経済産業省
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第2部 令和元年度においてものづくり基盤技術の振興に関して講じた施策
第1章 ものづくり基盤技術の研究開発に関する事項
第1節 ものづくり基盤技術に関する研究開発の推進等

1.ものづくり基盤技術に関する研究開発の実施及びその普及

(1)研究開発税制等の推進

①研究開発税制

(ア)試験研究費の総額に係る税額控除制度(総額型)

2019年度から、研究開発型ベンチャーの成長を促すため、ベンチャー企業(設立10年以内で欠損金の翌期繰越額がある企業)の場合については、総額型の税額控除の上限を法人税額の40%とした。また、試験研究費の額が平均売上金額の10%を超える場合には、試験研究費割合に応じて税額控除の上限を最大10%上乗せする措置を2020年度まで延長するとともに、新たに控除率の上乗せ(最大10%)措置を講じた(なお、当該控除率の上乗せ措置については、2020年度まで。)。

(イ)特別試験研究費税額控除制度(オープンイノベーション型)

2019年度から、特別試験研究費税額控除制度(国の研究機関、大学その他の者との共同研究及び国の研究機関、大学、中小企業者への委託研究等に要する費用について、20%又は30%を控除できる制度)の税額控除の上限を法人税額の5%から10%に引き上げた。

また、新たに本制度の対象として新事業開拓事業者等への委託試験研究(委託試験に要する費用の25%を控除)及び民間企業等への委託試験研究(委託試験に要する費用の20%を控除)を追加した。

新事業開拓事業者等に該当する企業は、以下のいずれかに該当するもの。

(1)産業競争力強化法により経済産業大臣が認定したベンチャーファンドから出資を受けたべンチャー企業

(2)特別研究開発法人・大学発ベンチャー企業で以下の全ての要件を満たすもの

A)以下のいずれかの方法で出資を受けている

(ア)認定国立大学ファンドが出資(ファンドオブファンズを除く)

(イ)科学技術・イノベーション創出の活性化に関する法律に基づき特別研究開発法人が直接出資

B)役員が特別研究開発法人・大学等の職を有している

C)上記出資時に資本金5億円未満、当該出資を受けてから10年以内

(ウ)中小企業技術基盤強化税制

2019年度から、中小企業向け支援を強化するため、従来の控除率12%・税額控除の上限は法人税額の25%を維持した上で、増減試験研究費割合が8%超の場合には、控除率を最大で17%・税額控除の上限を10%上乗せする措置を講じた(ただし、増減試験研究費割合が8%超の場合の上乗せ措置については、上記(ア)の税額控除の上限の上乗せ措置との選択適用。なお、当該上乗せ措置については、2020年度まで。)。

(2)ものづくり基盤技術の開発支援

①AIチップ・次世代情報処理技術・情報通信技術等の開発(119億15百万円(当初)、1100億円(補正))

IoT社会の到来により増加した膨大な量の情報を効率的に活用するため、ネットワークのエッジ側で動作する超低消費電力の革新的AIチップに係るコンピューティング技術や、新原理により高速化と低消費電力化を両立する次世代コンピューティング技術(量子コンピュータ、脳型コンピュータ 等)等の開発を実施した。加えて、AIチップ開発に必要な設計ツール等の開発環境、共通基盤技術、開発に必要な知見等を提供することにより、民間企業等のAIチップ開発を支援した。また、クラウドコンピューティングの進展等により課題となっているデータセンタの消費電力抑制に向けて、電子回路と光回路を組み合わせた光エレクトロニクス技術の開発を実施した。さらに、各国で商用サービスが始まりつつある5Gに対して、超低遅延や多数同時接続といった機能が強化された「ポスト5G」に対応した情報通信システムの開発・製造基盤を強化するため、「ポスト5G情報通信システム基盤強化研究開発事業」を立ち上げた。

②AIP:人工知能/ビッグデータ/IoT/サイバーセキュリティ統合プロジェクト(92億92百万円)<内閣府、総務省、文科省、厚労省、農水省、経産省、国交省>

(国研)理化学研究所に設置した革新知能統合研究センター(AIPセンター)において、深層学習の原理解明や汎用的な機械学習の基盤技術の構築、日本が強みを持つ分野の更なる発展や我が国の社会的課題の解決のための人工知能等の基盤技術の研究開発、人工知能技術の普及に伴って生じる倫理的・法的・社会的問題(ELSI)に関する研究などを実施している。このほか、(国研)科学技術振興機構(JST)において、人工知能などの分野における若手研究者の独創的な発想や、新たなイノベーションを切り開く挑戦的な研究課題に対する支援を一体的に推進している。

運営費交付金中の推計額を含む。

③未来開拓研究プロジェクト(109億50百万円)<経産省、文科省>

研究開発プロジェクトが小粒化、近視眼化する傾向にあるなか、技術で勝ってビジネスでも勝てるよう、我が国が強みを持つ技術であり、かつ、我が国経済社会に大きなインパクトを与える、従来技術の延長線上にない開発リスクの高い技術を未来開拓研究に指定し、文部科学省等との緊密な連携の下、研究開発を推進している。

④研究成果展開事業(先端計測分析技術・機器開発プログラム)(国立研究開発法人科学技術振興機構運営費交付金の内数)

独創的な研究開発を支える基盤を整備するため、先端計測分析における革新的な要素技術開発、機器開発の推進及びこれまでの開発成果の活用・普及を促進した。

⑤材料の社会実装に向けたプロセスサイエンス構築事業(Materealize)(3億6百万円)

