第7節 ロシア・中央アジア・コーカサス
1.日露関係
2022年2月24日に開始したロシアによるウクライナへの侵略が長期化する中、日本政府は、G7を始めとする国際社会と連携し、個人・団体等に対する制裁、銀行の資産凍結等の金融分野での制裁、輸出入禁止措置等の対露制裁を維持・強化している。
また、ロシアによるウクライナへの侵略により、経済分野を含めた二国間関係を従来どおりとすることは困難な状況であることから、2016年に提案された8項目の「協力プラン」を含む、ロシアとの経済協力に関する政府事業は、当面見合わせることを基本としている。こうした状況下で、これまでにロシアに進出してきた日本企業には、ビジネス環境の悪化やロシア政府による対抗措置等によって、多大な影響が生じている。経済産業省は、JETROや日本貿易保険(NEXI)に相談窓口を設置し、影響を受ける日本企業の事業活動について支援を行うとともに、進退を含めた経営判断に迫られる日本企業に対して、その経営判断に資するよう情報提供等を実施している。これらに加え、2023年度は、法務・会計・労務等の専門家による経営判断支援を、ロシア進出日本企業計10社に対して実施した。
2.ロシア・ベラルーシ等輸出入等禁止措置・資産凍結等措置
ロシアによるウクライナへの侵略に対し、我が国はG7を始めとする国際社会と連携しつつ、外国為替及び外国貿易法(外為法)に基づき、国際平和のための国際的な努力に我が国として寄与するため、ロシア向け輸出入に関する制裁措置を実施してきた。2023年度は以下の措置を実施した。(以下、措置の施行日・適用日を基準に記載)
2023年4月7日、ロシアの産業基盤強化に資する物品299の輸出禁⽌措置を実施。
5月26日、ロシア連邦の関係者(17個人・78団体)に対する資産凍結措置等を実施。
6月2日、ロシア連邦の特定団体として指定された80団体への輸出等に係る禁止措置を実施。
8月9日、ロシアの産業基盤強化に資する物品300の輸出禁止措置を実施。
9月30日、建築及びエンジニアリング分野のサービス提供禁止措置を実施。
12月15日、ロシア連邦の関係者(19個人・43団体)に対する資産凍結措置等を実施。
12月22日、ロシア連邦の特定団体として指定された57団体への輸出等に係る禁止措置を実施。
12月27日、制裁の迂回に関与した疑いのあるロシア及びベラルーシ以外の第三国(4か国)に所在する特定団体(6団体)への輸出等禁止措置を実施。
2024年1月1日、非工業用ダイヤモンド(ロシアを船積地とする場合)の輸入禁止措置を実施。
3月1日、ロシアの関係者等(12個人・8団体)に対する資産凍結等を実施(うち1団体に対しては、2024年3月31日から実施。)
3月8日、ロシア連邦の特定団体として指定された29団体への輸出等に係る禁止措置を実施。
ウクライナ侵略以降、こうした累次の措置を2024年3月現在に至るまでに経済産業省で実施しているロシア・ベラルーシ等輸出入等禁止措置は、以下のとおりとなっている。
(1)国際輸出管理レジームの対象品目301のロシア及びベラルーシ向け輸出等の禁止措置
(2)ロシア及びベラルーシの軍事能力等の強化に資すると考えられる汎用品302の両国向け輸出等の禁止措置
(3)ロシア向け化学・生物兵器関連物品303等の輸出の禁止措置
(4)ロシア及びベラルーシの特定団体(軍事関連団体)304への輸出等の禁止措置
(5)ロシア及びベラルーシ以外の国の特定団体(軍事関連団体)への輸出等の禁止措置
(6)ロシア向け先端的な物品305等の輸出等の禁止措置
(7)ロシア向け産業基盤強化に資する物品306の輸出の禁止措置
(8)ロシア向け石油精製用の装置等の輸出等の禁止措置
(9)ロシア向け奢侈品(しゃし品)307輸出の禁止措置
(10)ロシアからの一部物品308の輸入等の禁止措置
(11)「ドネツク人民共和国」(自称)及び「ルハンスク人民共和国」(自称)との間の輸出入の禁止措置
299 対象品目:油圧ショベル、航空機用エンジン、航行用無線機、電気回路等
300 対象品目:1,900ccを超える自動車、ハイブリッドエンジン式乗用車等
301 対象品目:工作機械、炭素繊維、高性能の半導体等及び関連技術。
302 対象品目:半導体、コンピュータ、通信機器等の一般的な汎用品及び関連技術、催涙ガス、ロボット、レーザー溶接機等。
