第Ⅲ部 第2章 各国戦略

第8節 中東

1.総論

中東地域310は、我が国原油輸入の9割超311、天然ガス輸入の約1割312を依存するエネルギー安全保障上重要な地域である。一方で、域内人口は約3.5億人(平均年齢27.8歳)313、名目GDPは約4.4兆ドル(ASEANの1.4倍)314と大きく、また、歴史的に親日的な国が多く、市場としてのポテンシャルも大きい地域である。域内には、オイル・マネーをベースとした巨額の国富ファンド(SWF)を有し、巨大開発プロジェクトに取り組むサウジアラビア等の産油・産ガス国、進出日系企業数300以上315、在留邦人4千人以上316を誇り中東の地域統括拠点を多く有するアラブ首長国連邦、欧州等への輸出の為の製造拠点の機能を果たすトルコ、イノベーション大国であるイスラエル、人口・経済規模・技術力等多くの可能性を有するものの米国の経済・金融制裁により貿易・投資等取引が困難なイラン等、特色の異なる多様な国々が存在する。我が国と各国との関係も様々であり、それぞれの実情を踏まえて産業多角化や貿易・投資環境改善への支援・働きかけ等を通じて互恵的な関係を築くことで、中東地域との経済関係の強化・市場の拡大と、同地域の安定確保を目指す。

310 本節での中東地域は、イラン、バーレーン、イラク、イスラエル、ヨルダン、クウェート、レバノン、オマーン、カタール、サウジアラビア、パレスチナ、シリア、トルコ、アラブ首長国連邦、イエメンを指す。

311 資源エネルギー庁「資源・エネルギー統計年報」、2023年

312 財務省「貿易統計」、2023年

313 国連「World Population Prospects 2022」、IMF「WEO」(2023年10月)

314 「World Development Indicators」、2022年。

315 外務省「海外進出日系企業拠点数調査」(2022年調査結果)、2022年10月1日時点。

316 外務省「海外在留邦人数調査統計」、2023年10月1日時点。

2.進捗状況

(1)サウジアラビア王国

2017年3月に日サ両国首脳間で合意した「日・サウジ・ビジョン2030」の下、二国間協力を推進している。同ビジョンの下では、日サウジ間の伝統的な協力分野であるエネルギー協力にとどまらず、広範な分野での協力が進展している。

2023年7月には、岸田総理がサウジアラビアのジッダを訪問した。この訪問で、岸田総理は、ムハンマド皇太子兼首相との首脳会談を行ったほか、湾岸協力理事会(GCC)及びイスラム協力機構(OIC)の両事務総長からの表敬を受けた。併せて、岸田総理は、サウジ投資省主催ビジネス・ラウンドテーブルへ出席した。本イベントでは、淡水化、がん検診、エンターテインメント、送電網等の分野で両国企業等の覚書26本が署名された。このサウジアラビア訪問を始めとする中東訪問には、岸田政権で初めて経済ミッションが同行し、のべ100社以上の日本企業のCEO及び幹部、並びに国際協力銀行(JBIC)、JETRO等の政府関係機関トップが、中東各国政府の首脳や企業幹部と対話した。

2023年12月には、齋藤経済産業大臣がサウジアラビアのリヤドを訪問した。この訪問では、アブドルアジーズ・エネルギー大臣と「第2回日サウジ・エネルギー協議」を開催し、両大臣は、日本にとってサウジアラビアが最大の原油供給源であり、信頼できるパートナーであることを踏まえ、産油国と消費国の対話促進により、世界の原油市場の安定を支え、エネルギーの安定供給を確保する必要性を強調した。さらに、両大臣は、首脳間で合意したライトハウス・イニシアティブの各分野における進捗状況を確認するとともに、ネット・ゼロに向けた世界的な努力と同イニシアティブの下での協力を推進する上で、二国間関係を更に拡大することに合意した。また、両大臣は、各国の事情に応じた多様な道筋によりネット・ゼロを目指し、同時にエネルギー安全保障、経済成長に取り組むことの重要性についても見解を共有した。