2019年度から大学・国立研究開発法人等において、産学官が連携した体制を構築し、革新的な機能を有するもののプロセス技術の確立していない材料を社会実装に繋げるため、プロセス上の課題を解決するための学理・サイエンス基盤としてプロセスサイエンスの構築(Materealize)を目指して本事業を開始した。

⑥ナノテクノロジープラットフォーム(15億72百万円)

ナノテクノロジーに関する最先端の研究設備とその活用のノウハウを有する機関が協力して、全国的な共用体制を構築することにより、産学官の利用者に対し、最先端設備の利用機会と高度な技術支援を提供した。

⑦元素戦略プロジェクト<研究拠点形成型>(18億95百万円)<経産省、文科省>

我が国の産業競争力強化に不可欠である希少元素(レアアース・レアメタル等)の革新的な代替材料を開発するため、物質中の元素機能の理論的解明から新材料の創製、特性評価までを密接な連携・協働の下で一体的に推進した。

⑧量子技術イノベーションの戦略的な推進(約160億円)<内閣府、総務省、文科省、経産省>

量子科学技術の先進性やあらゆる科学技術を支える基盤性と、国際的な動向を鑑み、政府は2020年1月、統合イノベーション戦略推進会議の下、短期的な技術開発にとどまらず、産業・イノベーションまでを念頭に置き、かつ10から20年の中長期的な視点に立った新たな国家戦略として、「量子技術イノベーション戦略」を策定した。同戦略では、生産性革命の実現、健康・長寿社会の実現、国及び国民の安全・安心の確保を将来の社会像として掲げ、その実現に向けて、「量子技術イノベーション」を明確に位置づけ、日本の強みを活かし、重点的な研究開発、国際協力、研究開発拠点の形成、知的財産・国際標準化戦略、優れた人材の育成・確保を進めることとした。このうち、「重点的な研究開発」につながる施策として、関係各省は次の取組を実施している。

運営費交付金中の推計額を含む。

内閣府では、2018年度から実施している「戦略的イノベ―ション創造プログラム(SIP)第2期」において、レーザー加工、光・量子通信、光電子情報処理と、これらを統合したネットワーク型製造システムの研究開発及び社会実装を推進している。

総務省は、2018年度から実施している「衛星通信における量子暗号技術の研究開発」において、高秘匿な衛星通信に資する技術の研究開発に取り組んでいる。また、情報通信研究機構では、2001年度からどのような計算機でも解読不可能な量子暗号通信の基礎・基盤技術の研究開発に取り組んでいる。

文部科学省では、2018年度から実施している「光・量子飛躍フラッグシッププログラム(Q-LEAP)」において、量子情報処理、量子計測・センシング、次世代レーザーの研究開発に取り組んでいる。また、量子科学技術研究開発機構では、2019年4月に量子生命科学領域を創設し、生命現象の根本原理の解明を目指すとともに、医療・健康分野等に革新を起こすべく先端的研究開発を行う量子生命科学の研究開発に取り組んでいる。

経済産業省では、「高効率・高速処理を可能とするAIチップ・次世代コンピューティングの技術開発事業」において、社会に広範に存在している「組合せ最適化問題」に特化した量子コンピュータ(量子アニーリングマシン)のハードウェアからソフトウェア、アプリケーションに至るまで、一体的に開発を進めている。また、「超低消費電力型光エレクトロニクスの実装に向けた技術開発事業」において、電子回路と光回路を組み合わせた光エレクトロニクス技術の開発に取り組んでいる。

⑨宇宙産業技術情報基盤整備研究開発事業(SERVISプロジェクト)(3億97百万円)

我が国宇宙産業の競争力、自立性強化のため、民生分野における優れた技術を活用した高性能かつ低コストな宇宙用部品・コンポーネントやロケットの実用化を目的として、中小、ベンチャー企業等への研究開発支援を実施。衛星データビジネスを支えるインフラとして世界的にニーズが高まっている小型衛星用ロケットでは、抜本的な低コスト化実現に向けた自律飛行安全システム等の開発を行った。また、2019年度からは、民生技術を活用した優れた部品・コンポーネントの軌道上実証支援の研究開発事業を新たに開始した。

⑩宇宙太陽光発電における無線送受電技術の高効率化に向けた研究開発事業(2億50百万円)

宇宙太陽光発電システムは、昼夜・天候等にほとんど左右されることなく安定した量の太陽エネルギーを得ることができる宇宙空間において発電した電力をマイクロ波などに変換のうえ、地上へ伝送し、地上で電力に変換して利用する将来の新エネルギーシステムである。2019年度は、宇宙太陽光発電システムの実現に必要な発電と送電を一つのパネルで行う発送電一体型パネルの開発に着手するとともに、その軽量化や、マイクロ波による無線送電技術の効率改善に資する送電部の高効率化のための技術開発等を行った。

⑪石油資源を遠隔探知するためのハイパースペクトルセンサの研究開発事業費(8億45百万円)

我が国の石油資源の遠隔探知能力の向上等を実現するため、高い波長分解能を有するハイパースペクトルセンサ(HISUI)を開発し、国際宇宙ステーションの「きぼう」日本実験棟に取付け、宇宙環境における実証を通じてその有用性を評価・検証する事業である。2019年度はハイパースペクトルセンサの開発・試験を進め、国際宇宙ステーションへの取付けを行った。

⑫環境調和型プロセス技術の開発事業(40.0億円)

