経済産業省
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第1部 ものづくり基盤技術の現状と課題
第1章 我が国ものづくり産業が直面する課題と展望
第1節 我が国製造業の足下の状況

6.国内外における製造業のデジタル化に向けた取組

(3)各国の取組状況

①ドイツ

2013年4月に、プラットフォームインダストリー4.0を発足して以降、政治を巻き込んだ形で国家レベルの取組をより一層推し進めている。以下では、過去の同白書で取り上げていない内容やこの1年間での進捗に関して概観する。

まず始めに、ドイツが力を入れてきた「中小企業」へのデジタル化促進政策の進捗について紹介する。日本とドイツはともに全企業の99%以上を中小企業が占めるという意味で同じような産業構造を有している一方、ドイツの中小企業の中には多くの「隠れたチャンピオン(Hidden Champion)」と呼ばれる、外国市場に積極的に進出し、高い価値獲得力を有している企業が存在する。(実際に、全輸出額に占める中小企業の割合について、日本においては2.8%であるが、ドイツは19.2%である(2010年時点、通商白書2012参照))。しかし、そのようなビジネス戦略に優れた中小企業を数多く抱えているドイツにおいても、最も政策的ハードルが高いと言われているのがこの中小企業へのデジタル化支援であり、中小企業におけるデジタル化への理解不足や投資判断の困難性などは日独共通課題として存在すると考えられる。そこで、このような課題解決に向けてドイツは、「Mittelstand 4.0」(Mittelstandとはドイツ語で「中小企業」という意味。)という政策の柱を掲げ、中小企業のデジタル化・ネットワーク化に舵を切った。具体的には、2015年12月から、ドイツ全土に22の「コンピテンスセンター」というテストベッドを設置し、最新のデジタル化のノウハウをデモンストレーション形式で中小企業に手軽に提供・教示する取組を実施している(図116-11)。

例えば、最近では、2017年12月4日に、新たに「繊維産業のネットワーク化」、「IT経済」、「ユーザビリティ」の3分野のコンピテンスセンターが開所した。「繊維産業のネットワーク化」支援センターは、繊維および織機に関連する中小企業を対象とし、デジタル化の適合力を底上げする支援を開始。また、「IT経済」支援センターはIT業界の中堅企業とスタートアップ企業をつなぎ、コンソーシアムや提携などを通して中小企業に対してオールインワン・ITソリューションの提供を開始。さらに、「ユーザビリティ」支援センターでは、ITソリューションの分かりやすい操作性にフォーカスした支援を開始した。日本においても、本取組と同様に、「スマートものづくり応援隊」拠点の整備を政府主導で推し進めているところであり、今後は中小企業のデジタル化支援に向けて日独間で一層協力をしていくことが望まれる。

図116-11 ドイツのコンピテンスセンターのイメージ施設

資料:ハノーバーメッセ2016会場に設けられた施設の写真を引用

また、ドイツは、中小企業支援に加えて、データを活用した付加価値獲得競争が生じている中において一層その動きを加速していくために、企業を超えたデータ連携を促進するための仕組みづくりにも力を入れ始めている。参加企業がデータ戦略上の競争領域と協調領域とを峻別してメリットを相互に享受することができるための仕組み作りに向けて、“Industrial Data Space”という団体を立ち上げて、産学官での取組を開始した。この取組は、ドイツ国内にとどまらず世界全体でデータ共有をセキュアに実施するための仕組みづくりを目指している。

コラム:Industrial Data Space

第四次産業革命時代の到来により、新たな経営資源であるデータが企業を超えて流通するようになる中で、各企業はその共有データを利用したサービスやソリューション提供を通じて付加価値獲得競争を繰り広げている。そのような時代背景の中で、企業間のデータ共有を円滑に進めビジネスの発展を促していくためには、オープンなものとして明確に峻別したデータをいかにセキュアに共有することができるかが重要となっており、企業間の協調領域の取組として、このセキュアなデータ共有の仕組み作りに取り組み始めたのがIndustrial Data Space Initiativeである。同組織は、2014年末にドイツの産学官によって設立された、セキュアに企業間でデータ共有を行うための仕組み作りを推進する団体である。欧州最大の応用研究機関であるフラウンホーファー研究機構が主導する同団体は、フラウンホーファー研究機構の中の12の研究所が参加する形で、2015年10月より、ガバナンスやセキュリティなどに関するリファレンス・アーキテクチャー・モデルの策定や、ロジスティクス・サプライチェーンマネジメントなどの分野におけるパイロット実装などを目的とした研究プロジェクト“InDaSpace”を開始した。リファレンス・アーキテクチャー・モデルは、実際にデータ共有を進めていく上での体系を示したもの。同プロジェクトには、ドイツ連邦教育研究省(BMBF)から約500万ユーロの資金が提供されて推し進められている。

また、同団体は、2016年1月に、フラウンホーファー研究機構とユーザー企業を中心に、非営利のユーザー団体である「Industrial Data Space e.V.」を設立し、産業データスペースを活用したデータ共有の際の要件整理や事例の共有、プロジェクト成果の標準化、データ利用に関するガイドラインの策定などに取り組んでいる。