加えて、齋藤経済産業大臣は、ホレイフ産業・鉱物資源大臣と鉱業・鉱物資源分野に関する協力覚書に署名した。また、ファーレフ投資大臣と「第7回日・サウジ・ビジョン2030閣僚会議」を実施し、「日・サウジ投資フォーラム」にて講演を行った。「日・サウジ投資フォーラム」には、齋藤経済産業大臣に同行した日本企業48社130名以上が参加し、水や医療、スタートアップ連携促進等に関する14件のMOUが署名されたほか、日本企業によるサウジアラビアでの工場建設や拠点開設が披露された。

第Ⅲ-2-8-1図 2023年12月齋藤経済産業大臣とファーレフ投資大臣間で開催された
第7回「日・サウジ・ビジョン2030」閣僚会合の様子
2023年12月齋藤経済産業大臣とファーレフ投資大臣間で開催された
第7回「日・サウジ・ビジョン2030」閣僚会合の様子
の図

(2)イラン・イスラム共和国

米国の制裁下という困難な状況にあるが、2023年度においても、水・電力分野における各種セミナーなどの協力を、一般財団法人中東協力センター(JCCME)が実施した。また、2023年11月にイラン・テヘランで開催された第23回テヘラン国際産業見本市にJETROが日本の広報ブースを出展した。

(3)アラブ首長国連邦(UAE)

2022年、林外務大臣(当時)とジャーベル産業・先端技術大臣兼日本担当特使兼気候変動特使(以下、ジャーベル産業・先端技術大臣。2023年1月よりCOP28議長に就任。)との間で署名された「包括的・戦略的パートナーシップ・イニシアティブ(CSPI)の実施に関する共同宣言」の下、従来のエネルギー協力に加え、先端技術等の非エネルギー分野における協力も加速しており、両国間で活発なハイレベルの往来が行われた。

2023年4月、西村経済産業大臣(当時)は、G7札幌気候・エネルギー・環境大臣会合の際、ジャーベル産業・先端技術大臣と会談を行った。両大臣は、水素やアンモニアのサプライチェーンを構築し、気候変動対策と社会・経済的な利益の最大化を両立するとともに、コスト低減の必要性を強調した。また、G7からCOP28に向け、2023年1月に設立された日UAE先端技術協力スキーム(JU-CAT)とトランジション・ファイナンスを活用し、脱炭素分野の先端技術への投資を促進し、1.5℃目標への道筋を維持するため、共通の野心を持って協力することを確認した。会談後、両大臣は、二国間クレジット制度(JCM)の構築のためのMOCに署名した。

6月、西村経済産業大臣(当時)は、訪日中のアブダッラー外務大臣と会談を行い、エネルギーや先端技術等、幅広い分野における両国の経済関係の拡大に向け、一層協力関係を強化していくことを確認した。

7月、アブダビを訪問した岸田総理は、ムハンマド・ビン・ザーイド大統領との首脳会談で、JU-CAT、新たな枠組みである「エネルギー安全保障と産業の加速化枠組み」及び「半導体・電池対日投資協力枠組み」を柱とする「日・UAEイノベーション・パートナーシップ(JUIP)」を提案したほか、中東地域をクリーンエネルギー・脱炭素のグローバルなハブとする「グローバル・グリーン・エネルギー・ハブ」構想の実現に向け、アラブ首長国連邦と協力していきたい旨述べ、同大統領の賛同を得た。また、岸田総理は、「日・UAEビジネス・フォーラム」に出席し、アル・マッリ経済大臣と共に挨拶を行った。同フォーラムでは、両国の企業・団体間でエネルギーや先端技術、AI分野を含む23件の協力覚書の交換式が行われた。