我が国の鉄鋼業は、排熱回収利用等の主要な省エネ設備を既に導入しており、製鉄プロセスにおけるエネルギー効率が現在、世界最高水準であることから、既存技術の導入によるエネルギーの削減ポテンシャルは少ない状況。一方で、高炉法による製鉄プロセスでは鉄鉱石を石炭コークスで還元するため、多量の二酸化炭素排出は避けることができない。このため、製鉄プロセスにおける大幅なCO2排出削減、省エネルギー化を目指し、水素還元活用プロセス技術(COURSE50)、フェロコークス技術の開発を実施。水素還元活用プロセス技術(COURSE50)については、製鉄所から発生する二酸化炭素の約3割を削減することを目指して、コークス製造時の副生ガスに含まれる水素を用いて鉄鉱石を還元するための技術開発及び製鉄プロセスにおける未利用排熱を用いた二酸化炭素の分離回収のための技術開発を行った。フェロコークス技術については、製鉄プロセスから約10%の省エネルギーを目指して、金属鉄を含んだコークス(フェロコークス)を用いて鉄鉱石の還元反応を低温化・高効率化するための技術開発を行った。

⑬計算科学等による先端的な機能性材料の技術開発事業(26億50百万円)

従来技術の延長線上に無い機能を有する超先端材料の創製とその開発スピードの劇的な短縮を目指し、計算科学、プロセス技術、計測技術から成る革新的な材料開発基盤技術の開発を行った。

⑭省エネ型化学品製造プロセス技術の開発事業(20億円)

我が国が国際的に強みを有する触媒技術を活用することで、資源利用の高度化と製造プロセスのエネルギー消費量削減を目指し、

  • 二酸化炭素と水を原料に太陽エネルギーでプラスチック原料等の基幹化学品を製造する製造プロセス技術(人工光合成)
  • 砂から有機ケイ素原料を直接合成し、同原料から次世代LED封止材等の高機能有機ケイ素部材を製造する製造プロセス技術
  • 非可食性バイオマス原料からコスト競争力のあるエンジニアリングプラスチック等の最終化学品までの一気通貫の省エネ型製造プロセス技術
  • 機能性化学品の製造手法を従来のバッチ法からフロー法へ置き換え、廃棄物排出量を大幅削減する革新的な省エネ型の化学品製造プロセス技術の開発を行った。

⑮省エネ型電子デバイス材料の評価技術の開発事業(23億10百万円)

電池・素材メーカー間のすりあわせを高度化し、電池の新材料が全固体電池材料として有用かを評価するため、標準電池の開発を行うととともに、標準電池の一部分を新材料に入れ替えて性能評価する共通基盤の構築に取り組んだ。また、コンピュータシミュレーション等を用いた高速・高効率な安全性予測手法の開発に取り組んだ。

⑯高機能なリグノセルロースナノファイバーの一貫製造プロセスと部材化技術の開発事業(8億円)

樹脂への分散性、耐熱性に優れ、自動車や家電等への利用を実現する高機能リグノセルロースナノファイバーの一貫製造プロセスの開発及び自動車部品等における構造化・部材化に関する技術開発を行うとともに、セルロースナノファイバーの安全性評価基盤技術及び原材料の高度利用技術の開発を行った。

⑰積層造形部品開発の効率化のための基盤技術開発事業(1億50百万円)

ものづくりの付加価値を高め、産業競争力を維持・強化していくためには、多品種少量生産、複雑形状、高機能化が実現できる積層造形技術を積極的に活用することが求められている。しかし、金属の積層造形技術は、そもそもの現象解明の研究さえも十分には進んでいないため、品質の再現性、均一性の確保が難しく、新規開発に多大なコストと時間が掛かることが課題となっている。そのため、2019年度より、溶融凝固現象の解明、高度モニタリング及びフィードバック制御機能の開発、積層造形技術による開発・評価手法の開発を推進している。

⑱省エネ化・低温室効果を達成できる次世代冷媒・冷凍空調技術及び評価手法の開発事業(6.5億円)

2016年のモントリオール議定書改正により、先進国は、代替フロン(HFC)を、2029年までに70%、2036年までに85%削減する必要がある。しかし、現時点でエネルギー効率等を十分に満たす次世代冷媒は存在せず、実用化にあたっては、燃焼性等の課題に関するリスク評価手法の確立、また、さらなるHFC削減に向けては、省エネ・低温室効果を両立する新冷媒や、次世代冷媒の特性に対応した機器の開発が必要不可欠。そのため、本事業では、次世代冷媒のリスク評価手法の確立、次世代冷媒の開発、新たな次世代冷媒に対応した省エネルギー型冷凍空調機器等の開発を推進している。

⑲革新型蓄電池実用化のための基盤技術の開発事業(34億円)

次世代自動車の普及に向けて、ガソリン車並みの航続距離と車としての価値(低重量や高積載容量、短時間充電など)の両立を実現するためには、高いエネルギー密度や耐久性・安全性を持つ革新型蓄電池の技術開発が必要となる。このため、2030年にリチウムイオン電池より性能を大幅に向上させた新原理の革新型蓄電池を実用化するため、電池の材料開発・評価や生産方法の検討などの基盤技術開発を行った。

⑳次世代電動航空機に関する技術開発事業(7億円)

航空機の運航時のCO2排出量低減に向けて、電動推進のために必要なコア技術の開発(高エネルギー密度の電池や高出力密度のモータ等)を行う。2019年度は初年度として、電池やモータの材料の検証、試作品の設計を進めた。

