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産業技術メールマガジン/技術のおもて側、生活のうら側 第100号

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◆技術のおもて側、生活のうら側 2016年10月27日 第100号

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NASAやライカも認めた町工場

 記念すべき第100号で取り上げるのは、高い技術力と創造力を製品開発に結びつけ、宇宙から脳内まで、独自の発想で幅広い製品を取り扱う「三鷹光器株式会社」である。

 三鷹光器は、天体望遠鏡の開発、製造及び販売に始まり、宇宙観測装置、非接触三次元測定装置、手術用顕微鏡などの開発、商品化を手がけるほか、最近では太陽追尾型集光装置(太陽光・熱利用システム)の研究開発を行っている。

 昭和41年に創業者である現会長が国立天文台に勤務していた関係から、天文台のある三鷹市で、望遠鏡や観測装置の開発、製造などを手がける会社としてスタートした。
 天文台に設置するような天体望遠鏡は、焦点を合わせるため微細な調整が求められる精密機器であるとともに、野外での環境にも耐えうる強さが必要であり、この技術がその後の同社の発展へとつながっていった。

 望遠鏡のほかロケットに搭載する観測装置の開発にも取り組んだ。宇宙で観測を行うには、震動や衝撃、温度変化など過酷な環境にも耐えうる性能が求められる。なお、創業間もない頃、同社が開発したオゾン検出器がロケットに搭載され観測を行い、これが後にオゾンホールの発見に貢献するなど、当時から秀でた技術力を有していたことがうかがえる。

 昭和53年、アメリカのNASAがスペースシャトル「コロンビア」に搭載する観測カメラの開発企業を求めていた。この時は、国内の大手メーカー2社との競争となった。宇宙は真空状態のため温度変化がきわめて激しい。このため、カメラやモーターなどの機器を過酷な環境から保護する筒状の金属製カバーが必要であり、加えてできる限りの軽量化も求められる。

 大手メーカー2社は、温度変化による金属製カバーの変化やゆがみをできる限り小さくするため、円筒のカバーに熱源を利用した加熱・冷却装置を取り付ける提案を行った。一方、三鷹光器は、エネルギーが必要となる熱源に頼らず、円筒形の金属の形状を、円錐形が2つ組み合わさるような工夫とすることで解決。さらに小型化にも成功し、高さ約1メートル、重量約20キログラムと軽量な観測カメラを提案した。この提案を聴いたNASAは、その場で同社の製品に即決したという。独自の発想と高い技術力が世界的にも認められることとなった。

 平成になると、非接触三次元測定装置と呼ばれる、金型やレンズを百万分の1ミリの精度で測定可能な産業用の検査器の開発にも力を入れた。半導体メーカーが不良品を見分けるのに、人の目で顕微鏡を使って検査している姿を見て開発を思いついた。
 これには新しい星を発見するために使う手法を応用。新しい星を見つけるには、過去の写真と最新の写真を映し出して比較し、その違いを浮かび上がらせて探し出すそうだ。この原理を使い、正規品と不良品のわずかな差を確認できる装置を開発した。

 次に狙いをつけたのが、新分野である医療機器事業。これまで数々の優れた製品を開発してきたが、国内市場では技術力よりブランド力に左右されることを痛感していた。医療機器であれば、医師や看護師が性能を直接評価し、また医師向けの展示会では直接説明することで信頼を得ることができると考えたからだ。

 開発に着手したのは手術用の顕微鏡である。角度を変えても焦点がずれない顕微鏡を支えるアームや、手術中の医師だけでなく周りのスタッフにも状況がよく確認できるような作業性や操作性も備えた機器を開発。また、看護師が一人でも楽に運んだりできるよう他社製品に比べ重量を半減させるなどの改良も行った。
 
 脳外科手術などでは、視野や焦点が振動や操作などでブレないようする必要がある。このため、かつて行商の魚屋などが利用していた天秤ばかりや平行四辺形の原理を活用してアームの開発を行い、様々な角度でも安定した手術が行える製品を開発。また、医師の背後から顕微鏡が回り込むスタンド形状とし、操作性や作業性を画期的によくした。
 開発にあたっては、実際の手術にも立ち会うなど「現場こそ設計図」との思いで数々のアイデアを生み出している。

 この製品の世界展開にあたっては、これらの技術を特許化することで、同じく脳外科手術用の顕微鏡を開発していたドイツメーカーのライカと有利に交渉をすすめ、契約を締結することができた。ライカが持つ信頼と販売網を活用することで、この分野におけるシェアを大きく伸ばすことができたという。

 望遠鏡から医療機器に発展し磨き上げていった技術を、次は太陽エネルギーの分野へ活用しようとしている。太陽の動きに合わせ角度を変化させる数百枚もの楕円鏡により、まずは下から上方に太陽光を反射させ、それを上部に設置した楕円鏡で再度下方へ反射させ、光を集約させることで高温の熱エネルギーを発生する「ビームダウン式太陽熱集光装置」を開発。その温度は、2000℃~2500℃にもなり、このエネルギーを利用したマグネシウムの還元や水素を発生する装置を開発中とのこと。その技術開発は、エネルギー問題の解決にまで広がっている。   

 三鷹光器の入社試験における採用方法もおもしろい。記述式のペーパー試験のほか、模型飛行機の作成や裸電球のスケッチなどを課すという。また、昼食でサンマなどの魚を食べさせ、その仕草や反応から、器用さや観察力、ものづくりの適正を見極めて採用を決めている。

 これからも、創造性豊かなものづくりを続ける企業として、様々な分野に挑戦し続けることを期待したい。
 

<取材協力>

 三鷹光器株式会社 代表取締役社長 中村 勝重
   三鷹光器ウェブサイト:http://www.mitakakohki.co.jp/
 

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