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- 第1部第1章第1節 我が国製造業の足下の状況
- 2.経常収支の黒字縮小と稼ぎ方の変化
第1部 ものづくり基盤技術の現状と課題
第1章 我が国ものづくり産業が直面する課題と展望第1節 我が国製造業の足下の状況
2.経常収支の黒字縮小と稼ぎ方の変化
我が国の経常収支注1黒字は2011年以降、4年連続で縮小し、2014年には、比較可能な1985年以降で最少を計上したものの、2017年では21.9兆円と3年連続で黒字額を拡大させた(図112-1)。グローバル化に伴う我が国企業の海外進出や海外の株式・債券などへの投資が活発化したことにより、それらの収益である第一次所得収支が2017年では19.7兆円まで拡大しており、これが経常収支の黒字を支える構造が続いている。
一方で、2016年に黒字に転じた貿易収支は、2017年も黒字幅はやや減少したものの黒字を維持している。
製造業による経常収支への貢献という観点では、輸出による貿易収支への貢献が注目されがちであるが、2005年以降第一次所得収支が貿易収支を上回る状況が続いており、経常収支の黒字を支えている。
ここでは製造業の観点から我が国経常収支の構造変化を分析する。
注1 我が国の国際収支統計は2014年1月の公表分から、IMF国際収支マニュアル第6版に準拠した統計に移行しており、主要項目の組み替えや表記方法、計上基準などの変更が行われている。従来の「所得収支」は「第一次所得収支」、「経常移転収支」は「第二次所得収支」へと項目名が変更されている。本白書では原則、移行後の統計を用いる。また、本節における数値は、2018年3月末時点で公表されている統計を元にしている。
図112-1 経常収支の推移

資料:財務省・日本銀行「国際収支統計」
(1)我が国製造業と貿易収支
主要な品目別(「貿易統計」の概況品ベース)に貿易収支を見ると、2000年来、貿易赤字方向に寄与した要因は「鉱物性燃料」「食料品」「原料品」などの輸入超過であるが、特に「鉱物性燃料」の寄与が大きい。ただし、2015年以降、「鉱物性燃料」の貿易赤字額は20兆円を下回って推移している(図112-2)。
この理由としては、原油価格が直近ピークの2014年6月の1バレル=105ドルから2016年2月の30ドルまでの2年間で7割も低下したことが挙げられる。また、輸入数量も減っている(図112-3・4)。ただし、その後の原油価格は、産油国の減産協調などもあって上昇に転じている。
図112-2 貿易収支の推移

備考:品目の分類は「貿易収支」の概況品ベース。
資料:財務省「貿易統計」
図112-3 エネルギー価格の推移

備考:1.液化天然ガスはインドネシア産液化天然ガスの1百万Btu。
2.原油は米国産WTI原油の1バレルあたりのドル価格。液化天然ガスは英国熱量単位あたりドル価格。
資料:IMF「Primary Commodity Prices」
図112-4 エネルギー輸入量の推移

備考:1.液化天然ガスはHSコード「271111000」。
2.原油はHSコード「270900900」。
資料:財務省「貿易統計」
一方、黒字に寄与した要因を見ると、「輸送用機器」「一般機械」「原料別製品」「電気機器」「化学製品」であり、製造業に関連する分野が占めている。この5品目のうち、特に「輸送用機器」「一般機械」「電気機器」の主要3品目は長年にわたり我が国の貿易黒字を稼ぎ出してきたことから、「輸出の三本柱」ともいえる。以下では、我が国の輸出に占めるウェイトの高い「輸送用機器」「一般機械」「電気機器」について詳細を分析していく。
①輸送用機器の特徴
貿易収支全体が改善傾向にある要因の1つとして「輸送用機器」が引き続き一定の貿易黒字を維持していることが挙げられる(図112-5)。
2017年の「輸送用機器」の貿易黒字額(15.1兆円)は、リーマンショック以降で最大の黒字幅である。地域別では、対米国黒字が前年から拡大した(5.1兆円から5.5兆円)。その他の地域では、対中東黒字(1.6兆円から1.4兆円)が縮小した一方で、対中国黒字(0.8兆円から0.9兆円)、対ASEAN黒字(1.1兆円から1.2兆円)や対ロシア黒字(0.3兆円から0.4兆円)が拡大した(図112-6)。
図112-5 「輸送用機器」の貿易収支の推移

