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産業技術メールマガジン/技術のおもて側、生活のうら側 第107号

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◆技術のおもて側、生活のうら側 2017年5月29日 第107号

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このメルマガでは、身近な生活シーンから、社会生活に密着した産業技術を生活者の目線で紹介していきます。私たちの暮らしを支える産業技術を身近に感じていただければ幸いです。

“世界初”洗濯物を広げて、たたんで、仕分けてくれる家電がついに登場

今回は、世界初となる全自動衣類折りたたみ機「ランドロイド(laundroid)」を独自に開発したベンチャー企業「セブン・ドリーマーズ・ラボラトリーズ株式会社」を紹介する。

同社の試算によると、一生のうち、洗濯物を洗濯し、干して、たたんで、仕分けて、しまうのにかかる時間のうち、その約半分の9000時間(375日に相当)を乾いた洗濯物をたたんで、家族ごとに仕分け、しまう時間に費やしているという。また、別の洗濯に関するアンケート調査では、たたむ・しまう行為は、洗う・干す行為よりも嫌いと回答した人の割合が顕著に多い。
食器洗いは食洗機が、掃除はルンバに代表する掃除ロボットが普及し、また、洗濯は全自動洗濯機や乾燥機が当たり前になっている中で、これまで、無造作に投げ入れた衣類がきれいに分別される全自動の衣類折りたたみ機は存在しなかった。

同社の理念は「世の中にないモノを創リ出す技術集団」である。企業向けではなく、広く一般の人向けに世の中にイノベーションを起こすことができる企業を目指している。

このため、開発テーマの選定を最重要視しており、1)世の中にないもの、2)BtoC向け(一般消費者向け)で人々の生活を豊かにするもの、3)技術ハードルが高いもの、にこだわっているという。

しかしながら、「世の中にない」と思われるアイデアをたくさん考えてみたものの、そのほとんどがすでに誰かが、どこかでチャレンジしていたという。開発テーマを探し出すことに2年ほどが経過し行き詰まっていたときに、女性の視点からもアイデアをもらおうと、阪根社長が奥様に聞いてみたそうだ。その返事が「自動で洗濯物を折りたためる家電」であったという。

早速翌日に、衣類の全自動折りたたみに関する特許が出されていないか調べたところ、まだ誰も取り組んでいないらしいことがわかった。さらに技術的な開発可能性も考慮した上で、開発を決心。2005年のことである。こうして2005年にランドロイドの開発が極秘裏にスタートすることとなった。
当時は、現在のように人工知能や画像認識技術が飛躍的に進歩する前であったが、阪根社長がアメリカの大学で化学系の博士号を取得した際に、人工知能に関する知見も得ていたことから、その可能性をいち早く見出せたのだろう。

開発当初は、阪根社長の父が設立した滋賀県の会社で、新規事業として研究開発をスタートさせた。その後、ベンチャーに対する資金出資が活発なアメリカのシリコンバレーで、セブンドリーマーズを2011年に創業。2014年の夏には日本法人としても登記した。

将来、広く普及させることができる家電とするため、開発にあたっては、1)シンプルな構造で、コストが低いこと、2)家庭に安心して設置できるように安全性が高いこと、3)ランダムな状態の衣類から全自動で折りたためること、を目標に置いたという。

研究開発にあたって最初のステップは、人の手で広げておいた衣類を、機械がつまんで、折りたたむことから取り組んだ。この段階においては比較的順調に開発が進み、開発から3年後の2008年にはほぼ技術を完成させることができた。この時、社内から商品化の話が持ち上がったが、あくまでランダムに置かれた衣類を折りたたむことができる全自動化を目指していたため、商品化はあっさり見送ったという。

そして次の開発段階では、「ランダムに積まれた衣類の中から1枚をピックアップし、形状や上下などの方向を画像で認識した上で、最適な箇所を機械が選んでつまみ、衣類を広げる」ことに取り組んだ。しかしながら、これをクリアするのに長い年月を要することとなる。人間が何気なく目視しながら簡単に行っている柔軟物を認識する行為が、機械にやらせようとするととてつもなく難しかったのだ。

