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  7. 第Ⅱ部 第3章 第4節 製造業とコンテンツ産業のグローバル戦略

第Ⅱ部 第3章 我が国の対外貿易投資構造の変容

第4節 製造業とコンテンツ産業のグローバル戦略

近年の国際環境の変化は、国境を超えるビジネス活動にとっての不確実性を高め、その行動を変化させている。米中対立や経済的依存関係の武器化を始めとするサプライチェーンリスクの変化だけでなく、グローバルサウス諸国の経済成長や、中国の産業発展と景気低迷、事業環境悪化等の経済的要因も、国境を超えるビジネスの海外市場における期待成長率を変化させている。

その上で、前節まで我が国の財・サービスの貿易投資の変化を見てきたが、それでは、上記の環境下で我が国企業はどのようなグローバルな立地・投資戦略を展開しようとしているのか。また、どのようなグローバルな企業成長の機会や課題の認識を持っているのか。

本節では、このような問題意識から実施した、海外に拠点を持つ製造業に対するアンケート調査の結果を分析する。また、近年、海外展開を拡大させているコンテンツ企業に対するヒアリングを踏まえ、コンテンツ産業の国境を超えるビジネスの現状や課題について整理する。加えて、我が国経済成長と産業競争力強化の観点から、対外直接投資の意義について検討する。

1. 我が国製造業のグローバルな立地・投資戦略に係るアンケート調査

(1) アンケート調査の概要

今般、海外に拠点を持つ我が国製造業のグローバルな立地・投資戦略を把握する目的で、アンケート調査を実施した。調査対象企業や実施期間は以下の表にまとめた(第II-3-4-1表)。調査内容は主に、①国内・海外の生産拠点及び研究開発拠点に関する現状と投資計画、②グローバルな企業成長の機会と課題、経営戦略における優先事項、③日本国内における投資の利点と課題等である。海外に拠点を持つ製造業3,540社にアンケートを送付し、およそ10%の359社から回答を得た。アンケート実施期間は3週間であった。

第Ⅱ-3-4-1表 アンケートの概要
アンケートの概要の表

アンケート回答企業の日本標準産業分類に基づく業種分類や日本本社の企業規模については、「17.はん用機械器具製造業」から「23.輸送用機械器具製造業」までの機械に関係する企業がおよそ半数を占めた(第II-3-4-2表)。企業規模としては、大企業が88社(25%)、中堅企業が103社(29%)、中小企業が168社(47%)となっている(第II-3-4-3表)322

第Ⅱ-3-4-2表 アンケート回答企業の業種分類
アンケート回答企業の業種分類の表

第Ⅱ-3-4-3表 アンケート回答企業の企業規模
アンケート回答企業の企業規模の表

アンケート回答企業の生産拠点・研究開発拠点が、調査時点において存在する国・地域をそれぞれ確認する。生産拠点については、日本(325社)を除くと、中国(155社)、タイ(82社)、米国(69社)、インドネシア(65社)の順番となった。研究開発拠点については、同様に日本(277社)を除くと、中国(40社)、米国(34社)、EU(26社)の順番となった。(第II-3-4-4表)。

第Ⅱ-3-4-4表 アンケート回答企業の生産拠点が存在する国・地域、研究開発拠点が存在する国・地域(調査時点)
アンケート回答企業の生産拠点が存在する国・地域、研究開発拠点が存在する国・地域(調査時点)の表

322 本アンケート結果における割合の記載は、小数点第1位を四捨五入している。

(2) アンケート結果の分析

① 生産拠点の立地戦略

過去の通商白書でも指摘してきたとおり、我が国の製造業は、特に1980年代以降、国際貿易投資環境、プラザ合意後の為替レートの変化、国際 的な労働コストの相違等に対応して、積極的な直接投資を行い、北米やアジアを始めとして海外進出を進めてきた。製造業の海外現地法人の進出時期を見ると、中国は2000年代前半にピークを迎えて減少傾向にあり、タイ、ベトナム、インドネシア、インド等は2010年代前半に進出が増加した323

今回のアンケート結果で、生産拠点が現時点で存在する国・地域を見ると、こうした経緯を反映して、上位は順に、ASEAN6、中国(本土)、米国、欧州となっている。これは、海外事業活動基本調査における製造業の現地法人企業の国・地域別分布の順位とおおむね整合的である(第II-3-4-5表)。