備考:概況品コード「703」(電気機器)と主な構成品の推移。
資料:財務省「貿易統計」
図112-6 「輸送用機器」の主要地域別推移

備考:概況品コード「705」(輸送用機器)。
資料:財務省「貿易統計」
なお、輸送用機器の輸出物価指数(契約通貨ベース)は横ばいで推移している(図112-7)。また、輸送用機器の鉱工業出荷(輸出)については、上昇トレンドを示すものの2017年は短期的に大きな変動を示している(図112-8)。
図112-7 輸送用機器の輸出物価指数の推移(契約通貨ベース)

資料:日本銀行「企業物価指数」
図112-8 輸送用機器の鉱工業出荷(輸出)の推移

備考:1.季節調整値。
2.「輸送用機器」は「輸送機械工業」。
資料:経済産業省「鉱工業出荷内訳表」
②一般機械の特徴
「一般機械」は機械系を中心とする幅広い製品を含んでおり、製品分野によっては貿易黒字を維持しているものの、電算機類(パソコンなど)は貿易赤字になっている。「一般機械」の貿易黒字は、前年の7.3兆円から2017年には8.5兆円に大きく増加した(図112-9)。
図112-9 「一般機械」の貿易収支の推移

備考:概況品コード「701」(一般機械)と主な構成品の推移。
資料:財務省「貿易統計」
一般機械の輸出物価指数(契約通貨ベース)は横ばいから2017年後半には緩やかながら上昇傾向にある(図112-10)。また、一般機械の鉱工業出荷(輸出)は、2017年に入り大きな上昇トレンドを示している(図112-11)。
図112-10 一般機械の輸出物価指数の推移(契約通貨ベース)

備考:「一般機械」は「はん用・生産用・業務用機器」。
資料:日本銀行「企業物価指数」
図112-11 一般機械の鉱工業出荷(輸出)の推移

備考:1.季節調整値。
2.「一般機械」は「はん用・生産用・業務用機械工業」。
資料:経済産業省「鉱工業出荷内訳表」
③電気機器の特徴
エレクトロニクスを中心とする「電気機器」の直近2017年の貿易黒字は約1.6兆円と、3年連続で増加した。ただし、それでも2010年の4割弱の水準にとどまっている(図112-12)。
2010年と2017年の主な構成品の変化を見ると、「通信機」の貿易赤字額が約1.8兆円拡大(2010年:-0.6兆円から-2.4兆円)しており、また「半導体など電子部品」の黒字額が約0.8兆円縮小(2010年:+2.0兆円から+1.2兆円)している。両者(「通信機」と「半導体など電子部品」)で合わせて約2.5兆円の貿易黒字縮小に寄与する。同期間における「電気機器」の黒字額の縮小額は約2.9兆円であることから、この2品目が大半を占めていることが分かる。
図112-12 「電気機器」の貿易収支の推移

備考:概況品コード「703」(電気機器)と主な構成品の推移。
資料:財務省「貿易統計」
電気機器の輸出物価指数(契約通貨ベース)は2015年に下げ止まり、2017年は緩やかな上昇傾向を示している(図112-13)。電気機器の鉱工業出荷(輸出)も、2017年当初に大きな変動があったものの、2016年初めを底に上昇傾向にある(図112-14)。さらに、電気機器の鉱工業出荷(輸出)の内訳を見ると、2017年に入り電気機械工業が上昇傾向にある一方、電子部品・デバイス工業はほぼ横ばいで推移し、他方、情報通信工業は2015年以降の緩やかな低下トレンドにあるなど、業種による相違が見られた(図112-15)。
図112-13 電気機器の輸出物価指数の推移(契約通貨ベース)

備考:「電気機器」は「電気・電子機器」。
資料:日本銀行「企業物価指数」
図112-14 電気機器の鉱工業出荷(輸出)の推移

備考:1.季節調整値。
2.「電気機器」は「電子部品・デバイス工業」、「電気機械工業」、「情報通信機械工業」の合計。
資料:経済産業省「鉱工業出荷内訳表」
図112-15 電気機器の鉱工業出荷(輸出)の推移(内訳)

