第Ⅲ部 第2章 各国戦略

第5節 インド

1.日印経済関係

インドの人口は14億人を超え、2023年に中国を抜き世界第1位となったと推定される292。2014年に発足したモディ政権は、「Make in India」等の様々なイニシアティブを打ち出し、経済改革、製造業振興による雇用の創出、投資促進のためのビジネス環境整備、インフラ整備等を進め、インドの国際競争力強化に取り組んできた。2020年以降、モディ政権は「自立したインド(Self Reliant India)」政策を核に、輸入依存の低減を通じた経済安全保障の確保、グローバル・サプライチェーンにおける自国の生産・輸出拠点としての地位強化を志向している。同政策の下で、国内生産強化を目的に、自動車・医療機器・バッテリー等インド政府が注力する産業の国内生産を支援する「生産連動型優遇策(PLI)」や、半導体・電子機器生産誘致を目的とする「インド半導体ミッション政策」等、外国企業も対象とする補助金政策が実施されている。また、「国家インフラマスタープラン(Gati Shakti)」やインフラ向け政府支出の拡大を通じて、産業の基盤となる物流・インフラの強化が推進されている。さらに、中央・州政府との行政手続を一元的にオンラインで統合した「国家シングルウィンドウシステム」を立ち上げ、ビジネス環境改善にも取り組んでいる。

日印関係においては、2005年から首脳間の相互往来が行われる等、良好な関係を構築しており、首脳会談等を通じて日印関係の深化に努めてきた。経済分野では、投資促進、ビジネス環境整備、人材育成、エネルギー、デジタル、スタートアップ等、様々な分野で協力を進めてきた。インドに進出している日系企業は2022年10月時点で1,400社293であり、10年前に比べて1.5倍に増えた。日本は2000年から2023年の累計でインドに対して世界第5位の直接投資を行っている294。また、2022年3月の日印首脳共同声明において、今後5年間で日本からインドに対し、5兆円規模の投融資を実現することが表明され、2023年3月の岸田総理訪印時の日印首脳会談では、同目標の実現に向け順調に実績が重ねられていることが歓迎されている。

2023年は日本がG7の議長国、インドがG20の議長国を務め、多数の政府要人が往来した。インドはG7広島サミットを含めて、4月の気候・エネルギー・環境大臣会合、4月のデジタル・技術大臣会合、10月の貿易大臣会合等に招待国として出席している。2023年7月には、経済産業大臣としては4年ぶりに西村経済産業大臣(当時)がインドのデリーを訪問し、「日印ディープテック及びクリーンエネルギーセミナー」での挨拶にて、「日印産業共創イニシアティブ」を発表した。また、ヴァイシュナウ電子情報技術大臣と会談を行い「半導体サプライチェーンパートナーシップ」に係る協力覚書を署名したほか、ゴヤル商工大臣とは「日印産業共創イニシアティブ」に基づく二国間協力の進化等について、シンディア鉄鋼大臣とは経済成長と脱炭素化を両立させる鉄鋼産業の発展に向けた協力について会談を行った。また、2023年10月には、ゴヤル商工大臣とテレビ会議による会談及び、G7貿易大臣会合に合わせて対面で会談を行い、日印産業共創イニシアティブの取組等を通じて、日印経済関係を更に深化することで一致し、日印間の投資及び貿易関係強化に向けた連携の一層の強化について意見交換を行った。

そのほかのインドの要人による政務表敬においても、日印両国間の緊密な経済関係を踏まえつつ、日印特別戦略的グローバル・パートナーシップの下で企業間協力も含め、日印の更なる経済関係の深化について意見交換が行われた(2023年8月マハラシュトラ州副首相による西村経済産業大臣(当時)表敬、同年10月国会議員団による西村経済産業大臣(当時)表敬、同年11月インド外務副大臣による石井経済産業大臣政務官表敬、同年11月グジャラート州首相による西村経済産業大臣(当時)表敬、2024年3月印日経済委員会委員長、日印経済委員会委員長による齋藤経済産業大臣表敬)。

292 UNFPA(2023). “State of World Population report 2023”(https://www.un-ilibrary.org/content/books/9789210027137/read外部リンク

293 JETRO(2023). 「インド進出日系企業リスト」、 (https://www.in.emb-japan.go.jp/files/100527273.pdf外部リンク)。

294 インド商工省産業国内取引振興局「FDI NEWSLETTER VOL. XXXII No. 3 - JANUARY, 2024」、(https://dpiit.gov.in/sia-newsletter/fdi-newsletter-vol-xxxii-no-3-january-2024外部リンク)。

