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  7. 第Ⅰ部 第2章 第5節 デジタル化・グリーン移行への多様な対応

第Ⅰ部 第2章 増幅する不確実性

第5節 デジタル化・グリーン移行への多様な対応

デジタル技術を始めとする新たな技術の社会実装に際しては、国家による適切な政策対応を必要とする。新たな技術が国境を超えて急速に広まる現代においては、国家による政策対応の齟齬や予見可能性の欠如がビジネスにとっての不確実性につながり得る。例えばデジタル技術の発展と普及は、各国にサイバーセキュリティや偽情報対策、プラットフォーマーやAI技術に対する規制等の共通課題をもたらしたが、国際的な政策協調が不十分な状況は大きな不確実性の根源となっている。デジタルサービスに対する規制の強さを指数化したOECDのデジタルサービス貿易制限指数(DSTRI)によると、インド、南アフリカ、中国、インドネシア等の国々はデジタルサービスに対する強い規制を導入している(第I-2-5-1図)。デジタルサービスの開放度を確保している先進国の間でも、プライバシー保護の考え方の違い等に起因する規制の差異が存在する。また、AI等の新たな技術に対しては、各国内で適切な規制の在り方を検討する必要があり、そのプロセスの透明性等がビジネスの予見可能性に影響する。

第Ⅰ-2-5-1図 デジタルサービス貿易制限指数の推移
デジタルサービス貿易制限指数の推移の図

同様に、グリーン移行を始めとするグローバルな課題への政策対応も、不確実性の要因となり得る。例えば、新型コロナウイルス感染症への各国の対応は、経済・貿易政策を巡る不確実性を急激に高めた12。特にグリーン移行を巡っては、EUのCBAM(炭素国境調整措置)を始めとする各国のカーボンプライシングや関連する規制基準の多様化を生み、必要以上の貿易障壁となるおそれが指摘されている13。さらに、第二次トランプ政権における米国の気候変動対策の大きな転換は、国境を超えるビジネス活動に不透明性をもたらしている。

こうしたデジタル化やグリーン移行に対応する主要国の政策や国際的取組の動向については、第Ⅱ部第1章第2節及び第3節でも概観する。

以上のような近年の国際環境の急速な変化は、ルールベースの国際経済秩序に大きな挑戦をもたらし、国境を超えるビジネス活動にとっての不確実性の増幅につながっている。次章以降では、認識レベルでの経済政策の不確実性の高まりが、世界経済や国境を超えるビジネス活動に与える影響について分析する。加えて、国家間レベルの政治的な距離が貿易投資関係に与える影響を分析する。これらを通じて、近年の国際環境の変化が世界経済や貿易投資関係に与える影響を検討する。

12 第Ⅰ部第3章第1節参照。

13 WTO (2023)

コラム1 主要国・地域の地政学リスク指数

第2章で言及したGPR指数を長期的に見ると、2001年の米国同時多発テロや、2003年のイラク戦争の開戦時に大きく上昇しているが、その後はロシアのウクライナ侵略が発生するまで、低水準での推移が続いていた(コラム第1-1図)。近年の主要国・地域のGPR指数について、当該低位安定期の水準を100として比較したものがコラム第1-2図である。ロシアのウクライナ侵略や中東紛争の地域と地理的に近接した欧州や中東の諸国では当初大幅な上昇が見られたが、当事国のウクライナやイスラエルを除けば、各国ともおおむね衝突開始前の水準に回帰しつつある。一方、東アジアでは、ロシアのウクライナ侵略や中東紛争の直接的な影響を受けないにもかかわらず、一部の国・地域で地政学リスクの高まりが示唆されている。台湾では、2021年の後半から徐々にGPR指数が上昇していたが、2022年8月に中国が大規模な海上演習を実施した際に急騰し、その後も下がりきっていない。また、フィリピンのGPR指数は、台湾のように高止まりしているわけではないものの、南シナ海で中国船との大きな衝突がある度に短期的急上昇が生じている。このように、欧州や中東に加えアジアでも地政学リスクの高まりが意識されているのが近年の特徴である。

なお、2025年に入った後は、カナダ・メキシコのGPR指数が顕著に上昇している。これは両国からの移民や合成麻薬の急増が米国の「安全保障の脅威」になっているというトランプ政権の主張を報じる新聞記事が、GPR指数の作成方法上、両国に関する地政学リスクの高まりを示すものとして集計されているためと見られる。

コラム第1-1図 地政学リスク(GPR)指数の長期推移
コラム第1-1図 地政学リスク(GPR)指数の長期推移

コラム第1-2図 主要国・地域の地政学リスク(GPR)指数
コラム第1-2図 主要国・地域の地政学リスク(GPR)指数

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