経済産業省
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第1部 ものづくり基盤技術の現状と課題
第2章 ものづくり人材の確保と育成
第2節 人材育成に向けた取組

3.民間で実施する職業訓練の向上

(1)民間企業における職業訓練

「平成29年度能力開発基本調査」(厚生労働省)によると、人材育成に関して問題点があると回答した事業所は、75.4%となっており、製造業では、全体よりも高い78.6%となっている。人材育成に関する問題点としては、「指導する人材が不足している」「人材育成を行う時間がない」等に加え、「育成を行うための金銭的余裕がない」が挙げられている。また、企業規模、事業所規模が小さいほど、人材育成に関する問題点として「育成を行うための金銭的余裕がない」とする事業所が多くなっている。

このため、雇用する労働者に対して職業訓練を計画に沿って実施する事業主に対して助成する「人材開発支援助成金」により、企業内における労働者の人材開発の効果的な促進を図っている。

特に、同助成金によるものづくり人材の育成については、製造業、建設業等の事業所が厚生労働大臣の認定を受けたOFF-JTとOJTを組み合わせた訓練を実施する場合には、同助成金の中で最も高い助成率により助成することで支援している。また、熟練技能を承継するための職業訓練や若年労働者を育成するための職業訓練を実施した場合にも高い助成率により助成することで支援している。

また、2017年4月からは、労働生産性の向上に資する人材育成を促進するため、労働生産性の向上に直結する職業訓練を高率助成の対象とし、さらに労働生産性が向上している企業に対しては、助成率の引き上げを行っている。

なお、2018年4月からは、企業内における人材育成を引き続き効果的に推進するとともに、雇用する労働者の職業能力の向上や企業の労働生産性の向上に資するよう、以下の見直しを行った。

a 労働者の自発的な職業訓練を支援するため、教育訓練休暇付与コースを新設

b 事業主の利便性を高め、活用促進を図るためにキャリアアップ助成金の人材育成コースを統合

c 特定訓練コースについて、金融機関と連携して生産性向上計画を作成、3年後に計画値を達成した場合に割増助成金を支給

コラム:人材開発支援助成金を活用した人材育成・・・赤田工業(株)

北アルプス展望の里、長野県池田町に立地する赤田工業(株)は、各種専用機械製造及び産業用機械の気密容器(真空チャンバー)やベースフレーム製造など、多品種かつ少ロット生産に対応する高い技能を持った、いわば「鉄の料理人」の集団である。

溶接などの板金加工から機械加工、組立まで、それぞれの工程に携わる「料理人」の育成にあたっては、人材開発支援助成金を活用して、「新人研修(普通旋盤作業)」や「技能五輪普通旋盤2級研修」など、各々のレベルに応じた外部講師による実技講習を行っている。

また、個人の技能が企業内で継続性をもって発揮されるよう、技能習得以外の資質向上のため、同じく人材開発支援助成金を活用して「新入社員研修」や「現場リーダー研修」などの事業外訓練にも参加させている。自社以外の方との交流を通じ、広い視野で自身の仕事を振り返る場となり、職業人としての成長の契機となった。

ITバブルやリーマンショックを経験する中で、2005年の中長期人材育成ビジョンとして掲げた「全従業員の技能系検定資格取得」を目指し、訓練の実施等による技能習得に力を注いできた。「『ものづくり』のコアには、戦略である『技術』と戦術である『技能』がある」との赤田社長の考えの下、中小企業にとって重要な戦術である技能向上に向けた取り組みを継続した結果、2017年8月、新入社員を除く正社員全員の技能系検定資格取得の目標は達成された。

人材育成を経営戦略の要として、徐々に伸びつつあるセミオーダーでの受注を増やし企業の競争力を高めるため、今後は「ものづくり」のもう一つのコアである「技術」面の人材育成の必要性も感じている。さらに、切れ目ない技能継承のため、熟練技能者の教える力やマネジメント力を高めるべく、幹部向け研修も充実させていく考えである。