この当時2011年以降には、同じような技術開発に挑戦する企業等が、同社の把握する限り3団体現れたという。そのうちの米国企業と米国の有名大学では、ランダムな状態の衣類ではなく、人の手である程度広げた衣類をたたむ技術開発であった。残りの1つは国内の有名大学であったが、同社と同じくランダムな状態から衣類を折りたたむことを研究するも、その後開発を断念したそうだ。この技術開発がいかに難しいかがうかがえる。

その後、1)取り上げた衣類の状態を確認する画像認識技術、2)入力された情報をもとに自ら学習していく人工知能、3)認識した衣類を折りたたむロボティクス技術、これらの技術開発の進展、融合により、プロトタイプの完成にようやくこぎ着けることができた。2014年5月のことである。投資家や関係者に初お披露目したところ、非常に大きな反響があったという。
さらに2015年10月には、幕張メッセで開催されたCEATECH JAPANで、ついに一般向けにもお披露目することとなり、大きな話題となった。

ランドロイドが行う工程は次のような手順である。1)衣類をピックアップ、2)衣類を広げる、3)衣類を認識する、4)衣類をたたむ、5)衣類を仕分ける・積み上げる、これをすべて全自動で行う。

ランドロイドには人工知能が搭載されているため、衣類を折りたためばたたむほどAIが学習し、進化していく。さらに、ソフトウェアはWi-Fi接続されており、新しい機能のアップデートも可能という。
購入当時は衣類を折りたたむまで1枚5~12分程度かかるそうだが、AIが学習すればするほど、たたみ方が上達し仕上がりのスピードも向上する。

仕様については次の通りである。1)形状・大きさは冷蔵庫くらいの直方体(高さ約2200mm×幅約870mm×奥行約630mm、重量約150kg)、2)非常に洗練された外観のデザイン、3)前面の下の引き出しから乾燥した衣類をランダムに投入(1回で約30枚投入可能)、4)折りたたまれた衣類は、中段にある引き出しから積み上げられた状態で取り出せる、5)上段内部に、画像認識、人工知能、衣類をたたむロボティクス機能が納められている。
さらに、仕分け機能もあり、Tシャツ、ポロシャツ、パンツ、タオルなどのアイテム別や、最初にシンプルな登録作業をすれば家族別に衣類を仕分けることも可能だ。

このランドロイド、ついに5月30日から限定予約が開始される予定だ。出荷は、年度内に順次行われる予定という。価格は185万円から。海外でも、米国の一部など地域限定で発売を予定している。

発売まで幾多の困難があったが、改めて阪根社長に困難に打ち勝ち、継続して研究開発を続けてこられた理由をたずねてみた。「かつて、自分が高校生の頃、ウォークマンやCDなどをはじめ日本の技術が世界標準だった。日本で生まれた技術が、再び世界を席巻する姿をみてみたい。」この強い思いがあったからだという。

2005年の開発当初の技術スタッフはわずか3名ほどであった。その後10名程度に研究員が増えたものの、極秘裏に開発を進めていたため、研究内容を明かさずに募集や面接を行わざるを得なかったため技術者集めに苦労したという。2015年にランドロイドを発表以降は、大手家電メーカーなどから経験豊富で優秀な早期退職希望者を採用することができるようになり、さらに研究開発を加速できた。
阪根社長曰く、「日本の技術者が持つ技術は大変優れている。イノベーションにはテーマの設定が大切。テーマが決まれば、日本にはそれを実現する優秀な技術者が溢れている」という。

2030年には、売上高3500億円、経常利益20%(700億円)の会社にするのが目標だそうだ。パナソニックや大和ハウスなどから、総額約100億円の出資を受ける。
今後も、ランドロイドの更なる改良や、ランドロイド以外でも世間をあっといわせる新たな商品開発が期待されるベンチャー企業である。人々の生活をさらに便利に変えてくれる商品をこれからも生み出してくれることを大いに楽しみにしたい。

 

<取材協力>

セブン・ドリーマーズ・ラボラトリー株式会社
  代表取締役社長  理学博士 阪根 信一
  グローバル戦略部広報室室長 星田 翔太
 同社ウェブサイト :  https://sevendreamers.com/
 

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