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産業技術メールマガジン/技術のおもて側、生活のうら側 第108号
◆技術のおもて側、生活のうら側 2017年6月29日 第108号
こんにちは。ご愛読いただき、心より感謝いたします。
このメルマガでは、身近な生活シーンから、社会生活に密着した産業技術を生活者の目線で紹介していきます。私たちの暮らしを支える産業技術を身近に感じていただければ幸いです。
その分析技術がものづくりを支える
<はじめに>
○今回は、少し耳慣れないかもしれないが、広く社会に貢献している「高分子材料分析システム」についてご紹介する。
○この分析装置を開発・販売する企業は、福島県郡山市にある社員約50名の「フロンティア・ラボ株式会社」である。
○「高分子材料分析システム」と聞いて、どのような装置なのか想像できる人はほとんどいないのではないだろうか。しかしながら、我々が利用する工業製品等の多くが、このような分析装置により、その材質の特性を評価したり、品質を管理するのに必要不可欠なものとなっている。
○一般的には目にする機会がほとんどない製品であるが、産業を下支えする重要な分析システムである。
<設立経緯>
○同社は、1991年に渡辺忠一社長が、立ち上げた研究開発型のベンチャー企業である。
○渡辺社長は、同社を立ち上げる以前、外資系企業の研究所で化学分析などに携わっており、また当時、名古屋大学の柘植教授(現同大名誉教授)との出会いから、「熱分解法を用いた高分子材料の分析関連事業」の起業を思い立ったそうだ。
○高分子材料の評価システムの開発は、大企業が狙えそうでないニッチな市場であると感じ、ここに狙いを定めて柘植名誉教授の指導のもとに従来装置の改良と高性能化した装置の開発を行うことにした。
<分析方法>
○プラスチックや樹脂、ゴム、塗料、染料、繊維、木材などの高分子材料に熱エネルギーを加えると、その物理的変化から種々の情報が得られる。その中で、熱により発生するガスの変化を捉えて分析する方法が熱分解分析である。この分析により、そこに含まれる物質の化学組成や量、化学構造を解析することができる。
○同社が開発・販売している製品は、この熱分解分析に必要な熱分解ガスクロマトグラフの周辺機器である。
○具体的には、分析システムの「熱分解装置」、「金属製のガスクロマトグラフ用分離カラム」、「高分子材料解析をターゲットとしたデータベースとその検索・解析ソフトウェア」を研究開発し、圧倒的なシェアを誇っている。世界の大手分析機器メーカーと販売契約を結び、日本国内だけでなく、欧米、アジア、中東などにも輸出している。
<同社製品の強み>
○「熱分解装置」とは、分析試料に熱を加えてガス化させる装置である。物質を加熱することによるその物理的変化から種々の情報を得るため、温度のコントロールが重要だという。
同社の製品は、精緻な温度コントロールが可能で、極めて精度の高い分析の再現性を得ることができる。業界で初となる一定基準内での再現性保証も行っている。また、試料も0.1mg程度とごく微量で正確な分析が可能だ。
○「金属製のガスクロマトグラフ用分離カラム」は、解析システムの心臓部となるものである。外径0.5mm、内径0.25mm程度の針金状の細長いチューブのような形状となっており、その内面に特殊な加工処理を施している。この細チューブの中に、ガス化した気体を通過させることで様々な物質の検出が行える。同社の製品は、既存品に比べ、温度耐久性、耐汚染性や機械的強度などに優れているという。
○ガスに含まれる様々な物質はカラムを通過する時間の違いから、心電図のような波形でその成分ごとに分かれて示される。この検出された結果から、どのような物質がどれだけ含まれているかを特定する必要があるが、そのためには、様々な物質の組成をあらかじめ特定したデータベースが必要不可欠となる。同社はこれまでの研究から数百種類におよぶ高分子材料のデータベースを有しており、迅速かつ正確な優れた検索・解析ツールを開発している。これにより、未知のポリマーや添加物などでも分析が可能となっている。
<何の分析に使われているのか>
○では、これらの分析は、我々の生活に身近なところでは、具体的に何に役立っているのだろうか。
○例えば、タイヤや航空機、自動車などに使われる素材の品質管理や新素材の開発、あるいは食品事故や警察の科学捜査におけるゴム・塗料・紙などの識別、環境汚染物質の分析などに活用されているのである。この他、民間企業や研究機関で様々な目的で高分子材料の詳細な物性評価に活用されるなど、その用途は多岐にわたっている。
○こうした分析における利便性や効率、正確性の向上に、同社の技術が世界で大いに貢献しているといえよう。
<ビジネスモデル>
○同社は社員が約50名であり、自社の販売員を持っていない。国内外の大手分析機器メーカーに同社の製品を組み込んでもらい、一体化した解析システムとして販売する戦略をとっている。
○そのために世界ナンバー1として評価されるよう、開発した製品の応用技術について国内外の学会で発表し、国際学術誌への論文投稿も積極的に行っているという。また自社のホームページでの技術報告にも力を入れるなど、中小企業では珍しく、論文発表等による信用力、ブランド力の確立を積極的に行っている。これらの活動が必ず息の長い自社の宣伝になると信じ、継続した取組を創業以来行っている。
○また産学連携にも積極的に取組み、学術的な知見に裏打ちされた独創的な製品開発を基本戦略としている。
<終わりに>
○このような地道な努力の結果、中小企業でありながら、国際的に通用する高い技術を有する製品を開発・製品化し、世界中に販売を展開し続けている。
○今後も、地方発の研究開発型ベンチャー企業として、その技術力とブランド力を強化し続けてほしい。
<取材協力>
フロンティア・ラボ株式会社
取締役副社長 渡辺 壱
常務取締役 城 昇
同社ウェブサイト : http://www.frontier-lab.com/jp/
技術のおもて側、生活のうら側について
発行:経済産業省産業技術環境局産業技術政策課 執筆/担当 松本賢英、松本智佐子
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