第Ⅱ-3-4-5表 海外事業活動基本調査と本アンケートの国・地域別拠点分布
海外事業活動基本調査と本アンケートの国・地域別拠点分布の表

次に、生産拠点に対する投資計画を見る。第II-3-4-6図は、今後3年程度の生産拠点に対する投資計画に関する回答結果について、国・地域別に整理したものである。

第Ⅱ-3-4-6図 今後3年間の生産拠点への投資計画の有無とその位置付け
今後3年間の生産拠点への投資計画の有無とその位置付けの図

投資計画があると答えた企業の割合324は、インド(79%)、日本(68%)、米国(68%)の順で高かった。また、生産拠点への投資計画の内容として、「拠点の増強」と回答した割合は、インド(67%)が非常に多く、米国(42%)と日本(36%)も高い割合となっている。

日本国内での投資計画を持つ企業が、他国・地域と比較しても高水準となっていることが注目される。日本政策投資銀行による設備投資計画調査の結果でも同様の傾向が看取されており、国内投資の機運は高まっていることがうかがえる。

米国については、本調査後の第二次トランプ政権の関税政策をきっかけに通商政策の不確実性が急激に高まったことを考慮する必要はあるが、近年は米国が世界経済を牽引してきた中で、製造業にとって重要な投資先と認識されていることがうかがえる。

なお、アジア地域では、インドに次いで、フィリピン(59%)、ベトナム(53%)への投資計画を持つ企業の割合が高く、既に現地展開が進んできた国よりも、足下で成長が見込まれる国への投資を重視している傾向がうかがえる。

他方、中国、メキシコ、タイ、インドネシア、マレーシア等では、投資計画がないと答えた企業の割合が過半となった。特に中国は直近、経済停滞や競争激化、事業環境の悪化等を受けて、中国への新規投資を控える動きが報じられている。今回の調査でも、中国での投資計画を持つ企業は39%、内数としての「拠点の新設・生産能力の増強」を計画している企業は15%のみにとどまった。

JETROによる日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査325と本調査の結果を比較すると、中国、ASEANへの投資についてはおおむね整合的なものの、米国投資へのポジティブさとメキシコ投資へのネガティブさがより強く表れている。これは、本調査の実施時期(2025年1月20日~同年2月7日)が第二次トランプ政権によるメキシコ・カナダへの25%関税賦課について報道されたタイミングと重なったことも影響している可能性がある。

なお、投資後の製品の供給先については、総じて現地市場の割合が高く、消費地立地を一層進める傾向が看取できる。他方、ベトナム(68%)、中国(56%)、フィリピン(56%)、タイ(54%)、インドネシア(50%)、マレーシア(50%)は、日本への逆輸入を行うと回答した企業も半数以上となっている(第II-3-4-7図)。JETROによる海外進出日系企業実態調査等とも合わせ見ると、日本の人手不足等を理由に生産拠点をASEAN等に移転し、一部逆輸入を行う流れが存在する可能性も示唆される326

第Ⅱ-3-4-7図 生産拠点への投資後の製品の供給先
生産拠点への投資後の製品の供給先の図

最後に、日本国内の生産拠点に対する投資計画を企業規模別に見ると、大企業だけでなく中堅企業や中小企業も多くなっている。特に中堅企業は、「拠点の新設・生産能力の増強」と回答した企業が45%と、全企業の36%より高く、生産拠点を維持するための投資よりも、生産能力を拡大するための投資の割合が高かった(第II-3-4-8図)。また、投資後の生産拠点で生産する製品の供給先について、海外市場と答えた割合も74%と高水準である(なお、全企業の回答割合は72%)。2025年2月27日に開催された新しい資本主義実現会議(第31回)でも、中堅企業は設備や人への投資に積極的であり、輸出においても大きな役割を果たしているとされた327。今後、輸出の拡大を目指す上での中堅企業の重要性が示唆されている。