備考:季節調整値。
資料:経済産業省「鉱工業出荷内訳表」
(2)海外展開に伴い所得・サービス収支で稼ぐ我が国製造業
製造業の海外展開が進み、汎用品などを中心に、市場に近いところで生産する、グローバル最適地生産の流れは今後も継続していくものと考えられる。輸出以外に海外事業展開を通じて利益を得る、つまりは貿易収支で稼ぐだけでなく第一次所得収支及びサービス収支でも稼ぐことが継続していくであろう。
企業が工場など海外現地法人を開設するために投資を行うと、対外直接投資として認識され、その海外現地法人の収益は直接投資収益として第一次所得収支に計上される。また、海外現地法人に対して特許権などの知的財産権の使用を認めると、その対価として日本の本社が受け取るロイヤリティはサービス収支に計上される。第一次所得収支及びサービス収支は経常収支の主要な構成要素であるが、以下では製造業の観点を交えつつ我が国の第一次所得収支及びサービス収支の動向を分析する。
①直接投資収益を中心に増加する第一次所得収支
第一次所得収支は、海外資産の増加を背景に拡大基調が続いており、2017年には19.7兆円の黒字を計上している。海外の株式や債券など有価証券投資に対する収益である「証券投資収益」が直近の2017年では10.2兆円と全体の半分強を占めているが、海外現地法人の収益である「直接投資収益」も8.8兆円と拡大傾向が見られた(図112-16)。
図112-16 第一次所得収支の推移

備考:「その他」は、「その他投資収益」と「その他第一次所得収支」の合計。
資料:財務省・日本銀行「国際収支統計」
第一次所得収支に占める直接投資収益の割合は、2000年時点では23%であったが、2017年では45%へと上昇しており、直接投資収益の位置づけの重要性は年々高まっている。直接投資収益の業種別内訳を見ると、製造業全体では2017年第3四半期で1.8兆円と第1四半期から0.1兆円増加している(図112-17)。
図112-17 対外直接投資収益(業種別)

備考:「その他」は、「その他投資収益」と「その他第一次所得収支」の合計。
資料:財務省・日本銀行「国際収支統計」
なお、2017年の直接投資収益8.7兆円はネットの金額であり、我が国企業が海外で稼いだ利益12.5兆円から海外企業が我が国で稼いだ利益3.8兆円を差し引いたものである(図112-18)。また、我が国企業が海外で稼いだ利益12.5兆円のうち、日本国内へ還元されたのは6.4兆円である。一方、6.1兆円は海外で再投資されているが、国内へ還元される金額は増加基調にある(図112-19)。
図112-18 海外での収益の使途(直接投資収益の内数)

備考:1. 「海外での再投資」は、国際収支統計の直接投資収益の内数である「再投資収益」の受取額。
2.「国内への利益還元」は、同「配当金・配分済支店収益」の受取額。
3.「海外企業が日本で得た利益」は、同「再投資収益」及び「配当金・配分済支店収益」 の支払額の合計。
資料:財務省・日本銀行「国際収支統計」
図112-19 国内への利益還元の推移

備考:「国内への利益還元」は、国際収支統計の直接投資収益の内訳である「配当金・配分済支店収益」の受取額。
資料:財務省・日本銀行「国際収支統計」
②サービス収支の赤字縮小に製造業が海外から得た知的財産権等使用料も貢献
サービス収支の赤字は5年連続で縮小している。2017年の赤字額は0.7兆円と、2000年以降で赤字額は4.6兆円縮小しており、比較可能な1996年以降では過去最小の赤字となった(図112-20)。2017年までの間、黒字に転じた旅行収支の赤字縮小額は4.8兆円であることから、サービス収支の赤字幅縮小には旅行収支が大きく寄与していることが分かる(図112-21)。この4.8兆円の旅行収支の改善額のうち、支払の減少が1.4兆円、受取の増加が3.4兆円である。2011年以降、支払が横ばいで推移する一方で、受取は6年連続で増加している。2017年に訪日外国人旅行者数が前年比で19.3%増加の約2,869万人と過去最高を記録するなど、訪日観光消費の増加が主な要因である。
図112-20 サービス収支の推移

資料:財務省・日本銀行「国際収支統計」
図112-21 旅行収支の推移

資料:財務省・日本銀行「国際収支統計」
以上のほか、製造業に係わる項目として、「その他サービス収支」に含まれる「知的財産権等使用料」収支があり、特許権、著作権やノウハウなどの使用料の受払が計上されている。これは比較可能な1996年以降、過去最大の黒字(2.4兆円)を計上した2015年まで6年連続で増加を続け、2016年には2.1兆円と減少したものの2017年には再び2.4兆円に増加を示している(図112-22)。「知的財産権等使用料」収支は、特許権や意匠権などの産業財産権の使用料のほか、ノウハウの使用料や経営指導料が含まれる「産業財産権等使用料」収支と、ソフトウェアや音楽・映像などを複製・頒布するための使用権料、著作物の使用料などが含まれる「著作権等使用料」収支から構成される。
図112-22 その他サービスの推移

