経済産業省
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第1部 ものづくり基盤技術の現状と課題
第2章 ものづくり人材の確保と育成
第2節 人材育成に向けた取組

7.キャリア形成支援

(1)キャリアコンサルティング

持続的な経済成長のため、労働者の適職の選択と主体的な職業能力開発を通じた生産性の向上が不可欠であり、キャリアコンサルティング注10に対する社会的期待が一層高まっている。

キャリアコンサルタントの養成については、一定の要件を満たす民間機関等による能力評価試験の実施を通じて進めてきたところであるが、2016年4月よりキャリアコンサルタント国家資格制度を創設し、個人が、その適性、職業経験等に応じ職業生活設計を行い、これに即した職業選択や能力開発を効果的に行うことができるよう、「キャリアコンサルタント」を、キャリアコンサルティングを行う専門家として位置づけた。これにより、キャリアコンサルタントは登録制の名称独占資格となり、5年ごとの講習受講による資格更新制度、守秘義務・信用失墜行為の禁止等の規定と相まって、その質を担保し、労働者が安心して職業に関する相談を行うことのできる環境を整備している。

なお、キャリアコンサルティングの技能・知識の水準として、より上位の試験に位置づけられるキャリアコンサルティング職種の技能検定(1級・2級)注11も実施している。

また、企業等に対しては、労働者のキャリア形成における「気づき」を支援するため、年齢、就業年数、役職等の節目において定期的にキャリアコンサルティングを受ける機会を設定する仕組みである「セルフ・キャリアドック」の普及拡大を加速する「セルフ・キャリアドック普及拡大加速化事業」により、企業に対して、訪問等による勧奨や相談・研修等の実施を通じて導入及び取組定着の支援等を行うこととしている(2018年度~)。

注10 キャリアコンサルティングとは、労働者の職業の選択、職業生活設計又は職業能力の開発及び向上に関する相談に応じ、助言及び指導を行うことを言う。

注11 技能検定制度については 6(1)を参照。

(2)ジョブ・カード制度の活用

ジョブ・カード制度は、フリーター等職業能力を高める機会に恵まれないため正社員になれない者等に対して、ジョブ・カードを活用したキャリアコンサルティングの実施や、企業における実習と教育訓練機関等における座学とを組み合わせた訓練を含む実践的な職業訓練の受講機会の提供等により、求職者と求人企業とのマッチングや実践的な職業能力の習得を促進し、安定的な雇用への移行等を促進することを目的に実施してきた。

ジョブ・カードの活用の大半が公的職業訓練によるもので、その活用が一過性のものになりがちであったこと、また、個々の労働者の状況に対応したキャリアアップ、必要な分野への円滑な就職等の支援のため、職業能力の「見える化」や職業生活設計に即した自発的な職業能力開発を支援するツールが不可欠であることなどから、ジョブ・カードを「生涯を通じたキャリア・プランニング」及び「職業能力証明」のツールとして見直し、2015年10月から職業能力開発促進法に基づく新制度として実施している。

なお、2008年の制度創設から2017年9月末現在のジョブ・カードの作成者数は約184万人であり、今後も新たなジョブ・カード制度の普及・促進を図っていくこととしている。

コラム:ジョブ・カードを活用した人材の育成例・・・森松工業(株)

岐阜県本巣市にある森松工業株式会社(松久晃基代表取締役社長)は、1947年に創業した建築設備関連や上水道事業で利用する各種の水槽と圧力容器、熱交換器などを設計・製造・販売するメーカーであり、工事業者でもある。その加工技術を活かして航空機やロケット部品などの大型の金属製品の加工なども手がけている。中でも、主力製品の飲料水を入れるステンレスパネルタンクは、国内でトップシェアを誇っている。

【有期実習型訓練に取り組んだ目的】

当社の主要な業務は溶接であり、経験者や溶接機械のオペレーターができる者を即戦力として中途採用することが多かったため、実践的なカリキュラムに基づいた教育訓練によって、必要な技能を早く身に付けてもらいたいと考えていた。

当社では、5年ほど前に若者チャレンジ訓練(過去に実施していた雇用型訓練の1形態)を実施し、未経験者を中途採用した経験がある。この訓練によって、職業上の未来予想図を描けていない訓練生が自分のキャリアを描けるようになったので、ジョブ・カードを活用した教育訓練が効果的だと思っていた。