第Ⅱ-3-4-8図 中堅企業の今後3年間の生産拠点への投資計画の有無とその位置付け
中堅企業の今後3年間の生産拠点への投資計画の有無とその位置付けの図

323 経済産業省「資料4 製造業を巡る現状と課題 今後の政策の方向性」(第14回産業構造審議会製造産業分科会資料)、2023年5月、https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/seizo_sangyo/pdf/014_04_00.pdf外部リンク(2025年6月5日閲覧)。

324 具体的には、第II-3-4-6図に示した5つの選択肢(①拠点の新設・生産能力の増強、②既存拠点の生産能力維持、③拠点の第三国への一部または完全移転、④拠点の縮小・撤退、⑤投資計画がない)のうち、⑤を除く①~④の回答の合計。③と④はネガティブな投資計画であるが、図を見ると分かるようにそれらの回答割合は非常に小さく、実質的には①と②の回答の合計にほぼ等しい。

325 JETRO(2024a)

326 JETRO(2024b)

327 内閣官房「資料1 基礎資料」(内閣官房新しい資本主義実現会議(第31回))、2025年2月27日、
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/atarashii_sihonsyugi/kaigi/dai31/shiryou1.pdf外部リンク(2025年6月9日閲覧)。

② 研究開発拠点の立地戦略

研究開発拠点の現状と今後3年程度の投資計画について見ていく。研究開発拠点は、日本に持つ企業が277社と圧倒的に多く、基盤技術の開発や、グローバル市場に投入する新製品開発を担っている割合が高い。海外では、先進国に93社、途上国に87社328が立地する。その機能は、当該国・地域向けのローカライズが先進国で60%、途上国で83%と高くなっているが、先進国では基盤技術の開発(44%)やグローバル市場に投入する新製品開発(51%)も相応に高くなっている(第II-3-4-9図)。

第Ⅱ-3-4-9図 現在の研究開発拠点で実施している研究開発の性質
現在の研究開発拠点で実施している研究開発の性質の図

今後3年程度の投資計画を見ると、日本では149社が研究開発拠点への投資計画を持っている。そのうち53%は「拠点の新設・能力の増強」であり、投資後に取り組む研究開発は引き続き基盤技術開発や新製品開発が中心となっている。他方、回答母数が少ないことに留意が必要なものの、先進国で「拠点の新設・能力の増強」の後に基盤技術開発(57%)や新製品開発(71%)を行うとする割合が、現状よりもかなり増えていることは注目に値する(第II-3-4-10図)。

第Ⅱ-3-4-10図 拠点の新設・増強後に取り組む研究開発の性質
拠点の新設・増強後に取り組む研究開発の性質の図

③ グローバルな企業成長の機会と課題、経営戦略における優先事項

ここからは、我が国製造業が持っているグローバル戦略に関連する回答を見ていく。グローバルな企業成長の機会を聞いた質問に対しては、企業規模を問わず、先進国又は新興国・途上国の市場拡大と回答している企業が非常に多い(第II-3-4-11図)。

第Ⅱ-3-4-11図 グローバルな企業成長の機会(企業規模別)
グローバルな企業成長の機会(企業規模別)の図

大企業の大きな特徴として、「脱炭素等の社会的課題への対応ニーズ」を成長機会と捉えている割合が68%と、中堅・中小企業と比較して顕著に高くなっている。大企業を中心に、内外の社会的課題にソリューションを提供することで自社の成長につなげるという成長戦略を描いていることがうかがえる。「新興国/途上国市場の拡大」の回答の多さを合わせ考えると、グローバルサウス諸国における社会経済課題に対応する共創の取組を成長機会として重視していることが強く示唆される。

「自社開発の新規技術」を成長機会と捉える企業は規模にかかわらず相対的に多いが、「M&A/JVによる技術・ノウハウ獲得」や、「活用可能な新技術等の出現(AI等)」は、大企業の方が機会と考える割合が高い(第II-3-4-12図)。

第Ⅱ-3-4-12図 企業規模別で差の大きくなった項目(グローバルな企業成長の機会)
企業規模別で差の大きくなった項目(グローバルな企業成長の機会)の図

次に、グローバルな企業成長を実現する上での課題について聞いた。回答としては、「自社の研究開発力」、「新規事業の企画を担う人材・ノウハウ」、「新たな販売先/市場を開拓する人材・ノウハウ」という、社内の創造的活動を担う高度人材や技術の必要性を挙げる回答が非常に多くなっている。企業内外での人材育成や研究開発力の向上が、課題として強く認識されているといえる。

