経済産業省
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第1部 ものづくり基盤技術の現状と課題
第3章 ものづくりの基盤を支える教育・研究開発
第1節 Society 5.0の実現に向けた教育・ものづくり人材の育成

2.「人づくり革命」に資する社会人の学びの推進

人工知能等の技術の進展に伴う産業構造の変化や、人生100年時代とも言われる長寿命化社会の到来など、これからの我が国は大きな変化に直面することとなる。このような時代においては、学校を卒業し、社会人となった後も、キャリアチェンジやキャリアアップのために大学等で学び直し、新たな知識や技能、教養を身に付けることが必要である。

(1)実践的な教育プログラムの充実

①IT分野における取組

「未来投資戦略2017」(2017年6月9日閣議決定)においては、あらゆる産業とITとの組み合わせが進行する中で目指すべき社会像として、すべての者が「IT力」を身に付け、「IT力」を活用した付加価値を創造する社会が掲げられている。

しかし、IT人材の不足は深刻であり、その不足数は、現状約17万人から2020年には約37万人、2030年には約79万人にまで拡大するとの推計もある(図312-1)。

文部科学省においては、大学における情報技術人材の育成機能の強化を目指し、IT技術者の学び直しを推進するため、産学連携による実践的な教育ネットワークを構築し、IT技術者を中心とした社会人のキャリアアップ・キャリアチェンジに資するための短期の学び直しプログラムを開発・実施する取組を支援している(成長分野を支える情報技術人材の育成拠点の形成(enPiT)におけるIT技術者の学び直しの推進(enPiT-Pro))。

専修学校においても、各地域における中核的専門人材の養成のため、IT分野においては、クラウド技術や情報セキュリティなどについて、産学協働により社会人等が学びやすい教育プログラムの開発・実証を行っている。(専修学校による地域産業中核的人材養成事業)。

図312-1 IT人材の需要に関する推計結果 

出典:経済産業省「IT人材の最新動向と将来推計に関する調査結果」(2016年6月)

経済産業省においては、IT・データ分野を中心とした、社会人が高度な専門性を身に付けてキャリアアップを図る専門的・実践的な教育訓練講座を経済産業大臣が認定する制度「第四次産業革命スキル習得講座認定制度」(通称「Reスキル講座」)を2017年度に創設し、第1回認定においては16事業者23講座を認定したところである。また、厚生労働省においては、経済産業省の認定を得た講座のうち、専門実践教育訓練給付の講座指定を希望し、その指定基準を満たしたものを専門実践教育訓練給付の対象講座として指定している。

厚生労働省においては、ハロートレーニング(公的職業訓練)等におけるITリテラシー習得メニューの新設や、IT 分野の能力開発・キャリア形成に関する相談に専門性を有するキャリアコンサルタントの育成・活用を促進する。

②その他の分野における取組

社会人の学び直しを推進し、多様なニーズに対応する教育機会の拡充を図るため、大学等における社会人や企業のニーズに応じた実践的かつ専門的なプログラムを「職業実践力育成プログラム(Brush up Program for professional(BP))、専修学校における産学連携による実践的な職業教育の充実を図る専門課程を「職業実践専門課程」として文部科学大臣が認定している(BP:2018年度4月現在で222件を認定、職業実践専門課程:2018年2月現在で954校、2885課程を認定)。

(2)社会人が学びやすい環境整備

誰にとっても、「いつでも学び直し・やり直しができる社会」を作るためには、実践的なプログラムの充実のほか、社会人が学びやすい環境を整備することも必要である。

社会人が学び直しを行うに当たっては、仕事や家事、育児との両立に関する課題が挙げられており(図312-2)、時間や場所を選ばずに学べる環境整備を進め、リカレント教育(学び直し)を受ける機会を全国に提供することが重要である。放送大学においては、インターネット上で学習するオンライン授業科目の充実や、リカレント教育に関する他機関との連携などを推進する。

さらに、子育て等により離職した女性がリカレント教育を活用して復職・再就職しやすい環境整備の在り方に関するモデル構築や、大学等、地方公共団体及び男女共同参画センター等の関係機関が連携し、学びと再就職・社会参画支援を地域の中で一体的に行う仕組みづくりを進める(男女共同参画推進のための学び・キャリア形成支援事業)。

このほか、社会人は学び直しを行う際に、「どのようなコースが自分の目指すキャリアに適切なのかわからない」「適当な教育訓練機関が見つからない」といった課題を抱えており(図312-2)、社会人が大学・専修学校等での学びに関する情報に効果的・効率的にアクセスできるよう、情報発信モデルの構築・実践研究を実施する(社会人の学びの情報アクセス改善に向けた実践研究)。

図312-2 労働者(正社員)が考える自己啓発を行う上での問題点の内訳(複数回答)

学び直す際の課題は、時間や情報

資料:厚生労働省「2017年度能力開発基本調査」より文部科学省作成

コラム:高度技術者育成を進める社会人向け実践教育プログラムの取組

-豊橋技術科学大学-

豊橋技術科学大学においては、高度技術者育成を進める社会人向けの実践教育プログラムとして、集積回路技術講習会を毎年開催しており、2017年度で第37回目の開催を迎える。

この講習会は、本学が特に重視している産学共同の一環として開催しているものであり、教育研究設備(LSI工場)と長年にわたって蓄積してきた研究成果を学外の方々に活用してもらうことを目的としている。

今年度の講習は、2017年7月(5日間)に,集積回路やセンサなどの設計からチップの試作・評価までのすべてを一貫して行える、あまり他に例のない特長をもったLSI工場(ベンチャー・ビジネス・ラボラトリー内)を会場に、研究者・技術開発者の受講者に対して開催した。

