦略的パートナーであり、日本とは経済的な結びつきが強いだけでなく、近年は安全保障・防衛協力を含め、関係を強化している。
EU離脱後、英国は欧州域外への関与を強化する姿勢を強めており、中でもインド太平洋地域は、英国政府が2021年3月に発表、2023年3月に刷新が行われた統合レビュー文書「競争時代におけるグローバル・ブリテン」において、英国の国際戦略における重要な地域と位置付けられている。CPTPP加入への強い意欲はその一端であり、2021年6月には加入手続開始が決定され、2023年3月に加入交渉が実質妥結、2023年7月に英国の加入に関する議定書が署名された。
岸田総理は2023年5月のG7広島サミットの際にスナク首相と共に「強化された日英のグローバルな戦略的パートナーシップに関する広島アコード」(以下「日英広島アコード」)を発出した。同5月には日英広島アコードの発出に合わせて、エネルギー安全保障・ネットゼロ省との間で再生可能エネルギーにおけるパートナーシップについて、科学・イノベーション・技術省とは、半導体分野での協力促進に向けたパートナーシップについて共同声明を発出した。
2023年9月には西村経済産業大臣(当時)がケミ・ベイデノック・ビジネス・貿易大臣と第1回日英戦略経済貿易政策対話を英国で開催した。同対話は日英広島アコードで立上げを合意したものであり、エネルギー安全保障・ネットゼロ省と科学・イノベーション・技術省の関与の下で開催され、経済安全保障を軸に、貿易、原子力を含むエネルギー、イノベーションなどの分野の協力を重点的に進めることに合意した。さらに、2023年10月のG7大阪・堺貿易大臣会合では、ケミ・ベイデノック・ビジネス・貿易大臣と会談し、重要鉱物に関する日英政府・企業間の連携を推進する協力覚書に署名した。また、同会合のマージンで、上川外務大臣とケミ・ベイデノック・ビジネス・貿易大臣は日英EPA合同委員会第2回会合を開催し、日英EPAの実施状況を確認するとともに、EPAの一層の活用促進に向けて引き続き協力することで一致した。このように、日英両国は関係を一層強固にするため、通商やエネルギーなどの様々な分野で連携を強化している。
3.ドイツ
2021年12月の3党連立政権樹立後、2022年4月にショルツ首相が初のアジア訪問国として日本を訪問した。2023年3月には、日独政府間協議が東京で開催され、経済安全保障分野を中心に両国間の協力を更に拡大・深化することを確認した。
2023年5月のG7広島サミットの場においても日独首脳会談を行い、グローバル・サウス諸国との連携の重要性について議論し、互いに協力して取り組んでいくことで一致した。また、ロシアによるウクライナ侵略に関して、厳しい対露制裁と強力なウクライナ支援を継続していくことを確認した。G7広島サミットにおいては、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を守り抜くとのG7の決意を力強く世界に発信するとともに、ウクライナとの揺るぎない連帯を示していくことで一致し、両国間では緊密な関係が築かれている。
また、西村経済産業大臣(当時)は、2023年4月のG7群馬高崎デジタル・技術大臣会合で、ヴィッシング連邦デジタル・交通大臣と、経済社会のイノベーションと新興技術の推進の方向性や、5G・オープンRAN分野における日独連携について議論したほか、自動車分野の脱炭素化に向けたe-fuelに関する意見交換を行った。これを受け、同年9月にミュンヘンで開催された国際会議「E-fuelsカンファレンス」に太田経済産業副大臣(当時)が出席し、e-fuelの重要性、国際連携の必要性を提起した。
また、同年10月には、日独間の産業協力の深化・発展について意見交換を行う経済産業省と独経済エネルギー省(現在の独経済・気候保護省)との間の対話である「日独次官級定期協議」の第21回目が実施され、経済安全保障や多国間通商枠組、二国間のエネルギー協力、脱炭素化に向けた政策、デジタル政策等について意見交換を行った。
4.フランス
フランスとは、2019年6月にマクロン大統領が訪日した際に発出した「『特別なパートナーシップ』の下で両国間に新たな地平を開く日仏協力のロードマップ(2019~2023年)」に基づき、協力を進めている。
2023年1月のフランスでの日仏首脳会談に続き、5月には、G7広島サミットの場において、マクロン大統領と会談を行い、安全保障・経済分野を含め、幅広い分野で両国の連携を一層深化させることに合意した。経済分野では5年間で100人の日本の起業家をフランスに派遣することを含むスタートアップ分野での協力や、民生原子力に関する協力を進展させることで一致した。同年12月には、電話会談にて、両首脳は「特別なパートナーシップ」の下での日仏協力のロードマップを発出した。
また、西村経済産業大臣(当時)は2023年1月に東京でベシュト対外貿易・誘致担当大臣(当時)とスタートアップ分野を含む二国間経済協力や、G7貿易大臣会合の成功に向けた協力等について意見交換を行った。また、2023年5月にはフランスを訪問し、ルメール経済・財務・産業・デジタル主権大臣とスタートアップ分野での協力を始めとした産業・エネルギー分野での日仏連携を強化することで一致した。また、パニエ=リュナシェ・エネルギー移行大臣(当時)と会談を行い、日仏の原子力協力を深化させるための共同声明に署名した。
2023年9月には、フランスで開催されたIEA重要鉱物・クリーンエネルギーサミットに参加した際、ルメール経済・財務・産業・デジタル主権大臣と経済安全保障分野での連携強化について意見交換を行い、実務者レベルでの対話の立上げに合意した。パニエ=リュナシェ・エネルギー移行大臣(当時)とは、二国間での原子力、重要鉱物、水素及びアンモニア等における協力について確認した。
また2023年11月には、経済産業省と仏経済財務省との間で定期的に開催されている「日仏産業協力委員会」の第35回目を開催し、日仏における産業政策の展望や産業活動などについて意見交換を行った。そのほか、航空機、エネルギー、原子力といった分野では、分野ごとの日仏間の対話の場を設け二国間協力の進展を図っている。
5.EU域外
2022年2月からのロシアによるウクライナ侵略は長期化の様相を呈しているも、ウクライナの経済的復興に向けG7を始めとした国際社会が結束し支援に取り組んでいる。
2023年3月に岸田総理が開戦後初めてウクライナを訪問した。2023年5月のG7広島サミットの際にはゼレンスキー大統領が訪日し、G7として外交、財政、人道、軍事支援を必要な限り提供するという揺るぎないコミットメントを着実に実施していくことで一致した。また2023年6月英国において、英国政府及びウクライナ政府が共催する「ウクライナ復興会議」が開催された際には、日本政府・企業関係者とウクライナ政府・企業関係者等との意見交換の場として「日ウクライナ官民ラウンドテーブル」を実施した。さらに民間企業の参画を促進すべく、経団連がウクライナ経済復興特別委員会を立ち上げ、2023年9月には林外務大臣(当時)、2023年11月には岩田経済産業副大臣・辻外務副大臣が民間企業複数社と共にウクライナを訪問した。
2024年2月にはシュミハリ首相ほかウクライナ政府関係者・企業が訪日し、日ウクライナ経済復興推進会議を開催した。そこでは、官民連携を含む56もの署名協力案件を披露するとともに、齋藤経済産業大臣がシュミハリ首相との会談を実施し、スタートアップを含む日本企業の技術やサービスを通して「日本ならでは」の支援を進めていくと伝えた。今後も各国と連携しながらウクライナ復興支援を推進していく。