加えて、企業規模にかかわらず、「生産現場の人材確保」を挙げる企業が多くなっており、国内の人手不足が課題として認識されていることがうかがえる(第II-3-4-13図)。

第Ⅱ-3-4-13図 グローバルな企業成長の課題(企業規模別)
グローバルな企業成長の課題(企業規模別)の図

また、「競合他社の成長」、「脱炭素・デジタル等新技術に精通した人材の確保」、「新規事業の企画を担う人材・ノウハウ」、「他国の政策変化/不確実性」、「自社のグローバルな意思決定システム」を課題とする回答は、大企業で顕著に多かった。海外で他国企業との激化する競争に直面している大企業の方が、競合他社の脅威を実感する機会が多いと考えられる。さらに、多くの大企業は「脱炭素等の社会的課題への対応ニーズ」を成長機会と捉えているものの、そうした「脱炭素・デジタル等新技術に精通した人材の確保」や「新規事業の企画を担う人材・ノウハウ」が十分でないと認識していることがうかがえる。加えて、多国間でサプライチェーンを構築し、活動している大企業の方が、他国の政策変化や不確実性から受ける影響を強く認識し、また、グローバルな意思決定システムの改善の必要性を感じる傾向にあると推察される(第II-3-4-14図)。

第Ⅱ-3-4-14図 企業規模別で差の大きくなった項目(グローバルな企業成長の課題)
企業規模別で差の大きくなった項目(グローバルな企業成長の課題)の図

続いて、グローバルな経営戦略における優先事項について聞いた。ここでは、大企業で「脱炭素・デジタル等新技術を活用したイノベーション」と「グローバルな組織経営改革」を挙げる回答が多いことが注目される。

「研究開発力の強化」は企業規模にかかわらない優先事項だが、関連性があると思われる選択肢として、大企業は「M&A等技術経営資源獲得」、中堅・中小企業は「高度人材の確保」を挙げる回答がより多くなっていることは特徴的である。

大企業及び中堅企業では、中小企業に比べて、国内よりも海外での生産能力強化と回答する比率が多かった。「既存製品の販売強化」は、企業規模にかかわらず重視されている(第II-3-4-15図)。

第Ⅱ-3-4-15図 グローバルな経営戦略における優先事項(企業規模別)
グローバルな経営戦略における優先事項(企業規模別)の図

328 先進国と途上国の分類はIMF WEOの分類を参考にした。具体的には、先進国・地域は米国、ユーロ圏、英国、韓国、台湾、シンガポール等。途上国・地域は中国、インド、インドネシア、タイ、ベトナム、メキシコ、アフリカ、中東等。なお、アンケートへの回答のうち、「アジア・太平洋―その他」、「北米・中南米―その他」、「欧州・ロシア・CIS―その他」は対象国を特定できないため除外した。

④ コーポレート機能

海外拠点を持つ製造企業のコーポレート機能についても聞いた。これは、日本国内の本社にどのような機能が置かれるかという立地戦略の観点と、企業が海外展開の中で組織構造や経営管理をどのように高度化しようとしているかというCX(コーポレート・トランスフォーメーション)の観点の両面から重要な設問である329。多くの大企業が、上述の経営戦略における優先事項として「グローバルな組織経営改革」を挙げたことは、その重要性を示している。

今回のアンケート調査では、経営企画機能について、現状は、日本本社に主要な権限を集約しているとの回答が89%に上る一方、大企業では今後3年程度の方向性として、現状維持が約半数にとどまり、海外との権限関係の見直しや組織・内部手続見直しを実施する企業が合わせて31%に上っている(第II-3-4-16図)。大企業を中心に、グローバル展開の中で、経営企画機能に関するCXを進めようとしている企業が相当数存在することを示唆している。

第Ⅱ-3-4-16図 経営企画部門の今後3年程度の方向性
経営企画部門の今後3年程度の方向性の図

その他、知的財産管理やマザー工場機能、人事管理、財務・経理・税務会計は7割以上の企業が本社に権限集約している一方、広告販売戦略やデジタル化・ITインフラ提供は約3割の企業が現地法人に主要な権限を委譲している(第II-3-4-17図)。