【具体的な取組内容】

有期雇用で採用した20代の男性を訓練生とし、ステンレスパネルタンク製造コースの有期実習型訓練を実施した。

465時間のOJT(実習)では、ステンレスパネルタンクの製造に必要なTIG溶接(電気を使用した溶接の一種)と加工組立(切断、研磨、機械加工、保温、コーキング、酸洗)を訓練カリキュラムに盛り込み、実際の製造現場で必要な業務に特化し、訓練生が早期に技能を習得できるように工夫した。

また、溶接と安全に関する知識を身に付けていないとOJT(実習)を実施できないので、55時間のOFF-JT(座学等)では、訓練の最初の段階で「安衛法§59(※)に基づく特別教育」を実施し、OJT(実習)を補完する内容とした。このうち、「第2種酸素欠乏危険作業者(酸素欠乏症、かつ硫化水素中毒となる恐れがある場所での作業)」と「特定粉塵作業者」は、ステンレスパネルタンクの製造工程の中でも、場合によっては命にかかわる大きな危険を伴う作業なので、製造部門の教育担当者がしっかりと指導するように心がけた。

訓練を指導した先輩社員は、安全な作業に配慮できる考えをもった優れた現場の指導者であり、こうした先輩社員から熱心な指導を受けたことは、訓練生にとって貴重な経験となった。

また、岐阜県地域ジョブ・カードサポートセンター(美濃加茂商工会議所に設置)の制度普及推進員の方からは、有期実習型訓練の実施方法をはじめ、訓練カリキュラムと評価シートの作成方法、評価シートを活用した職業能力評価の実施方法など、全てにおいて丁寧な支援を受けたことから、スムーズに訓練を実施できた。

【制度の活用による具体的な効果】

訓練の開始以降、訓練生は、OJT(実習)、OFF-JT(座学等)ともに訓練カリキュラムに盛り込んだ科目に積極的に取り組み、必要な技能の習得のために日々研鑚していた。この訓練を通じ、当社はもとより、社会にとっても必要な人材になろうという志を抱いているのがよく分かり、訓練の開始前と終了後の変貌ぶりに思わず胸が熱くなった。

いろいろな面で国からの支援があったので、とても助かった。当社では、人材育成の仕組みを全社的にどのように構築していくべきか決めかねていたところがあったが、ジョブ・カード制度の活用を契機として、当社独自の人材育成の仕組みを構築できたので、優秀な溶接工の継続的な育成への道が拓けたと実感している。

「事業は人なり」というように、企業というものは、社員の能力の総和以上には成長しないので、これからも、社員を採用するときは、有期雇用の正社員化のためにジョブ・カード制度を積極的に活用していきたいと考えている。

※労働安全衛生法第59条第3項(抜粋)

事業者は、危険又は有害な業務(中略)に労働者をつかせるときは、当該業務に関する安全又は衛生のための特別な教育を行わなければならない。

写真:OJT(実習)の実施風景(ステンレスパネルタンクの溶接)

写真:社員とステンレスパネルタンク

(3)教育訓練給付制度

教育訓練給付制度とは、働く方の主体的な能力開発の取組みを支援し、雇用の安定と再就職の促進を図ることを目的とする雇用保険の給付制度である。

一定の条件を満たす雇用保険の被保険等又は被保険者でなくなってから1年以内の者が、厚生労働大臣の指定する教育訓練を受講して修了等した場合に、教育訓練経費の一定割合に相当する金額が支給される。

2014年10月から、教育訓練給付制度は、従来の枠組みを引き継いだ「一般教育訓練給付」と、訓練期間が長く専門性が高いものを対象とした「専門実践教育訓練給付」の2本立てとなっている。

専門実践教育訓練の対象となる講座については、業務独占資格又は名称独占資格の取得を目指す課程のうちいわゆる養成施設の課程や、文部科学大臣が認定した「職業実践力育成プログラム」等、IT、工業分野を含む、中長期的キャリア形成に資する専門的・実践的な講座を指定しており、高度ITや女性リカレント等の講座を重点に、関係省庁との連携により拡充を図っているところである。

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