(3)国家基幹技術の開発・利用によるものづくり基盤の強化

①大型放射光施設(SPring-8)の整備・共用(97億21百万円

大型放射光施設(SPring-8)は、光速近くまで加速した電子の進行方向を変えることで発生する極めて明るいX線「放射光」を用いて、物質の原子・分子レベルの構造などを解析できる世界最高性能の研究基盤施設である。材料科学や環境・エネルギー、生命科学、創薬等、我が国の経済成長を牽引する様々な分野で革新的な研究開発に貢献している。産業利用の割合は約2割と、諸外国の同様の施設と比べても高い。2019年度は年間約16,000人の産官学の研究者に利用された。

SPring-8及びSACLAで一体的に運用する経費を含む。

②X線自由電子レーザー施設(SACLA)の整備・共用(69億6百万円

X線自由電子レーザー施設(SACLA)は、レーザーと放射光の特長を併せ持つ高度な光を発生させ、原子レベルの超微細構造や化学反応の超高速動態・変化を瞬時に計測・分析する世界最先端の研究基盤施設である。光合成メカニズムの解明や、燃料電池の開発、創薬など、学術、産業共に世界最先端の革新的な研究開発成果が創出されている。

SPring-8及びSACLAで一体的に運用する経費を含む。

③大強度陽子加速器施設(J-PARC)の整備・共用(171億69百万円(当初)、18億55百万円(補正))

大強度陽子加速器施設(J-PARC)は、極めて大強度の陽子加速器により生成された中性子やミュオン、ニュートリノ等を利用して、素粒子物理、生命科学、材料科学、環境・エネルギー分野などの幅広い分野の研究開発が可能な研究基盤施設である。特に中性子線施設では、持続可能な社会の構築に資する全固体セラミックス電池や固体冷媒などの開発につながる画期的な研究成果が創出されており、全実験課題のうち2~3割が民間企業による産業利用である。2019年度は年間のべ13,000人以上の産学官の研究者に利用された。

④革新的ハイパフォーマンス・コンピューティング・インフラ(HPCI)の構築(102億60百万円)

HPCIは、世界最高水準の計算性能を有するスーパーコンピュータ「京」(2019年8月共用終了)を中核とし、国内の大学等のスーパーコンピュータやストレージを高速ネットワークでつなぎ、多様な利用者のニーズに対応する計算環境を提供するものであり、2012年9月末に共用を開始以降、「ものづくり」を含む様々な分野における研究開発で活用されている。例えば、自動車の開発などで従来行われている風洞実験では実現が難しい、高速走行時に車両が蛇行した際の走行安全性をシミュレーションで実現することで、設計期間の短縮、コスト削減による産業競争力の強化への貢献が期待されている。

⑤スーパーコンピュータ「富岳」の開発(99億10百万円(当初)、208億60百万円(補正))

最先端のスーパーコンピュータは、科学技術や産業の発展などで国の競争力を左右するため、各国が開発にしのぎを削っている。文部科学省では、我が国が直面する社会的・科学的課題の解決に貢献するため、2021年度の運用開始を目標に、「京」の後継機である「富岳ふがく」を開発するプロジェクトを推進している。また、ものづくり・創薬・エネルギー分野等で用いるアプリケーションについても、システムとの協調的な開発に取り組んでいる。2019年11月のスパコンランキングでは「富岳」の試作機が消費電力性能を示すランキング(Green500)で世界1位を獲得した。

⑥官民地域パートナーシップによる次世代放射光施設の推進(13億26百万円(当初)、37億98百万円(補正))

最先端の科学技術は、物質の「構造解析」に加え「機能理解」が重要となっており、物質の電子状態やその変化を高精度で追える次世代放射光施設(軟X線向け高輝度3GeV級放射光源)の早期整備が求められている。同施設は、学術・産業共に高い利用ニーズが見込まれることから、財源負担も含めて「官民地域パートナーシップ」により整備することとされており、文部科学省では、2018年7月、民間主体のパートナーを選定し、2019年度より、2023年度中の完成を目指して次世代放射光施設の整備に着手した。

⑦AI技術とものづくり技術の融合を目指した研究拠点の整備(194億99百万円(2016年度第2次補正)、20億03百万円(2019年度補正))

AI技術と我が国の強みであるものづくり技術の融合を目指し、AI技術の研究開発及び社会実装を加速化するため、国内外の叡智を集めた産学官一体の研究拠点の構築に2016年度より取り組み、センサ等の試作環境やロボット利用の模擬環境、世界トップレベルの人工知能処理性能を有する計算システム「AI橋渡しクラウド(ABCI)」を2016年度第2次補正(194億99百万円)にて整備した。この拠点を活用して150件を超える共同研究を実施した。さらに、ABCIは需要の増加に伴い、近々需要が現行機器の処理能力を上回ることが確実な状況であることから、2019年度補正(20億03百万円)にて、処理能力の拡充に着手した。

⑧政府衛星データのオープン&フリー化及びデータ利用環境整備等事業(11億51百万円)

質・量が抜本的に向上している地球観測衛星データは、防災、農林水産業、インフラ管理等の様々な分野での利用が期待されている。しかし、データが有償であることや、膨大なデータ量であるために一般コンピュータでの処理が困難であること等を理由に、産業利用は限定的であった。このため、衛星データや地上データ(人流、統計データ等)、AIや画像解析用のソフトウェアが原則無償で利用可能な政府衛星データプラットフォーム「Tellus」の開発・運用を行う。2019年度は、2019年2月にリリースしたプロトタイプ版に対し、搭載データの拡充や機能追加等を行ったバージョンアップを実施した。また、衛星データを用いたデータコンテストやデータ分析トレーニング等も開催し、衛星データを利用する人材の育成も行った。