第Ⅱ-3-4-17図 コーポレート機能の現状
コーポレート機能の現状の図

329 経済産業省(2024)

⑤ 日本国内での投資の目的、利点と課題

上述のようなグローバルな立地・投資戦略の下で、日本企業が国内投資をどのように位置付けているかを見ていく。既に見たとおり、日本国内で生産拠点や研究開発拠点への投資を計画している企業は相対的に多いといえる。日本での投資の目的については、「生産の自動化・省人化」や「老朽化した生産設備の更新」の回答が比較的多くなっている。同時に、生産拡大のための投資も、国内向けと輸出向けを含む回答を合わせると相当数存在する(第II-3-4-18図)。

第Ⅱ-3-4-18図 日本国内での投資の目的
日本国内での投資の目的の図

同時に、「社内の人材育成」は、企業規模にかかわらず目的とする割合が高い(大企業36%、中堅企業32%、中小企業38%)。

大企業では、「輸出向けを含む生産拡大」が32%と、「国内向け生産拡大」よりも多くなっている。中堅企業(23%)や中小企業(18%)でも、「輸出向けを含む生産拡大」を目的とする企業が一定数存在する。「グローバルな研究開発の高度化」も、大企業で26%、中堅企業で21%が国内投資の目的に挙げている(第II-3-4-19図)。

第Ⅱ-3-4-19図 日本国内での投資の目的(企業規模別)
日本国内での投資の目的(企業規模別)の図

全体の傾向としては、日本政策投資銀行による設備投資計画調査(2024年)とも整合的だが、同調査(全体設備投資額に対する各投資動機の金額ウェイトを算出。)における「合理化・省力化」よりも、本調査における「生産の自動化・省人化」の割合が多くなっている330

次に、日本国内で投資を行う利点と課題について聞いた。利点としては、「技術ノウハウの集積」(55%)、「高度人材確保」(33%)、「原材料/調達先企業」(19%)が高くなっており、国内に存在する技術・人材・産業の集積は、引き続き貴重な価値と認識されている。また、「納入先企業/市場」(38%)、「需要/成長性」(24%)を利点とする企業も多く、国内の需要規模はなお重要な要素と考えられる(第II-3-4-20図)。

第Ⅱ-3-4-20図 日本国内で投資を行うことの利点
日本国内で投資を行うことの利点の図

他方、日本国内への投資の課題として、「設備投資コスト(建設費等)」(42%)を挙げる企業が非常に多く、昨今の建設費・資材・生産設備の高騰や産業用地不足等が、投資に当たっての大きな課題と認識されている可能性がある。日本政策投資銀行による設備投資計画調査では、近年、設備投資の計画と実施の乖離率が拡大していると指摘されているが、その要因の一つになっている可能性もある。新しい資本主義実現会議でも、産業用地の供給が需要に追い付いていないという課題への対応が議論されている331

「生産コスト」については、利点に挙げる企業(29%)が中堅・中小企業を中心に一定数存在する一方で、全体としては課題に挙げる企業(48%)の方が非常に多くなっている。

「高度人材の確保」は、利点と課題に同等に挙げられている一方、「その他人材確保」は課題とする企業が多く(32%)、ここでも国内の人手不足の問題が大きいことが示唆されている。大企業を中心に「地政学的リスク」を利点に挙げる企業(22%)が多く、日本の地政学的な環境は、グローバル展開するビジネスから前向きに捉えられている(第II-3-4-21図)。

第Ⅱ-3-4-21図 日本国内で投資を行うことの課題
日本国内で投資を行うことの課題の図

第II-3-4-22図では、日本国内で投資を行う利点と課題について、利点をプラス、課題をマイナスとしてグラフに表している。グラフから、「設備投資コスト(建設費等)」、「生産コスト」、「その他人材確保」、「需要/成長性」、「競合の多寡」については課題と認識している回答が多く、「技術ノウハウの蓄積」、「納入先企業/市場」、「地政学的なリスク」、「原材料/調達先企業」という回答は利点と捉える回答が多かったことが分かる。

第Ⅱ-3-4-22図 日本国内における投資の利点と課題
日本国内における投資の利点と課題の図

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