資料:財務省・日本銀行「国際収支統計」
我が国では、「著作権等使用料」収支が赤字である一方、「産業財産権等使用料」収支が黒字であり、かつ「産業財産権等使用料」収支の黒字が年々拡大することで、「知的財産権等使用料」収支の黒字拡大に寄与してきた(図112-23)注22016年は「知的財産権等使用料」収支の黒字幅は縮小したものの、2017年には2015年水準に戻っている。我が国製造業の海外展開に伴う海外現地法人からの特許権などの使用料や経営指導料などの受取が、「産業財産権等使用料」収支の増加に寄与している。
注2 ただし、連結企業間での知的財産権等使用料も含まれる。
図112-23 「知的財産権等使用料」収支

資料:財務省・日本銀行「国際収支統計」
(3)地域に応じて稼ぎ方を変える我が国製造業
我が国製造業を取り巻く事業環境が変化するに伴い、稼ぎ方にも変化が見られ、その一端は、経常収支の構造にも現れている。我が国が世界のどこで稼いでいるのかという観点から、経常収支を地域別に見てみると、長年にわたり北米が最大の経常収支黒字を占めてきた(図112-24)。
図112-24 経常収支の地域別推移

備考:2017年は第3四半期まで。
資料:財務省・日本銀行「国際収支統計」
一方、新興国の経済成長に伴いアジアの比率が年々拡大し、リーマンショック後は米国の景気後退に伴って北米が大きく減少したのに対して、アジアの経常黒字が相対的に底堅く推移したため、経常黒字の中ではアジアがいったんは最大となった。しかし、2012年以降、経常収支の黒字幅が回復する中、再び北米が最大の経常収支黒字の計上先となっている。また、ピーク時からの黒字の縮小幅が大きいのは欧州であり、2008年の9.4兆円から2017年には3.1兆円と大幅に縮小している。その一方で、変動が大きかったのは中東であり、原油価格の低下を反映して、経常赤字は2014年の14.0兆円から2017年の4.6兆円へと半減した。
以下では、アジア、北米、欧州の主要3地域について分析を行う。
①対アジア経常収支の特徴
対アジア経常収支の特徴は、貿易収支黒字が足下では再び拡大しているものの、長期的に見ると縮小してきた一方で(図112-25)、我が国製造業の進出拡大に伴い直接投資収益と知的財産権等使用料(後述)で稼いでいる点にある。直接投資収益を含む第一次所得収支の黒字が2013年に貿易黒字を上回ってから、その関係が定着している。また、知的財産権等使用料を含むサービス収支が堅調に伸びてきた背景には、アジアからの観光客の増加がある。観光客の消費が含まれる旅行収支の改善がサービス収支の黒字に貢献している。
図112-25 対アジア経常収支の推移

備考:2017年は第3四半期まで。
2013年以前の第一次所得収支は所得収支、第二次所得収支は経常移転収支。
資料:財務省・日本銀行「国際収支統計」
2016年の対アジア経常収支を主な国・地域及び項目別に分析すると注3、対香港、台湾、韓国では貿易黒字を計上したが、対中国、ASEANでは貿易赤字を計上した。一方、対アジアの第一次所得収支黒字4.5兆円のうち、中国とASEANで3.6兆円と約8割を占めている(図112-26)。対香港、台湾、韓国では貿易収支で、対中国、ASEANでは所得収支で稼いでいる構図が続いていることが分かる。また、対香港や台湾と同じように、中国では、サービス収支の黒字が第一次所得収支黒字の7割強の規模にまで増加しており、サービスでも稼ぐようになってきた。
また、参考までに直近2017年の対アジア経常収支(第3四半期まで)を見ると、第Ⅲ四半期までであるが、対中国の経常収支が貿易収支赤字の大幅な減少を反映し、僅かではあるが黒字に転じている(図112-27)。
後述する北米や欧州の所得収支黒字は、「証券投資収益」(海外の株式や債券など有価証券投資に対する収益)が高い比率を占めている一方で、対アジアでは海外現地法人の収益である「直接投資収益」が全体に占める比率が高い。
注3 なお、ここでは便宜的に日本との2国(地域)間の収支をとりあげて考察しているが、日系製造業は、グローバル・バリューチェーンの下、第3国間にもまたがる国際的な生産分業を展開していることには留意が必要である。また、貿易収支は資源輸入など、我が国製造業の活動とは別の要因から赤字になることがある点にも注意を要する。
図112-26 対アジア経常収支の内訳(2016年)

資料:財務省・日本銀行「国際収支統計」
図112-27 対アジア経常収支の内訳(2017年第3四半期まで)