9月、西村経済産業大臣(当時)は、東京GXウィークプレナリーセッションにて訪日中のジャーベル産業・先端技術大臣と会談を行い、アジアグリーン成長パートナーシップ閣僚会合(AGGPM)で「グローバル・グリーン・エネルギー・ハブ」構想を具体的に進める共同意図表明宣言を二国間で締結したことを歓迎し、クリーンエネルギーや先端技術分野における二国間協力の強化について議論するとともに、COP28においても、議長国であるアラブ首長国連邦とG7議長国である日本が連携していくことを確認した。また、日本への原油の安定供給に対する謝意を伝達するとともに、昨今の原油価格の上昇を踏まえ、国際原油市場の安定化に向けた協力を働きかけた。加えて、ジャーベル産業・先端技術大臣は、上川外務大臣と第一回CSPI閣僚会合を実施し、「1 政治・外交・国際協力」、「2 経済・貿易・エネルギー」、「3 農業・環境・気候変動」、「4 教育・科学技術・文化」及び「5 防衛・安全保障」の5つのサブコミッティにおける協力を確認した。

10月、岩田経済産業副大臣は、アブダビ国際石油展示会議(ADIPEC)開会式に出席するとともに、ゼイユーディ貿易担当国務大臣、マズルーイ・エネルギー・インフラ大臣と会談を行った。同月、西村経済産業大臣(当時)は、訪日中のマイサ・ビント・サーレム・アルシャムシ国務大臣等の間で女性交流や女性活躍の機会拡大などについて会談を行った。

12月、吉田経済産業大臣政務官は、COP28(国連気候変動枠組条約第28回締約国会議)に出席した。吉田経済産業大臣政務官は、ジャパン・パビリオンで行われたアジア・ゼロエミッション共同体(AZEC)構想のイベント「Taking action together with ASEAN」にて、冒頭挨拶を行い、ネット・ゼロという「共通のゴール」に向けた「多様な道筋」による移行の重要性、アジア地域のエネルギー移行を支援するための具体的な省エネ・再エネプロジェクトを含むAZEC、CEFIAなどの地域大の日本の取組について発信した。

2024年3月、岩田経済産業副大臣出席の下、第10回日本・アブダビ経済協議会(ADJEC)がアブダビで開催され、両国政府等機関や企業から多くの関係者が参加し、日本とアブダビの経済関係の強化に向けた意見交換が行われた。また、岩田経済産業副大臣は、アルザービ・アブダビ経済開発庁長官と会談を行い、CSPIに基づき、エネルギー分野にとどまらず、人材育成、脱炭素、スタートアップ協力、通信等幅広い分野における協力を更に発展するよう尽力していく旨述べた。

(4)イスラエル国

2023年7月、中谷経済産業副大臣(当時)がイスラエルのエルサレム・テルアビブを訪問した。訪問においては、バルカット経済産業大臣を表敬し、あり得べき日・イスラエル経済連携協定(EPA)に関する共同研究やサイバーセキュリティ分野での協力可能性、大阪・関西万博などについて意見交換を行った。

2023年9月、西村経済産業大臣(当時)がイスラエルのエルサレム・テルアビブを訪問した。訪問においては、ヘルツォグ大統領への表敬を行い、日本から同行したスタートアップ企業を含むビジネスミッションを紹介するとともに、日・イスラエルの経済関係強化について意見交換を行った。また、4年ぶりに対面での経済イノベーション政策対話を開催し、バルカット経済産業大臣と、あり得べき日・イスラエル経済連携協定(EPA)に関する共同研究や、地方・中堅中小企業との協力の多様化、日本の起業家等の海外派遣、サイバーセキュリティ分野での協力など、幅広い内容について意見交換を行った。加えて、両国の経済関係をより強化するためのプラットフォームであるJIIN(日本・イスラエル・イノベーション・ネットワーク)の総会及び日本・イスラエル・ビジネスフォーラムを開催し、西村経済産業大臣(当時)が挨拶を行い、両国のイノベーション連携強化に向けた取組や今後の期待を述べた。