この取組は、データの共有をセキュアに管理し、その共有によって生まれた価値を関係者間で享受するためのルールを整備する取組であり、すでにドイツ国内のIndustrie4.0のみならず、IICなど他の国の関係機関とも協力関係を構築し、本仕組みが世界共通の仕組みとなることを意図して取組を進めていると考えられる。日本としてもこの取組を注視しつつ、連携を模索していくことで仕組みづくりに関与していくことが重要となると考えられる。

図 Industry4.0とIndustrial Data Spaceとの関係図

資料:フラウンホーファー研究機構のHPより抜粋

さらには、Industrie4.0に加えて、化学医薬品業界のデジタル化を一層進めることを企図したChemistry4.0や、鉄鋼業とインダストリー4.0分野の交流を進める「イノベーションフォーラム・鉄鋼4.0(Innovationsforum Stahl 4.0)」など、様々な取組も新たに開始されている。

コラム:Chemistry4.0

「ドイツの化学医薬品業界が、新境地に向かう」。150年の歴史を誇るドイツの化学医薬品業界が「デジタル化」、「循環経済」や「持続可能性」などによって今後10年間のうちに到達するであろう第4段階目を “Chemistry4.0” と銘打ち、その実現に向けた調査研究を、約1,700のドイツの化学会社を傘下に持つドイツ化学工業会(German Chemical Industry Association(VCI))が、コンサルティング・ファームであるデロイトトーマツの支援を受けて実施し、その結果を2017年9月に公表した。その根底にあるのは、ドイツの化学医薬品業界における企業が、デジタルアセット化した大量のデータを活用することで、バリューチェーン全体をデジタル化・最適化し、さらには新しいビジネスモデルを開発することで、世界に冠たる地位を確保すること。それは、センサーを用いたメンテナンスによる生産効率の向上だけでなく、高度なシミュレーションの活用なども見据えている。今後3~5年間で10億ユーロ以上のデジタル化プロジェクトや新しいデジタルビジネスモデルへの投資を計画しているとも言われているほどの勢いのある動きである。同調査では、Chemistry4.0の根底にあるデジタル化と循環型経済という環境変化は、多くの中堅企業には大いなるビジネスチャンスを与えるものだとしており、実際の同調査に参加した124社に及ぶ中規模企業のうち、2/3の企業はすでにデジタル戦略を策定しているか、実際にデジタル化に取り組んでいるところであるという。Chemistry4.0構想は、まだ緒に就いたばかりであるが、同国が立ち上げたIndustrie4.0と同様に、化学医薬品業界に変革をもたらすかもしれない。

ケミストリー1.0(1865年以降)

・化学的発見を大規模プロセスで実現する個人発明家の存在が起源

・石炭の化学の出現

・需要を喚起する工業化の成功、不連続バッチプロセスでの生産

ケミストリー2.0(1950年以降)

・石油化学の出現(石油蒸留ナフサの原材料化)

・複数工程を統合した生産方式により、原料となる少量の化学物質から多種の工業用化学物質が生成可能に

・石油化学および人工繊維からのポリマー素材は日常的な製品に

・生産効率を重視した大型プラント建設の奨励

・環境問題増大への対応の開始

ケミストリー3.0(1980年以降)

・天然ガスと再生可能エネルギーの使用の増加

・バイオテクノロジーによる生産プロセス革新と医薬品の発展

・基礎研究と応用研究の連携によるイノベーションの進化

・業界における構造変化(グローバル生産の進展、大企業のアウトソーシング化、中規模企業のニッチな特殊化学品へのシフトなど)

・環境保護への一層の対応

ケミストリー4.0(2010年以降)

・大量のデータを活用したバリューチェーン全体をデジタル化・最適化、新しいビジネスモデルの開発

資料:German Chemical Industry Association (VCI)のプレスリリースから引用

https://www.vci.de/vci-online/presse/pressemitteilungen/chemistry-4-dot-0-innovation-for-a-changing-world-study-by-deloitte-and-vci.jsp

②中国

2017年版の白書でも取り上げたとおり、中国では、中国製造業の発展を目指す行動計画として、「中国製造2025」と呼ばれる国家戦略を掲げ、スマート製造やグリーン製造などの5大重点プロジェクトや10の重点分野を中心に、中国製造を規模の大きさ(製造大国)から強さ(製造強国)への転換を追求することを目指している(図116-12・13)。

図116-12 中国の国家戦略構想と「製造強国」への道のり(イメージ)

資料:中国政府発表資料などより経済産業省作成

図116-13 「中国製造2025」の基本方針、重点分野、ミッション、重点事業

資料:中国政府発表資料などより経済産業省作成

また、中央政府・地方政府においては、2015年5月の「中国製造2025」発表以降も、その動きと連動して、矢継ぎ早に関連する各種行動指針などを発表するなど、取組を加速化させている。これらの取組が、各産業ごとに構造上の大きな変化を短期間にもたらそうとしている。以下においては、「中国製造2025」発表以降の取組の進展と関連政策・計画について概観する(図116-14)。