資料:財務省・日本銀行「国際収支統計」
なお、特許権などの使用料や経営指導料などが計上される、サービス収支の内訳である「知的財産権等使用料」の収支を見ると、2016年は減少を示しているものの、我が国製造業のアジア地域への進出拡大などを反映し2000年以降順調に黒字幅が拡大してきている(図112-28)。国・地域別では、2015年は中国とASEANがその75%を占めている。2000年にはアジアに占める中国とASEANは約4割だったため、2000年代の製造業のアジア進出は中国・ASEANへの進出が多かったことがうかがえる。
図112-28 「知的財産権等使用料」(収支)の地域別推移

備考:2017年は第3四半期まで。
2013年以前は特許等使用料。
資料:財務省・日本銀行「国際収支統計」
経常赤字が続いている対中国(図112-29)についてさらに分析する。第一次所得収支やサービス収支の黒字が増えるなど、日本企業が中国で稼ぐ力は変化しながらも着実に成長してきた。第一次所得収支の黒字は、日本企業の中国現地進出の結果であり、海外子会社からのロイヤリティや知的財産権等使用料収支などがサービス収支の底上げにも貢献している。また、サービス収支では、訪日観光客の消費である旅行収支の黒字が大きくなっている。一方、近年、貿易赤字が拡大してきたが、2016年、さらには2017年(第Ⅲ四半期まで)において貿易赤字幅が大きく減少しており、経常収支の改善に寄与している(図112-30)。
図112-29 対中国経常収支の推移

備考:2017年は第3四半期まで。
2013年以前の第一次所得収支は所得収支、第二次所得収支は経常移転収支。
資料:財務省・日本銀行「国際収支統計」
図112-30 対中国輸出の推移

資料:財務省・日本銀行「国際収支統計」
②北米経常収支の特徴
対北米経常収支は、2008年に貿易収支黒字と第一次所得収支黒字がほぼ同額だったが、2010年以降貿易収支黒字額が相対的に大きくなってきており、両者の差は、2014年に2.5兆円、2015年は3.2兆円、2016年は2.6兆円にまで拡大している(図112-31)。なお、2016年における対北米の第一次所得収支黒字6.3兆円のうち、直接投資収益は2.3兆円であり、証券投資収益は4.0兆円であった(図112-32)。対北米の直接投資収益は、2016年の我が国の直接投資収益の総額約7.3兆円に対して3割強に相当する水準であり、自動車を中心とする北米における我が国の企業集積の厚さがうかがえる。
図112-31 対北米経常収支の推移

備考:2017年は第3四半期まで。
2013年以前の第一次所得収支は所得収支、第二次所得収支は経常移転収支。
資料:財務省・日本銀行「国際収支統計」
図112-32 対北米第一次所得収支の内訳推移

備考:2017年は第3四半期まで。
2013年以前の第一次所得収支は所得収支 「その他」は、「その他投資収益」と「その他第一次所得収支」の合計。
資料:財務省・日本銀行「国際収支統計」
③欧州経常収支の特徴
対欧州経常収支もリーマンショックまでは、貿易収支黒字と所得収支黒字がほぼ同額であったが、リーマンショック及び欧州各国の財政危機に伴う景気の低迷により、貿易収支黒字が大幅に縮小した(図112-33)。2012年には貿易赤字にいったんは転じたが、2016年に貿易収支は再び黒字化している。2016年の対欧州の第一次所得収支黒字2.5兆円の内訳は、直接投資収益0.1兆円に対して、証券投資収益2.3兆円であり、証券投資収益が対欧州経常収支黒字の柱であることが分かる(図112-34)。
これまで述べてきたような、グローバル市場の不透明化という情勢下において、我が国の製造業企業は付加価値の高い製品やサービスの提供などを通じて、為替レートなどの外的要因に左右されにくい生産体制を構築していくことが必要となってくる。
このような中で、後述するように、中国での人件費の上昇など海外経済の環境も大きく変わっており、相対的に日本国内の競争力が必ずしも比較劣位をもつわけでないようになり、アジア間での生産体制の見直し、その中で海外拠点の国内回帰の動きも見られるようになった。
図112-33 対欧州経常収支の推移

備考:2017年は第3四半期まで。
2013年以前の第一次所得収支は所得収支、第二次所得収支は経常移転収支。
資料:財務省・日本銀行「国際収支統計」
図112-34 対欧州第一次所得収支の内訳推移

備考:2017年は第3四半期まで。
2013年以前の第一次所得収支は所得収支。 「その他」は、「その他投資収益」と「その他第一次所得収支」の合計。
資料:財務省・日本銀行「国際収支統計」