(5)トルコ共和国

2023年9月、西村経済産業大臣(当時)がトルコのイスタンブールを訪問した。訪問において、ボラット貿易大臣と会談し、日トルコ貿易関係強化や、2023年2月に発生したトルコでの震災復興支援の方向性、日トルコEPAの交渉加速、ウクライナ復興やアフリカなどでの第三国連携などについて意見交換を行った。会談後には日トルコの貿易・投資の促進及び経済関係強化に関する共同声明に署名した。また、バイラクタル・エネルギー天然資源大臣と会談を行い、様々なエネルギー分野について、日・トルコ間でビジネス促進に向けて意見交換を行った。会談後には日トルコエネルギー・フォーラムの立上げに関する共同声明に署名した。加えて、日本・トルコ・ビジネスフォーラムを開催し、西村経済産業大臣(当時)が挨拶を行い、日・トルコ両国間の協力関係が深化していくことへの期待を述べた。

(6)カタール国

2023年7月、カタール国を訪問した岸田総理は、タミーム首長と首脳会談を行い、国際社会の様々な課題解決に精力的に取り組むカタールとのパートナーシップを重視している旨述べた。また日カタールビジネスフォーラムに出席し、岸田総理よりLNG分野やインフラ整備等においてカタールの発展に貢献してきた点を指摘しつつ、日本の官民の取組がカタールの経済多角化、ひいては二国間の更なる関係強化につながっていくことへの期待を表明するとともに、両国企業等による協力覚書等の署名・交換に立ち合った。

2023年7月、経済産業省とIEA、アジア太平洋エネルギー研究センター(APERC)が共催した第12回LNG産消会議において、アル・カアビー・エネルギー担当国務大臣が西村経済産業大臣(当時)らも参加する閣僚セッションにオンラインで出席し、今後のLNGに関する展望等について基調講演を行った。

(7)オマーン国

2024年3月、岩田経済産業副大臣は、オマーン国を訪問した。訪問において、カイス商工業・投資促進大臣と会談し、エネルギー分野を含め、インフラや観光、水素、アンモニアの製造等、幅広い分野における協力が進展していること等を踏まえ、両国のビジネス交流の一層の活性化に向けた共同声明に署名した。また、ジャルフ・オマーン投資庁副長官と会談を行い、日本の半導体分野における協業の可能性に関する意見交換実施のための協力覚書に署名した。

(8)イラク共和国

2023年11月にJCCMEが第19回イラク・ビジネスセミナーをオンラインで開催し、駐イラク日本大使やイラク進出日本企業等が講演を行った。

(9)ヨルダン・ハシェミット王国

2023年4月、西村経済産業大臣(当時)は訪日中のアブドッラー二世国王陛下を表敬し、日本とヨルダンの経済関係の更なる発展に向けて意見交換を行った。

2023年7月、中谷経済産業副大臣(当時)がヨルダンのアンマンを訪問した。ヨルダン・日本・ビジネスフォーラムに参加し、挨拶を行い、両国経済交流の更なる発展や協業の可能性について述べた。また、ハラーブシェ・エネルギー・鉱物資源大臣やハナーニデ・デジタル経済・起業大臣、シャマーリ産業・貿易・供給大臣、トーカーン計画・国際協力大臣と会談し、両国の経済関係を発展させるための協力の在り方等について意見交換を行った。

2024年2月、齋藤経済産業大臣は訪日中のハサーウネ首相を表敬した。会談では、ハナーニデ・デジタル経済・起業大臣やトーカーン計画・国際協力大臣等を交えて、2023年7月にヨルダンで開催したビジネスフォーラムを踏まえた両国企業間交流の促進等、日本とヨルダンの外交樹立70周年の機を活用した経済関係の一層の強化に向けて意見交換を行った。

(10)パレスチナ

2023年9月、西村経済産業大臣(当時)はパレスチナのラマッラを訪問した。訪問において、アッバース大統領を表敬し、地域の平和と安定、パレスチナ経済の発展に向けての協力について意見交換を行った。また、パレスチナの経済的自立を促すため、日本がイニシアティブを取り、パレスチナ・イスラエル・ヨルダンと協力の上進めてきた、「平和と繁栄の回廊」構想の旗艦事業であるジェリコ農産加工団地を視察した。その後、オサイリー国民経済庁長官(当時)及び同行したパレスチナ企業との間で、日本とパレスチナ間の産業分野における連携可能性について意見交換を行った。

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