(4)提案公募型の技術開発支援

①中小企業技術革新制度

中小企業等経営強化法(平成11年法律第18号)に基づき、新産業の創出につながる新技術開発のための特定補助金等の指定及び特定補助金等における中小企業者向け支出の目標額の設定、特定補助金等を利用して開発した成果の事業化支援措置等の方針の作成により、国等の研究開発予算の中小企業者への提供拡大及び技術開発成果の事業化を図った。

②戦略的基盤技術高度化支援事業(130.9億円の内数)

我が国経済を牽引していく重要産業分野の競争力を支える特定ものづくり基盤技術の高度化等に向け、中小企業ものづくり高度化法の認定を受けた計画に基づき、中小企業・小規模事業者が産学官連携して行う製品化につながる可能性の高い研究・開発及び販路開拓への取組を支援することとし、2019年度は137件採択した。

③ものづくり・商業・サービス生産性向上促進事業(1,100億円(2018年度補正)の内数)

国内外のニーズに対応したサービスやものづくりの新事業を創出するため、認定支援機関と連携して、革新的なサービス開発・試作品開発・生産プロセスの改善を行う中小企業・小規模事業者の設備投資等を支援することとし、2019年度は9,531者採択した。

④ものづくり・商業・サービス高度連携促進事業(49億96百万円)

「コネクテッド・インダストリーズ」の取組を広く普及させるため、また、地域経済を牽引する事業がもたらす地域経済への波及効果を高めるため、中小企業・小規模事業者等が連携して行う高度なプロジェクトの実施に必要な設備投資等を支援することとし、2019年度は301者採択した

⑤研究開発型スタートアップ支援事業((国研)新エネルギー・産業技術総合開発機構運営費交付金の内数)

自律的・連続的に創出・成長が繰り返される「エコシステム」の構築を目的とし、起業から事業化にいたるまでの事業段階に応じて一貫した研究開発型スタートアップに対する支援を実施した。

具体的には優れた技術シーズを活用した事業構想を持つ起業家候補に対して、企業の立ち上げ活動の支援や、成長性を秘めた研究開発型スタートアップに対して、支援人材、ベンチャーキャピタル、研究機関、事業会社等の協力を得ることを条件に、実用化開発等に係る研究開発費用等の支援を実施した。また、その事業段階に応じた支援を関係者のコミットを得ながら行うことにより、成功モデルの創出と関係者の定着によるエコシステムの構築を促した。

(5)オープンイノベーション拠点TIAの取組<経産省、文科省>

オープンイノベーション型の研究開発を加速させるため、(国研)産業技術総合研究所、(国研)物質・材料研究機構、筑波大学、高エネルギー加速器研究機構(KEK)、東京大学及び(一社)日本経済団体連合会が連携してオープンイノベーション拠点である「TIA」を推進してきた。民間企業がTIAを活用して、優れた性能を有する半導体の研究開発を行うなど、民間企業や大学等と連携網を広げ、産学官に開かれた研究開発拠点として、オープンイノベーションと人材育成を一体的に推進している。設立10年目の2019年度には、TIA連携プログラム探索推進事業「かけはし」の採択課題の中から、藻類の機能性食材への応用展開を図るベンチャー企業が創出された他、(国研)新エネルギー・産業技術総合開発機構、科学技術振興機構、日本医療研究開発機構などの大型研究プロジェクト発足につながった。また、TIAの人材育成事業として、TIA連携大学院「サマー・オープン・フェスティバル」や、若手研究人材の育成を目的とする「Nanotech CUPAL」を実施した。

2.技術に関する研修及び相談・助言等

(1)(独)中小企業基盤整備機構における経営相談・専門家派遣事業((独)中小企業基盤整備機構交付金の内数)

(独)中小企業基盤整備機構では、中小企業支援の高度な専門性と知見を有する専門家等が、創業予定者や創業間もない企業、経営革新や新事業開拓を目指している中小企業、その他経営課題の解決に取り組む中小企業等に対して、経営相談及び専門家派遣等を通じて成長発展段階に応じたハンズオン支援を実施した。

(2)中小企業・小規模事業者ワンストップ総合支援事業(47億77百万円の内数)

中小企業・小規模事業者等が抱える様々な経営課題に対応するワンストップ相談窓口として、各都道府県に「よろず支援拠点」を配置し、一歩踏み込んだ専門的な助言を行うとともに、特に高度・専門的な経営課題に対応するために専門家派遣を実施した。

3.知的財産の取得・活用に関する支援

(1)模倣品・海賊版対策について

①政府模倣品・海賊版対策総合窓口による対応

2004年8月に経済産業省に設置された一元的相談窓口において、権利者等からの模倣品・海賊版に関する相談や情報提供を受け付け、関係省庁と連携して解決への対応を行うとともに、必要に応じて外国政府等への働きかけを実施した。

また、外国政府の制度・運用等の対応に問題があることにより、知的財産権に関し利益が適切に保護されていない事案がある場合、本窓口に対する申立に基づき日本政府が調査を行い、必要があれば、二国間協議等を実施する「知的財産権の海外における侵害状況調査制度」の運用を行っている。