図116-14 「中国製造2025」と主要な関連政策・計画

資料:中国政府発表資料などより経済産業省作成

(ア)「インターネット+(プラス)行動」 計画

デジタル技術の進展を踏まえて、製造業を中心にあらゆる産業のデジタル技術との融合を推進し、効率を高めるとともに新たなビジネスモデルや産業を生み出すことを目指して、李克強総理が、2015年3月の全人代「政府活動報告」において、「『インターネット・プラス』行動計画を策定。モバイルインターネット、クラウドコンピューティング、ビッグデータ、IoTなどと現代製造業との結合(電子商取引、工業インターネット、インターネット金融など)の発展を促進し、インターネット企業を国際市場の開拓・拡大へと導く。」という方針を公表した。その後、中国製造2025を発表した翌々月である2015年7月に、中国政府は、「“インターネット+“行動の積極推進に関する指導意見」(国務院)を発表した。同指導意見は、2025年までに“インターネット+”を経済・社会の改革・発展の重要な推進力とし、新たな産業や経済システムの構築を図ることを目標として設定し、積極的に融合を推進する11の重点分野として次の①~⑪を掲げており(①起業・イノベーション、②協働製造、③現代農業、④スマートエネルギー、⑤包摂金融、⑥公共サービス、⑦スマート物流、⑧電子商取引、⑨交通、⑩生態環境、⑪AI)、急速な社会への導入と範囲の拡大が進んでいる。

実際に、中国ではネットユーザーの95%以上がモバイル端末を使用しており、モバイル決済も国民生活に不可欠なものとなりつつある。中国のネットショピング市場は右肩上がりに成長を続け、特にモバイル端末の使用率が上昇するなど、実態経済においても、「インターネット+(プラス)行動」計画を踏まえた活動の進展を垣間見ることができる。

(イ) スマート製造発展計画(2016-2020年)

2016年12月に「中国製造2025」に基づいて工信部が発表した、2025年までの2段階を踏んだ発展を目指して策定された戦略である。

・2020年:スマート製造発展の基盤とサポート能力の増強、従来型製造業の重点分野でデジタル製造をほぼ実現

・2025年:スマート製造のサポート体系をほぼ確立し、重点産業で初期段階のスマート化転換を実現

特に、2020年時点の目標を実現する上でのミッションとして、「スマート製造キーテクノロジーの開発」「標準体系確立」「中小企業のスマート化推進」「スマート製造人材育成」など、網羅的な行動計画が盛り込まれており、財政支援強化や金融支援、ドイツを中心とした国際協力などを通して、官民一体となって取組を進めていくこととしている(図116-15)。

合わせて、2016年4月には、ロボット産業発展計画(2016-2020年)を発表し、同計画においては、自主開発産業用ロボット年産10万台、6軸以上の産業用ロボット年産5万台以上などの目標の提示、象徴的10製品の技術進展、5種のキーコンポーネントの技術力向上などのミッション提示などを盛り込んでいる。

図116-15 スマート製造発展計画(2016-2020年)の概要

資料:中国政府発表資料などより経済産業省作成

(ウ) 人工知能関連計画

中国政府は、製造強国への転換や情報化・工業化の融合を目指す中で、次世代人工知能技術の産業化と集成を強力に推進する方針を打ち出し始めている。

中国政府は、2017年7月に、最先端のAI技術開発を志向する「次世代AI発展計画」(国務院)や、2017年12月に、開発したAI技術をあらゆる産業分野で利用していくことを志向する「次世代AI産業発展促進3ヵ年行動計画(2018~2020年)」(工信部)を発表した。

「次世代AI発展計画」については、2030年までの3段階(2020、2025、2030)の戦略目標を設定し、AI技術開発及びその応用を2020年までに「世界先進レベル」、2025年までに「一部の技術と応用を世界トップレベル」、2030年までに「全ての技術と応用を世界トップレベル」に引き上げることを定めている。また、その実現に向けて、AI振興に向けた法律法規・倫理規範の制定や技術標準及び知財権体系の整備などの政策措置を講ずるとしている。

また、「次世代AI産業発展促進3ヵ年行動計画(2018~2020年)」については、AI重点製品の規模拡大、AI中核基礎能力の強化、スマート製造の深化・発展などを2020年目標と位置づけ、AIの応用産業分野として、コネクテッドカー・スマートサービスロボット・スマートドローン・スマートホーム製品・画像識別システムなどを掲げて、資金的措置の拡充や人材育成などを政策的措置として実施していくこととしている。

このような計画や方針に基づいて実際のAI開発などを進めている中で、例えば科学技術部が実施しているAI支援事業では、バイドゥ、アリババ、テンセント(BAT)などの民間IT企業が中心にそれぞれ異なる分野のプラットフォーム開発を進めており、中国の人工知能技術とその産業化は民間企業がリードしている実態が浮かび上がってきている(図116-16)。

図116-16 科学技術部が支援する第一期AIプラットフォーム(2017年11月)

資料:中国政府発表資料などより経済産業省作成

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