参加者全員のウェハにて集積回路の動作が確認できたことから、受講者からは自分のプロセス知識レベルの底上げができた、仕事の幅が拡げられる、今後の業務に活かせる大変有益な講習会であったとの意見・感想を得ている。

写真:LSI工場を活用した社会人向け実践教育プログラム「集積回路技術講習会」

コラム:大学における社会人の学び直しの取組

「ナノサイエンス・ナノテクノロジー高度学際教育研究訓練プログラム(社会人教育)」(職業実践力育成プログラム(BP))

-大阪大学-

 本プログラムは、実社会で活躍中の研究者・技術者を対象として、大阪大学の関連12部局の教員が横断的に連携・協力しながら実施する大学院修士相当の高度教育プログラムである。
 1年間の講義(遠隔授業を含む)と短期実習、土曜集中講義を通じてナノサイエンス・ナノテクノロジー(ナノテク)の現状を理解し、次世代産業に役立つ学際的知識と幅広い実践能力を身につけ、ナノテクのリーダーとしての見識・能力を備えた産業人を養成する。2004年に本プログラムを開設して以来、これまでに1,000名を超える修了生を輩出している。2017年度より本プログラムをプレ教育とする博士学位取得のための社会人ナノ理工学特別コースも開設された。

今後も、より多くの企業等や社会人学生の参画・受講を得て、我が国のものづくりを主体とした科学技術・産業の発展に貢献する人材を育成していく。

写真:電子顕微鏡による実習(大阪大学)

-情報セキュリティ大学院大学「企業・官公庁等のIT実務、OT実務、設計・製造実務における情報セキュリティに関わるプロ人材育成コースの開発・実施」-(「成長分野を支える情報技術人材の育成拠点の形成(enPiT)」におけるIT技術者の学び直し事業(enPiT-Pro)選定事業)

図:enPiT-Proのイメージ図
(情報セキュリティ大学院大学)

 本事業は、東北、関東、関西、九州に分散する7大学(情報セキュリティ大学院大学、東北大学、大阪大学、和歌山大学、九州大学、長崎県立大学、慶応義塾大学)を拠点とし、それぞれの拠点において、地域の企業と連携し、産業ニーズに合った社会人の学び直しのための教育コースを開発するとともに、7大学が連携して講義の相互提供、教育コースの修了を認定するProSec-X(Xは実務領域の名称)認定証を発行し、全国規模で統一された社会人に対する情報セキュリティ教育を実施していくものである。
 2018年度からの本格的な教育コースの開設に向け、産業界が求める人材スキルと教育コースが提供する知識・技術のすり合わせを行うツール(スキルマップ)を開発し、産業界の求める人材スキルと教育コースが提供する知識・技術を共通のマップで視覚化することを通じ、効果の高い教育コースの開発を進めていく。

コラム:専修学校における社会人の学び直しの取組

-学校法人小山学園 専門学校東京テクニカルカレッジ-

専門学校東京テクニカルカレッジでは、文部科学省から「専修学校による地域産業中核的人材養成事業」の委託を受け、産学官が連携し、我が国の今後の成長分野の一つである「環境・エネルギー分野」における社会人等の学び直し教育プログラムの開発に取り組んでいる。

写真:新省エネ基準・住宅省エネルギー技術者講座の受講風景

特に、環境・エネルギー分野で技術革新が進む建築分野に焦点を当て、設計や施工など実務に携わる建築技術者等を対象に、政府の進める省エネ対策等に関する最新の知識や技術が学べる機会を提供している。これらの講座は、建築技術者に必要な専門的知識等を学ぶことができる講座として、日本建築士会連合会からの承認を得たものとなっている。また、教育プログラムを計画・設備・施工・評価の各専門分野に細分化することで、各分野の専門性により直結した高度な内容を受講者が選定できる他、受講プログラムを受講者の業種やキャリアに応じてカスタマイズしやすくなるよう設計しており、業務中心で時間の制限を受ける社会人にとって学びやすい工夫をしている。

さらに、大学や業界団体等の第三者による評価・検証を行いながら、より社会人等の学び直しに効果的なプログラムとなるよう内容の充実に取り組んでいる。

コラム:民間事業者における社会人の学び直しの取組

-女性のためのキャリア復帰支援プログラム「Warisワークアゲイン」・・・株式会社Waris-

株式会社Warisは、人材サービス・有料職業紹介等の事業を展開し、各種セミナー、イベント等の企画・開催・運営等を行っている。

育児や介護、配偶者の転勤等の理由で離職してしまったものの、もう一度キャリアを再構築したいと考えている女性に対して、学び直しの場やインターンシップを提供すること等を通じ、女性の復職を後押ししている。人手不足を背景に、復職自体は困難ではない中で、復職後のキャリア構築に重点を置いた支援を行っている。対象者は、経営企画・マーケティング・広報・人事・経理・営業などの社会人経験を3年以上持つ女性で、それぞれの女性の悩みやニーズに応じたきめ細やかな支援を以下のとおり実施している。

<カウンセリング事業>

個別カウンセリングより、再就職に向けて自信をつける等のマインドセットを実施。

<キャリアスクール事業>

復職後に役立つビジネススキルの習得、職務経歴書の書き方等についての支援。

<明治大学「女性のためのスマートキャリアプログラム」(「再挑戦のためのキャリアデザイン講座」)>

自分らしく働き続けるために必要なスキルを身に着けるための全8回の講座。

<「キャリアママインターン」事業>

実際に企業のインターンシップへの参加を通じて、仕事の感覚を取り戻してもらうとともに、インターンシップ終了後もキャリアカウンセリングや再就職先の紹介等、ママ人材の再就職に向けた活動の支援を実施。現在、2018年1月時点、本インターンへの参加者の8割が正社員として企業に就職する等の実績を上げている。

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