②知的財産保護官民合同訪中代表団の派遣

産業界との連携の下、2019年7月に江蘇省及び上海市に官民合同訪中代表団(実務レベル)を派遣し、中国地方政府の知的財産保護担当部局に対して、法制度・運用の改善等について要請を行い、情報共有等の両国間の連携を継続していくことを確認した。

(2)知的資産経営の推進

我が国企業における自主的な知的資産経営報告書の作成による無形資産の「見える化」の促進に資するため、「知的資産経営WEEK2019」の開催を支援し、各セミナー等において講演を通じ情報提供を行うことで、知的資産経営の更なる普及・啓発を図った。

(3)営業秘密及び限定提供データ

①営業秘密管理に関する普及啓発

2015年に改正された不正競争防止法の施行を受けた営業秘密保護強化の一環として、都道府県警察の営業秘密保護対策官との連携、営業秘密侵害事犯の被害相談の指導、企業への周知活動を継続するとともに、各地で警察庁・都道府県警察と共同の講演会を行う等、普及啓発においても連携を進めた。

また、官民の実務者間において企業情報の漏えいに関する最新の手口やその対応策に関する情報交換を緊密に行う場である「営業秘密官民フォーラム」の参加団体向けに、判例分析や逮捕情報等に関する情報を掲載した営業秘密に関するメールマガジン「営業秘密のツボ」を毎月配信している。

さらに、秘密情報の漏えいを未然に防止するための様々な対策をとりまとめた「秘密情報の保護ハンドブック~企業価値向上に向けて~」(2016年2月公表)やその簡易版となる小冊子「秘密情報の保護ハンドブックのてびき~情報管理も企業力~」(2016年12月公表)、不正競争防止法による保護を受けるために必要となる最低限の水準の対策を示す「営業秘密管理指針」(2019年1月改訂)等の周知活動を、HP(2019年1月リニューアル)や講演において引き続き行った。

②限定提供データに関する取組

IoT、ビッグデータ、AI等の活用が進展する第4次産業革命を背景に、データの利活用を促進するための環境整備を目的として、「限定提供データ」の制度の創設等を盛り込んだ不正競争防止法の改正を行った(2018年5月公布、限定提供データに関する規定等は2019年7月施行)。この限定提供データに関する制度の施行に向けて、データの提供者と利用者間の契約実務等における混乱を防ぐべく、限定提供データの要件の考え方や、不正競争行為に該当する事例などを盛り込んだ指針を2019年1月に策定・公表し、特許庁や関係団体と連携し、講演等において説明を行った。また、価値あるデータを保護しながら利活用を進めるために必要な事項についての検討を行った。

(4)知財権情報の活用に関する支援

①特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)((独)工業所有権情報・研修館運営費交付金の内数)

特許情報を活用した効率的な先行技術調査や技術開発等を促進するため、インターネット上の無料サービス「特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)」を通じて、国内外で発行された1億件以上の特許、実用新案、意匠及び商標の公報並びに審査関連情報を提供している。審査関連情報については、「ワン・ポータル・ドシエ(OPD)照会」を通じて、世界各国の特許出願に関する情報を一括把握することが可能である。

2019年度には、J-PlatPatの機能改善(審査経過情報が照会可能となるまでのタイムラグの解消、照会可能な審査書類の拡充、AIを活用した最新の機械翻訳アルゴリズムによる日本公報情報及び日本審査書類情報の日英翻訳の質向上等)を行った。

②特許出願技術動向調査

大学、公的研究機関や企業等における研究開発活動の検討や効果的な出願戦略の構築のための資料、及び行政機関の科学技術政策等の策定のための基礎資料の提供を目的として、今後の進展が予想される技術テーマを選定し、特許出願技術動向の調査を行っている。2019年度は、10の技術テーマについて調査を実施した。

(5)権利化に対する支援

①円滑な権利化に対する支援

中小企業の円滑な特許権取得を促進するため、全ての中小企業を対象として、特許料(第1年分から第10年分)、審査請求料、PCT国際出願に係る手数料(調査手数料、送付手数料、予備審査手数料)を2分の1に軽減する措置及び国際出願手数料や取扱手数料の2分の1に相当する額を交付する措置を講じている。

また、中小ベンチャー企業、小規模企業を対象として、一定の要件を満たした場合に特許料(第1年分から第10年分)、審査請求料、PCT国際出願に係る手数料(調査手数料、送付手数料、予備審査手数料)を3分の1に軽減する措置及び国際出願手数料や取扱手数料の3分の2に相当する額を交付する措置を講じている。なお、中小企業による2019年度の軽減措置の利用件数は56,139件であった。

②早期権利化に対する支援

これまでの特許制度を巡る情勢変化や新たな課題を踏まえ、2023年度までに特許の「権利化までの期間注1」と「一次審査通知までの期間」をそれぞれ、平均14か月以内、平均10か月以内とするなど、「世界最速・最高品質の特許審査」の実現を目指している。また、研究開発成果の早期活用、グローバルな経済活動等に対する支援を目的として、一定の要件を満たす特許出願について、出願人からの申請を受けて審査・審理を通常に比べて早く行う早期審査・早期審理を継続して実施した。加えて、地震により被災した企業の企業活動に必要な技術を早期に保護し、活用可能とするため、災害救助法(昭和22年法律第118号)の適用される地域(東京都を除く。)に住所又は居所を有する被災した企業、個人等が簡便な手続で早期審査・早期審理を受けられる「震災復興支援早期審査・早期審理」を実施している。さらに、新たな技術開発を行い、市場を開拓する段階にあるベンチャー企業による戦略的な特許権の取得をサポートすべく、「ベンチャー企業対応面接活用早期審査」及び「ベンチャー企業対応スーパー早期審査」を2018年7月より開始した。