資格取得や検定合格は、「料理人」のゴールではない。更なる高みへの挑戦、資格と手技との適合、また、人事評価への反映のための制度構築など、ものづくり企業の発展に欠かせない人材育成や定着のための課題に、赤田工業は「これからも積極的に取り組んでいく。」としている。

写真:NC旋盤作業

写真:溶接後グラインダー仕上げ作業

また、「平成29年度能力開発基本調査」によると、正社員に対してOFF-JTを実施した事業所の割合は75.4%、正社員以外に対してOFF-JTを実施した事業所の割合は38.6%と、正社員に比べ、正社員以外の者に対するOFF-JTの実施割合が低くなっている。このため、非正規雇用の労働者に対してキャリアアップの取組を行う事業主に対して助成する「キャリアアップ助成金」により、非正規雇用の労働者の企業内のキャリアアップを促進している。具体的には、非正規雇用の労働者に対し、職業訓練、有期実習型訓練などを行った事業主に対して助成を行う人材育成コースにより、企業内での人材育成を支援している。なお、キャリアアップ助成金(人材育成コース)は2018年3月末限りで廃止し、新たに2018年4月より特別育成訓練コースとして人材開発支援助成金に統合した。

(2)事業主団体等が実施する認定職業訓練

事業主や事業主団体等の行う職業訓練のうち、教科、訓練期間、設備等について厚生労働省令で定める基準に適合して行われているものは、申請により訓練基準に適合している旨の都道府県知事の認定を受けることができる。この認定を受けた職業訓練を認定職業訓練という。

認定を受けることの主なメリットとして、中小企業事業主等が認定職業訓練を行う場合、国や都道府県が定める補助要件を満たせば、国及び都道府県からその訓練経費等の一部につき補助金を受けることができる。また、認定職業訓練の修了者は、技能検定を受検する場合又は職業訓練指導員の免許を取得する場合に、有利に取り扱われる。

認定職業訓練の2016年度の訓練生数は約21.8万人となっており、金属・機械加工関係等のものづくり分野でも認定職業訓練は多く実施されている。

コラム:認定職業訓練校における時計修理技能者の育成・・・大阪府時計高等職業訓練校

大阪府時計高等職業訓練校は、1959年に時計修理技能の職業訓練機関として発足し、これまで800人以上の修了生を輩出している。

訓練内容は、時計が必要とされた時代背景から始まり、機械構造理論、現在主流の水晶時計などに使用される弱電気理論、また、機械式時計や水晶時計の分解組み立て及び調整方法など、部品から測定器に至るまでの製作技術を訓練科目に取り入れることで、多岐にわたる修理作業を身につけられるカリキュラム構成となっている。

また、優秀な指導講師や助手の熱意を持った指導のもと、1年間という短期間の訓練であるが、訓練修了後すぐに行われる技能検定試験では、毎年約90%の合格率を誇り、さらに、翌年度以降の受検も含めると、修了生の合格率は100%に達する。

当訓練校では、時間に正確な国民性をもつ日本人から信頼される時計づくりを念頭に、「大阪府時計高等職業訓練校の教育で良い人材を業界に輩出する」という理念を継承すべく、訓練校一丸となって訓練に励んでおり、前人たちが築き上げた時計修理技能やその技能を伝承することの大切さ、人と人との繋がりを脈々と受け継いでいる。

写真:実習風景

(3)訓練の質の向上

公共職業訓練と求職者支援訓練のうち、約8割を民間教育訓練機関が担っており、民間教育訓練機関の訓練の質の向上は喫緊の課題である。厚生労働省では、2011年12月に「民間教育訓練機関における職業訓練サービスガイドライン」を策定し、訓練の質の向上のため、同ガイドラインの普及・定着に向けて、全国で「民間教育訓練機関における職業訓練サービスガイドライン研修」を実施している。職業訓練サービスガイドラインには、いわゆるPDCA(計画・実行・評価・改善)サイクルを活用して職業訓練サービスの運営・改善を図っていくための体制や方法が示されているが、これに加えて、具体的な例示や、取組事例が豊富に取り込まれ、自己診断表も添付されるなど、民間事業者が自主的に取り組みやすい内容になっている。

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