303 対象品目:化学物質、化学・生物兵器製造用の装置。
304 対象団体:ロシア国防省、ロシアの航空機メーカー等ロシア357団体、ベラルーシ27団体。
305 対象品目:量子コンピュータ、3Dプリンター等及び関連技術。
306 対象品目:貨物自動車、ブルドーザ等。
307 対象品目:高級自動車、宝飾品等。
308 対象品目:アルコール飲料、一部木材、機械類・電気機械、上限価格を超える原油及び石油製品、非工業ダイヤモンド(ロシアを船積地とする場合)の輸入(及び海上輸送に関連するサービスの提供)。
3.日・中央アジア・コーカサス関係
中央アジア諸国は、東アジア、南アジア、中東、欧州、ロシアを結ぶ地政学的な要衝に位置し、石油、天然ガス、ウラン、レアメタルなどの豊富な天然資源を有する。また、コーカサス地域は、アジア、欧州、中東をつなぐゲートウェイ(玄関口)としての潜在性と、国際社会の平和・安定につながる地政学的重要性を有している。
2023年7月27日、西村経済産業大臣(当時)は、ウズベキスタンのクチカーロフ副首相と会談を行い、我が国の産業政策やGX政策について説明するとともに、中小企業支援の強化や、二国間クレジット制度(JCM)を含むグリーン成長の実現に向けた協力について意見交換を実施した。
2023年9月26日、西村経済産業大臣(当時)は、「中央アジア+日本」対話・経済エネルギー対話を設立し、中央アジア5か国(カザフスタン、キルギス、タジキスタン、トルクメニスタン、ウズベキスタン)の閣僚との間で、第1回対話を実施した。本対話では、気候変動対策のためのパリ協定の気温目標へのコミットメントを堅持し、今後、JCMや官民ファイナンスの活用によるエネルギー・トランジション・プロジェクトの加速化に向けた議論を行うことで一致し、議論の成果として、共同声明の発出を行った。
2024年1月9日、齋藤経済産業大臣はウズベキスタンのミルザマフムードフ・エネルギー大臣、カザフスタンのサトカリエフ・エネルギー大臣とテレビ会議による会談を実施し、経済・エネルギー分野における二国間協力について意見交換するとともに、エネルギー・トランジションに関する政府間覚書を締結した。
2024年1月9日から14日にかけて、上月経済産業副大臣がウズベキスタン、カザフスタンを訪問した。ウズベキスタンでは、ミルザマフムードフ・エネルギー大臣、クドラートフ投資・産業・貿易大臣等との会談を行い、エネルギー・人材育成・中小企業支援等の二国間協力や、ウズベキスタンの投資環境整備等について意見交換を行った。また、訪問中に「日本・ウズベキスタン ビジネスフォーラム」を開催し、日本企業等とウズベキスタン政府等との間でエネルギー分野やDX関連事業、中小企業支援に関する署名を12件披露した。カザフスタンでは、シャルラパエフ産業・建設大臣、シャッカリエフ貿易・統合大臣、ヌサンバエフ・エコロジー・天然資源大臣、サトカリエフ・エネルギー大臣等との会談を行い、2023年10月のJCMの構築に係る協力覚書の署名等を歓迎した。また、「日本・カザフスタン ビジネスフォーラム」を開催し、日本企業等とカザフスタン政府等との間でエネルギー分野やDX分野などに関する署名を4件披露・締結した。
2024年1月22日、齋藤経済産業大臣は、トルクメニスタンのメレドフ副首相兼外務大臣と会談を実施し、経済・エネルギー分野における二国間協力について意見交換するとともに、エネルギー・トランジションに関する政府間覚書を締結した。また、日本企業とトルクメニスタンの国営公社とのGTG309や肥料プラント等に係る覚書の署名にも立ち会った。
2024年3月7日、齋藤経済産業大臣は、ウズベキスタン共和国のサイードフ外務大臣と会談を行い、エネルギー分野や中小企業支援における二国間協力について意見交換を実施した。
2024年3月27日、上月経済産業副大臣は、ゴチモラエフ貿易・対外経済関係大臣と会談を実施し、エネルギー・トランジションに係る政府間協力に基づいたプロジェクトの組成について意見交換を行うとともに、2024年に開催する見込みの「中央アジア+日本」対話・首脳会合や2025年大阪・関西万博を見据え、更なる協力関係の強化を確認した。
309 Gas to Gasolineの略。天然ガスを原料に、高品質ガソリンを効率的に製造するプラント。