注1 出願人が補正等をすることに起因して特許庁から再度の応答等を出願人に求めるような場合や、特許庁に応答期間の延長や早期の審査 を求める場合等の、出願人に認められている手続を利用した場合を除く。

③世界で通用する安定した権利の設定に向けたインフラ整備

企業活動のグローバル化や事業形態の多様化に伴い、企業の知的財産戦略も事業を起点としたものに移りつつある。そこで、事業で活用される知的財産の包括的な取得を支援するために、2013年4月から事業戦略対応まとめ審査を開始した。事業戦略対応まとめ審査は、新規の事業や国際展開を見据えた事業に係る製品・サービスを構成する複数の知的財産(特許・意匠・商標)を対象として、事業説明を受けたうえで、分野横断的に一括して審査を行うものである。これにより、企業の望むタイミングで、企業の事業展開を支える知財網の形成が可能となる。

また、今後、AI関連技術等が様々な技術分野で発展することが予想されるところ、AI関連技術等との関連性がこれまで薄かった出願人等に審査の運用を分かりやすく示すことや、特許庁として技術分野によらず統一的に特許性の判断を行うことが重要となる。そこで、特許庁は、2019年1月に、AI関連技術に関する事例を「特許・実用新案審査ハンドブック」に追加し、各種説明会や国際会議、国際シンポジウム等を通じてユーザーに広く周知した。

(6)知的財産の戦略的な活用に対する支援

①知的財産に関するワンストップ相談窓口「知財総合支援窓口」((独)工業所有権情報・研修館運営費交付金の内数)

「知的財産は敷居が高く相談に行きにくい」「どこへ相談に行けばいいか分からない」という中小企業の声を踏まえ、2011年度から、知的財産に関する悩みや相談に対し、その場で解決につなげていく「知財総合支援窓口」を47都道府県全てに設置し、様々な専門家のほか、自治体や商工会・商工会議所、よろず支援拠点等の支援機関等とも連携して知的財産のワンストップサービスを提供している。2016年度からは、事業の実施主体を(独)工業所有権情報・研修館(INPIT)とすることで、同独法が所管する他の窓口(営業秘密・知財戦略相談窓口、海外展開知財支援窓口)との連携強化を行った。その後、標準化に関するアドバイスを提供する日本規格協会(JSA)との連携強化や、支援者に対して経営デザインシートやその考え方を紹介し、将来の企業価値向上の啓発を促すなど、支援内容の一層の拡充を図っている。2019年度の相談件数は107,067件であった。

②中小企業等外国出願支援事業(中小企業等海外出願・侵害対策支援事業補助金の内数)

中小企業等による戦略的な外国出願を促進するため、(独)日本貿易振興機構(ジェトロ)や都道府県等中小企業支援センター等を通じて、外国への事業展開等を計画している中小企業に対し、外国への出願に要する費用(外国特許庁への出願料、国内・現地代理人費用、翻訳費用等)の一部を助成した。採択件数は883件であった。

③中小企業等海外侵害対策支援事業(中小企業等海外出願・侵害対策支援事業補助金の内数)

中小企業の海外での適時適切な産業財産権の権利行使を支援するため、ジェトロを通じて、模倣品に関する調査や模倣品業者に対する警告・行政摘発手続に要する費用を補助し、採択件数は17件であった。また、海外で現地企業等から知財権侵害で訴えられた場合の弁護士への相談費用や訴訟に要する費用を補助し、採択件数は2件であった。さらに、海外で自社のブランドや地域団体商標を現地企業に冒認出願された中小企業等に対し、異議申立や無効審判請求、取消審判請求等の、冒認商標を取り消すために要する費用を補助し、採択件数は15件であった。

④海外知的財産プロデューサーによる支援((独)工業所有権情報・研修館運営費交付金の内数)

海外における事業展開を知的財産リスクマネジメント及び知的財産活用の視点から支援するため、海外での事業展開が期待される有望技術を有する中小企業等に対して、知的財産マネジメントの専門家(海外知的財産プロデューサー)を派遣している。

2019年度は、6人の海外知的財産プロデューサーにより、224者(2020年2月末現在)の支援を行った。

⑤開放特許情報データベースの提供((独)工業所有権情報・研修館運営費交付金の内数)

特許の活用を促進するため、大学、公的研究機関や企業等が保有する知的財産権で、他者にライセンス又は権利譲渡する意思のある特許(開放特許)の情報を、「開放特許情報データベース」において提供している(登録件数:約3万件(2020年3月末現在))。

⑥リサーチツール特許データベースの提供((独)工業所有権情報・研修館運営費交付金の内数)

ライフサイエンス分野において研究を行うための道具として使用される物又は方法に関する日本特許(リサーチツール特許)の使用を促進するため、大学、公的研究機関や企業等が保有するリサーチツール特許の情報を、「リサーチツール特許データベース」において提供している(登録件数:約350件(2020年3月末現在))。

(7)技術等情報の管理に関する取組

2018年5月に成立した改正産業競争力強化法において、企業の競争力の源泉となる技術を含めた情報の適切な管理についての外部からの予測可能性を高めることにより、オープンイノベーションを進めていくため、国が認定した機関から認証を受けることができる制度を創設し、2018年9月25日に施行した。

