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  7. 第Ⅰ部 第1章 第3節 関税ショックによる経済見通しの悪化

第Ⅰ部 第1章 脆弱な世界経済と関税ショック

第3節 関税ショックによる経済見通しの悪化

2025年1月に米国第二次トランプ政権が発足すると、同政権が次々と発表した関税を始めとする貿易政策が、世界経済の潮目を決定的に変えつつある。とりわけ、4月初めに施行された「相互関税」や自動車関税とその後の累次の政策変更、各国の対応は、関税引上げそのものの影響にとどまらず、米国の貿易政策を巡る不確実性をかつてなく急激に高め、投資家・企業や人々の行動に多大な影響を与えた。この貿易摩擦と不確実性の急速な高まりについては後述するが、ここでは、4月22日に公表されたIMFの世界経済見通しから、世界経済の見通しの急激な悪化を見ていく。

IMFによる2025年1月時点の見通しでは、2024年までの米国一強の構図が続き、世界経済は3.3%の成長が続くことが予想されていた。しかし、2025年に入った後は、これまで堅調だった米国の個人消費に陰りが見られ始めたこと、さらには1月に発足した米国のトランプ政権が想定以上のスピードで広範囲な関税の賦課を決定したことによって、世界経済を取り巻く環境は大きく変化した。米国による関税はその対象の広さだけでなく、発動直後に一時停止や変更が表明されるケースがあるなど政策の変化が激しく、先行きの不確実性を大きく高めている。それに伴い、経済予測の前提となる政策環境も極めて見通しづらくなったことから、IMFは2025年4月の世界経済見通しにおいて、複数の予測を提示するという異例の対応をとった。

まず基本となるのは、「世界経済見通し」として対外的に公表された、4月4日時点で発表されている各種の措置を前提とした「参照予測 (reference forecast)」である。ここでは、米国による中国やカナダ、メキシコに対する一連の関税、全世界に対する鉄鋼・アルミ製品や自動車・部品に対する関税、これらに対応した中国・カナダによる米国への追加関税、そして米国の「相互関税」(後日に一時停止が発表された上乗せ分を含む。)が考慮され、不確実性が高止まりすることも想定されている。この前提の下では、2025年の世界経済の成長率は2024年の3.3%から2.8%に急減速した後、2026年は3.0%へと持ち直す予想となっている(第I-1-3-1図)。2025年1月時点と比べると、2025年は0.5%ポイント、2026年は0.3%ポイントの下方修正となった。

次に、3月末までの情報のみを織り込んだ「4月2日以前の予測(pre-April 2 forecast)」も示されている。考慮されているのは、カナダ、メキシコに対する関税、中国に対する当初の20%の追加関税、それらに対応したカナダ・中国による米国への追加関税、そして鉄鋼・アルミ製品への関税である。この予測では、2025年・2026年とも成長率は3.2%と、1月時点と比べた下方修正幅はいずれも0.1%ポイントにとどまっている。

最後に、モデルにより算出された「4月9日以後の予測(post-April 9 model-based forecast)」がある。これは、相互関税の上乗せ分の一時停止に加えて、米国による対中追加関税と中国による対米追加関税の一段の引上げを含めた予測となっている。この前提では、2025年の成長率は2.8%、2026年は2.9%とされ、「参照予測」の数字と近い結果となった。これは基本的に、相互関税における上乗せ分が停止されたことによるプラスの影響と、米国と中国が相互に大幅に関税を引上げたことによる主に米中へのマイナスの影響がおおむね相殺された結果だが、各国がそれぞれの要因から受ける影響は異なることから、国毎の成長率を見ると「参照予測」とは差異が生まれている。

以上の三つの予測を示した上で、IMFは、通商政策の激化や不確実性の高止まり、金融市場の不安定化などから、短期・中期のいずれにおいても下振れリスクが大きいことを強調している。

第Ⅰ-1-3-1図 IMFの世界GDP成長率見通し(2025年4月時点)
IMFの世界GDP成長率見通し(2025年4月時点)の図

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