2.主な進捗

(1)二国間産業協力

2023年7月に西村経済産業大臣(当時)は、①イノベーションによる未来産業の創出、②既存産業の進化、③アフリカ等の新市場への展開、を推進すべく、日印産業協力を新たな次元へと質及び幅ともに進化させていくことを念頭に、これまでの二国間協力の取組を強化する「日印産業共創イニシアティブ」を発表した。一つ目の柱「未来産業の創出」は、デジタル、クリーンエネルギー、ヘルスケア、次世代自動車、航空宇宙、半導体などの最先端分野で、ともに力をあわせて世界の未来を切り開いていく日印協力の実現を目指すものである。二つ目の柱「既存産業の進化」は、繊維や鉄鋼等既存の産業分野が新しい時代の要請に合わせて進化を遂げることを推進するものである。三つ目の柱「新市場への展開」は、日印の産業協力で得られた成果を更に世界へと展開し、日印の産業共創のモデルをグローバル・サウス全体に広げることを目指すものである。

特に半導体協力については、2023年7月に両国政府間で、半導体サプライチェーンの強靱化に向けた日印の協力強化を目的として、「日印半導体サプライチェーンパートナーシップ」を締結し、日印半導体サプライチェーン政策対話の立上げ等を決定した。同年11月には第1回の会合がオンラインで開催され、日印の半導体関連企業から100名以上が参加し、2024年1月にはグジャラート州で日印の半導体関連企業が参加する意見交換会が行われた。

また、2019年に梶山経済産業大臣(当時)とゴヤル商工大臣間で立ち上げられた日印産業競争力パートナーシップの第五回次官級会合が、2023年2月28日、平井経済産業審議官(当時)及びジェイン印商工省次官(当時)との間で、東京で開催され、2022年3月の日印首脳会談時に合意された5兆円の投融資目標の実現に向けて、両国で投資促進を含む産業協力、さらにはインドにおけるビジネス環境改善を一層推進することで一致した。また、2023年度には、同パートナーシップ下で省庁横断で設置されている、日本工業団地・中小企業・鉄鋼・繊維・自動車・進出日本企業課題解決(ファストトラックメカニズム)の各分野別ワーキンググループが相次いで開催され、各分野における二国間協力の方向性の協議が行われた。

エネルギー協力については、2022年3月の岸田総理訪印時に、日印エネルギー政策対話の下で取り組んできた二国間協力分野を拡大し、11分野で、政府間の情報交換のほか、官民ワークショップの開催、研究開発や人材育成など、日本の技術と資金面の支援を行いながら、両国のエネルギー分野での協力関係を一層強化していく「日印クリーンエネルギー・パートナーシップ」を発表し、2023年3月の日印首脳会談時にも、同パートナーシップの下で両国の協力を促進していくことで一致している。2023年7月、西村経済産業大臣(当時)は、シン電力・新・再生可能エネルギー大臣と会談を行い、両国間における水素及びアンモニアにおける協力を一層深化することを確認した。

デジタル分野での協力について、日印デジタルパートナーシップの下、日本企業とインドの優秀なIT人材のマッチングを支援するJapan-Dayという就職説明会がインド工科大学(IIT)ハイデラバード校にて2018年以降毎年開催されており、2023年度は「JAPAN WEEK CAREER FAIR 2023(ジャパン・ウイーク・キャリア・フェア 2023)」として拡大して開催され、日系企業20社、学生250名以上が参加した。ほかにも、日本企業が有するDX等イノベーティブな技術の活用(ヘルステック等)を通じたインドの社会課題解決に資する事業の支援が2019年度から行われており、2024年度は「新興国DX等新規事業創造推進支援費補助金」として8件を採択し支援が行われている。過去総計29件の日印プロジェクトの支援が行われている。

そのほか、インド太平洋地域におけるサプライチェーン強靱化を実現する事業の支援も行われ、2023年度は5件が採択されている。また、人材協力について、2016年11月の日印首脳会談で決定した10年間で3万人のもの作り人材の育成を目指し、製造業の人材育成に係る「日本式ものづくり学校(JIM)」及び寄附講座(JEC)の新規開設に取り組んでおり、2022年度には、新規JIMが2件開講し、合計でJIMは37校、JECは11講座となった。

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