4.戦略的な標準化・認証の推進

(1)中堅・中小企業等における標準化の戦略的活用の推進

「成長戦略フォローアップ」(2019年6月21日閣議決定)、「知的財産推進計画2019」(2019年6月21日知財戦略本部会合決定)に基づき、「新市場創造型標準化制度」を活用して企業等から規格の提案のあった案件について、2014年から2020年3月末までに規格を32件策定した。さらに、自治体・産業振興機関、地域金融機関、大学・公的研究機関(パートナー機関)と(一財)日本規格協会が連携し、地域において標準化の戦略的活用に関する情報提供・助言等を行う「標準化活用支援パートナーシップ制度」のパートナー機関数を2015年から2020年3月末までに164機関に拡大した。また、企業等向けに、標準化に関する戦略的活用についてのセミナーを、2015年から2020年3月末までに196件実施した。

(2)戦略的な国際標準化の推進(48億円600百万円)

我が国企業が有する優れた技術・製品を国内外に普及させるに当たっては、関連する国際標準を戦略的に策定することが重要である。そのため、先端医療機器、ロボット等の我が国が技術的優位を有する先端分野や、自動走行システム等の経済的波及効果の大きい社会システムに関連する分野、シェアリングエコノミーなどのサービス分野において、国際標準原案の開発、当該原案の国際標準化機関への提案等を実施した。また、その過程で得られた知見をもとに普及を見据えた試験・認証基盤の構築等を実施するとともに、国際標準化に必要な場合はJISの開発を併せて行った。

(3)世界に通用する認証基盤の強化

我が国企業の海外展開の観点から戦略的に重要な分野について、認証又は試験の結果が国際的に認められる認証基盤を国内に整備するため、大型パワーコンディショナ及び大型蓄電池の試験・評価施設の整備を行い、2016年4月より運用を開始した。2019年度においては、大型パワーコンディショナで41件の共同研究/認証実験、大型蓄電池で61件(2月末時点)の共同試験を実施した。また、両施設を活用し、我が国の国際競争力強化に資する試験手法及び国際標準開発を行った。

(4)アジア諸国等との協力関係強化

我が国企業のアジア諸国での事業展開及びアジア市場の獲得を促進するため、我が国が強みを持つ製品や技術が適正に評価される性能評価方法等の国際標準化について、アジア諸国の標準化機関と協力してワークショップ・セミナーを開催した。また、国際標準化分野での連携強化のため、ビルの省エネ・再エネ導入を目的にした、Zero Energy Buildingに関するガイドラインや評価方法の普及に資する研修をASEAN向けに実施した。さらに、国際標準化機構(ISO)、国際電気標準会議(IEC)及びASEAN品質標準諮問委員会(ACCSQ)傘下のWGと連携し、アジア地域向けの標準化人材育成ワークショップを開催した。2019年7月には、高松市で北東アジア標準協力フォーラムを開催し、日中韓3か国の標準化機関や関係企業が集まり、国際標準化活動における協力分野について議論を行った。

(5)標準化人材の育成

①標準化資格制度の実施

日本規格協会(JSA)において、標準化や規格開発に関する専門知識を備えた人材を「規格開発エキスパート」として評価して登録する「標準化人材登録制度」(2017年6月創設)を実施。規格開発エキスパート441名、規格開発エキスパート補36名を登録(2020年3月1日時点)。

②大学等における標準化教育の推進

非常勤講師としての職員派遣等を通じた支援を実施するとともに、2017年度に開発した標準化教育のモデルカリキュラム及びファカルティ・ディベロプメント教材を活用し、全国の大学等における標準化講義のさらなる拡充を支援。

③若手育成のための国際標準化人材育成講座の実施

国際標準化実務の遂行能力に加え、グローバルに通用する交渉力及びマネジメント力を兼ね備えた人材を育成するため、日本規格協会(JSA)と連携して、ISO及びIECにおける標準化に携わる若手を対象とした「ISO/IEC国際標準化人材育成講座」(通称ヤンプロ)を実施。2019年度には、同講座を3回実施し、計58名が修了した。また、このほかに、受講者同士のネットワークの維持、強化を図ることを目的として、同講座の修了者を対象とした合同研修会を開催した。

5.科学技術イノベーション人材の育成・確保

(1)卓越研究員事業(17億56百万円)

優れた若手研究者が産学官の研究機関において、安定かつ自立した研究環境を得て自主的・自立的な研究に専念できるよう研究者及び研究機関に対して支援を行う取組を実施した。2019年度から、若手研究者と研究機関をつなぐブリッジプロモーターによるマッチングを促進する新たな取組を導入した。

(2)次世代アントレプレナー育成事業(EDGE-NEXT)(3億84百万円)

これまで各大学等で実施してきたアントレプレナー育成に係る取組の成果や知見を活用しつつ、人材育成プログラムへの受講生の拡大やロールモデル創出の加速に向けたプログラムの発展に取り組むことで、起業活動率の向上、アントレプレナーシップの醸成を目指し、我が国のベンチャー創出力を強化する取組を実施した。

(3)女性研究者・技術者への支援(19億80百万円)

研究と出産・育児等のライフイベントとの両立や、女性研究者の研究力向上を通じたリーダーの育成を一体的に推進するダイバーシティ実現に向けた大学等の取組のをはじめとした、科学技術イノベーションを担う女性の活躍促進に向けた取組を実施した。

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